緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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性悪

―高天原ゆとり視点―

 

 

 事件発生の一報を受け、教務部として現場に急行する。事件の首謀者は元Sランク武偵の指名手配犯。単独犯ないし、寄せ集めの集団であればそれこそ神崎さんの様なSランクの生徒でも十分対応可能だけれど、今回は元プロたちが組織として動いている。そうなれば余程圧倒的な力量を備えた生徒でなければ一人で制圧することは困難だろう。それに、人質の数が多く、被害を出さずに制圧するのは更に困難を極める。加えて肝心のSランクの生徒は現在別の依頼で遠方にいる。現状集められる生徒はAランク数人とBランク数十人。しかも寄せ集め集団だ。生徒たちに経験を積ませるとはいえ、彼らを指揮する人間が必要だ。そういう理由もあり、助手席に座る綴と共に現場に車を走らせる。

「たく、蘭の奴、こんな時に限って有休とりやがって。」

 助手席に座る綴が携帯を見ながらそういう。有休で飲み歩いていた蘭豹と連絡がようやくついた様だ。

「最悪に備えて、蘭は必要ですからね。」

 強襲科の教諭としての蘭豹の実力は確かなもので、最悪の場合彼女に出撃してもらわなければならない。

「現状の戦力じゃ厳しいだろうな。」

 綴が煙草をくゆらせながらそう言う。

「ええ、Sランクの生徒の到着まで上手いこと時間を稼げればいいんですが。」

 

「おい、どういうことだ?」

 現場に近づくと、綴が身を乗り出し、ダルそうな目を見開く。現場では生徒たちの誘導で人質が施設外に出てきている。

「まさか…」

 現場に到着している生徒たちで制圧したというのだろうか?もしそうだとしたら我々が見つけられなかった才能を秘めた生徒がいたということだろうか?それは教師としては複雑だが嬉しいことだ。しかし、生徒たちもよく分からないといった表情で人質の誘導と犯人たちの連行をしている。まるで突然全てが解決してしまい、戸惑っているかの様に。

 車を停めると同時に、綴が助手席のドアを開け、外に出て、

「おい、どうなってんだ?」

 近くにいた生徒に詰め寄る。

「綴先生…それがよく分からなくて…」

 詰め寄られた女子生徒が本当に分からないといった様子で答える。

「分からないって、どういうことなの?」

 私も車を降り、その生徒に尋ねる。

「それが、突然現れた女の人が全員倒したみたいで…私たちも訳が分からないんです。」

 彼女の言うには、突然現れた女性が一瞬で制圧し、彼女たちに後処理を任せ本人は殲滅戦に移行したという。

 話を聞き、思い浮かんだのは、偶然居合わせたプロの武偵が解決してしまった、という可能性。これが一番有難い。実はその女性こそが真犯人でこれから何かしらの行動を起こそうとしている。これが最悪の可能性。

 私と綴はお互いに小さく頷き、生徒からその女性の特徴を尋ねる。

「えっと、ブロンド髪の美人で…背は170cmくらいで…あっ‼あの人ですっ‼」

 説明の途中で、地下駐車場の入口から出てきた2人組を指す。一人は人を引きずり、一人はM60機関銃を手にしている。

「―っ!?」

 その2人組、その内の一人を目にし、私は驚愕する。そして警戒を最大にする。私が殺気を放ったことで綴の警戒を強める。

「ゆとり、知り合いか?」

「ええ、あれが相手だと蘭でも分が悪いですね。」

 ピリピリとした空気に生徒がゆっくりと後ずさっていく。

 

「ん?『血塗れゆとり(ブラッディー・ユトリ)』じゃねぇか。何してんだ?」

 私に気付いた奴が緊張感もなくこちらに向かいながら声を掛けてくる。

「久しぶりですね。『要塞』ミラ・ミハイロヴィチ。私は武偵高の教師としてここに来ました。あなたこそこんなところに何用ですか?」

 かつて傭兵として働いていた頃に味方として、そして敵として戦った相手に挨拶をする。警戒は緩めない。 

「戦えなくなったと聞いてたが、教師ねぇ…姐さん、ちょうど良かったな。」

 姐さん…一匹狼の彼女が慕う相手がいたとは…それにちょうどとはどういうこと?

「生徒の仕事を奪って悪かった。」

 姐さん、と呼ばれた彼女が私たちに詫び、引きずっていた男、今回の事件の首謀者をこちらに放り投げる。

「どういうことだ?」

 綴が怪訝そうに警戒しながらそう尋ねる。

「人質を取るなど姑息な奴がいると聞いてな、根性を叩き直してやろうと思ったのだがな。」

 そう言って、完全気を失った男をちらりと見る。

「かなり手加減したのに一発でこれだ。あと数発殴って根性を叩き直そうと思っていたが、殺してしまいそうなのでやめた。なので後は任せた。」

 なんとも無茶苦茶な言い分だ。

「そいつの懸賞金もいらねぇってよ。姐さんに感謝しな。」

「貴女がただ働きなんて、明日は隕石でも降るんじゃないですかね。」

 ミラの依頼料を知る私は毒づく。

「そんなはした金いらねぇよ。それに姐さん一人でやった仕事だ。俺に権利はねぇ。せいぜい助けてやったガキどもに請求する程度だ。」

 ミラではなく彼女が一人で…何者なのだろうか?

「あんた、武偵か?それとも傭兵か?」

「一応武偵ということになっているようだ。」

 綴の質問になんとも言えない回答をする。答える気がないと判断したのか、

「まあいい、あんた、名前は?」

 少しでも情報を引き出そうと綴が質問を続ける。

「遠山金虎。」

「遠山ぁ…?」

 綴がその姓にピクリと眉を動かす。私も退学した一人の生徒が脳裏に浮かぶ。まさかね…

「そうか、東京武偵高の教諭だったな。愚弟が世話になった。」

「噓だろ…」

「嘘っ…」

 まさかでした。遠山くんのお姉さん。

「蘭はいないようだな。あいつにもよろしく伝えてくれ。では失礼する。」

 ミラを連れ、去っていく背中を見送る。

 

「引っ掛かるな。」

 帰りの車の中、助手席に座る綴が呟く。

「何がです?」

「遠山に姉がいるなんて知らなかった。生徒の個人情報は大抵抑えてたのにな…」

 情報通の綴が、まして注目株であった遠山キンジ、彼のことは調査済みだった筈だ。

「確かに、不自然ですね…でも妹が現れた時も知らなかったでしょう?」

 彼には突然妹が現れたりしている。突然姉が現れてもおかしくないというのは思考が吹っ飛び過ぎているだろうか?

「確かにそうだが、あいつの口から姉の存在をほのめかす言葉が一度でも出たか?兄のことは言っていたけどな。」

 仲が良くないとしても、一度くらいは存在を示唆することはあってもいい筈だ。それがまるで禁じられた様に全く出てこないというのは不自然過ぎる。まるで隠されているように…

「少し調べてみるか…」

「蘭の知り合いみたいでしたし、聞いてみますか?」

 夕暮れの街を車は走り抜けていく。

 

 

 

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―神崎・H・アリア視点―

 

 

 お台場で発生した立てこもり事件、その一報を受けた時、私は別の依頼をこなしていた。

「明日は皆とお台場に買い物行くんですよー。」

 昨日戦妹のあかりが言っていた言葉を思い出す。まさか巻き込まれてたりしないでしょうね…

 トラブルメーカーなところのある戦妹の能天気な顔が思い浮ぶ。

 

 急ぎ依頼を解決し、件の現場に急行すると、とっくに事件は解決しており、後処理をする警察や生徒たちの姿があるのみだった。

 …随分と早い解決ね。あまりにも早い事件の終結に違和感を感じる。

「あ、アリアせんぱーいっ‼」

 私の姿を見つけ、ぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってくるあかり。その防弾制服は所々汚れており、やはり巻き込まれていたのだと分かる。

「無事だったみたいね。」

「はいっ‼」

 元気よく答えるあかり、その後ろから友人たちもやって来る。

「それにしても、随分と早い解決ね。なにがあったのかしら…」

 あかりにそう尋ねながら、私の直感が囁く。この一件、間違いなく生徒が解決していない。

「私、初めてRランク武偵に会いましたよ。その人が一人で解決しちゃったんです。」

「Rランク武偵…なんでこんなところに…」

 予想外の答えに思考を巡らせる。Rランクとなればかつてイギリスでキンジを圧倒した007ことサイオン・ボンドの様な存在だ。確かにそれ程の実力者であれば今回の事件程度であれば容易に解決するだろう。しかし、疑問が残る。何故この程度の事件にわざわざ出張ってきたのか?偶然居合わせた?そうだとしたら何故こんな所に?…情報が足りないわね。そもそもそのRランク武偵が何者かも分からない。

「そのRランク、名前は?」

 

「遠山かなこ、金に虎でかなこです。」

 私の問いに桜が回答する。…は?いや、待って、おかしい。なんでかなこさんがこんな所で堂々と暴れてるのよっ!?武装検事は何やってるの?

「えっ、遠山…」

 あかりは知らなかったのか、その姓に不快感を表している。

「もしかして、遠山キンジ…元先輩のお姉さんとかじゃないですよね…」

 キンジへの敵意を見せつつ私に聞いてくるが、状況が理解出来ない。存在を隠すこととなっていた彼女が武偵として活動しているらしいし、堂々暴れたという。なにかあったのは間違いないわね…

「…あんたたち、この一件、忘れなさい。今後一切口にも出さないこと。いいわね。」

「えっ、なんで…?」

「答えは、はいかYes。じゃなければ風穴。分かったかしら。」

「は、はいっ。」

 あかりが返事をする。納得していない様子のその他の後輩たちにも一睨みすると、渋々だが頷く。それを確認し、

「急用が出来たわ。あんたたち気を付けて帰りなさい。」

 これからの行動に移す。…バカキンジ、報告を怠ったわねっ‼風穴開けてやるんだから。

 

 

 

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―間宮あかり視点―

 

 

 

「アリア先輩、どこ行くんですかーっ!?」

 私たちの報告を聞くと、すぐに走り出したアリア先輩の背に向かって叫ぶ。

「あかり、やめとけ。恐らく、アリア先輩も知ってる側の人間だ。」

「ライカ、どういうこと?」

 追いかけようとする私を制止するライカに尋ねる。

「蘭豹先生だけじゃない。理子先輩にも言われた。その人に関わるなってな。理子先輩とアリア先輩は同じチーム、恐らくあの人についてなにか知ってるが、絶対に言えないんだろう。」

「なんで…」

 隠し事なんてしてほしくない。そんな思いが湧き上がる。

「私たちの為なんだろ。蘭豹先生や理子先輩の言っていた通り、絶対に関わったらダメな相手、時期が来たら教えてくれるかもしれない。それまで待つんだ。」

 きっと、ライカの言う通りなのだろう。でも…

「アリア先輩を信じてるんだろ。」

 その言葉にハッとする。そうだ、私はなにを考えていたのだろう。それこそなにか危険が及ぶから隠しているのだとしたら、アリア先輩のその思いを裏切ることになる。

「ライカ、ありがと。」

 私の返事にライカが小さく笑った。

 

 

 

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―高千穂麗視点―

 

 

「麗さん、お久しぶりです。」

 父の書斎から出てきた女と鉢合わせる。

「あら、貴女がいるなんて珍しいわね。」

 狐崎(こざき)みすず。父の元で働く若手の武装弁護士だ。

「ええ、少し休職させていただくので、ご挨拶に。」

「休職…」

 探偵科Sランクだけでなく、鑑識科と情報科でもSランク相当という評価を受ける優秀な武偵。それだけでなく、武偵高を卒業後、東大に合格し、法科院に進まずに司法試験予備試験を合格し、司法試験に一発合格をした秀才でもある。弁護士としてはまだ一年目の新人だが、既に担当した案件の全てで最高の結果を残し、お父様も将来的にはNo.2に添えるつもりの有望株だ。だからこそ、お父様がそんなにもあっさりと休職を認めるのだろうか?それこそ他の事務所からの引き抜きの可能性だってあるのだ。

「引き抜きではありませんよ。」

 そんな私の考えを読んだ様に言う。

「では、体調でもわるいのかしら。」

「まあ、確かに業務が多く疲れてはいますが、体調は崩していません。」

 ならばなんだというのだ。退職ではなく休職だ。正当な理由なく許可出来ることではない。

「あまり話したくはないのですが、要らぬ疑いをかけられるのもあれですので、遠山案件とでも言っておきましょうか。」

 遠山案件…そんな言葉を聞いて思い浮かぶのは、『遠山金次』退学となったらしいが、武偵高の先輩で強襲科では一目置かれた存在、そしてその妹の『遠山金女』。そして次に思い浮かぶのは、かつて父が話していた『遠山金叉』武装検事であり、1989年のSDAランクで総合8位に載った超人。確か親子だった筈。思い浮かぶ人物だけでも恐るべきラインナップだ。

 それこそ『遠山金叉』は殉職したらしいが、武装検事だった訳で、それに関する案件であれば休職も許可されるのかもしれない。

 

「復職の予定は?」

「さて、早ければ2、3日で終わると思いますが、長引けば一生かかっても無理かもしれません。」

 彼女はいったいなにをしようとしているのだろうか。

「私の心配よりもご自分の成績を心配されたらどうです?『戦略基礎』の成績、酷いですよ。専門の強襲科もAランク止まりのようですし。」

「くぅっ―‼そういう貴女こそ、射撃も格闘もからっきしでしょうに。」

「私には必要ないので。そもそも直接手を下すのはそれしか能がない連中に任せておけばいいでしょう。」

 心底馬鹿にした様に邪悪な笑みを浮かべる狐崎に怒りが湧き上がる。

「相変わらずいい(・・)性格ですこと。」

 少しでも心配した私が馬鹿だった。この女はそういう奴、人を嘲笑うのが生き甲斐の性悪女。あまりの性格の悪さに、一度彼女を厚遇するお父様に苦言を呈したことがある。その時は『まだまだ青いな』と言われたが、この件ばかりはお父様の慧眼を疑ってしまう。

「では失礼します。」

 ふっ、と見下した様な笑みを浮かべて去っていく。

「性悪…」

 去りゆく背中にわざと聞こえる様に呟く。優秀なのは分かるがどうしても好きになれない。しかし、遠山…関わらない方がいいわね。興味はあるが深入りはしない方がいいでしょう。好奇心は猫をも殺す。仮に遠山の一族を敵に回すような案件であったならば…考えるだけでもゾッとする。

 それに、それよりもやるべき事(あかりのストーキング)がある。この一件、忘れるとしましょう。パチリと扇子を閉じ行動を開始した。

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

 やっと見つけた。

 数日前、使えそうな武偵を探していた序に定期的に確認しているものを見る。遠山金次、SDAランク世界で93位、アジアで40位…ランクがひとつ落ちているわね。上位ランクの名前を追っていくが、全員のランクがひとつ落ちている。

「まさか…‼」

 全員ランクが落ちる訳ね、突然1位が現れたのだから。

「やっと見つけたわ…」

 今までどれだけ調べても見つけられなかった。もしかしたら死んでしまったのかとも考えた。しかし、アレが負けるのは想像出来ないし、それは有り得ないと信じていた。大方、強すぎるが故に隠されていたのでしょう。それが表に出てきた。

「政権交代、悪いことだけではなかったわね。」

 お陰であのバカを見つけることが出来た。まだ居場所までは分からないけれど。大方予想はつく。

「接触すべきはキンイチ…いえキンジね。」

 あのバカは確か下の弟の方を特に可愛がって(・・・・・)いた気がする。私としても接触相手はキンジの方が有難い。

「あの子を動かすのは簡単ね。」

 かつて何度も騙し、謀り、脅し、あらゆる手段で貶めてきた扱いやすい子。あの子にはトラウマになってるかしら?それはそれで、接触した際のリアクションを見るのも楽しそうね。不幸体質みたいだし、遠くから眺めるには中々に愉快な男よね。

 パソコンの横に置いていたマグカップを手に取り、コーヒーを啜る。

「まあ、あのバカに会えるならどうでもいいのだけれど。」

 

 

 

 

==============================

-キンジ視点―

 

 

 姉さんが武偵になった。そんな報告を酷く疲れた様子の兄さんから電話越しに受けた。大方あの(バカ)に振り回されのだろう。しかし、

「これからは姉さんの存在を隠さなくていい。」

 そう伝えてきた兄さんの声はどこか晴れやかだった。そう、あんなだけれども俺たちの姉さんだ。自分の姉を隠すというのはやはり納得はいっていなかった。俺も兄さんと同様に、心の中で喜んでいた。そう、あの言葉を聞くまでは。

 

「キンジ、姉さんが表舞台に立ったということは、喜ばしい。しかし、忘れるな。今後、アレが堂々と暴れ回ることになる。…胃薬を用意しておけ。」

 そう、そういうことになる。もうすでにMI6に喧嘩売ってたり、世界中で最強クラスを倒して回っていたみたいだが、それが更に加速する可能性が大いにある。…なんかもう胃が痛くなってきた。

「太田胃散あったけ…?」

 薬を探すべく戸棚を漁っていると、玄関をノックする音がする。

「こういう時に来る奴は碌な奴じゃないな。」

 不幸体質による長年の経験から居留守を決め込んでいると、

「キンジ、いるのは分かっているわ。大人しく玄関を開けなければあなたを社会的に抹殺するわよ。」

 この世で会いたくない奴ランキングトップクラスの女の声、もう何年も会っていないから俺への興味が無くなったと思っていたのに、何故…いや、心当たりはある。あの(バカ)だ。間違いない。それ以外にあの女が来る理由がない。胃の痛みが増してくる。

「仕方ないわね。それじゃあ、あなたが3歳の時にやらかしたことから始まり、今に至るまでの全てのことを拡散してみようかしら。」

「やめろぉーっ‼」

 恐ろしいことを言い出し、思わず玄関を開ける。普通に良識ある人間なら有り得ないが、こいつならマジで平然とそれくらいのことはやる。それを身をもって経験していた。

「あら残念。すぐに出来る様に準備していたのに。」

 そう言ってスマホの画面を見せる。家族でさえ知らないような俺の隠し事まで事細かに記されている。…怖っ‼

「おい、開けたんだ。消せよそれ。」

「分かったわ。」

 素直にデータを削除する。こいつがあっさり従うなんて…

「バックアップは取ってあるし、それ以上のものもまだあるわ。…ところでキンジ大切な話があるのだけれど。」

「やっぱりか。あとそれお願いじゃなくて脅迫だろ。相変わらずだなみすず…」

 俺の知る中で最も性格が悪い人間、狐崎みすず。

「…不快だから名前で呼ばないくれるかしら。当時のあなたは子どもだったから許してあげていたけれど、今は大人よ。」

「狐崎、久々に会ったが本当に相変わらずだな。」

 嫌味たらしく言うと、

「狐崎さんでしょう。あなたは中卒無職、私は弁護士、ああ、狐崎先生でも構わないわよ。」

 すぐさま社会的ステータスでマウントを取ってきやがった。

「はいはい、狐崎さん、なんの用だよ。俺でストレス解消したいのなら、頼むから帰ってくれ。」

 みすずの目的は分かっている。だが、それ以上に帰って欲しい。俺の胃が限界突破する前に。

「分かっているでしょう。分かっていなければあなたはあのバカと同レベルかそれ以下よ。」

「おい、それは最高の侮辱だぞ。」

「分かっているようね。それじゃあ上がらせてもらうわよ。」

 俺の制止を無視し、ずかずかと玄関へと上がり込む。

 

「お邪魔するわ。…狭いし暗いし、酷い部屋ね。」

「勝手に上がり込んでそんなこと言うか、普通?」

 そんな俺の正論に対し、

「事実を述べただけよ。…それにしても客にお茶も出さないのかしら?」

「…ちっ、インスタントコーヒーしかないぞ。」

「構わないわ。」

 コーヒーを淹れみすずに差し出す。みすずはその香りを嗅ぎ、一口口にし、

「酷いわね。雑巾の搾りかすかしら。」

「いい加減にしろよ。」

「冗談よ。私も普段はインスタントかコンビニのコーヒーだわ。」

 人をおちょくるのが生き甲斐の性悪女が自然と笑うのを初めて見た。『みすずは悪い奴ではない。』以前姉さんが言っていたな。もしかしたら…

「ところで本題に入っていいかしら。こんな汚い所にあまり居たくないの。」

 いや、やっぱり性格悪いな。

「どうせ姉さんのことだろ。」

「話が早いわ。何処にいるの…かはあなたが知る訳はないでしょう。あのバカが来たら私の名前を出しなさい。その程度ならあなたでも出来るでしょう?」

「そんなのでいいのか?」

 滅茶苦茶馬鹿にされてる気がするが、無理難題を申し付けられるよりは遥かにいい。だが、

「それだけで姉さんが会いに来ると思ってるのか?」

「ええ、あのバカならそれ充分よ。」

 大した自信だな。

「8年も会ってない癖に…」

「関係ないわ。大方あのバカのことだからきっかけがあればすぐに来るわ。この8年はそのきっかけを与えられてなかっただけだもの。」

 姉さんをバカ呼ばわりする割には信頼してんだな。

 

「要件は済んだわ。帰っていいかしら?この汚らしい空間から早く出たいのだけど。」

「勝手に上がり込んで随分な言い草だな。頼むからさっさと帰ってくれ。」

 なんでこいつは、そこまで根性がねじ曲がれるのだろうか。

「それじゃあ失礼するわ。…そうねお礼にいいことを教えてあげる。」

 みすずが玄関のノブに手を掛け、振り向いて言う。 

「どうせ碌なことじゃないんだろ。」

「あら、東大に入りたいのでしょう?先輩の助言は聞いておいた方がいいんじゃないかしら。」

 そういやこいつ東大卒のエリートだったな。気に食わないが聞いておくとしよう。

「教えてくれ。」

「頼み方が気に食わないけれど、今回だけは大目に見てあげる。次からは土下座でもしてもらおうかしら。」

 腹立つなぁこいつ。

「キンジ、よく聞きなさい。」

 玄関を出て、扉を閉めながら言う。

「大学って、毎年、いくつになっても受けれるのよ。」

 ガチャンと音を立てて扉が閉まる。

「浪人するって言いたいのかぁーっ‼」

 やっぱりあいつは碌な奴じゃない。そう確信した。

 

 

 

 

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