緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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どうしてこうなった。


今回、最後に幕間があります。



要塞陥落

―ミラ・ミハイロヴィチ視点―

 

 

 

「我が拳に砕けぬものなし。」

最強の盾、そう言った俺に対しそう言い放つ。そんな話が中国の故事にあったな。確か、何物をも貫く矛と何物をも通さない盾だったか?今回は拳と超能力だが、どうなるのかねぇ?

 さっきのよくわからん虎を出してきた技、あれはヤバかった。ギリギリで耐えきった、そう認めるしかない。あれの出力を上げれるとしたら…

 消し炭だな。だが、次の技はあれじゃない。こいつはなにか別のことをしようとしている、そんな気がするのだ。じゃあ、防ぎきれるのか?分からない。こんなことは初めてだ。この力を自覚して以来、そんな不安を抱いたことはなかった。守りきれば俺の勝ち、そんな戦い方をしてきたが、絶対に守りきれる、その自信があった。

 だが、今は違う。もしかしたら…それを有り得ないと否定しきれない自分がいる。

「あんたと俺の戦い方は真逆だ。」

「そのようだな。」

 そう、防御特化の俺に対し、あいつはストロングスタイルの攻撃特化型だ。だからこそ、

「守り抜いたら俺の勝ちでいいか?俺にはあんたを倒せる火力はねぇ。でも、あんたが俺の守りを突破出来なかったら、千日手、決着はつかねぇ。」

 勝利条件が必要だ。

「構わん。楽しいかったが、次で終わりにしよう。」

「負け惜しみはなしだぜっ‼」

 次の一発で勝負が決まる筈だ。だから、負け惜しみも言い訳も出来ない、最大出力で最強の障壁を纏う。

 

 

 

 

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―遠山金虎視点―

 

 

「構わん。楽しいかったが、次で終わりにしよう。」

 実に充実した手合せだった。今までも数々の強者と手合せしてきたが、これ程までに頑丈な相手は初めてだった。だから、少しはしゃぎ過ぎて、人間相手に使うことはない技まで使ってしまった。しかし、この楽しい時間も次の一手で終わってしまう。名残惜しいが致し方あるまい。

「負け惜しみはなしだぜっ‼」

 随分と自信があるようだな。しかし、それはこちらとて同じこと、負ける気など無い。

「しっ‼」 

 短く息を吐き踏み出し、拳を軽く当てる。鍛錬通りに出来た、ならば…確信する。

「悪いが、私の勝ちだ。」

 ミラの耳元で囁いた。

 

 

 

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―ミラ・ミハイロヴィチ視点―

 

 

 

 来る‼

 奴の姿が消えた瞬間、懐に入りこまれていた。どんな攻撃が来るのか、全力で身構える俺の鳩尾に、トン、と軽く当たる拳。有り得ない程高い威力の攻撃を放つこいつとは思えない、ただ触れただけの拳、正直拍子抜けした。結局、俺の守りを抜ける奴はいないのか、安堵と同時に、強烈な虚無感に襲われる。また刺激のない日々に逆戻りか。

「悪いが、私の勝ちだ。」

 そんなことを思っていた俺の耳元で、そう呟いてきた。

「なに言ってんだ?」

 もう俺の勝ちが決まっただろう?最後の一撃が終わったのだから。

 

 ピキッ、ピキッ、と音が聞こえる。

「噓だろ…」

 障壁に入った傷が音を立て広がっていく。それは大きな亀裂となり、砕け散る。

「は…はは、マジかよ…」

 不安と歓喜が混ざり、それ以上言葉が出てこない。これから初めての痛みを感じるのだ、その恐怖と喜び、自分が心の中で願っていたものが、もたらされたのだ。

「あぁぁぁっ!?」

 拳が当たった場所から、脳まで、一気に信号が送られ、呻きながら蹲る。拳を当てられた箇所が熱を持つち、今まで感じたことのない初めて感覚が脳を支配し、混乱する。

「はっ…はぁ…はぁ…」

 呼吸が乱れ、瞳に涙が薄っすら浮かぶ。これが痛み…これが痛いって感覚…顔を上げ、この痛みを与えた人物を見上げると、膝をつき、目線を合わせてくる。

「楽しい時間だったぞ、ミラ。」

 俺の方に優しく手を置く。その手の感触と温度も伝わってくる。驚きの表情を浮かべると、瞳から溢れた雫が頬を伝う。パニッって障壁が消えてるのか…無意識に展開され、消すことの出来なかった障壁が無くなり、手の温もりが伝わってくる。

「人の手って温かいんだな…」

 何故だか涙が溢れ出してくる。初めて負けた悔しさ、初めて味わった痛み、初めて感じた温もり、様々な初めてが交錯し、

「うわぁぁぁぁっ‼」

 声を上げて泣いた。

「存分に泣くといい。」

 そう言って、優しく抱きしめられる。その大きな胸に顔を埋め、嗚咽を上げながら泣きじゃくった。

 あれ程憎かった巨乳、そこから伝わる温もりと香りに、不思議と安心していた。

 

「うぅ…」

 落ち着きを取り戻し、涙も引っ込んだ。脳も正常に戻ったのか、温もりも感触も感じなくなっていた。少し名残惜しいそうに顔を上げる。

「もう、大丈夫か?」

 整った顔立ち、その吸い込まれそうな優しい瞳にドキリとする。

「あ、ああ、もう大丈夫だ…」

 思わず顔を逸らし、そう答える。自身の体温が上がり、心臓が激しく脈打つのが分かる。この感情はなんと表現するのだろうか?特別…そう表現するのだろうか?初めての敗北と痛み、そして温もりを与えてくれた、だから特別…

「ミラ。」

 俺の名前をあいつが呼ぶ。その声にドキリとし、顔を見ると鼓動が大きくなる。

「な、なんだよ。」

 思わず声が裏返ってしまう。

「楽しかったぞ。」

 お前はどうだった?そう目で問いかけてくる。そうだな、俺も…

「俺も、楽しかった…戦いを楽しいと思ったのは、初めてだ。」

 そう、楽しかったのだ。こんなにも感情が動かされたことはない。

「そうか、それは良かった。あちらも仕事が終わった様だな。」

 あちら?カナコの視線の先、俺の後ろを確認すると、施設からひとりの男が出てきている。やべ、依頼忘れてた。まんまとこいつらの作戦に嵌ったらしい。

「ちぇ、今回は前金だけかよ。」

 初めての依頼失敗。今日は初めて尽くしだな。施設から出てくる男に手を振るカナコ。その姿に胸がズキリと痛む。仕事上のパートナーなのだろうか?それとも、恋人なのか…?そう考えると、さっきのよりも胸の痛みが大きくなる。仕事が終わったから、あいつとどっかに行ってしまうのだろうか?それは嫌だ…

「なんだ?突然どうした?」

 気がついたら、カナコに抱きついていた。俺の行動に驚くカナコに、何も答えず、ひたすらしがみつく。

「案外甘えん坊なのだな。」

 小さく笑って頭を優しく撫でられる。その感触も温もりも伝わらないが、それでも嬉しかった。

 

 

 

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―008視点―

 

 

 

 仕事を一通り終え、施設から出てこうとしていた。入口だった場所付近(見事に消し飛んでいる)に着くと、カナコと『要塞』の姿が見える。どんな決着となったのか、少し興味がある。予想ではカナコが『要塞』を陥落させてると思っていたが、あの姿を見る限り、決着がつかなかったのだろうか?だとしたら『要塞』もとんでもない化物ということになるな。

 こちらに気付いたカナコが小さく手を振ってくる。まあ、あの余裕っぷりからしたら、恐らく格付けは済んだということだから、カナコの方が強かったのだろう。俺も同じく手を振り返していると、『要塞』がカナコに抱きつく。そして頭を撫でられ、満面の笑みを浮かべてやがる。

「何やってんだ?」

「知らん。終わったのか?」

 俺の疑問にそう答え、逆に聞いてくる。

「ああ、お陰様でな。少し離れるぞ。…そいつは?」

 爆破する為に施設から離れる様に言うと、

「そうか、ミラ、お前はどうするのだ?」

 カナコが抱きついている『要塞』に聞く、

「…ついてく。」

 何故か俺を睨みながらそう答え、

「こいつ誰だよ。」

 カナコを見上げる、そう言う。

「昨日会った時に言っていた友人だ。」

 カナコがそう答える。友人なんだな…分かっていたが、少しガッカリする俺に『要塞』がニヤリと笑い、

「ああ、迷子の‶友人”。」

「違ぇ、迷子はこいつだ‼」 

 カナコを指す。え、なにこいつ、昨日俺が迷子って言って探してたの?マジでやめろよ。あと、‶友人”を強調すんじゃねぇ。

「とりあえず、話は後だ、離脱すんぞ。」

 

 ある程度距離で、爆破スイッチを押すと、爆発音の後、大きな音を立てて崩れ落ちる。

「終わったな。飛行機は明日だが、どうする?」

 カナコに尋ねると、

「そうだな、一杯やるとしよう。」

「お、いいな。」

 仕事終わりの打ち上げか、中々にいいじゃねぇか。

「…俺も行く。」

 こいつがいなけりゃな。

「なんだ、ミラも行きたいのか?」

 カナコの問いに、『要塞』がこくりと頷く。

「そうだな、旅順要塞を落とした乃木大将も、水師営にて敵将ステッセリとの会見で互いの武勇を讃えあった…私たちもそうするか。」

 カナコの言葉に、一層強く抱きしめる『要塞』。落とすって、そっちの意味で落としてんじゃねえか‼

 チラッと『要塞』と目が合った瞬間、べーっ、と舌を出してきやがり、イラッ、とする。ぜってぇこいつには負けねぇ。そう心に決めた。

 

 

 

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―ミラ・ミハイロヴィチ視点―

 

 

 酒場、誰かと来ることなんて一度もなかった。でも今は違う。隣に座るトウヤマ・カナコを見つめながら、ウィスキーの入ったグラスを口に運ぶ。普段より美味しい気がする。

「ミラ、歳はいくつなのだ?」

「多分22歳。カナコは?」

 研究所施設で出された推定年齢を答える。

「私は23だ。多分とは?」

 同じくくらいの年齢とは思っていたが、1つ上か。とりあえず、カナコに生い立ちを説明すると、

「そうか、苦労したのだな。」

「想像している程苦労はしてないと思うぜ。」

 実際、能力のお陰で対して苦労はなかった。でも、

「家族は欲しかったかもな。」

 最初からいなかったから、今まで何とも思ってなかった。だが、こうして人の温もりを知ってしまうと、少しそういうものが羨ましく感じる。

「家族はいいものだぞ。私は弟が3人と妹が2人いるが、それが心の支えでもある。」

 そう言って、ウィスキーを飲むカナコ。

「家族か…」

 そう呟いてウィスキーを煽る。

 

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―008視点―

 

 

「便所行ってくる。」

 本部への任務完了の連絡も兼ね、席を立つ。連絡を終え、小便器で用を足していると、

「お前、カナコに惚れてんだろ。」

「おまっ、ここ男子便所だぞっ!?」

 用を足す俺の横に『要塞』が立っている。

「どうでもいいだろ、答えろよ。」

 どうでもいいことはないだろ、倫理的に。

「自分でもなんでなのか分かんねぇけどよ、惚れてる。お前もだろ?」

 そう答えると、

「べ、別にそんなんじゃねぇっ‼…ただ、お前は嫌いだっ。」

 顔を真っ赤にして叫ぶ、それ好きって言ってるようなもんだぞ。

「嫌いで結構、俺もお前は嫌いだ。」

「うるせぇバーカ、小便しながら話かけんじゃねぇっ‼」 

 そう言って、便所を後にする。ガキかあいつは。それに、

「いや、おかしいだろ。」

 人の小便中に入って来たの、お前じゃねぇか。

 

 席に戻ると、顔を赤くして、もじもじとしている『要塞』がいた。己の感情を自覚し、恥ずかしい様だが、俺を見ると、フーッ、と猫の様に威嚇してくる。どうやら敵認定されたらしい。

「もう使ってくれていたのか。」

 ハンカチで手を拭いていた俺を見て、カナコがそう言う。

「折角の貰いモンだからな。」

 そう言って、『要塞』に見せつける様にひらひらと振って見せると、悔しそうに睨みつけてくる。

「私も有難く使わせて貰っている。」

 そう言って、昨日プレゼントした財布を取り出す。

「そうかい、気に入ってくれてなによりだ。」

 そう言って、『要塞』に向かってニヤリと笑う。

 ガタンッ、と音を立てて『要塞』が立ち上がる。ありゃ、キレたか?そう思っていると、

「カナコ、俺、お前のモノになるっ‼」

 突拍子もないことを言い出した。

「ミラは私の友人だ。私は友人をモノ扱いなどせぬ。」

「友人じゃ嫌だ。」

「友人のなにが嫌なんだ?」

 カナコの問いかけに、

「うっ、その…友達よりももっと…その…親密な…」

 顔を真っ赤にしてもじもじとしだす『要塞』。そこで日和るのかよ。そんな姿を見て、カナコがなにかを察した様に、

 

「そうか、分かった。…簡略だが、まあ、いいだろう。」

 そう言って、ウィスキーをグラスに並々と注ぎ、半分より少し多く飲み、

「ミラ、飲め。」

 そう言って、そのグラスを差し出し、受け取った『要塞』はよく分からないという表情で飲み干す。それって…

「姉妹の盃を交わした。これよりミラは私の義妹だ。」

 ですよね。『要塞』も、えっ!?という顔をしている。残念ながら、カナコには回りくどい表現は通じないらしい。

「家族が欲しかったと言っていたが、そうか、私の妹分になりたかったのだな。」

 カナコが、ハハハと、笑いながら『要塞』をバシバシと叩く。『要塞』は、魂が抜けた様に呆然としていたが、

(あね)さんっ‼」

 とカナコに抱きつく。そして俺に勝ち誇った様な笑みを向けてくる。

 

 …いや、お前、それでいいのかよ。

 

 

 

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―ミラ・ミハイロヴィチ視点―

 

 

 

「家族が欲しかったと言っていたが、そうか、私の妹分になりたかったのだな。」

 カナコがそう言って、障壁に守られた俺の肩を叩いている。違う‼そうじゃない‼そう言いたかったが、一世一代の告白が空振りした俺は、呆然としながら考えていた。

 待てよ、妹分、いい立ち位置なんじゃないか?仮に訂正して、恋人になってくれと伝えても、カナコにそっちの気がなかったら、振られるだけだし、そもそも知り合ったばかりの俺が告白してOKされる可能性は低い。そもそもあの男に触発されて、思わず言ってしまったのだ。妹分となり、カナコの傍で障害となりそうな奴らを排除しつつ、お互いを知っていく方がいいのではないだろうか。

 考えてが纏まり、今後の計画も決定した俺は、現実に意識を戻し、

(あね)さんっ‼」

 そう言って、カナコに抱きつき、気に入らないあの野郎に勝利宣言の笑みを向ける。俺の勝ちだ。

 

 それから、カナコにベッタリとくっついて勝利の美酒に酔いしれる。

「あ、そういや帰国のチケット、明日なんだが、日程ずらしてもいいか?」

「構わんが、どうしたのだ?」

「本国に仕事の報告に行くことになってな、その日だと送ってやれねぇからな。」

「英語が分からぬ故、空港で迷いそうだ。」

 カナコ、ひとりで飛行機乗れないのか…バ、いや、可愛いな。そうバ可愛い。しかし、これはこの男からカナコを引き剝がすチャンスだ。

「俺が案内するぜ。姐さん。そしたら明日帰れるぞ。」

「いいのか、ミラ?」

「おう、俺も日本行きてぇ。」

 俺がそう言うと、あの野郎が恨めしいそうに睨んでくるが、気にしない。

「そうか、では一緒に行くか。」

 決まった。

「オラオラ、チケット寄越せや。」

 男の手からチケットをふんだくろうとする。

「てめぇっ‼」

 ガンのつけ合いが始まる。

「お前たちも仲がいいな。」

 睨み合う俺たちにカナコがそう言う。

「「仲良くなんかねぇっ‼」」

 なんでこの険悪な雰囲気がそう見えるんだ?

「そうなのか?まあ、いい。エイト、世話になったな。また何かあったら呼んでくれ。これの礼もしたい。」

 そう言って、財布を見せるカナコ。それを見て、エイトと呼ばれている男が、

「今回だけ譲ってやる。」

 と俺に囁き、チケットを握っていた手を離す。俺はべーっと舌を出し、カナコの隣に戻る。

 

「楽しみだなぁ、日本。」

 

 

 

 

==============================

―幕間~白雪の記憶~―

 

 

「リサ、大丈夫?」

 かなこ様が去った後、横になり、少し顔色が戻ったリサに声をかける。

「はい、ありがとうございます。大分良くなりました。それよりも奥様の顔色もよろしくありません。リサの心配よりもご自分の心配をなさって下さい。」

 リサが気丈に振る舞い、そう言う。…やっぱりバレちゃったか、リサはいい子だね。

「白雪、俺だってヤバかったんだ、無理せず休め。」

 私の様子を見て、キンちゃんがそう言う。

「キンちゃん、ありがとう。お言葉に甘えて、少し私も横になるね。」

「そうしろ。悪かった、事前に伝えておくべきだった。まだ姉さんのトラウマは克服出来てなかったんだな。」

 かなこ様と私の間にある過去を知るキンちゃんがそう言う。

「違うよキンちゃん、今回は、あの気に当てられただけ。かなこ様が優しく人だって知ってるから。」

 噓をついた。まだトラウマは克服出来ていない。でも未来の義姉様、そんなものはいち早く克服しなければならないし、義姉様と上手くやれないとキンちゃんに思われるのは嫌だった。

「そうか…今回の一件は全部姉さんが悪いんだ、気にせずしっかり休んでくれ。」

「キンちゃん…」

 キンちゃん、義姉様よりも私の味方をしてくれるんだね。流石私の旦那様。

 ありがとう、キンちゃん…極限だった精神状態だったせいか、瞼を閉じるとすぐに微睡に沈んだ。

 

 星伽神社の境内、私の記憶にある中で、一番最初の遠山家との出会い。粉雪が生まれた1年後、キンちゃんたち姉弟がお父さんとお母さんに連れられ、星伽神社に来ていた。いや、くる筈だった。

 一緒に来る筈だった、かなこ様だけがいなかった。今思うと、当時のかなこ様は8歳か9歳くらい、そんな歳の女児が行方不明となれば、大騒ぎになる筈なのに、誰一人気にすることなく普通に過ごしている時点で気付くべきだった。

 まだ幼かった私は、

「全く、かなこったら、突然、高速道路で車から飛び降りて、『後で行く。』なんて言い出すんだから。」

「いいじゃないか、元気な証拠だ。」

「あなたがそうやって甘やかすから―」 

 という声を気にもせず、男子禁制の星伽神社に初めてやって来た、初めて見る同い年の男の子、キンちゃんと遊ぶのに夢中になっていた。

 少し日が落ち、夕暮れになってきた頃、まだ遊んでいた私たちを呼びに、キンイチさんがやって来た。

「そろそろ戻ろう。」

 そう言うキンイチさんと一緒に戻ろうとした時、大きな影が私たちを覆った。この影って…

「熊!?」

 いち早く気付いたキンイチさんが声を上げる。未だにあの時振り向かなければ、と後悔している。後悔先に立たず、熊の恐ろしさを知らなかった当時の私は、絵本で知った可愛いクマを想像し、振り向いてしまった。

 熊がいた。正確には喉を突き刺され、絶命した熊がいた。そして、それを背負う返り血を浴び、真っ赤に染まった少女がいた。

 幼心にはあまりにもショッキングな光景に悲鳴を上げる。そんな私に、

「おお、お前が白雪か。そうだ、お前には一番美味しいところをやろう。」

 そう言って、手刀で熊の手を落とし、それを差し出す。そのグロテスクな断面図と、真っ赤に染まった笑顔に恐怖のあまり、気を失った。

 

 目覚めた私の目に映ったのは、赤色の取れた先程の少女。私を覗き込んでいた。思わず恐怖で泣き喚く私、キンちゃんのお母さんに拳骨を落とされる少女。

「母上、頭はダメだ。バカになってしまう。」

「安心しなさい、あんたはもうこれ以上バカになれないわ。」

「そうか、ならいい。」

「バかなこっ‼反省しなさい。」

 そう言って、また拳骨を落とされる。

「母上、『バかなこ』と言うな。私がバカな子みたいではないか。」

「あんたは天下一の馬鹿よ…」

 そんなふたりのやり取りが行われる、片隅で、泣く私をキンちゃんとキンイチさんが宥めてくれる。

「ごめんな、姉さんいつもああなんだ。」

 と、キンイチさんが言う。いつも…?それに姉さんって、あの人がかなこ様なの?

「いい加減、服を汚したら怒られるって学べばいいのに。」

 キンちゃん、怒られるところはそこなの?

「キンジ、今回は違うぞ、姉さんの非常識な行動が白雪を怖がらせたんだから。」

「兄さん、非常識ってなに?」

「姉さんみたいなことをすることだ。」

「兄さん、それじゃあ、ひじょーしきの姉さんがひじょーしきなことをしたのが悪いの?」

「そうだ。」

「姉さんが姉さんするのって悪いの?」

 キンちゃんは、非常識=かなこ様と認識したらしい。子どもには難しい議題なのか、キンイチさんは少し考えて、

「姉さんだから仕方ない。」

 結論に辿り着いた。

 

「白雪、姉さんが『姉さん』してごめんな。」

「白雪、姉さんが『姉さん』するのは仕方ないんだ、許してあげてくれ。」

 私に、新しい動詞を使い謝罪する兄弟。泣き止みはしたが、かなこ様への恐怖は消えなかった。

 その日の夕食は熊鍋。美味しそうにパクパクと食べる遠山姉弟と対象的に、あの残像がフラッシュバックして、全く食欲が湧かなかった。

 食後、女子児童にカテゴライズされるかなこ様が、平然と素手で熊を狩り、担いで持ち帰るという一連の行動に恐怖を抱き、尋ねた星伽神社の大人たちに対して、遠山家の皆様は、『かなこ(姉さん)だから。』と答え、説明は終わった。

 

 それから、数年、何度かかなこ様と会うことも増え、私も成長し、少しずつ慣れてきていた。

 まだ中学生くらいの頃に、かなこ様が修行に参られ、数日滞在された。その時、御神体の緋緋色金が暴走し、具現化した。巫女たちが封印すべく集まっていると、

「強者の気配!」

 と言って緋緋神をワンパンで沈めていた。緋緋神は、封印する際に色々と騒いでいたけど、何故自分が大人しく再度封印されているのか覚えておらず、かなこ様は、神の記憶を飛ばせる程度のパンチを放ったらしい。それ以降、本能的な恐怖からか、かなこ様が近くにいると、色金の力が弱まる様になった。巫女たちの間では、

「かなこ様がいれば殻金要らないんじゃないかな?」

 と言われていた。

 

 そう、そんな素敵な義姉様…そう、素敵…

 やっぱり無理、怖いよキンちゃん‼

 ダメよ私、キンちゃんのお嫁さんになるんだから。義姉様とも仲良く出来なきゃ、良妻賢母と言えないよ。大丈夫、まだまだこれから、私の花嫁修業は始まったばかりなんだから。

 

 

 

 

 

 




ミラはどうしてこうなったのか…AA読んでたのがいけなかったんでしょうか? 

白雪の記憶について
原作では白雪とキンジの初めての出会いは、4・5歳くらいとなっていますが、オリジナル設定として、それよりも少し前に出会っていたことにしました。 
(なお、覚えているけど、ふたりの中ではなかったことになってます。)
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