緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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天使と悪魔

―冷泉為和視点―

 

 

 あの悪魔からの誘い(脅迫)を受け駆け付けた居酒屋。クソッ、15分の遅刻だ。最速ルートと全ての移動を全力のダッシュだというのにこれだけの時間を要した。どこまで鬼畜なのだあの悪魔は。

「あら、私としたことが時間を見落としていたわ。」

 そう言って腕時計を見つめる悪魔。その奥では天使が謎の外国人女性と隣に合って酒を飲んでいる。

「あら、15分も遅刻したのね。武装検事さんは時間厳守という言葉をご存知ないのかしら。」

 邪悪な笑みを見せながらそう言う。

「お言葉ですが、武装弁護士様は移動時間の計算も出来ないのですか?」

 バチバチと視線の火花が散る。

「あら、遅刻したというのに言い訳なんて、あの頃と変わりないのね。」

「なんのお話でしょうか…?」

 ダラダラと冷や汗が流れる。この悪魔と言い争いをすること自体が間違いなのだ。あの時の大失態が脳でフラッシュバックし、ガタガタと震える。

「なんの話って、ご存知でしょう?あら、不思議ね?今回のお会計をどなたか払って頂けたら一時的に忘れそうだわ。」

「払います。払えばいいんでしょう‼」

 僕を財布にする為だけに呼んだのだろうかこの悪魔は。

「あら、口の利き方がなってないわね。口が滑りそうだわ。」

「払わせて下さい‼」

 土下座せんばかりに頭を下げる。プライド?そんなものはかなぐり捨てた。あれを遠山さんに知られるよりは、ここで無様な姿を晒す方がましだ。

「まあ、お犬様にしては上出来としておきましょう。」

 次の法廷では覚えてろ…全力で潰してやる…

「みすず、そんなに冷泉をイジメるな。」

 天使が僕に救いをもたらす。

「…あなたは優しすぎるのよ。敵は叩ける時に叩いておかないと。直ぐに調子に乗って面倒くさいのよ。」

 ため息をつきながらも攻撃の手を止める悪魔。流石僕の天使。ものが違う。

「敵とは言うが、冷泉はいい奴だぞ。それに根性もある。」

「かなこ、この男は検事で私は弁護士。職業上、不俱戴天の敵であるのよ。それに…」

「と、遠山さんの言う通り、一時休戦といきましょう。さあ、今日は僕の奢りです。なんでも頼んで下さい。」

 この悪魔、なにを言おうとしたんだ…

「てか、誰だお前?」

 遠山さんの隣に陣取る謎の外国人女性がそう言う。いや、あなたこそ誰ですか?

「ミラ、この男は冷泉君。私と同じ武偵高と東大の同級生で、かなこと同じ中学の同級生よ。碌な男ではないわ。」

「狐崎さん、ひと言余計ではないですかね?」

 笑顔でそう言ってみるが、額に青筋が立つ。

「まあ、席に着いたらどうだ?」

 天使こと遠山さんの有り難い申し出に従おうとするが、空いてるの、悪魔の隣だけかぁ…

「ちょっと、かなこ‼私は嫌よ。こんな男と隣り合ってお酒飲むなんて。」

 僕だって嫌だ。

「では私と席を変わるか?」

 流石遠山さん。素晴らしい提案だ。

「嫌だ。俺は姐さんの隣がいい。」

 ミラと呼ばれた女性が遠山さんにしがみつき離れようとしない。僕はどこに座ればいいんですかね?

「はぁ、冷泉君の嫌われっぷりに同情するわ。非常に不快だけれど。仕方ないから隣に座っていいわよ。私は大人だから、嫌で嫌で仕方ないけど譲歩してあげる。」

「ええ、大人な狐崎さん。ありがとうございます…」

 思わず銃に手が伸びそうになるのを抑え、笑顔を引き攣らせて、そう言って座る。

 

「冷泉は飲めるのだな。」

「ええ、あまり強くはないですが。」

 隣に悪魔がいなければ、夢の様な遠山さんとの酒の席。そんな他愛もない会話が癒しのエキスとなり、ストレスフルなお隣さんとの睨み合いに癒しを与えてくれる。

「よっしゃーっ、追加だぁ。」

 酔いの回ったミラという女性がハイボールを一気飲みして声を上げる。この人誰なんだろう?

「かなこもミラも飲み過ぎよ。…もっと飲んでこの男の財布を涼しくしなさい。」

 ホント、この悪魔がいなければなぁ…

「遠山さん、隣の女性は誰ですか?僕が知らない人なんですけど…」

「こいつはミラだ。」

 ダメだ、サッパリ分からない。遠山さんも大分酔いが回っているのだろうか?

「かなこ、説明が足りてないわ。あなたっていつもそう。」

 ウーロン茶らしき液体の入ったジョッキを持ちながら狐崎さんがそう言う。なんでこの悪魔が僕の天使と友達なんだろう…

「冷泉君、彼女は『要塞』さんよ。」

「まさか、あの『要塞』…」

 目の前でベロベロに酔っ払った彼女が世界最強クラスの傭兵なのか!?…そうは見えない。

「んだぁ~眼鏡、何見てんだ?割るぞ。」

「あら、武装検事さんがセクハラかしら?」

 酔っ払い女と悪魔が絡んで来る。なんだろう、遠山さんがいるのに帰りたくなってきた…

「全く、飲み過ぎだぞ、ミラ。」

 遠山さん、この悪魔には言及しないんですか?

「やだぁー。まだ飲むぅー。」

「ハイボールでいいかしら?」

 そう言ってタッチパネルで注文する。悪魔は僕の財布に氷河期を迎えさせる為に、『要塞』を急性アルコール中毒で殺す気なのだろうか?

 

「しかし、お前たちがいたなら、武偵高には行きたかったな。」

 『要塞』が酔い潰れ、寝落ちした後、しみじみと遠山さんが呟く。

「かなこが武偵高に来ていたなら、学園島は消し飛んでいたわね。」

 遠山さんとの学園生活を思い描いていた僕は、狐崎さんの言葉で現実に帰還する。そう、僕の天使は恐ろしく強い。それこそ拳の一撃で1つの都市を無人の荒野に出来る程に。

「流石に私も加減はしていたと思うぞ。多分。」

 加減しないとそれくらい容易に出来てしまうのだから凄いです。遠山さん。

「まあ、あなたがなにかの間違いでナゴジョに行かなかったことが幸いね。」

「そうですね…」

 こればかりは悪魔に賛同する。名古屋武偵女子校、通称『ナゴジョ』。生徒の9割が強襲科の軍人気質な女子校で、校訓に『強きは美なり』や『邪魔する奴は皆敵とみなす』、『他者の下に敷かれる事まかりならず』というものがあるヤバい学校。そんな所で遠山さんが学んだら…世界は終わっていたかもしれない。

「なんだ?ナゴジョとはそんなに凄い所なのか?」

「知らなくていいわ。いいえ、お願いだから忘れて頂戴。」

 遠山さんとの相性が最高にして最悪のナゴジョは関わらない方がいいに決まってる。

「そ、そうだ、遠山さんは、武偵庁の特別顧問にもなっているので、武偵高の見学でもしてみますか?」

 ナゴジョの話題から逸らそうとそんな提案をしてみる。その程度の希望なら通るだろう。

「試験の時に見たからなぁ…それよりは武偵の仕事をしてみたい。まだ実感がないのでな。」

 僕の提案は、あまり関心を持って貰えなかった。しかし、彼女に相応しい仕事って…

「かなこが通常レベルの依頼を受けたらオーバーキルもいいところよ。」

 それなんだよなぁ…それこそ特撮映画みたいに、怪獣でも現れない限り、彼女に相応しい依頼はないだろう。それに、そもそもが彼女への窓口がない以上、武偵庁や政府、公的機関からの依頼以外、彼女の下に届くことがない。

「まあ、気長に待ちましょう。」

 それからは話題も変わり、悪魔によって胃の障壁を破壊されては、天使によって回復されるという無限スパイラルをくぐり抜けていた。

 

「さて、お開きとしましょう。」

 狐崎さんのその言葉で時計を見ると、もう結構いい時間になっていた。

「そうですね。明日も仕事ですし…」

 やり残した仕事を思い出し、頭が痛くなる。

「あら、大変ね。それじゃあ、お会計はお願いするわ。お財布君。」

「いや、あなたも仕事でしょう?」

 他人事の様に言って伝票を渡してくる狐崎さんにそう言う。

「あら、知らなかった。私、今休職中よ。」

「ああ、遂に悪事が暴かれたんですね。」

 そりゃあ、同じ弁護士からも恐ろしい程恨みを買ってる様な人だからな。

「失礼ね。用事があって休職申請したのよ。まあ、粗方終わったけれど…」

 そう言ってチラリと遠山さんを見る。彼女が用事だったということだろう。しかし、

「ちょっと待って下さい…え?噓ですよねこの金額!?」

 渡された伝票の合計金額に目玉が飛び出そうになる。なんで普通の居酒屋でこんな金額になるんだ!?意地汚い悪魔だ。

「あら、甲斐性なしね。それ、6割方、かなこのお酒代よ。」

「遠山さん、遠慮せずにもっと飲んでよかったのに。」

 熱い掌返し。遠山さんへの奢りなら、なにも財布に痛くない。そう痛くないのだ…

「あのぉ、ここカード使えもすよね…」

 小声で悪魔に耳打ちする。

「ええ、残念ながら使えるのよね。ホント、残念だわ。」

 カードが使えることにこれ程感謝したことはない。この悪魔、現金払いだったら、恐ろしい条件で金を貸してきたに違いない。

 

 会計を済ませ、店を出る。2ヶ月くらい、節約生活だなぁ…

「ご馳走様、冷泉君。」

「冷泉、私も出すぞ。」

 そう言って財布を出そうとする遠山さん。ああ、どっかの悪魔とは大違いだ。

「今日は僕の奢りですから。気にしないで下さい。」

 その優しさだけで、自腹を切ってもおつりが来ます。

「それじゃあ、またお願いするわね。かなこ行きましょう。冷泉君は、明日仕事みたいだし、引き留めてはダメよ。」

「む、そうだな。冷泉、またな。今日はありがとう。」

 またな。そう言って貰えるのが嬉しい。彼女の隣に悪魔がいなければ、最高だったのに…

「ところでかなこ、ミラの滞在場所知ってるの?」

「いや、知らんぞ。」

「仕方ないわね。あなたも一緒に家に泊まっていきなさい。」

「いいのか?」

「ええ、話したいことも沢山あるのよ。その前に少し寄り道するわよ。」

「ああ、構わんぞ。」

 そんなふたりの会話を聞きながら、僕も家路に着いた。

 

 翌日、ある武装組織が突如壊滅したという一報があった。その組織は狐崎さんを恨んで襲撃計画をしていたなんて噂もあったが、寄り道ってそれか?

 虎の威を存分に扱う狐の顔が怪しく笑っている気がした。

 

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

 この動き方は久しぶりね。久々の感覚にあの頃の感覚が蘇る。

 きっかけは、かなこが迷子になって違法な取引をしていた暴力団の現場に偶然にも遭遇してしまったことから始まる。その現場に居合わせてしまった為に、かなこは致し方なく反撃に転じ、ものの見事に制圧、武装検事の父に連絡し、その一件は終わったにみえた。しかし、その件で恨みを買ったかなこは度々襲撃を受けた。幼心に思ったのは、如何に社会的に見れば小学生だったといえど、ひとりで武装した大人を数十人無力化し、制圧した時点で引き下がるのが正解だと思った。だが、連中にも面子があるのか、かなこへの襲撃は終わらなかった。

 そこで、解決策を打ち出したのが私だった。だったら大本を叩きましょう。その一言でかなこと私は、その組事務所の門を叩いた。そこからは圧巻の一言、かなこは迫りくる銃弾も白刃も、ものともせず、圧倒的な力を見せつけた。この時僅か10歳である。

 制圧を終えた後は私の仕事、お話をして、今後一切、かなこと私に危害を加えないことを誓約させ、私たちに害を成すものの排除を命じた。最も最初は反抗的だったので、かなこを差し向けつつ、その父である武装検事の存在を仄めかしながら交渉をしていた。

 そのお陰もあり、私たちの学校生活は中学卒業までは安泰と安寧を極めながら、周辺の暴力団や暴走族、反グレといった連中を次々に制圧していき、かなこは、『巣鴨の虎』と恐れられ、行方を晦まし、8年が過ぎた今でも伝説的な存在として語り継がれている。

 

 それはさておき、

「あら、間違えてこんなところに来てしまったわ。」

「狐崎…おめぇよくものこのこと顔を出せたなぁ…」

 殺気だったチンピラの様な武装集団が私たちを取り囲む。私としたことが、うっかりと私に殺意を持つ武装集団の本拠地に来てしまったわ。ああ、なんということかしら。

「みすず、随分と殺気立ってるが、お前また何かしたな。」

「あら、失礼ね。今回は逆恨みよ。違法な取立と人身売買の実態を暴いただけよ。」

 自分で言うのもなんだが、今回は珍しく相手に全ての比がある。以前、法外な金利による取立で、娘を誘拐された被害者の弁護に立った際に、必要以上に叩き過ぎて恨みを買っただけだ。

「彼らの罪は、武器の密輸、違法な金貸し、人身売買、それに…」

 罪をあげつらう。

「成程、今回は本当にみすずは無実のようだな。」

「失礼ね。私は何時でも正直よ。」

 自分にね。

「飛んで火にいる夏の虫とは、お前のことだ。」

「ここがお前の墓場になるんだよぉ。」

「隣の女とそいつが担いでる女も上玉だ、土産まで持ってくるとはな。」

 連中が騒いでるが、

「かなこ、ミラを預かるわ。あいつらの頭はあいつよ。」

 正直、かなこがいる状況で、こいつらはなんの脅威にも成り得ない。

 

「全く、仕方ないな。」

 それから、雑魚を制圧し、首領をアイアンクローして私の前に引きずり出すまでに数秒と要しなかった。

「そういえば、こいつら、公安にマークされてたわね。婦女暴行未遂で通報しましょうか。」

 こいつらは私の手駒には相応しくない。そう判断した私は、以前連絡先を仕入れていた男にスマホから電話を発する。

「こんばんわ、元公安0課の獅堂さん。手柄を譲ってあげるわ。…私が誰か?そんなのどうでもいいでしょう。場所は…」

 さて、用事は済んだわね。

「かなこ、お疲れ様。帰りましょう。」

「そうするか、ミラをこちらに。」

 そう言ってミラを背負い直すかなこ。

「しかし、みすずの家は久しぶりだな。」

「実家からは離れたわ。今はひとり暮らしよ。…お願いだから物を壊さないでよね。」

 そう言いながら、昔の様にふたり並んで歩いて行く。8年合わなくても、なにも変わってない。それをこんなことで実感できる。

「そうだ、コンビニにでも寄って酒とヤクルトでも買っていこう。」

「お酒はまあ分かるけど、なんでヤクルトよ。」

 何故この子は乳酸菌飲料を求めるのかしら?

「みすずはヤクルトが好きだっただろう?」

「覚えるなら、ちゃんと覚えておきなさい。私が好きなのは、東京ヤクルトスワローズよ。」

 それも古田がいた頃までで、今は野球中継を見る暇なんてない。精々つば九郎のグッズを買う程度だ。なんでそういうことは(中途半端に)覚えてるのかしら?

「まあ、ミラが起きたら酒をせびるだろうし、買っておこう。」

「いいけど、絶対に私は飲まないわよ。」

 飲んだら死んじゃうから。お酒を飲むと体が暖まる、そんなことを言えるのは、アルコール耐性がある人間だけで、私の様に耐性0どころか、マイナスにいってるんじゃないかという人種は、体が震え、寒くなるし、それを超えると意識が飛ぶ、寝落ちとかじゃなく、三途の川を渡るレベルで意識が飛ぶ。だから2度と飲まない。

 

 コンビニで適当なつまみを手に取りながら、お酒や炭水化物、タンパク質となるものを籠に入れていくかなこ。

「だから、ヤクルトは要らないって言ったでしょ。」

 しかもそれミルミルだし。私は別に乳酸菌を求めていない。

「なら、何を飲むのだ?」

 ため息をつきながら、久しぶりにコーラというのもいいかもしれない。最後にコーラを飲んだのは何時かしら?記憶している限りでは…4年前だったかしら?そんなことを考えがら、コーラを手に取る。

「みすず、それはペ〇シだぞ。コ〇はこっちだ。間違ってるぞ。」

「はぁ?ペ〇シのなにがいけないのよ!?ペ〇シマンはセ〇サターンのファイ〇ィングバイパーズにも登場する素晴らしい存在なのよ。バかなこにペ〇シとセ〇の何が分かるのよ!?」

 何故かこのバカは私の趣味を理解しようとしない。正直、ペ〇シはどうでもいいけど、セ〇への侮辱だけは許さない。

「まて、セ〇に関してはなにも言ってないぞ!?」

「前にも言ったわよね。セ〇は至高、時代を先取るあの叡智、人類の宝だわ。」

「みすず、落ち着け、ここはコンビニだ。」

「仕方ないわね。これからセ〇の素晴らしさを叩き込んであげるわ。とりあえず、指が折れるまでセ〇サターンをしましょう。」

 ええ、偉大なるせ〇た三四郎も言っていたわ。セ〇サターンしろ、指が折れるまでってね。バー〇ングレンジャーでいいかしら?

「かなこ、こうしてはいられないわ。さあ、すぐに行くわよ‼」

「みすず、お前、相変わらずだな…」

 

 帰宅後、私は昔かなこにメガ〇ライブのコントローラーを馬鹿力で破壊されたことを、セ〇サターンのマルコンを破壊されたことで思い出し、絶望し、泣いた。

 

 

 

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―神崎・H・アリア視点―

 

 

 

「ナゴジョですか?」

「せや、なんや女子武偵の強化研修やと武偵庁からのお達しや。お前だけやなく、チームでの参加やけどな。」

 教務部からの呼び出し、バカキンジが退学処分となったせいで、代理リーダーとしてやって来た。その案件は名古屋武偵女子校への強化研修への出席命令。正直、イ・ウーや極東戦役を経験した私やバスカービルの面々にとって、今更強化研修なんて…と思ってしまうが、

「それって、バスカービルだけなんですか?」

「いや、去年の成績を鑑みて、お前らのチーム、都合よく遠山のアホが抜けて女子だけやし、去年お前の戦妹やった間宮のチームもやな。それに見どころのある女子武偵、それも強襲科メインに参加要請が来とる。引率でご丁寧にウチまで来いやと。」

 その言葉と目で理解する。教員の蘭豹までも半強制参加ということは、生徒である私たちに拒否権はないに等しい。

「了解です。」

 あかりたちも参加する。そうなれば、先輩、そして戦姉としての立場もあるし、強制参加だけでなく、ある程度の見本となる行動(戦果)を求められている。

「まあ、面倒でしゃあないけど、名古屋旅行と思って楽しもうや。手羽先を肴に酒でも飲んでな。」

 蘭豹もなにか引っ掛かるのか、微妙な回答をした。 

 

「ナゴジョかあー。まあ、それはいいんだけど、なんか臭うよねぇ。」

 伝達事項として、バスカービルのメンバー(キンジを除く)を集め、通達すると、理子がそう言う。私もなにか嫌な予感がしていた。

「去年、武極さんのクーデター未遂があったばかりだしね…でも、武偵庁からの要請なんだよね?」

 あかりたちが解決したナゴジョでのクーデター未遂事件。無事に解決したとはいえ、反対派の残党が関わっている可能性も捨てきれなくない。しかし、武偵庁直々の要請ということは、それらの可能性を排除しているという暗示でもある。それなのに、私の直感は、何か危険を伝えようと警鐘を鳴らしている。

「拒否権が無い以上、最大限の警戒をしながら行くしかないんじゃないかな?」

 ワトソンの言う様に、それ以外の選択肢が無い。

「それに、そもそも研修って、何をするんだい?」

「なにも伝えられてないわ。ただ、その日にナゴジョで行われるということだけよ。」

 恐らく、蘭豹のあの様子だと、教員たちにも伝わっていないのだろう。ただ、上からの命令。組織人としては、疑問や不安を抱いても、従うしかないのだろう。

「ん~、ますます怪しくない?」

「怪しいというより、なにか隠してる…?あっ‼」

 私の直感が、推理を省いて答えを導き出す。それと同時に冷や汗が溢れ出す。

「ねぇ、これって…」

 気付かなければ良かったのか?それとも気付いた方が良かったのか、それは今となっては分からない。だけど確かに分かるのは、

 

 生きて帰れるのかしら?

 それだけだった。

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―武偵庁長官視点―

 

 

 

 思った以上に早い訪問だな。

 遠山金虎、手に負えない猛獣が武偵となり、武検と武偵庁の特別顧問となって数日、海外の諜報機関や武偵組織だけでなく、国内の組織からも問い合わせが殺到している。

 Rランク、それだけならまだ良かった。しかし、SDAランク総合1位。これはなんだ?何故こんなことになってしまった。

「長官、こちらの問い合わせですが…」

「マニュアル通りに対応してくれ。」

 そんな感じで事前に作成されたマニュアルを基に対応しているが、当然追及され、その対応に追われ、ただでさえ足りていない人員は対応に追われ、パンク状態だ。

「長官、名古屋武偵女子校の校長からの問い合せですが…」

「それもマニュアル通りに頼む。」

 一番知られたくない所じゃないか。

「それが、ご本人が来られてまして…」

 なんでそうなるのだ。遠山金虎、彼女は不幸をまき散らしているのではないかと疑ってしまう。

「不在だと伝えてくれ…」

 そう言いながら、引き出しから胃薬を取り出していた。

「酷いですわ、長官殿。居留守なんて、全部聞こえてますよ。」

 扉をこじ開け、ナゴジョの校長が突入してくる。私が言うのもなんだが、武偵の連中は、なにか大切な頭のネジを落としているんじゃないだろうか?

 

「君、マナーというものがだね…」

「それよりも、女性初、しかも日本人初のSDAランク総合1位、そんな素晴らしい人材を何故今までの隠していたのですっ‼」

 そう言いながら、詰め寄り、バンッとデスクを叩き、絶叫する。

「私にそれらの決定権もなにもない。」

「しかし、状況が変わったのでしょう?だったら、名古屋武偵女子校の教諭、いえ、この様な快挙を成し遂げたのです。校長職を彼女にするのならば、喜んで私はその座を降りますよ。」

「待て、落ち着くのだ。そもそも君は、彼女に会ったこともないのだ。それに分かるだろう?功績や力だけが教育者に必要なものではないと…彼女には真に必要なものが欠けている。よって、その要請は許可出来ん。」

 そう、遠山金虎には、教育者としてはならない理由が明白にある。学力、最低限のラインに届いていないのだから、なんと言われようと不可能なのだ。まあ、彼女の名誉の為にそこは伏せておくが。

「それに、彼女に名古屋武偵女子校の校訓や教育方針は合わない。それも理由だ。」

 正確に言えば、合わないのではなく、あってはならないだ。もし彼女がナゴジョに染まってしまった場合、国家転覆さえあり得てしまうのだから。

「教育者と名古屋武偵女子校が合わぬとおっしゃるなら、では、こうしましょう。全国の有望な女子武偵と教育者を集め、彼女、そう、遠山かなこ特別顧問に実技研修を行ってもらいましょう。」

 そう来たか…彼女は名ばかりとはいえ、武偵庁特別顧問という役職にある。役職である以上、拒否すれば職務放棄とみなされてしまう。ただでさえマスコミからの風当たりが強い武偵庁だ、公にされれば遠山金虎が今以上に表に出てしまう。しかも悪いイメージで。それにより彼女が武偵庁や武検の役職を外れれば、国外の勢力や違法組織からの勧誘も活発化する。それを見こうしての脅しだろう。

「…分かった。1日だけ、遠山特別顧問の出張を認めよう。しかし、彼女への干渉、取引等は禁止とする。違反した場合には、武偵庁だけでなく、武検や公安も動く。その意味は分かるな?」

「ええ、それで結構です。彼女の力を見て、次代の女子武偵たちが奮起し、意欲の向上に繋がることこそが私の望みです。」

 彼女は教育者として本気でそう思っているのだろう。それを分かってるからこそ校長に指名したのだし、正しい考え方だ。しかし、彼女の実力の一端を見た私は思うのだ。あまりの実力の差に、奮起どころか、心が折られるんじゃないかと。

「それともう一つ条件が、遠山特別顧問と学生の研修は、ハンデにハンデを重ね、圧倒的生徒有利の状態で行うことだ。」

「私としては、彼女の全てを出し切って頂きたいのですが…」

 アレの全力だと…

「やめてくれ、私の胃どころか、地球が耐えられない気がする。」

 

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

 

 あら、もうこんな時間なの…

 寝ぼけ眼で枕元の時計を見て、ぼんやりと考える。休職中で仕事に行く必要もなく、厄介な連中をかなことミラに制圧させ、その後私がその連中とお話をして、(私の)平穏を生み出す。そんなことをこの数日、行いながら、彼女たちの酒に付き合ったり、下らない話をしたり、私の部屋が溜まり場になっているのは気に入らないけど、まるで大学生に戻った様な生活を送っていた。まあ、友達いなかったから、そんな感じだろうというイメージだけど。

 そんな生活も、昨日仕事が入ったミラが旅立ち、私とかなこだけになると、あの頃に戻った様な錯覚に陥る。しかし、そうも言ってられない。かなことの再会を果たし、連絡手段も確保した。ついでに私の生活の障害となりそうな勢力は潰すなり、配下にするなりして、当初の目的は達成されている。となれば、いつまでも休職というわけにもいかないのだ。

「はぁ、お仕事したくない…」

 長い休み、その終わりが近づき、あの激務に戻ることを思うと憂鬱になる。時折、ミラの様に一度に大金を得ることが可能な人々を羨ましく思う。毎日働いて、月に得られる給料は彼女の100分の1以下。それでも一般的なサラリーマンや武偵に比べれば高額だし安定しているのだから、贅沢な悩みなのだろうけど…そもそも、私には傭兵の様な腕っぷしが必要とされる仕事は出来ないのだから、ないものねだりなのだ。

「あなたは気楽でいいわね…」

 何も考えていない様な、いや、絶対に何も考えていないであろう、床で眠るかなこを見て呟く。気持ちよさそうに眠るその寝顔に、不思議と腹が立たないのは、かなこだからだろう。私の気分が沈んでいるというのに、近くこんな気楽な人間がいれば、普通なら社会的に抹殺しようと八つ当たりしている。

「全く、なんでこんな寝方で風邪をひかないのかしら?」

 床に直で、毛布も布団も掛けず、下着姿で眠る彼女を見て、そう呟く。

「まあ、バカだから仕方ないわね。」

 

「…ん?今、バカと言わなかったか…?」

 眠そうに目を擦りながら、寝ぼけた様子で上半身を起こし、そう言う。

「あら、おはよう。かなこ、寝ぼけているわね。あなたがバカなのは分かり切ったことでしょ。」

 大きく伸びをしながら、欠伸をしているかなこにそう正論を述べる。

「何度も言っているが、私は座学が不得手で、考えるのが嫌いなだけで、バカではない。」

「世間一般では、それをバカと呼ぶのよ。」

 何故この子は、頑なに己がバカであることを認めないのかしら?長い付き合いだけれど、それは未だに謎だわ。そもそも、この子に関しては、考えたら負けな部分が多すぎるのよ。

「まあ、そんな下らない話は置いておいて、ご飯にしましょ。」

「む、そうだな。」

 身支度を始める私を、下着姿のまま眺めるかなこ、

「かなこ、あなたも着替えて出掛ける準備をしなさいよ。」

「今日も外食なのか?てっきりここで食べると思っていたのに。」

「仮にそうだとしても、服くらいは着なさいよ。あと、悪いけど、この部屋で私の料理が出ることなんて無いわよ。」

 だって、出来ないもの。そもそも、キッチン用品もお湯を沸かす用小型鍋と、電子レンジくらいだし。包丁もまな板もなければ、食器さえ、ラーメン丼1つしかないのだ。それに、下手に料理なんかして、出た生ゴミから虫でも湧いたなら、直ぐに引っ越すだろう。だから、料理なんてしない。ひとり暮らしだと、出来合いのものを買う方が結果的に安くなるし。そう、私はなにも間違っていないのだ。

「そんなことでは、嫁の貰い手がないぞ。」

「あなたにだけは言われたくないわ。」

 恐らく、料理の実力に関しては、団栗の背比べな気がする。

「私は、出来ないんじゃなくて、必要ないからしないのよ。その気になって、やればきっと出来るからいいのよ。」

「私は旅をしていた時は、ちゃんと作っていた。火を起こして―」

「どうせ焼くだけでしょ。それも適当な野生動物を。」

 それ以外にかなこがやれることはないだろう。

 

 それから、不毛な議論を続けながら、身支度を終えた私たちは、遅めの朝食兼昼食を取りに街に出る。

「何処に行くのだ?」

「平和島の方に、元一流フレンチシェフがやってる洋食店があるわ。そこのステーキとハンバーグは絶品だし、ランチタイムだとお手頃なのよ。」

 かなこの好物を食べさせてあげようと、少し遠出してそちらに向かおうとしていた。

「ハンバーグ…」

 少し嬉しそうなかなこの様子、効果はあったようだ。

「みすず、まだ恨みを買っている連中はいるか?」

 駅までの道すがら、真剣なかなこの声、

「そりゃあ、沢山いるわね。でも、白昼堂々狙える程肝が据わった連中でもないし、それだけの実力もないわね。」

「なら、私への用事か…」

 そう呟くと、かなこが一点をジッと見つめる。そこにいるのは分かっている、そう知らせているのだろう。

「あなた、恨みを買った覚えは?」

「無い、しかし、手合わせなら、歓迎する。」

 相変わらずの戦闘狂い(バトルジャンキー)ね。

「待て、戦いに来たんじゃない。」

 そう言ってちょこんと現れたのは…子ども?いいえ、確か公安の、

「公安0課、加納ユキ、冷泉検事の代理で遠山金虎に連絡で来ただけだ。」

 潜入調査のプロが使い走り、政権交代で、武検と公安の立場に明確な上下関係が完成されてしまってるわね。それでも‶元”を付けないあたりは、彼女の意地とプライドかしら?

「なら、これは捨てていいのだな?」

 加納の言葉を聞き、かなこが人差し指と中指で挟んだ針を見せる。含み針、そんなもの撃たれていたのね。

「ああ、本人確認を兼ねて実力を量っただけだ、気にしないでくれ。というより、獅堂さんにくれぐれも暴れさせるなと釘を刺されている。」

「そうか。」

 回答を聞き、少し残念そうに指を動かし、針をパキリと折る。

「して、連絡とは?」

「それだが、私は本当にただの伝令と案内役であって、用件は知らん。とりあえず一緒に来てもらうぞ。」

 人使いが荒いのは、武検かしら、それとも武偵庁、いや、もっと上?まあ、それはさておき。

「加納さん、悪いけど、今すぐは無理よ。これから私たちランチに行くのよ。」

「狐崎弁護士、それこそ後回しに出来るだろう。こちらは任務なんだ。」

「無礼ね、親切で言ってるのに。それに約束は謂わば契約よ、契約違反は犯罪であって、違法行為を推奨するのが元公安0課さんの任務かしら?」

 悪いが、譲る気はない、親友との久しぶりのふたりきりの時間だ。それに、親切で言っているのも噓ではない。

 

「絶品のハンバーグとステーキか…」

 空腹を堪え、肉を胃に入れることを心待ちにしているこの虎を、そのまま連れて行く方が大変なことになると私は思う。

「狐崎弁護士、あまり悪態を吐くな、侮辱罪というものがあるのだろう。」

「ええ、勿論あるわ。でも、今回はそれに該当しないわ、事実を摘示しているのだから。それを罪とするのなら、事実陳列罪にでもなるのかしら?そんな罪は無いわよ。ここはソ連かしら?」

「みすず、直ぐに喧嘩するのはやめろと言っただろう…」

 呆れた様子でかなこが間に入る。

「かなこ、あなたの為に言っていたのよ。加納さんについていったら、ハンバーグもステーキも食べられないわよ。」

「なんだと、すっかり肉の気分になっていたのだぞ!?」

 よし、かなこを味方につけた。これで負けは有り得ない。

「待て、お前たち優先順位がおかしいだろうっ!?」

 いや、間違っていない。かなこがすっかり肉の気分になっているのだ、それを無視した場合、後が怖い。そう、説明が足りていないのは意図的だけれど、これは親切なのだ。

「それじゃあ、こうしよう。お前も一緒に来るといい。その後にお前の用件に従うとしよう。」

 かなこが妙案だと言わんばかりにそう言う。

「加納さん、従った方がいいわよ。かなこお腹が減ってるのよ。人間って、お腹が減ってると不機嫌になるのよ。」

 遠回しに暴れるぞと脅してみる。意図は伝わったのか、少し悩み、

「もう、それでいいから…」

 疲れた様子で呟く。英断ね。いい財布が手に入ったわ。

「それじゃあ、行きましょう。」

 

 加納の奢りでランチを満喫した私は、かなこに休職を解き、復帰する旨と必ず私からの電話には出ることを約束させ、解散となった。

 しかし、かなこを呼び出すってことは、

「碌なことではないわね。」

 コンビニで買ったウーロン茶で肉の油を流しながら、そう呟く。まあ、苦労するのはあの子じゃなくて周囲の人間でしょうから、どうでもいいわね。それに、それ以上に今は、

「お仕事行きたくないなぁ…」

 短い休職が終わりを迎えることへの悲愴感、そっちの方が向き合うべき課題であった。

 

 

 

 




次回、名古屋編(大嘘)を予定しています。個人的な趣味を全面に押し出した回となるので、いつも以上に内容は無茶苦茶になるし、分からない人にとっては全く分からない回となると思います。

 本当にごめんなさい。
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