緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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あの日の日曜日

―狐崎みすず視点―

 

 

 遠山かなこと友達になった。そのことをすぐに後悔することとなった。

「狐崎、遊びに行こう。」

 友人となってからというもの、休日の度にやって来る。彼女にとって私は初めての友達(私にとっても初めて友達だが)、はしゃいでいたのだろう。

「あら、みすず、行きなさいよ。一日中パソコンと睨めっこより遥かに健康的よ。」

 そんな彼女の誘いに母は大賛成で、家から追い出される。

 春先の日差しが眩しい…憂鬱だわ。

「何処に行くのかしら?図書館?」

「山。」

 何処の?答えになってないわね。

「ちょっと、何する気っ!?」

 彼女が突然私をお姫様抱っこする。

「こっちの方が早い。」

「はぁ?っ――」

 風景が加速する。住宅街の壁や屋根、看板が線の様に駆け抜けていく。何が起こってるの?そんなことを考える間もなく、気を失った。

 

 真っ暗な世界。死んだのかしら?

「狐崎、起きろ。」

 体を揺さぶられ、三途の川から帰還する。瞼が開き、意識が覚醒すると同時に強烈な吐気に見舞われる。胃から込み上げるものを必死に抑える。

「着いたぞ。」

 なにが起こったのか、可能な限りの記憶を呼び起こす。この子に抱えられて、世界が加速した?駄目ね、全く思い出せないし、思い出せたとしても理解出来そうにないわ。

「ここは何処かしら?」

 吐気が収まらず、グラグラと頭が回っている。船酔いの様な感覚の中で周囲を見渡し尋ねる。

「山だが?」

 この子、バカだったわね。

「それは分かるわ。山の名前は?」

「山は山だろう?」

 ダメだ、会話が成立しない…

 ここは山の中腹辺りだろうか?そこから広がる風景、田園…駄目だわ何処だかさっぱり分からない。 

「ここで何するのよ…」

 帰りたい、しかし、帰り道も分からない。もしかして私をここに遺棄する気かしら?恨みつらみは十分買ってきたとは思うけれど、流石にまだ死にたくはない。

「ピクニック?」

 何故ここに連れてきたあなたが疑問形なの…不安しかない。しかし敵意がない事は救いだ。

 

 ピクニックを提案した彼女は、私を無理やり引きずながら、山の中を進んでいく。

「ひぃっ、虫っ‼」

 この世で最も嫌いなものが虫の私にとって、地獄の様な空間。

「お、きのこだ。」

 白くて綺麗なツバとツボのあるきのこ、頭の中の記憶を呼び起こす。日本で最強の毒を持つきのこ、以前手軽に入手出来る毒を調べていた時に見た記憶がある。…ドクツルタケね。

 虫が多い山に入る気も起きなかったので記憶の片隅に留めていたけど、こんな状況で実物を目にするなんて思ってなかったわ。

「美味しそうだ。」

 迷いなくドクツルタケをむしり取り、口に運ぶ。何故きのこを生で食べようとするの?それ以上に危機感はないの?

「やめなさいっ‼」

 私の制止は間に合わなかった。パクリと口にしてしまった。終わった、この子がここで死んだら、私はどうやって帰るのよ…しかし、症状が出るまでに最短でも6時間、最長で24時間と書かれていたわね。まだ間に合うかもしれない。この子の命はどうでもいい、早急に帰宅しなければ…

「味は普通だな。」

 のほほんとそんな感想を述べている彼女を誘導しなければ…

「おお、こっちのは赤いぞ。」

 それはベニテングダケ…

「こっちのは面白い形だ。」

 カエンタケ…触ったら大変なことになるんじゃ…

 ひょいひょいとそれらを収穫し口に運ぶ。終わった、もう終わった。即効性の毒きのこを食べてしまった。何故止めなかったの私…いや、止められないわよ、あんな速度で動かれたら目で追うことさえ出来なかったもの。私は悪くない。

 

「うーん、肉の方がいいな。」

 この期に及んで、きのこの感想を述べているバカに、私は泣きそうになる。そしてバカは思い出した様にドクツルタケを手に取り、

「そうだ、狐崎も食べるか?」

 私に差し出してくる。

「いらないっ‼いらないわっ‼やめて、近づけないでぇーっ‼」

 全力で拒否する私に、

「遠慮しなくてもいいぞ?いっぱいある。」

 と私が遠慮していると勘違いして、ズイズイとドクツルタケを差し出す。

「いやぁぁぁーーーっ‼」

 私の人生において一番大声を出した瞬間だったと思う。私の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

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―間宮もえぎ視点―

 

 

 間宮家の夕座として、お家第一に生きてきた。そんな一族の安全を祈願しに、筑波山神社を訪れ、帰路についていた時だった。

「いやぁぁぁーーーっ‼」

 筑波山から微かに聞こえた悲鳴。一般人には聞き取れなかった可能性もあるが、間宮の術を修めたこの身には聞こえた。幼い子どもの、それも女の声、表と裏の仕事を受け持つ一族として、その技を大ぴらに見せることはまかりならぬ。そんな考えがあったが、一族の者たちにも子、儂の孫にあたる者たちが生まれたり、生まれそうだったりする。そんな状況だっただろうか、その声の下に自然と体が向かっていた。

 

「きのこ嫌いなのか?好き嫌いは良くないぞ。」

「違うわよ。それは好き嫌いの問題じゃないわ。なんで致死性の毒を進んで食べるのよ。」

 登山道からも大きく外れ、全く人気の無い山の中腹で、黒髪とブロンド髪の少女が騒いでいる。遭難したのじゃろうか?しかし、あのブロンド髪の少女が手にしておるのは…ドクツルタケじゃな…黒髪の少女が正しい判断をしておる。見捨てるのも目覚めが悪い。全く、世話が焼けるのぉ。

 止めに入ろうとした時、ブロンド髪の少女と目が合った、いや合った気がした。こちらは完全に気配も姿も消しておる。気付かれる筈がない。間宮家は元は公儀隠密の家系、それらの術は身に染みついている。そう考えていた。

「きのこが欲しいのか?いっぱいあるぞ。」

 突然目の前に現れるブロンド髪の少女、手にはドクツルタケ。

「いや、いらぬのじゃが…」

 冷や汗が背中を伝う。

「意外といけるぞ。」

 そう言ってパクリとそれを口にする。いや、食べたらいかんじゃろ…呆気に取られておると、少女の姿が消える。

 

「熊でもいればいいのだが…」

 先程の場所に一瞬で戻り、尻餅をついている黒髪の少女に話しかけている。尻餅をついた少女は、

「あ、あなた消えて、また現れて…なに、なにをしたのっ!?」

 そりゃあ、腰をぬかしてもおかしくないのぉ。修羅場をくぐってきた儂も驚いておるし。

「そこからそこまで走っただけだが?」

 なにかおかしいことでもあっただろうか?とでも言わん様に首をかしげている。…おかしいじゃろう。

「ここに来る時もそうやって来たではないか。」

「あんな速度でここまで私を運んだの…」

「そうだが?」

「バカじゃないのっ!?死ぬわよっ‼というよりなんで私死んでないの?おかしいでしょっ‼」

 なんじゃろう、全く状況がわからぬ。

「それに、ドクツルタケだけじゃなく、ベニテングダケとカエンタケまで突然食べるし、訳が分からないわっ‼…もう嫌…帰りたい…」

 最後は力なく崩れ落ちた。いや、としはもいかぬ少女がそんな状況で泣きもせず、冷静にきのこの種類を判別するのは充分に凄いと思うのじゃが…ブロンド髪の少女の奇行に目を奪われがちじゃが、お主も大概なメンタルじゃぞ。

「見ただけきのこの名前が分かるのか。狐崎は凄いな。」

 …違う、違うじゃろ‼あのブロンド髪の少女が食した毒きのこのラインナップは駄目じゃろう‼

 

「お主、なんともないのか…」

 思わず少女たちの前に姿を現す。

「なんともないぞ。」

「ああ、人、人がいた。教えて下さい。ここは何処なんですか?」

 ケロッとした様子で答えるブロンド髪少女を押しやり、黒髪の少女が希望の光を見つけた様に目を潤ませ尋ねてくる。

「筑波山じゃが…儂の方がいろいろ聞きたいくらいあるのじゃが…」

 そう、儂の方が状況が分からない。分かるのは、このブロンド髪少女はなにかがおかしいということだけじゃ。

「筑波山っ!?茨城県じゃない。あなた何考えてるのっ!?いえ、なんで数分で巣鴨からここに着いてるのよっ‼」

「だから走ったと言っただろう。」

 頭が痛くなってきたのじゃ…

「あー、その、なんじゃ、儂としては、そっちの黒髪の女子(おなご)が言っておった様に、帰った方がいいと思うぞ…」

 大人として常識的な判断を下す。というより、全く理解出来んし、このままだと黒髪の少女が死んでしまいそうだし、気の毒で仕方がない。

「まだ来たばかりなのに…」

 しょんぼりと落ち込んだブロンド髪の少女に対し、

「ああ、良かった…普通の人で良かった…」

 黒髪の少女は歓喜の声を上げる。…儂も普通の人かと言われれば怪しいのじゃがな。

 

「帰り道は分かるかの?」

 落ち着きを取り戻した黒髪の少女をブロンド髪の少女がお姫様抱っこしている。

「分からんが、なんとかなる。」

 その発言で黒髪の少女が青ざめる。

「嫌ーっ‼降ろしてーっ‼」

 ジタバタと暴れるが、

「大丈夫だ、南に下ればいいのだろう?」

 そんな単純な考えでいいのかのぉ?

「こっちだな。」

「そっちは西じゃ。」

 不安しかないのじゃが…

「それならこっちだな。」

「そっちは北じゃ。西の方角が分かったなら南は分かるじゃろっ‼」

 きょとんとしている少女。なんじゃこのアホは。

「ふふふ、死ぬのよ、私は今日で死ぬのよ…」

 いかん、黒髪の少女の精神が限界じゃ‼

「南はこっちじゃ。いいか、分からなくなったら、必ず誰かに聞くのじゃ。頼むから…」

 儂までおかしくなりそうじゃ…

「よし、それでは行くか。」

「お願いだからゆっくりでお願いするわ…」

 生気の抜けた表情で懇願する。

「分かった。」

「お願いするわ―ひぃっ‼」

 速いのぉ。もうあんなところにおる。いや、そもそもなんで空を走っておるのじゃ?もう考えたらダメな気がしてきたわい。

 

 間宮の家にたどり着く。

「あら、遅かったですね。」

「うむ、狐に化かされたようじゃ。」

「まあ、なにかあったんですか?」

「ちぃとな。」

 今日起こった夢物語のような出来事を話してやる。皆、冗談話と思って笑っておったが、儂もそう思う。

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

「もう、お願いだから山に連れて行かないで。」

 なんとか家にたどり着き、降ろされている時に、彼女へそう懇願する。

「山、嫌いだったのか?すまなかった。」

 そうじゃない、もっと常識的な範囲での遊びなら嫌々だが付き合ってあげなくもないが、こんなことをしていたら身が持たない。

 この子と友達になったの、間違いなく間違いね。

「それじゃあ、次は狐崎が決めてくれ。」

「行き先を?」

 下手なこと言うと、地球の裏側にだって連れて行かれかねない。

「やりたいこと。」

「やりたいこと…?それはなんでもいいの?」

「構わぬぞ。」

 いや、待ちなさい。なんでまた遊ぶことになってるの!?そもそも、今日のこれは遊びなの?死にかけたのだけれど。それに、あなた毒きのこ食べてるし、明日死んでたりしないわよね…

「決まったか?」

「いいえ、まあ、考えておくわ。」

「そうか、楽しみにしている。それじゃあまた来週だな。」

「遠山さん。明日学校よ。」

 遊ぶことしか頭にないのか、それとも学校に行く気がないのかしら?

「もう来れるのか?」

 ああ、まだ私がインフルエンザで来れないと思ってたのね。…なんで連れまわしたの?

「ええ、もう治ったわ。」

「少し学校が楽しくなった。」

 そう言って、手を振って去っていく。あなた、ずっと寝てるじゃないの… 

 そう思いつつも、純粋に向けられた好意、あの言葉と表情…少しだけ嬉しい。私どうしたのかしら?こんなこと思うことなかったのに…

 

 部屋に戻り、ベットに倒れ込む。訳が分からない一日だったわ。あの子突然空を走るし、あんなの身体能力が高いとかそういう次元じゃない。いろいろと聞きそびれたわね。まあ、来週もあるのだし、その時にでも…

 無意識に来週のことを考えている自分がいる。なんでなのかしら…

「全く、訳が分からないわ。」

 今日の出来事が楽しかったかと聞かれれば、断じて否。全く楽しくないし、二度とごめんだと思う。だけど、衝撃的だった。今までは、ある程度自分の思い通りに物事を動かすことが出来ていたし、そうやれる自信も多少はあった。なのに今回のあれはなに?全く道理が通じないし、物理法則を無視したことを平然と行う意味不明な生き物…正直あれと友達ということになってしまったことに、後悔しかない。でも、

「退屈とは無縁ね。」

 私の考えていたあらゆる計画、そのどれよりも刺激的だった。それこそ、刺激的なんて言葉では生温い程に。

 

 

 

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天王洲(てんのうず)愛梨(あいり)視点―

 

 

 夢だった小学校の先生。そんな夢を叶え、今年から新米教師として赴任した小学校は私の母校でもある。頑張ろう。そう思うけど、それ以上に不安もある。私はあんまり気が強い方でもないし、おどおどしている事が多い。教育実習の時も…弱気になったらダメよ‼明日から先生になるんだから‼

 

 入学式の日、体育館に並ぶ新入生とその保護者たち。1年3組、私が受け持つクラス。喜びと不安でわたわたしていると、学年主任に励まされた。そうよ、頑張らなきゃ‼決意を固める。

 入学式が終わり、オリエンテーションの為に教室に移動が始まる。私も教室へと向かっていた。

「かなこ‼どこ行ったの!?」

「落ち着け、お前はじっとしていろ。お腹の子に障るといけない。」

 眠っている小さな男の子を抱えた、2mはあるんじゃないかという大男と綺麗な女性が子どもを探している。

「あのぉ、大丈夫ですか?」

「先生ですか!?娘がいなくなって…」

「あの、お子さんのお名前は?あと特徴とか…私も探しますので落ち着いて下さい。」

 入学式についてきたが退屈で何処かに行ってしまったのだろう。幼稚園児くらいの子だったらそんなに遠くには行ってない筈。

「遠山かなこです。それで―」

 あれ、なんか聞き覚えのある名前…クラスの名簿を見る。やっぱり、私のクラスの生徒だ…えっ、どうしよう!?落ち着かせようとした私の方が慌てふためく。

「あ、いた。」

 校舎の屋上から、スカートなのも気にせずに飛び降りてそう言う、ブロンド髪の少女。

「ひぃっ!?」

 衝撃映像に腰をぬかす私。なんでこの子怪我ひとつないの!?

「いた、じゃないわよ‼なんで勝手に何処か行くのよっ‼」

「退屈だったから。」

「このおバカっ‼」

 お母さんの拳骨が少女の頭に落とされ、ドゴンッと人からしてはいけない音が響く。それだというのに、痛そうな素振りさえ見せず、

「金一が起きてしまうぞ。母上。」

 とお父さんに抱えられた男の子を見ている。

 

「かなこ、勝手にどこか行ったら駄目だろう。」

 お父さんが優しく諭すように言う。

「ごめんなさい…」

 しゅん、と項垂れる少女。片腕で男の子を抱き、もうひとつの腕で少女を抱き寄せ、猫可愛がりしている。

「あなたがそうやって甘やかすから。」

 お母さんがお父さんに怒りを向けている。

「あ、甘やかしてなんかいないぞ。」

 お父さんはそう言っているが、その間でさえ少女の頭を撫で回している。娘が可愛くて仕方ないんだなぁ。傍から見ても分かる親バカっぷりだが、実際、その子はビックリするくらい綺麗でお人形さんかと見紛う程愛らしい。

 あ、そうじゃなかった。なんかいろいろと言いたいことはあるけど、

「遠山かなこちゃんね?」

 膝を曲げ、少女と同じ高さまで視線を落とし、話しかけると、少女はスポンッとお父さんの腕から脱出し、私の前で首をかしげる。

「えーっと、私はかなこちゃんの担任の天王寺愛梨です。よろしくね。」

 出来るだけの笑顔で自己紹介する。正直、いろいろと衝撃が多すぎて笑顔は引き攣っていたと思う。

「遠山かなこです。」

 ペコリと頭を下げる。あれ、意外と礼儀正しい…

「一緒に教室に行きましょ。」

「すみません、ご苦労をおかけします。」

 お母さんが申し訳なさそうに言うと、かなこちゃんはコクリと頷く。

「かなこ、いいわね。絶対に約束を守るのよ。」

 お母さんがかなこちゃんの手を握り、真剣な眼差しでそう言う。お父さんもこの時だけは娘への甘えを捨てた目をしている。

「分かってる…」

 少し不服そうにかなこちゃんが答える。約束ってなんだろう…?

 

 それから無事にオリエンテーションを終え、一日が終わった。

「疲れた…」

 先生って、こんなに沢山することがあるんだ。学生の頃には知らなかった大人の、仕事の世界の大変さを身に染みて感じていた。

 翌日から、この程度は比ではない程大変になるなど、全く考えもしていなかった。

 

 あれ、この子ヤバいんじゃ…

 そう思い始めたのは、件の少女、遠山かなこちゃんだった。

 初日の最初の授業から爆睡。どんなに頑張って起こしてみても、起きる素振りさえない。まさか病気!?

 そんな心配をした時、小さく欠伸をしてかなこちゃんが目覚める。ああ、よかった。寝ているだけだった…大事ではなかったことに胸をなでおろす。そんな安心も束の間、ちらりと教科書を捲り、また眠ってしまう。

 どうしたらいいの…ああ、そうだ、きっと初めての学校生活に緊張して、夜眠れなかったのね。大事なイベントの前日とか私もよくなるし、そうよね…

 とりあえず、寝かせてあげよう。本当はダメなんだろうけど、今日だけ特別だよ。そんなことを思いながら授業を進めた。

 体育の授業、最初の授業は体力測定。明らかにやる気のない生徒がいる。50m走でほとんど走っていないというより歩いてる。

「狐崎さん、運動は苦手?先生も苦手だからなんとなく気持ちは分かるけど、でももう少し頑張ってくれるかな?」

 優しく、笑顔で語りかけてみる。

「ええ、苦手だし、嫌いだし面倒くさいです。そもそも、体力とか運動で明確な指標を出したら、単純な小学生の価値基準に支障をきたすんじゃないんですか?こういうところからいじめって始まるんですよ。」

 あれ、この子もなにかおかしい…あなた本当に小学生だよね?

「あー、そういうのは先生に言われても…」

「分かってます。そういうのは文科省から基準と必須科目だなんだと定められてるんでしょ?結局古い己の価値観を押し付けるだけよね、お役人様は…」

 なんか怖いなぁ…多分凄く頭がいい子なんだろうなぁ…

 現実逃避したくなった私の精神をさらに追い込むもうひとりの生徒が現れる、そう遠山かなこちゃん。

 眠りから覚めた彼女は、少し暗い表情で測定に挑んだ。

 …ここ、小学校だよね?国立競技場じゃないよね?

 彼女は小学1年生の身でありながら、走らせても、投げさせても、跳ばせても、全てでオリンピックの様な記録を叩き出す。測定ミス?違うだって明らかにひとりだけ動きがおかしいもん。もしかして凄いスポーツの才能を持った子なの…?いや、それでもおかしい、だってまだ小学生、しかも1年生なのに、なんで大人よりも凄い記録がでるの!?

 凄い才能の生徒がふたり、これは教師として喜ぶべきことなんだろうけど、それ以上に、胃が痛くなった。

 

 そんなふたりの生徒に胃と精神を削られる日々、そして家庭訪問の日、

「うちの子、学校でちゃんとやれてますか?」

 酷く申し訳なさそうな顔でふたりの生徒のお母さんから尋ねられた。やれてません。なんて言えず。

「その、みすずちゃんは凄く頭がいいみたいでして、その、他の子たちと会話のレベルが違い過ぎて、その…まだうまくなじめてないみたいです…ごめんなさい。」

「ああ、謝らないで下さい。悪いのはこの子なので…凄く捻くれてるけど、根はいい子…そう、いい子なんですよ。…多分。」

 お母さんも自信がないみたい。狐崎さん大丈夫なのかなぁ…それを聞いて、お母さんの隣に座る狐崎さんは、

「仕方ないじゃない。そういう風に生まれたんだから。それに、友達なんていなくても、私は私の楽しみ方があるのよ。」

 と気にする様子もなく紅茶を啜っている。

 

 一方の遠山さん家では、

「あの、凄く運動が得意みたいです。ただ…あのぉ、かなこちゃんお家でちゃんと寝れてますか?」

「ええ、毎日20時には爆睡してますよ。ビックリするくらい寝つきがよくって…」

 あれぇ?なんでじゃあ授業中に寝ちゃうの?

「かなこ、もしかして授業中寝てないわよね?」

 隣に座るかなこちゃんに察したお母さんが尋ねる。

「授業中かは分からないが、学校では寝ているぞ、母上。」

 噓が付けない子なのね…そんな真っ直ぐな目で答えることじゃないよ…

「なんで寝るのっ!?」

「難しいことを考えると、眠くなるのだ。」

 まさかの回答に、お母さんと私の時間が止まる。

「あんた、バカとは思ってたけど、まさかここまでなんて…」

 お母さんの驚愕の呟きが妙に悲しく感じた。

 

 そんな不安しかない生徒たちのクラスをなんとか1年乗り切った。終業式の日、帰宅した後なんか安堵で緊張が解けたのか、部屋に帰るなり、涙が溢れ出て、止まらなかった。

 

 翌年は2年生の担任、そんな話を受けて、嫌な予感しかしなかった。渡された名簿、予想通りあのふたりの名前がある。

 ああ、もう胃が痛くなってきた。だって、1年生の終わり頃から狐崎さんはなんか悪い噂ばっかり聞くし、かなこちゃんは相変わらずだし、またもう1年!?絶対去年よりも酷いことになるよ。出来ればお断りしたかったけど、そこはNoと言えない日本人の私は、受けてしまった。

 2年生の初め、狐崎さんがインフルエンザになったりはあったけれど、家庭訪問の頃にはすっかり回復して、元気にクラスの勢力図を書き換えて遊ぶなど手が付けられなくなってきた。かなこちゃんは相変わらず寝てる。

 そして家庭訪問の時、狐崎さんのお母さんから驚愕の事実を伝えられる。

「友達が出来たみたいで安心しました。」

 えっ!?噓、だって学校だといつもひとりぼっちなのに…

「インフルエンザの時にプリントを届けに来てくれたから知ったんです。遠山かなこちゃんって凄く綺麗な子。あれ以来毎週休みの日にみすずと遊んでるんです。」

 嬉しそうにそう言うお母さん。ええ、あのふたりが…正直正反対だと思ってたけど、逆にそれがよかったのかな?

「別に好きで遊んでるんじゃないわ。お母さんがあの子が来ると私を追い出すじゃない。だから仕方なくよ。」

 つっけんどんにそう言って紅茶を啜ってけど、狐崎さんの頬に薄っすらと朱が差している。

「担任失格です…学校ではそんな素振りも全くなかったから、気付けませんでした。」

 意気消沈する私に、

「仕方ないと思いますよ、だって遠山さんは学校だとあれだし。」

 そうだよね、寝てるもんね。話せないよね。ああー、なんで気付けなかったんだろう。もっと早く知っていたら少しは気が楽になれたのに。

 

 だけど凄く嬉しかった。去年は友達なんていらないと言っていた狐崎さんに友達が出来た。他の生徒たちと接して、嬉しいことも沢山あったけど、なんだか一番嬉しい。彼女の大切な出会い、その空間の背景として残る。教師としても私個人としても凄く嬉しかった。

 

 あれから16年、様々な学校に異動しながら教師を続け、結婚もして子どももふたり生まれた。

 ある土曜日の午後、子供たちは友達と遊びに行ったので、ひとりで買い物に行っていた帰り道、買い物袋を下げて道を歩いていた。

「あら、天王洲先生?」

 私と同じくらいの身長で黒い髪を黄色いシュシュで纏めた、スーツの女性、出来るキャリアウーマン感が滲み出ている。教師生活の記憶が1年目から鮮明に蘇った。

「ウソッ、狐崎さん。凄い、久しぶり‼髪、伸ばしたのね。」

 あの問題児の内の片割れ、当時は肩口までだった黒髪は束ねられ、胸元のまで垂らしている。彼女たちのお陰で、それ以降どんなクラスを受け持っても動じることは無くなっていた。あの子たちに比べたら、なんということも無い。私を強くした子。一番思い入れがあったふたり。懐かしくて涙が出てくる。

「ええ、お久しぶりです。先生はまだ教師を?」

 相変わらず落ち着いたクールな話し方ね。ふと、彼女の襟に輝くバッチが見えた。

「今はそこの小学校で学年主任よ。狐崎さんは弁護士になったのね。」

 成績は凄く優秀だったし、あまり驚かない。

「武装弁護士ですけどね。離婚、遺産相続、なにかありましたらご相談下さい。」

 私の左手の薬指の指輪を見てそう言って名刺を出してくる。

「相変わらずの性格ね。残念だけど離婚の予定は無いわよ。」

 そう言いながら、名刺を受け取る。『高千穂弁護士法人 弁護士 狐崎みすず』

「凄いわ。高千穂弁護士法人ってCMもやってるわよね。私でも知ってるような有名なところじゃない。」

「まあ、もうしばらくしたら肩書が代表補佐になるんですけどね。」

 凄く黒い笑みでそういう。この子、絶対出世レースであらゆる手段でライバルを蹴落とす気だ。この子なら実際蹴落として上に立つのでしょうね…

「ところでそのシュシュ、随分と古いみたいだけど、大丈夫なの?」

 一切の隙を見せない彼女が、何度も縫い繕ったシュシュをつけていることに驚いて、思わず指摘してしまう。

「ああ、これはプライベート用なので。仕事の時はちゃんとした物に変えますのでご心配なく。」

 お気に入りなのかしら?この子にもそういうこだわりとかあったのね。

「ところで遠山さんは元気?」

 きっと凄い美人さんになってるんだろうなぁ。しかし、その名を出した瞬間、狐崎さんの表情が先程とは毛色の違った黒い笑みに変わる。あれ、地雷踏んじゃった!?

「あのバカ、何処にいるのかも分からないんですよ…もう7年も連絡も顔見せにも来ないし、なに考えてるのかしら、いいえ、なにも考えてないわね。あのバカのことだから。」

「7年もっ!?それって…」

 最悪の可能性を考えてしまった。

「ああ、それは大丈夫ですよ。あのバカが死ぬのは、世界から武器も争いも完全に無くなるのよりも難しいので。」

 あり得ません。と言い切る狐崎さん。

「あの子が体力測定で凄い数字出してたと思いますけど、あれ、手加減に手加減を重ねてあれですからね。本気出さないって両親と約束してたらしいですし。」

 あの時言ってた約束ってそれだったんだ…でも、

「ちょっと待って、おかしいよね。あれで手加減してたんだとしたら超人とかそういうレベルじゃない…」

 全く信じられない話だ。

「まあ、普通は信じられないでしょうね。でもあの子、普通じゃないので。」

「あー、それは分かるかも…」

 まあ、それはあなたもなんだけどね…

「じゃあ7年も探しているのね…」

「ええ、見つかるまでは何年でも。なにか知ってることがあればそこに連絡してくれますか?」

 そう言って渡された名刺を指す。

「勿論よ。でもあなたがそんなに友達を大切にするなんて…成長したのね。」

 感慨深いものがある。きっと友達も増えたのだろう。

「私が友達と認めた唯一の人ですから。そこいらの有象無象と違ってあの子に代わりはきかないんです。」

 増えてなかった…それに周りへの価値観が以前よりも悪化している様な気もする。

「そうだ、同窓会でもやってみる?」

「え、嫌です。なんでそんな無駄な時間使わなきゃいけないんですか?それに、あの子も私も友達いないから行くわけないじゃないですか。」

「あなたたちって大概よね…」

 異動となり、2年生までしか彼女たちを見ていないが、恐らくずっとあんな感じだったのだろう。

 

「まあ、全然期待してないんで大丈夫です。記憶の片隅にでも留めておいてもらえればそれでいいので。」

「あ、でも私、狐崎さんの連絡先知らないわよ?今は一人暮らしなの?それともご実家?そっちなら分かるけど…」

 名刺も事務所の番号しか書かれてないし、

「ああ、大丈夫です。」

 そう言って、狐崎さんがスマホを触わると、私のバックの中で携帯が震える。

「あ、ごめん。電話みたい。」

 携帯を開くと知らない番号。

「それ、私の番号です。登録しておいて下さい。」

「ちょっと待って!?なんで、私番号教えたことなんてないわよねっ!?」

 私が焦ってそう言うと、何言ってんのこいつと言わんばかりの表情で、

「なんで私が知らないと思ってたんですか?」

 怖いっ‼この子怖すぎるよ。ドン引きする私に、

「それじゃあ、失礼します。私忙しいので。」

 と去っていく。呼び止めたの狐崎さんだよね…

 相変わらずだなぁ…と思いながら帰路につく。

 

 狐崎さん、早く遠山さんと会えるといいね。もう大人になってしまった教え子の背中が、あの時の姿に戻って見えた。

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

 あれから毎週、彼女はやって来る様になった。それは、3年生になりクラスが変わっても続いた。そして週交代でお互いのやりたいことをすることになっていた。彼女にとっては退屈な図書館でも、買い物でも文句ひとつ言わずに隣をついてきて来る。

 そういった時間を過ごしていく中で、彼女について分かったことは、理解出来ない程身体が強いということと、バカだということだった。あらゆる毒も効かないし、訳が分からない運動能力を発揮するし、べらぼうに強い。

 正直、頭が痛くなる様な事ばかりするが、それでも刺激的で何よりも誰かと過ごす時間が苦痛でなかった。それが楽しいということだと、彼女が私にとって大切なものになっていたのだと、強がりで認められなかったから、あんなことになってしまったのだろう。

 

 4年生になってから半年も過ぎた辺り、ふたりで街を歩いていた。今日は私が遊びを決める日、今までは肩口で切り揃えていた髪を、これからは伸ばそうと思い、髪を纏めるヘアゴムでも買おうとやってきていた。ついでに彼女の服でも見繕ってあげましょう。

 彼女自身はそういうものに一切興味がないらしく、今までは彼女の母親が見繕っていたらしい。何度か彼女の家にお邪魔した際に彼女の母親が嘆いていた。そんな母親が先月亡くなり、暫く意気消沈していた彼女が復活した最初の休日、私も柄になく少し優しくしていた。

「遠山さん、少しは身嗜みも気に掛けたらどうかしら?」

 彼女の綺麗なブロンド髪は所々跳ねてしまっていた。母親がいた頃にはそんなことはなかったのに。

「母上の様な事を言うのだな。」

 少し驚いた様な表情でそんなことを言う。

「ブラッシングくらいはした方がいいと思うわ。」

 草葉の陰で泣いてるわよ。とは流石に言えなかった。

 

 それから、店を眺めたりしたが、彼女は全く興味を示さない。本人曰く、機能と耐久性が一番大事らしい。…作業着でも着たら?そう言うと多分本当に着てしまうので言わなかったが、この子にはなにを言っても無駄なんだと諦めた。

「気に入るのが無いわね。」

 自分のヘアゴムを探していたが、あまり気に入るものが無い。

「髪伸ばすのか?」

「ええ、変かしら?」

「いや、いいと思う。」

 ファッションや髪型に興味の無い彼女からお墨付きを貰う。…当てにならないわね。伸ばすのやめようかしら。

 そんなこんなで特に何を買うこともなく店を後にし、街を歩く。後は帰るだけね。特になんの収穫もなく家路に着く。

「金一がクワガタを友人と取ってきたぞ。」

「しばらくあなたの家に行くのはやめるわ。」

 クワガタって、見た目が少し違うゴキと同じじゃない。あんなものがいる所には行きたくないわ。そんな会話をしながら道を歩いていると、視線を感じる。この子と一緒にいるとよくあることだけど、その視線の先にいたのは同じ学年の女子生徒。あの子、今は遠山さんと同じクラスだったわね。

 3年生の時に同じクラスだった少女、少し容姿が優れていることを武器に私に攻撃を仕掛けてきたので、散々に打ちのめしたんだっけ。まだ諦めてなかったのね。

 私に向けた敵意の籠もった眼差し、まあ、どうでもいい。また何かしてきたら、今度は立ち直れないくらい叩きのめそうと気にも留めなかった。

 

 そんなことがあったことさえ気にもせず、暫く学校生活を送っていた。

 ある日の昼休み、特にすることもないので、図書館に行こうと廊下に出た。

 そういえば、ここ遠山さんのクラスね。

 彼女のクラスの前に差し掛かる。給食を食べたら直ぐに寝ていた彼女は珍しく起きていた。チラッと目が合う。私を見つけた彼女がこちらへ来ようとした時、あの時の少女が彼女に話しかける。

「ねえ、かなこちゃん。今度一緒に遊ばない?友達になろうよ。」

 予想外の言葉だった。あの少女の性質上、自分よりも優れた容姿の子には攻撃的だった筈。なのに彼女にそんな提案をしてきた。私の唯一の友人で唯一の味方、それを削ぐことを優先したのだ。読みが甘かった。自分の信念を曲げてでも私を貶めたいという覚悟を見た。

「なんでだ?」

 少女の誘いに、彼女は首を傾げる。その間、私を視界から逃さなかった。

「今までずっとかなこちゃんと話したかったけど、いっつも寝てるんだもん。今日は起きてたでしょ。だからこれを機にって思って。ねっ、いいでしょ?」

 あくまで今までずっとそう思っていた、今回は偶然機会があったからと言い切って見せた。

「別に構わないが…」

 彼女の回答に胸が張り裂けそうになる。私に気づいていたのか、少女が勝ち誇った笑みでこちらを見る。それを見えなかった振りをして、止まっていた足を進める。あの笑みの意味、それが分かる。お前なんか嫌われ者、唯一の友人でも簡単に離れてしまう。

 今までにない程動揺している。それこそ全く頭が回らない。なにも最善の策が思い浮かばない。どうしたら彼女の気を引けるのか、そんなことは彼女を見つけた時に考えていた筈なのに…それさえ思い出せないし、思い出しても最善だと思えない。

「狐崎?」

 後ろから呼び止められる。ああ、彼女の声だ。振り向くのが怖い。その後に発せられる言葉が怖い。

「狐崎っ‼」

 全く振り向きもせず、足も止めない私の肩を掴まれる。

「何かしら、遠山さん?」

 下らないプライドで平然を装って振り向きそう言う。

「なんで無視した?」

「あら、新しい友達と楽しくお話みたいだったから。それに、私は図書館に行きたいの。ほっておいてくれる?」

 ああ、なんでこんな言葉しか出ないのだろう。

「じゃあ一緒に行く。」

「来ないで、もう友達は私だけじゃないでしょ。私に構わないで。…別に私は友達なんていらないんだから。」

 言ってしまった。彼女が目を見開くのが分かる。彼女が離れていくくらいなら私から突き放す。少しでも痛みを減らす為…

「…好きにしろ。」

 彼女が教室に戻っていく。これで良かったのよ。そもそも私とあの子は対極の存在。むしろ今までがおかしかったのよ。

 

 ふらふらと図書館にたどり着く。…もう読んだ本ばかりね。本棚に並ぶ背表紙を指で撫でている。あれ、なんだか上手く息が出来ない。

 ヒュウヒュウと喉が音を立てる。あれ、これって過呼吸かしら?

 膝から崩れ落ちる。指が掛かっていた本が本棚から落ち、音を立てる。

「ちょっと、大丈夫っ!?」

 司書の先生がその音で私の異変に気付く。それからの事は覚えていない。気がついたら保健室で寝ていた。

「みすずっ‼」

 目覚めた私の耳に母の声が響く。

「私、過呼吸になって…」

「よかった、よかったわ…」

 母が私の手を痛い程握りしめて泣いている。

「今日は帰った方がいいみたいですね。なにかあったらすぐに病院に行って下さいね。」

 私の様子を確認した保健医が母にそう言う。そして私の前に来て、

「みすずさん、過呼吸は―」

「知ってます。過度のストレスとか不安、特に鬱病の人に出やすい症状ですよね。」

「噂通り賢いのね。分かってるなら話は早いわ。なにか心配事があるなら、お母さんでも私でもいいから相談して。」

「善処します。」

 Noと返した。

 

 あれからもう一度夜、ベットに入った後に症状が出た。余計なことを考えただろうか。私を心配して部屋に来た母に発見され症状は収まった。

「みすず、お母さんにも言えないの…」

 悲しそうな母の表情に微かな罪悪感を感じる。それに答えずベットに潜り込んだ。

「みすず、まだ学校行きたくないの?」

 あれから2日学校に行ってない。彼女が私以外の人と楽しそうにしている姿を見るのが嫌だった。全くもって幼稚なメンタルだと自分でも分かる。しかし、今までに積み上がった下らないプライドと虚栄心で、彼女に謝りたくなかった。それでも彼女の一番の友達でありたいという馬鹿みたいにな考えで、学校行くのが怖かった。今日は金曜日、明日は半ドン。日曜日は普段であれば彼女が遊びに来る日。だけどあんなことを言った後だもの…考えたくない。

 

 日曜日、いつもの時間、彼女は来なかった。

 

 

 




 ごめんなさい。まだ続きます。
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