―キンジ視点―
「それで、なんの用なんだ?」
いつも通り、連絡もなく突然やって来た姉さんに尋ねる。
「昨日、いや、日付的には今日か。獅堂殿たちと飲んだのだが、お前を勧誘していると聞いてな。」
姉さん、獅堂と知り合いなのか。友達いないと思ってたから、少し意外だな。
「まあ、されてると言えばされてるけど、公安になる気はないかな。今は、とりあえず、大学入って武装検事になるのが目標だし。」
「そうか、それならそれでいい。お前はやりたいことをやれ。悪事以外なら、どうしようと応援している。」
「うん、姉さんありがとう…。」
「さて、もう昼か、早いな。」
えっ?それだけ?本当に何しに来たの?
「昼飯を食いに行くとしよう。金次、お前も来るか?」
「奢り…?」
「奢りだ。来るか?」
「行きます。」
何しに来たのかは分からんが、奢ってくれるならそれでいい。
「では、行くか。店はお前に任せる。」
台場まで出て、街を行く。久しぶりに新都城―アクアシティお台場―のラーメンが食いたくなった。レキに狙撃拘禁されていた時以来だな。店に入ると、
「師匠、いらっしゃいませでござる。」
戦妹―風魔―が、エプロンつきのウェイトレス服で俺たちを店内に迎える。そうだった、こいつがバイトしてるんだった。
「師匠、そちらの女性は…?」
風魔が、姉さんを見ながら、俺に尋ねる。どうするか、下手に誤魔化す方が、めんどくさいことになりそうだな。こいつなら、ベラベラ喋ることはないだろう。
「あー、この人は俺の姉さんだ。いいか、これは絶対に他言無用だ。いいな。」
「師匠の姉上様!?…似てないでござるよ?」
疑った目を向ける風魔。
「風魔、修行が足りないぞ。見た目で判断するとはな。」
「金次、どうかしたのか?」
風魔とひそひそと話す俺に姉さんが近づく。
「武偵高の後輩だった、風魔だ。ここでバイトしているんだ。」
俺が、風魔を姉さんに紹介する。
「乱波か…。弟が世話になっている。」
すぐに風魔が忍びと気付くのは、流石だな。
「ほ、本当に師匠の姉上様でござったか…。しかし、何故故に某が、忍びと?」
「足運び、あと、纏う気だな。」
「某…、まだまだ未熟者と思っておりましたが…。」
自信を無くした様に言う風魔、
「風魔、姉さんは相手なら仕方ないんだ。落ち込むな、これから頑張ればいいだろう。」
「師匠…。」
いたたまれなくなり、俺が励まし、それに対し、風魔が目を潤ませる。
「後ろが閊えているぞ。」
そんな俺たちに、そんなことを言う姉さん。あんた本当に空気読めないな。
「失礼いたした。こちらへ。」
風魔が、俺たちを席に案内する。
「じゃあ、俺はチャーシュー麵を。」
「金次、この超壺麵とはなんだ?ラーメンで5000円とは…。」
「挑戦するのも馬鹿らしいくらい大盛りなんだ。やめとく方がいいよ。」
レキは食ったけどね。
「そうか、ではそれにするか。」
「なんで!?」
俺、やめろって言っただろ。
「それ程の強敵なら、正面突破せねばな。」
あんたの価値観どうなってんの?馬鹿な?ああ、馬鹿でしたね。
「畏まりましたでござる。」
風魔が、注文をとり、厨房へ向かう。
「しかし、〆のラーメンを食べた後にラーメンとは。」
「獅堂と飲んだんだ。」
「ああ、公安と武装検事の若手たちに、組み手でもしてくれと頼まれた。」
獅堂、馬鹿なのか?そんなトラウマを植え付けなくてもいいだろうに。恨まれるぞ。
「それ、受けるの?」
「ああ、私も久しぶりに組み手をしたいしな。」
公安、武検の皆様、姉がご迷惑をお掛けします。この人が勝手にやったことなので、俺に八つ当たりはしないでね。
「それで、お前も参加するかと思い、誘おうかと思ったが、今は勉強の方が優先だろう?」
「はい、そうです。」
受験生でよかったよ。本当に、トラウマの上塗りはもういい。
「お待たせしたでござる。師匠、ご注文の品をお届けに上がったでござるよー。」
ごとり、とチャーシュー麵を俺の前に置く。そして、
「師匠の姉上様―」
どすんっ。以前も見た、重量感のある壺を置く。
「本当に、大丈夫でござるか…。」
風魔が、不安そうに見る。
「ほう、旨そうなだな。では、伸びる前に頂くか。」
パキン、と割り箸を割り、いただきます。と言う姉さん。
「そ、それでは、計測を開始致す。」
全く躊躇も戸惑いもなく、食事を開始すると姉さんに、風魔が、慌ててストップウォッチを押す。
姉さんは、スープを蓮華で掬い、一口啜る。
「旨いな。」
そう言って、ズルズルと麵をすすり、具を口に運び、また麵を啜る。間断なく食事を進めていきながら、
「どうした金次、冷めるぞ。」
呆然と見る俺にそう言って、また食べる。そして、みるみるうちに、麵と具が消えていき。スープだけとなる。
「持ちにくいな。」
そう言って、壺を片手で持ち上げ、ぐっ、ぐっ。とスープを飲み始め、
「ごちそうさまでした。」
壺を置き、手を合わせてそう言う。
「5分…。」
風魔が、ストップウォッチの数字に驚愕する。
「旨かった。…金次、まだ食べてないのか。」
箸を握ったまま、呆然とする俺に、姉さんがそう言って、俺はチャーシュー麵を啜る。そうだ、姉さんがすることを気にしていたら身が保たない。摩訶不思議、奇々怪々な姉さんを気にしてはダメだ。
「…ああぁ…。」
風魔が、目の前で起きた怪奇現象に、へたり込む。以前見た、レキどころではなかったからな。そんな風魔を気にもせずに
「なんかチャーハンが食べたくなった。」
とチャーハンを頼む姉さん。頼む、後輩をイジメないでくれよ。
結局、俺もチャーハンを頼み、食事を終える。
「会計を済ませて来る。」
そう言って、席を立つ姉さん。その隙に、
「師匠、師匠の姉上様は、何者でござるか?」
立ち直った風魔が、若干怯えながら、俺に尋ねる。
「あー、まあ、ここで説明しようもないからな…、今度説明する。ただ、姉さんのことは、さっきも言ったが、他言無用だ。これだけは必ず守れ。いいな。」
説明は後回しにしつつも、釘だけは刺しておく。中途半端に知って、情報漏れたら、風魔の身も危ないからな。
「御意。」
こいつは、口止めが楽でいいな。
「姉さん、ごちそうさま。」
店を出て、姉さんにそう言う。
「気にするな。」
「あのさ、姉さん。さっき言ってた、組み手の件だけど。」
「なんだ、お前も参加するか?」
「そうじゃなくて。」
恐ろしい行事に誘わないでくれよ。
「冷泉さんに、連絡した?」
まあ、絶対してないだろうな。
「してないな。」
ほらね。
「こういう場合も連絡せねばならんのか…、面倒くさいな。」
それ、冷泉に言うなよ。マジで泣くぞあの人。
「その為にスマホ貰ったんだから、活用しようよ、マジで…。」
「仕方ない、面倒だが、後で連絡しておこう。」
「今しなよ。」
「置いてきた。」
携帯は携帯しようぜ、マジで。なんの意味もないじゃん。
「帰ったら、絶対連絡しろよ。そういう約束なんだから。」
「分かった。」
本当に、大丈夫だろうか。この人、すぐ忘れるからなぁ。
「では、忘れないうちに帰るか。」
自分でも忘れると思ってるあたり、流石の鳥頭だな。
帰路に着き、ふたりで道を歩いていると、短く響くクラクション、その音の方向に顔を向ける。
「やあ、奇遇だね。トウヤマ、なにしてるんだい。」
ポルシェ911カレラ・カブリオレから、ワトソンが声をかけてきた。なんで姉さんといる時に限って、知り合いと会うのだろうか。
「昼飯食った帰りだ。」
姉さんの存在はスルーして、さっさと立ち去ろう。
「金次の友人か?お前は女の友人が多いな。」
俺の考えを一瞬で砕く姉さん。空気読んでくれよ。…待て、なんでワトソンが女だと分かった!?ワトソンが驚いた様に、
「な、なにを言っているのかな?僕は男だよ。そもそも、貴女は誰なんだい?トウヤマと親しいようだけど…。」
そう言いながら、俺に『喋ったな』とマバタキサインを送ってくるので、『喋っってない』と同じく返す。
「いや、男装していても、それくらい分かるぞ。それと、私は金次の姉だ。」
この人の野生の勘はどうなっているのだろう?
「ト、トウヤマの、お姉さん…。」
ワトソンは、驚きに目を見開き、俺を見てきたので、頷いておく。
「そ、そうか、失礼した。僕はエル・ワトソン。トウヤマの友人で、チーム・バスカービルの衛生武偵だ。」
「遠山金虎だ。愚弟が世話になっている。」
「それと、僕が女であることは、秘密なんだ。他言無用でお願いしたい。」
「分かった。」
あっさりと答える姉さんに、不安を感じたのか、
「あー、トウヤマ、彼女は信頼してもいいのかな?」
ぼそぼそと、俺に耳打ちする。
「安心しろ、約束は必ず守る人だ。たまに忘れてるけど。但し、口を割らせようとしても、絶対に割らないのは保証出来る。」
というより、仮に姉さんを拷問しようにも、その前に返り討ちにされるだろう。
「そうか、義理堅いのはトウヤマのお姉さんらしいな。見た目は似てないけどね。」
似てないのは分かっている。
「それは置いといて、姉さんのことは他言無用で頼む。もし言ったら、お前が女だとバラすし、それ以上に恐ろしいことになる。詳しくは後日説明するから。」
「恐ろしいこと…?どうなるんだい。」
悪戯っぽく笑うワトソン。
「お前が武装検事の襲撃を受ける。」
「トウヤマ…、君のお姉さんはいったい何者なんだい…。」
武検が守る存在と知り、表情が変わる。
「秘密の化け物だ。サイオンを手加減して、ワンパンで倒す程度のな…。」
「007が敗北して、負傷したと情報が入っていた…、確か、『日本人の女』にやられたって聞いてるんだけど…。」
まさか違うよね。という目で問いかけるワトソンに、
「ごめん、それ姉さん。」
はは、と引き攣った笑いを漏らすワトソン。
「MI6が今、彼女について、調査を行っているけど、情報が無いのはそういう事かい。どうやら、008とも接触しているみたいだけど、彼も知らないの一点張りらしい。なにをしたのやら…。」
最強のエージェントナンバー00の8が黙秘を貫くって…、姉さんが、ヤバいことしてないことを祈り、顔も知らない008に心の中で姉に代わり謝罪しておく。だから、俺に八つ当たりはしないで下さい。
「まあ、話が早くて助かる。そういうわけで、姉さんのことは他言無用だ。分かったな。」
「そうだね、僕としても、危ない橋を渡る趣味はないよ。」
姉さんがサイオンを殴っていたおかげ?で、話が早く済んだな。
「トウヤマ、ついでに乗って行くかい?送っていくよ。ああ、勿論、お姉さんも。」
ワトソンからのドライブのお誘いに、
「ああ、助かる。」
電車代が浮くのはありがたいと、ポルシェに乗り込む俺に対して、
「私は大丈夫だ、運動がてら走って帰る。」
姉さんはドライブのお誘いを断ったので、俺たちを乗せたポルシェが発信する。
「先日、日本が、フレディ・ジェイソンの身柄をイギリスに引き渡したのは、そういう裏があったんだね。彼を倒したのも…?」
「そうだ、可哀想になるくらいボコボコにされてた。」
勝負にすらなってなかった。ただ一方的な蹂躙。
「いい判断だったとは思うよ。日本に007もSDA上位ランカーも、容易く倒せる武装検事がいると認識させられたんだ。下手に探りを入れれば、返り討ちに合って、貴重な人材を失うリスクを負うことになる。暫く様子見に徹するしかないからね。」
そういう意図があったのは、なんとなく分かっていたが、
「あの人、武検じゃないんだよなぁ。」
「なっ!?どういうことだい…、ああ、公安の方だったのか。」
「いや、ただの無職。」
わけがわからない、という表情で俺を見るワトソン。
「危ねぇ‼前、前、前見ろよ。」
「ああっ!?」
慌ててハンドルを切るワトソン。運転への集中力を取り戻してから、
「すまないトウヤマ、意味が分からない。彼女のような戦力が、なんで野放しになっているんだい。」
「俺も分からん。言えることは、『姉さんだから仕方ない』これだけだ。」
すまんなワトソン。姉さんを理解できる程、人間やめてないんだ。
「君のお姉さんだろうに。」
「一番近くにいたから分かるんだよ。どう考えても分からないってことがな。」
「なんだいそれ。」
ふふ、とワトソンが小さく笑う。
そこから、姉さんの理解不能なエピソードを話していると、
「トウヤマ、着いたよ。」
ワトソンが、停車させる。
「遅かったな。」
停車したポルシェの前に、姉さんが現れる。
「途中、コンビニに寄って買ってきた。」
そう言って、俺たちにコンビニの袋を渡す。まだ暖かい、それの中を覗くと、肉まんがふたつ入っている。
「あ、ありがとうございます。」
目の前で起こった怪奇現象に、ワトソンが戸惑いながらも礼を言う。ワトソン、理解しようとするだけ無駄だぞ。
「しかし、やはりヒールを履くと、走りにくいな。いい鍛錬にはなるが。」
姉さんは、自分の履くハイヒールを見ながらそう言う。もうやめて、ワトソンの処理能力が追いつかないから。
「トウヤマ…。」
ワトソンが、困り果てた表情で俺を見る。
「考えるな、肉まん美味いぞ。」
肉まんを差し出す。そう、姉さんについて考えるだけ無駄なんだ。あー、肉まん美味いなぁ。
「うん、美味しい…。」
「それは良かった。では、私は帰るとしよう。」
姉さんが、俺たちに背を向け、一瞬でその場から消える。
「トウヤマ…、お姉さん消えちゃったけど…。」
「いつも通りだ、気にするな。」
さて、ワトソンへの口止めは大丈夫みたいだし、後は風魔だな。まあ、後でメールでも入れて予定しよう。
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―金虎視点―
家に戻り、自室に入る。
「忘れぬうちに連絡せねばな。」
支給されたスマホを手に取り、冷泉に電話を掛ける。呼び出し音がなると同時に、
「遠山さん、どうしました。」
冷泉が応答する。
「一応、連絡しておこうと思ったのだが―」
獅堂殿との約束を伝える。
「えーっと、ちょっと確認してから、再度連絡しますね。」
そう言われ、電話が切れる。
久しぶりの組み手、楽しみだな。
最近忙しくて、更新遅くなると思います。