―乾桜視点―
警ら中、目を奪われる様な美人の2人組と遭遇した。その内の外国人の女性が私をガキだのコスプレイヤーだの言っているのが聞こえてくる。ムッとした私は、彼女に職質としてパスポートの提示を求めた。特に悪のニオイはしないけれど、彼女からは、なにかグレーな存在な気配がする。その隣に立つ、友人と思われる女性にも同様に職質を行うと、
「これでいいか?」
そう言って武偵手帳を差してきた。
「武偵でしたか。」
もしかしたら東京武偵高のOGだったりするのかもしれないなと思いながら中を確認する。
「遠山…かなこと読むのでしょうか?」
金虎と書かれた名前の読み方を確認する。
「そうだ。」
女性の返事を聞き、ランクに目を移す。
「えっ!?」
衝撃のランクに思わず声が漏れる。Rランク…間宮あかり先輩の憧れにして戦姉、恐ろしく強いSランクのアリア先輩よりも上。小国の軍隊を1人で相手にできる実力をもつと言われるRランク武偵が目の前にいる。
あまりにも驚きが過ぎて、固まってしまう。
「なにか、まずいことでもあっただろうか?」
そう声が掛かる。
「し、失礼しました。なんでもありません。ご協力、ありがとうございました。」
慌てて手帳を返した。
「そうか、それなら良かった。」
そう言って手帳をしまう。彼女は、ミラという(パスポートで名前を確認した)女性の護衛なのだろうか?それにしては彼女の方が立場が上のように見えるし、友人?Rランクの友人となれば、相当な実力者なのだろうか?
ランクが全てではない。そう思いはするが、初めて目にするRランクの衝撃は消し去れるものではない。しかし、万が一に備え、その一挙手一投足に注意を払う。
「ところで、ここはどこだ?」
「はぁ?」
予想外の発言に思わず間抜けな声が漏れる。
「道に迷ってな。」
Rランクでも迷子になるんだ…とんでもない超人と思っていた相手から人間らしい言葉が出ることに、驚きつつ、
「こちら側に進むとお台場に出ますが…目的地はどちらで?」
「いや、ただ散歩していただけで、目的地はなかったが…台場にでも行くか。」
「俺はどこでもいいぜ。」
Rランクって暇なのかな?まあ、とんでもない依頼料になるから仕事も少ないのかもしれないけど。
「では、失礼します。大丈夫だとは思いますが、この辺りも治安はあまり良くないので、お気を付けください。」
興味はあるが、これ以上関わらない方がいい。そんな気がして、職務に復帰すべく立ち去ろうとした時、携帯が振動する。
『お台場の商業施設で元Sランク武偵とその手下による施設内の客を人質を取った立てこもり事件。人質のCVRの生徒より通報と救援要請。付近にいるBランク以上は現場へ急行し、教務部到着を待て。』
Bランクの私も向かわなければ。
「お、姐さん。お台場で事件だってよ。人質取って立てこもりだとよ。」
「勝手に見ないでください!?」
ミラという女性が私の携帯を覗き込んでそう言う。
「人質…随分と姑息な奴だな。教育してやるとするか。」
「ちょっと待って下さい。何するつもりですかっ!?」
「殴って根性を叩き直してやる。ミラ、行くぞ。」
「あいよ、姐さん。」
ミラさんが遠山さんの背中におんぶされる。
「待って―」
ふたりの姿が消えた。超能力者…?
「そうじゃない、私も現場に向かわないとっ‼」
現場に向けて走り出した。
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―間宮あかり視点―
この人たち、強い。
私と志乃ちゃん、ライカと麒麟ちゃんの4人で遊びに来ていた商業施設に、突如起こった立てこもり事件。犯人たちは入念に計画していたのか、従業員や警備員に扮し、機会を伺っていた様だ。そのリーダー格と思われる男は、最近指名手配された元Sランク武偵。その手下たちも元Aランクや傭兵など手練れが多い。
現在地下駐車場で交戦中の手下の男一人相手でも4人掛かりで苦戦する程だ。
「うっ‼」
「あかりちゃんっ‼」
防弾制服の右肩に弾丸が当たり、志乃ちゃんが心配してくれる。
「大丈夫っ…」
強がって見せるが、マイクロUZIを握る手に力が入らない。
「頑張れ、援軍はすぐ来る。到着まで持ちこたえるぞ。」
「分かってる。」
ライカの声に奮起し、なんとか引き金を引く。
なんとか耐えてはいるが、状況は良くならない。それどころか、敵の応援が先に到着し、むしろ悪化している。
「応援はまだですのっ!?」
こちらの弾は尽き、もう敵は目の前に迫っている。一か八か鷹捲を…ダメだ一人を倒せても敵は複数。もうダメかもしれない。それでも…アリア先輩なら諦めたりしないっ。
覚悟を決め、立ち上がる。
「あかりちゃん!?」
私の無謀な行動に志乃ちゃんが驚いた様に声を上げる。
「絶対に諦めたりしないっ‼」
立ち向かおとする私、皆も覚悟を決めたのか、頷き合う。
「行くよっ‼」
踏み出そうとした瞬間、
「動くな。姐さんの邪魔すんなよ。」
女性の声が響き、敵と私たちの間に着地する。金髪の女性。顔立ちからして日本人ではない。その手にはM60機関銃。…援軍?突然現れた外国人の女性に、敵は一斉に発砲する。
「危ないっ‼」
思わず声を上げる。そんな私の心配など不要というように、女性は避けることもなく全ての弾丸をその身に受けた。それにもかかわらず、平然と立っている。
「まさか、『要塞』…!?」
敵の一人が驚きの声を上げる。
「だったらなんだよ。」
そう言って機関銃を乱射すると、蜘蛛の子を散らした様に散り散りに逃げていく。『要塞』ってなんなのか分からないけど、あの人を恐れて逃げ出した様に見える。
「逃がさないっ‼―っ!?」
逃げ出した敵を追撃しようとする私たちに弾丸が放たれる。あの人、なんで?
「姐さんの獲物だ。邪魔すんじゃねぇよ。」
どういうこと?意味が分からない。
「あんた、援軍じゃないのかよっ‼」
ライカが詰め寄ろうとする。
「援軍?俺は姐さんの手伝いだ。おめぇらとは関係ねぇが、姐さんの邪魔するなら容赦しねぇ。」
「姐さん?」
彼女の口から度々出る『姐さん』なる人物。その人があいつらを狙っているの?
「それもおめぇらには関係ねぇ。それに、そろそろ終わるだろ。」
「どういう―」
尋ねようとしたその時、逃げ出していた敵たちが、凄い勢いで吹っ飛んで来て、壁や柱に当たり倒れていく。私たちがさっきまで戦っていた相手だ。手強い敵があっさりと倒れていく様に驚愕していると、
「全く、弱すぎる。人質など姑息な手を使っているからそうなるのだ。」
男を一人引きずりながら、女の人が現れる。引きずられている男は…主犯格の指名手配されている元Sランク武偵だ。気を失っているのか、それとも心が折れたのか、なんの抵抗もなく、ただぐったりとしている。
「姐さん、終わったみてぇだな。」
「ああ、曲がった根性を叩き直してやろうと思ったが、一発でこれだ。」
ぽいっ、と投げられた男が私たちとミラと呼ばれた女性の間に落ちる。気絶しているみたい。
「弱すぎて教育すら出来ぬ。困ったものだ。」
仮にも元Sランク武偵が弱すぎるって…
「そこにいるのは武偵高の生徒だな…そこのふたりは以前会ったな。」
姐さんと呼ばれた女性の視線が、ライカと麒麟ちゃんに向けられる。
「ライカ、知り合いなのっ!?」
私の疑問に
「知り合いじゃないが、以前会った。」
緊張感の籠った言葉で答える。
「お前たちの仕事を横取りしてしまったな。悪かったな。」
女性がこちらに歩み寄りながらそう言ってくる。
「いえ、助かりました。私たちだけだったら負けてたかもしれません。」
志乃ちゃんが警戒しながらそう答える。
「姐さん、こいつの身柄はどうする?一応懸賞金かかってるけど。」
ミラと呼ばれた女性が気絶した男を指してそう言う。
「私は金はいらぬが。」
「俺もこんなはした金いらねぇよ。」
確か数百万の懸賞金だった筈、それをはした金って…志乃ちゃんや麗ちゃんみたいにお金持ちなのかな?
「お前たち、いるか?」
私たちにそう言ってくるが、
「い、いりません。」
手柄だけ貰うなんて出来ない。
「そうか、参ったな。」
「その辺に捨てとくか。」
犯罪者を放置しようとする彼女たちに、
「その、とりあえず、教務部に引き渡してみるのはどうでしょうか?恐らく、現場に来ている筈です。」
志乃ちゃんがそう提案する。
「そうするか。」
そう言って、片手で軽々と男を持ち上げ、
「ミラ、行くぞ。」
「あいよ。」
ふたりで出口へと向かって行く。私たちは、その姿を只々呆然と見送っていた。
「あかり先輩‼無事でしたか。」
外に出ると、桜ちゃんが私たちの前に駆け寄ってくる。事件は無事解決。被害は軽く、軽傷者が数人で済んだらしい。先程の2人組は綴先生と高天原先生と話している様だ。
「あの方たち、何者でしょうか?」
志乃ちゃんがライカを見てそう尋ねる。
「姐さんって呼ばれていた方は、『かなこ』って人だ。蘭豹先生から忠告された。絶対に関わるなって。名前を出したら蘭豹先生が怯える程度にはヤバい人だ。」
あの蘭豹先生が怯える…想像ができない。
「流石Rランクですね。」
桜ちゃんが『かなこ』さんを見ながら呟く。
「えっ、Rランクっ!?」
「ええ、武偵手帳を拝見した際に間違いなくそう書かれていました。」
私も驚きました。とぼそりと漏らし、桜ちゃんがそう答える。
とんでもない人だったんだ…
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―ある東京武偵高CVR生徒視点―
放課後、友人と共に買い物に来ていた商業施設にて事件が起こった。武装集団による立てこもり事件、そのリーダーは最近指名手配された元Sランク武偵。CVRとして私服で買い物をしていたのが功を奏したのか、武偵高の制服を纏った生徒たちよりは警戒されず、密かに教務部への報告と救援要請を行うことが出来た。
「おい。」
マズイ、ばれたか…恐る恐る振り向くと拳銃が額に突き付けられる。
「武偵高の生徒、お前たちは武器を置け。少しでも余計な動きをしてみろ。こいつを撃つ。」
よかった、どうやら私が武偵とはバレていないようだ。この場にいる生徒たちがゆっくり武器を床に置いていく。それをこいつの部下と思われる数人が回収していく。
「他のフロアはどうだ?」
「一か所を除いて制圧済みです。」
「抵抗する奴がいたのか?」
「女の生徒が4人地下駐車場でこちらの部隊と交戦中です。」
「援軍を送れ。直ぐに制圧しろ。殺しても構わん。」
「了解です。」
交戦中の生徒がいるのはマズイ。人質に危険が及ぶ可能性が大いにある。
「さて、愚かにも抵抗する馬鹿どもがいたようだ。仕方ないが死んでもらうぞ。恨むなら、その武偵たちを恨んでくれ。」
額に突き付けられた拳銃を握る手に力が加わるのが分かる。引き金に指がかかる。こんな所で死んでしまうのか…自身の命運が尽きかけている事に自然と涙が頬を伝う。いや、武偵憲章第10条『諦めるな、武偵は決して諦めるな。』今打てる手を全て出すんだ。隠し持つ銃に手を密かに伸ばそうとした時、
「な、なんだ!?」
ドンッ、という大型トラックが衝突した音が響き、男の真横を何かが凄い勢いで通過していく。壁にぶつかり、それが停止した。男の部下だ。
「誰だっ!?なにをしやがった!?」
振り向き、起き上がらない己の部下の姿を確認し、男が動揺した様子で叫ぶ。その間にも男の部下がひとり吹き飛ばされる。隙が出来た、今だっ‼隠していた拳銃を握る。
「てめぇ、CVRかっ!?」
「くそっ。」
一瞬の隙を突こうとしたが、握っていた拳銃を奪われる。失敗してしまった。腐っても元Sランクということか。しかし、
「うわぁぁぁぁぁぁぁ。」
男の部下たちから悲鳴があがる。突如としてひとり、またひとりと吹き飛ばされていく。見えない何かが何かしらの攻撃を加えている。その恐怖に士気はだだ下がりだ。もしかしたらこの中超偵がいるのかもしれない。いや、もしかしたら援軍が到着したのだろうか?それは男も感づいたのだろう。
「超偵かっ!?誰だっ、何処にいやがるっ!?」
男の視線が人質の中を彷徨っている。男の部下は全員倒れている。形勢逆転した。
「さて、お前が大将首だな。」
突然ブロンド髪の女性が現れる。
「お前か、お前がやったのかっ!?」
男が怯えと怒りの混じった声で叫び、拳銃を発砲する。
「その曲がった根性を叩き直してやろう。」
その女性は慌てた様子もなくそう言って、弾丸を左手で掴み、右手で男の拳銃を握り潰した。…訳が分からない。男は目の前で起こる理解不能な現象に言葉を失っている。
「教育だ。歯を食いしばれっ‼」
女性がそう言うと、その拳が男の左頬を打ち抜く。錐揉み回転しながら男が飛んでいき、床に落ちる。
「起きろ、あと2、3発程殴れば、その曲がった根性も多少は戻るだろう。」
男の元にゆっくりと歩いて行きながらそう言い、
「なんだ、伸びてしまったか。手加減に手加減を重ねた一撃というのに、情けない。」
片手で床に伏した男を掴んで持ち上げてそう言うと、
「おい、そこの武偵高の生徒たち。」
「は、はいっ!」
啞然としていた数人の生徒が慌てて返事をする。
「ここの始末は任せた。私は他の奴らを教育してくる。」
「わ、分かりました。」
生徒たちの返事を聞き、倒れた男の部下たちを目で指し、男を引きずりながら地下駐車場へと向かっていく。
残された私たちは部下たちの身柄の拘束や人質の誘導をしながら同じことを考えていた。
…誰?