緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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虎、尾張に立つ

―遠山金虎視点―

 

 

 

 名古屋…尾張の国。信長や秀吉を輩出した地。そんな地なのに、訪れる機会は今までなかった。

「姉さん、そろそろ着くけど…本当に大丈夫かしら?」

「ふっ、何を心配しているのか分からぬが、今までもひとりで旅をしていたのだ、名古屋程度の近場なら、わざわざついて来なくともよいのだぞ。」

 早朝、私は、何故かカナとなった金一と共に、始発の新幹線に乗っていた。

「それに、私一人なら、新幹線など不要というのに…」

 まあ、偶にはゆっくりと移動するのも悪くないのかもしれないが、新幹線の中というのは、思った以上にやることがない。

「私がついていくのは、名古屋駅までよ。姉さんひとりで行かせたら、絶対に違う場所に行くでしょ。私だって行きたくなんてないわ。姉さんと旅行なんて、胃に穴が開いちゃうわよ。」

「む、カナは一緒に来ないのか?」

「名古屋駅にナゴジョからのお迎えが来てるって説明したでしょ。もう忘れたの?」

「そんなことを言っていた気もしないではないな。」 

「はぁ…忘れてたのね。本当に大丈夫かしら、心配しかないわ…」

 妹(弟)にこうも心配されると、少し悲しくなるな。私は良い姉だとは自分でも思っていないが、そこまで信用されていないのか…

「これからは、もう少し家族との時間を増やすべきか…?」

 中学卒業から、ほとんど家に帰らずに旅をしていたことに、少しだけ後悔する。新しい弟と妹たちも出来たことだし、もっと家族と接する様にしよう。

「それはいいことだけれど、母体教育に悪いから、家には来ないでね。」

 私は、妹(弟)にどの様に思われているのだろう…しかし、カナが言うのならそうなのだろう。そう考えることにする。義の為とはいえ、死んだふりをして金次を悲しませた件については説教をしたが、基本的に私は、金一に対して負い目を感じている。母上がこの世を去った時、私は、母上の代わりになれなかった。そのせいで幼い金次は悲しみ、それを慰める為に金一はカナとなってしまった。

 カナの姿でいられると、私は金一の言葉に従う様にしているし。それはせめてものの償いとしてだ。実際、金一は私よりも賢いし、善く考えているし、異論なく賛同出来ることが多い。家の長子として、情けない言葉ではあるが、金一が遠山の長者として相応しいと思う。

「そうだな、しかし、姉として、義妹にたまに会うくらいは許してくれぬか?それに、何かあれば直ぐに連絡しろ、地球の裏側に居ようと、お前たちに降りかかる火の粉は薙ぎ払ってやる。」

「火の粉は払うものよ。まあ、姉さんの場合、薙ぎ払うの方が的確な表現な気もするけど。まあ、姉さんと連絡が取れる様になったのは、本当に心強く思ってるわ。姉さんが味方にいる限り、負けることは有り得ない訳だし。」

「買い被り過ぎだ。私は、まだまだ弱い。更に己の拳を磨き、鍛えなければな…」

 修業と家族サービス、両立していくのは難しいかもしれぬ。しかし、それを乗り越えてこそ更なる高みへと至る道になる筈だ。

「弱いって…なにをトチ狂ったことをいってるのよ。姉さんが父さんの『陸奥』で起こした地震を地面殴って止めた時点で最強の生物だと思ってるわよ。」

「また随分と懐かしい話を、初めて父上と喧嘩した時だな。あの程度で強いなど…カナ、世界は広いのだぞ。」

 武偵中への進学で揉めに揉め、親子喧嘩となった時だな。

「はぁ…もう強さへの論議は不要よ。それよりも、名古屋でのお迎えの話だけど、もう一度、ちゃんと説明しておくわ。しっかりと覚えておいて。」

 真剣なカナの瞳に、小さく頷く。

「お迎えはナゴジョの教諭と、公安7課の斑鳩警視正が来るわ。尾張守教諭は、まあ、格好がアレだけれど、そこまで気にする必要はないわ。ただ、斑鳩警視正は、姉さんを間違いなく調べに来ているわ。姉さんは超偵ではないと言ったけど、彼女は、その異常な戦闘力は特殊な力だって思ってるみたいだわ。だから、変なことしないでね。」

「案ずるな。そもそも、此度の件、もとより依頼をこなす。それ以外の考えは持ち合わせておらん。学生への指導だ、100分の1程度の力で大丈夫だろう。」

 私だって、旅の中で鍛錬を続け、加減出来る様になったのだ。カナが心配しているようなことにはならないだろう。

「不安だわ…」

 やはり、信頼されてないようだ…

 

「さあ、姉さん着いたわよ。」

 新幹線が名古屋駅にて停車する。日帰りということもあり、手回り品と簡素な荷物を持ち、ホームへと降り立つ。カナの後ろに続いて改札を通り、駅を出る。

「お待たせ致しました。遠山金虎特別顧問をお連れ致しました。」

 ふたりの女性、ひとりは星伽とは違った巫女装束、もうひとりは眼鏡を掛けた女性。

「この方が、遠山特別顧問…(わたくし)名古屋武偵女子校教諭、尾張守(おわりのかみ)無夜美(むやみ)

 眼鏡の女がそう名乗り、

「私は公安7課斑鳩警視正です。よろしくお願いします。」

 巫女装束の方がそう名乗る。

「遠山金虎だ。よろしく頼む。」

 尾張守殿という教諭、カナ曰く恰好がアレとの事だったが、至って普通だな。

「それではこれで、私は失礼します。」

「カナ、これでパトラに土産でも買って帰ってくれ。」

 この為だけにわざわざ東京と名古屋を往復するカナに、せめてもの礼として、無理やり金を握らせる。

「仕事だから気にしないでいいのに…そうね、なにかパトラが喜びそうな物を探してみるわ。それじゃあ、くれぐれも皆さんにご迷惑をお掛けしないようにね。」

 

「それでは、名古屋武偵女子校までお送り致します。」

 尾張守殿の運転する車が発車する。

「また、乗り物か…」

「乗り物はお嫌いですか?それとも乗り物酔いでも?」

 隣に座る斑鳩殿がそう聞いてきた。

「いや、嫌いではないのだが、長く乗ることがないのでな。こうも座ってばかりだと、体が訛りそうだ。」

 正直、走って行きたかった。

「それでは、普段の移動は徒歩や自転車で?」

「そうだな。基本走っているな。そっちの方が運動にもなるし、速いのでな。」

「特別顧問は冗談がお上手ですね。」

 尾張守がそう言う。冗談を言ったつもりはないのだが?

 

「ここが名古屋武偵女子校です。まだ始業時間ではないので静かですが。」

 校門を車が通り抜けていく。グラウンドには数人の生徒がおり、自主的に鍛錬に励んでいる。朝練か、良い心がけだな。しかし、

「射撃とは、それ程大事なのだろうか?銃というものにあまり関心がない故、重要性が分からぬ。」

 的に向かって拳銃を構える生徒たちを見ながらそう思う。拳の方が強いのだから不要だろうに…

「特別顧問は、なにをお使いなんですか?」

 尾張守の質問、恐らく銃のことを聞いているのだろうが、

「持っていないぞ。」

「「は…?」」

 車内の空気が、一瞬凍った。なにか不味いことを言っただろうか?

「銃をお持ちではない…では他の特殊な武器をお使いに?」

「いや、なにも持っておらぬ。このふたつの拳があれば十分だ。」

 再び沈黙が訪れる。

「ああ、ハンデの件ですね。驚きましたよ。」

 ハンデ?なんのことだ?

 

「名古屋武偵女子校へようこそ。遠山特別顧問。」

「遠山金虎です。よろしくお願いします。」

 校長に挨拶をする。

「大変納得いかないのですが、武偵庁からの命令で、遠山特別顧問には、今回の研修では手加減をして頂かねばなりません。私としては、SDAランク総合1位の力を存分に発揮して頂き、学生たちの刺激にと思っていたのですが…」

 まあ、私もいい大人だ、学生相手に本気を出す気など元よりさらさら無い。

「構いません。元より、学生相手に本気を出すのは、危険なので。」 

 うっかり殺してしまったらお話にならんからな。

「それでは、ハンデとして、武器の使用の禁止を。」

「?」

 それでは手加減にならないのだが?そもそも、銃とは手加減の道具だろうに。

「それでは、手加減にならないのでは?」

 率直に申し上げてみる。

「なんと‼では、それでは、『エンブレム』で一度に3チームを相手に…」

「全員纏めてでお願いします。」

 そのシミュレーションをしていたしな。

「…本当に宜しいのですか?学生といえど、Sランクの生徒だって数人、それ以外も全国の選りすぐりの女子武偵ですよ。」

「それくらいの方が面白いでしょう。」

 さて、加減を誤らぬよう気を付けねばな。

「…ではそれで。時間まで、お待ち頂きます。」

「了解です。」

 さて、準備運動でもするか。

 

 

 

 

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―蘭豹視点―

 

 

 

 アカン…頭が痛い。二日酔いやな。

 目覚めると同時に襲ってくる頭痛。慣れたもので、寝起きの頭でも二日酔いだと直ぐに分かる。

「迎え酒…」

 手っ取り早い二日酔いの治し方。それは迎え酒。あっという間に二日酔いとおさらばや。

「お、まだ入っとったな。」

 無数に転がる酒瓶の中から、まだ中身が残っている酒瓶を見つけ出し、中身を煽る。

「復活やで。」

 やはりこれに限るなぁ。二日酔いが一発で治りよる。

「なんか、とんでもなく恐ろしいことを忘れとる気がする…」

 二日酔いから解放され、回るようになった頭がなにかを思い出そうと働き始める。

「まあ、香港無敵の武偵のウチが恐れることなんぞあらへんわな。」

 そう豪快に笑いながら、2口目を煽る。

「香港無敵の武偵か…」

 後ろから聞こえる声に、壊れたブリキのおもちゃの様に、ギギギとぎこちなく、ゆっくりと振り向く。そうや、忘れとったんちゃう、忘れようとしとったんや…

「あ、姐御…お早いお付きで…」

 錆び付いたロボットの様にぎこちなく口角を上げて、挨拶してみるが、笑みは引き攣ってしまう。

「蘭、生徒の引率ご苦労。まあ、それはいい。…やはり、お前が香港無敵の武偵だったか。」

「いや、あの…」

 ああ、終わった…殺される…グッと強く目を閉じてその時を待つ。もう、逃げおおせるとは思えなかった。それならば、潔く…あれ、何もせえへんな。そういや、やはりって言いよったし、知っとったん…?

「あのぉ、姐御…気付いとったんですか?」

「あの後、様々な地で最強や無敵の武偵だの傭兵だの名乗る者たちと手合わせしたが、蘭と同等か弱い者ばかりだった。そこでなんとなく、負けて言い出せなかなかったのだと気付いた。」

 いや、殺されるから言えへんやっただけです。…いや、そんな最強名乗る奴おるんかい‼地元最強名乗る暴走族かい‼

「そ、そうなんです‼いや、ホンマ申し訳ありまへん。なかなか言い出しにくくて…」

 しかし、分かった。大勢のご当地最強さんたちの尊い犠牲によって、ウチは生き残ったんや。ありがとう、ご当地最強さんたち。

「そうだな、あの時言い出されていたら、問答無用で殴っていたが、私も経験を積み、最強や無敵を名乗る者はさして強くないと分かったからな。真の実力者はその力を隠すのだな。いい勉強になった。」

 ああ、やっぱりあの時逃げとらんやったら、死んどったんか…ホンマありがとう、ご当地最強さんたち。暴走族みたいや、とか思ってごめんな…

「それで、ご用件は…?」

「学生相手に、どの程度の手加減が必要だろうか?正直、学生の強さが分からぬ。以前軽く指導した神崎が平均と見てよいのか?」

 神崎って、神崎・H・アリアのことやろな。峰と神崎は遠山と同じチームやったし、あのチームは全員姐御の知り合いと見てええな。

「いや、神崎とあいつのチームのメンバー、峰、星伽、レキ。この4人が全国の学生の中でもトップクラスの実力です。基本的にそれ以下と思ってもらえれば…」

「成程、となれば、どこまで加減するか…蘭、助かった。また後で。」

「は、はい‼」

 姐御が去っていく。その後、一気に襲い掛かる脱力感。…生き残ったんや…

 

 

 

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―遠山金虎視点―

 

 

 

「遠山特別顧問、ここにおられましたか。」

 蘭のいた部屋から出ると、尾張守殿から声を掛けられる。

「すまん、探しておったか…ん?その格好は…」

 尾張守殿の恰好に目を疑う。カナが言っておったのはこれか…

 『教』『育』『者』の文字がそれぞれ刻まれた札の様なもので、局部のみを隠すという斬新な格好の尾張守殿。教育者としてその格好はどうなのだろう?女子校だからよいのか?まあいい。

「ナゴジョでは衣服の面積が小さい程、強さの証です。教官として生徒よりも露出を多くせねば示しがつきませんので。」

「成程…私もそうした方が良いのだろうか?」

 郷に入りては郷に従えと言うし、私もその風習に従うべきなのだろうか?

「そう思い、用意してきました。こちらにお着替え下さい。」

 差し出される紙袋、中身は下着…いや水着か?

「防弾繊維の水着です。あと、『エンブレム』です。これを身体のどこかに貼って下さい。」

 『エンブレム』という競技の説明を序に受ける。要は身体に貼り付けたシールを取られたら負けらしい。とりあえず空き教室で着替えを済ませる。面積の小さい水着を着け、右の脇腹に『エンブレム』を貼り、教室を出る。

「これでいいか?」

「ええ、素晴らしいです。生徒たちも感服することでしょう。しかし、見事な…」

 尾張守殿が私の腹部を見つめる。なにか付いてるのか?

「失礼いたしました。では、そろそろ生徒も集まってきた頃でしょう。グランドまで参りましょう。」

「了解した。」

 

 

 

 

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―神崎・H・アリア視点―

 

 

 

 研修初日の夜、宿泊用に開放された複数の教室、そのひとつに私たちバスカービルも入った。各校の生徒たちが情報交換を兼ね親睦を深める中、私たちはその輪に入らず、隅に集まっていた。

「それで、なにか善い案は浮かんだかしら?」

 そう、明日の対策、もとい、生き残る為に出来ること、そのアイディア発表会だ。

「もう、素直に特攻かまして、意識を刈り取ってもらうのが一番いいと思うよー。」

 と、理子。実質、なにも思いつかないということだろう。

「どの様な対戦形式になるかによります…」

「レキュの言う通りだねー。正直、総掛かりで攻めても、一瞬で返り討ちでしょ?」

 かなこさんの移動速度とパワー、それだけで十分にここにいる生徒全員をあっという間に蹂躙される。

「如何に動けなくするか、ね…」

 勝ちの道筋としては、まずあの異常な速度と、陸海空関係なく移動できる強みを消すしかない。

「仮に、足止め出来たとして、狙撃が有効なの?」

 恐らく、この場で一番かなこさんについて知っているであろう、白雪に話を振る。

「…逆に効くと思う?」

 研修が決まって以来、メンバーの中で一番テンションが低くなった白雪が呪詛を吐く様に言う。

「なんか、ごめん…」

 あまりにも悲痛な姿に、思わず謝罪してしまう。

「レキはどう思うのかしら?」

「勝算はゼロに限りなく近いかと…」

 レキの見解を聞き、皆がため息をつく。

「そうだ‼キーくんに聞いてみよー。」

 理子がスマホを取り出し、キンジに電話をしようとする。

「待ちなさいよっ‼それなら私がするわっ‼」

「えー、なんでー‼キーくんはアリアよりも理子の方が喜ぶと思うけどぉ。」

「聞き捨てなりません‼泥棒猫ども‼ここは正妻である私が‼」

「私が適任かと…」

 ピタッ、と一瞬の静寂、ガチャッ、と武器を構え、張りつめた空気が漂う。

 

「おー、喧嘩はやめぇや。それよか、パワ〇ロやろ。ウチ、本体ごと持ってきたんやで。」

「あんた、大阪の…」

 御幣島だったわね。なんで野球のユニホームなの…?

「せんぱーい。2003年と2005年しか持って来てないんすかー?」

 テレビに繋がれたゲーム機の前で、後輩らしきボーイッシュな少女がバックを漁りながらそう言う。

「せや、阪神優勝の年だけや。1985年版出らへんかなぁ…」

「2005年は、縁起悪いんで2003年でいいすかーぁ。」

「せやな、2005年はな…」

 何故かお葬式の様な雰囲気になる御幣島。

「悪いけど、遊んでいる余裕はないわ。明日の準備がまだなのよ。」

 そう、生き残りがかかっているのよ。

「せやったら、喧嘩しとる場合ちゃうやろ。てか、明日の準備って、武偵庁のなんとか顧問はんが来るやつやろ。なに準備すんねん?」

 知らないって幸せなのね。

「直に分かるわよ。嫌でもね。」

「なんや、教えてくれへんの。」

 どうせ明日分かることかと思い、

「死なない為の準備よ。あんたがどの程度の力を見積もってるか知らないけど、想像の数千倍以上と思っておいた方がいいわよ。」

「知り合いなんか…?」

 御幣島のふざけた雰囲気が霧散し、一流の武偵の空気を纏う。こいつ、出来るわね…

「私の義姉様、つまり私の旦那様のお姉様です。」

 白雪がズイッと前に出てくる。

「はぁーっ!?何デマ言ってんのよッ‼風穴空けるわよ‼」 

「雪ちん何言ってるの?キーくんは理子の旦那さんだよぉー。」

「………」

 無言でドラグノフを構えるレキ。

「あんたら、ホンマにそのチームワークで大丈夫なんか…」

 御幣島の真剣モードが解除され、呆れた様に呟く。

 

「ねぇねぇ、キーくん、キーくんがかなこさんと戦うことになったら、どうする?」

 結局、スマホをスピーカーにし、4人でそれを囲む様に座り、キンジに連絡を取ることになった。

「え、普通に開始と同時に全力の土下座だけど。」

 情けない回答が、スマホから響く。

「情けないわね。バカキンジ‼どうやったら勝てるか聞いてるのよ‼」

「いや、無茶言うなよ。戦闘態勢に入った姉さんと戦うくらいなら、イ・ウーのメンバーを全員一斉に相手する方が、はるかにマシだ‼」

 流石にそこまで…と思うが、そのキンジの回答に、無言で力強く頷いている白雪を見ると、あながち間違いじゃないのかも…と思ってしまう。

「ところで、白雪もそっちにいるのか?参ったな、姉さんから渡せと頼まれてたのに…」

「キンちゃん‼やっぱり私が必要なんだね‼」

 ちょっと、なんでそうなるのよ‼

「いや、まあ、用事が済んだら、取りに来てくれたら構わんから。」

 キンジが引き気味に答える。

「待っててキンちゃん、必ず行くから‼」

 そう高らかに宣言し、通話を終了させる白雪。

「ちょっと‼なんで切るのよ‼」

「やるべき事が決まったからだよ。待っててキンちゃん、直ぐ行くからね‼」

 逃げ出そうとする白雪を理子とふたりで押さえつける。

「あんただけ逃げようったって、そうはいかないわよ‼」

「死ぬなら、皆一緒がいいよねぇー。」

「いやぁぁぁ、キンちゃんの所に行くーっ!…キュウ…」

 押さえつけた白雪に、レキの容赦ない銃床アタックが決まり、落ちた。

「こうなったら、ぶっつけ本番で行くしかないわ‼」

「まあ、いい経験になるんじゃない?」

「………」

 武装の確認して、寝る。明日は明日の風が吹く、ケセラセラよ‼

 

 

 

 

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―遠山金虎視点―

 

 

 

「遠山特別顧問、お願い致します。」

 グラウンドに集結した、全国の武偵高の女子生徒たちが立ち並ぶ様を眺めていると、マイクによって拡声されたナゴジョの校長の声が聞こえる。出番のようだな。

「紹介に預かった、遠山金虎だ。」

 生徒たちの死角から校長の立つ朝礼台の前に立ち、そう言う。

「なんと勇敢な…」

 丈の短い制服を纏った生徒たちからそんな声が上がる。成程、この格好は正解だったな。郷に入りては郷に従えというが、正しくそう通りだと言えるだろう。尾張守殿に感謝だな。

「遠山特別顧問との実技研修ですが、『エンブレム』を行います。全員で顧問の『エンブレム』を奪いなさい。それが勝利条件です。ハンデとして、顧問は武器の使用しません。」

 その言葉を聞き、分かりやすい様に、右の脇腹に貼った『エンブレム』を軽く叩いて見せる。

 しかし、その条件だと、実につまらぬな。蘭が言っていたが、神崎が恐らく生徒たちの中で一番の実力者となれば、数秒でケリがついてしまうな。

「物足りぬな、そうだ、こうしよう。」

 生徒たちの中心部まで移動すると、生徒たちは私の姿を捉えることが出来ず、ざわついている。

「やはり、この程度の速度も目で追えぬとなれば、話にならん。なので、こうしよう。」

 肩幅よりも少し広く足を開き、左脚を軸にぐるんと回転する。砂埃が舞い上がるが、仕方ないだろう。

「よし、こんなものでいいだろう。」

 想像通り、グラウンドに、私を中心に半径1.5m程の溝が刻まれる。

「追加条件だ。この円から私が出でたら、お前たちの勝ちとしよう。」

 多少ましな戦いが出来るだろう。

 生徒たちがざわめき立つ。

「遠山顧問…流石に生徒たちを見くびり過ぎなのでは…」

 校長が怪訝そうな視線を送りながら、そう言う。

「いや、もうちょいハンデ与えないかんのちゃいます?」

 蘭の言葉に、

「安心しろ、本気など出すわけがなかろう。」

 未来ある若人たちをうっかり殺してしまうわけにはいかぬからな。しかし、蘭以外の教員たちからの視線に敵意を感じるな。私なりに配慮したのだが、まずかったのだろうか?

「…分かりました。それではその条件で始めましょう。」

 校長がそう言って、上空に向けて拳銃の引き金を引く。その音と同時に始まった。

 

 まあ、とりあえず、こいつらを振るいにかけるか、これに対処できねば、話にならんからな。

 生徒たちが銃を抜くよりも早く、大地に拳を打ち込んだ。

 

 

 

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―御幣島あびこ視点―

 

 

 

 実技研修開始の合図、その音と同時に生徒たちが一斉に遠山特別顧問とやらに襲い掛かろうとする。開始の前から、生徒たちはピリピリと殺気が漏れとる。まあ、あんだけ挑発されたらなぁ…確かにぶっ潰そうと思う気持ちは分かる。明らかにウチらは舐められとるからな。せやけど、あの神崎が恐れる程の相手らしいし、あの余裕、様子を見るべきやな。

「いずみ、一旦退くで‼」

 決断を下し、叫んだのと同時やった、大地が震え、グラウンドが隆起する。その衝撃でバランスを崩し、ドミノの様に突っ込んでいた生徒たちが転倒している。

 …バケモンやんか‼今のをパンチ一発で起こしたんか!?神崎の言っとった通り、想像の数千倍以上。いや、それ以上を想定せなホンマに死ぬで‼

「お前ら、無事かっ‼」

「いや、なんなん!?アレ!?おかしいやろっ!?」

 流石、はるかやな。ウチと違って、事前の情報も無く、テンパりながらなも、ウチよりも迅速に動いとるどころか、つるみを抱えて退避しとる。実力だけなら余裕でSランクやのに、武器がアレでAランクになっとるけど、ポテンシャルだけやったら、神崎にも負けへん。

「先輩、どないしましょう!?」

 なんとか退避出来たいずみが叫ぶ。

「どないするかやと?そんなん分かるかい‼あんなん反則や‼」

 あの破壊力、あの拳の射程圏内に入ったら、間違いなく死ぬ。それだけは避けなアカン。

「ほな、様子見といこか~。」

 宙に浮かぶ、タイソン君2号に乗り込んでいるひらパー姉さんの声、その通りやな、如何せん雑魚が多過ぎるで、手を打とうにも邪魔やな。

「戦略的撤退や‼つるみ‼頼むで‼」

 そう告げ、安全圏まで下がる。プライドとかあらへん、ここはそんなん捨ててでも下がらな死ぬ。

 

 

 

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―神崎・H・アリア視点―

 

 

「紹介に預かった、遠山金虎だ。」

 そんなセリフで登場したかなこさんの姿に啞然とする。面積の小さなビキニを身に纏い、私が、あかりの戦妹試験で使用したものと同じ『エンブレム』を右脇腹につけている。何よりも目が向かうのはその見事に割れた腹筋、完璧なシックスパックに、白雪やリサよりも大きな胸、スラリと伸びた脚、肉体美というものを見せつけんばかりの登場だった。

「うひゃーっ、凄いねぇ…」

 理子でさえ思わず声を漏らす程の訳の分からない登場、そして、あの人の力を知らない人間からしたら、挑発行為としか取れない発言と行動の数々、生徒たちでなく、校長や教員たちでさえ殺気立っている。…いや、なんで教員たちがかなこさんの実力を知らないのよ!?それを把握せずに呼んだの!?バカじゃないの!?

 そして、開始と同時に放たれた拳の一撃で、大地が揺れる。そんな出鱈目を想像出来る私たちは、全力をもって退避し、事なきを得る。

「かなこ様、戦力を振るいにかけましたね…」

 最初の一撃を見て、白雪が言葉を漏らす。その通りだろう。あれを回避出来ないなら、そもそもあの人と相対など不可能なのだ。

「足手まといが減るまで、下がるわよ‼」

 バスカービルとしての判断はそれだった。かなこさんが他と対峙している間に、時折攻撃を加えつつ、態勢を整え、対策を立てる。それしかないのだ。無言で、狙撃ポイントを取りに走るレキを横目に見ながら、状況を見極める。

 今ので、3分の1は減ったわね。最初の一撃で戦意喪失した者の数がそんな所だ。そしてそれ以外の3分の1が恐怖と混乱で半狂乱に発砲を繰り返す。

 バンバンと銃声は響き渡るが、その弾丸たちは、悉く撃ち落とされるか、掴まれるかのどちらかだ。そして、かなこさんは、掴んだ弾丸を親指で弾き、生徒たちに当て、無力化していく。そんな光景を見ていると、対策とか作戦だとかが無意味に感じる。

「いやぁ、チートだねぇー。」

 理子の言葉に全面的に同意する。残存戦力を見れば、最初の一撃を退避した者たちだけだ。あの一瞬で危険を察知し、退避したところを見るに、恐らく各校のエース級だろう。

 

「!?あかり‼」

 そんなかなこさんに近づこうと、駆け出す後輩の姿に思わず声が漏れた。

 

 

 

 

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―間宮あかり視点―

 

 

 

 各校の生徒たちだけでなく、仲間たちまでも倒れていく。本物のバケモノ、アリア先輩たちがあの人から、私たちを遠ざけようとした意味を理解する。好奇心でつついていい相手ではない。そんなことをしていたら、全滅は必至だっただろう。

 絶望的な力量の差。そんな中でただひとつ、勝機がある。そう、『エンブレム』という競技であるということだ。鳶穿なら…アリア先輩との『エンブレム』でもそうやって奪い取った…

 だけど、私の鳶穿はカウンター技、もし失敗した場合、あの拳が突き刺さるということ。大地を割る一撃、多分死ぬだろう。それに、弾丸を容易に掴む動体視力、見切られるのではないか。そんな不安もあるし、何よりも素の実力差、無理だろう。だけど、アリア先輩に言われた言葉を思い出す。

「あたしにはキライな言葉が3つあるわ...『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める良くない言葉。」

 そう、無理だと言って、可能性を消すのは違う‼あの人に向かって駆け出す。

「!?あかり‼」

 アリア先輩の声が聞こえる。きっと止めてくれているのだろう。だけど、この足は止めない。

「反撃の技か?いいだろう、来るがいい‼」

 遠山顧問の声、分かりやすく拳を繰り出してくれる。ああ、この人、私たちに指導してくれているんだと分かる。最初の一撃で、私たちの心を折りに来たのかと思ったけど、違う。私たちの可能性を見ている。だからわざと私に鳶穿を打たせようとしている。

 胸を借りる思いで、伸びた左腕をくぐり抜け、鳶穿を仕掛ける。いや、仕掛けようとした。

「ヰ筒取り…いや、少し違うな。お前、間宮か?」

 鳶穿を放つ前に、ぷらんと襟を掴まれていた。両の腕に走る痛みで分かる。一瞬で腕を叩き、鳶穿の動きを止め、私を掴んだのだ。反応さえ出来ない速度だ。

「間宮あかりです。」

「そうか、先祖が世話になった。しかし、鍛錬が足らんぞ‼」

 くんっ、と一瞬だけ首に衝撃が走る。襟を掴んだまま、腕を野球のピッチャーの様に振りぬいたのだ。周りの景色が流れていき、グラウンドの端にある、木にぶつかる。

 ガサガサと枝と葉にぶつかり、止まる。

 そのまま、地面に落ちる。ドサリと倒れる。なんで、人間を投げれるの…

 

 

 

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―御幣島あびこ視点―

 

 

 

 昨日指導した東京の2年生、確か間宮やったけ?が投げ飛ばされた。スピードガンで速度を測ってみると、170km/h。人間放り投げてあれっちゅうことは、

「おいおい、マジか‼ありゃ、シーズン20勝は余裕やな。」

「いや、受けれるキャッチャーがおりませんよ。」

 そんなことをいずみと言いながら、危険を察知し、横方向に飛び退く。

「うわっ‼」「噓やろ‼」

 衝撃波が防弾制服の袖を掠める。グラウンドの中心に立つ顧問を見れば、正拳突きの構え。今のがパンチかいな。ハンデで武器を使用しない?ハンデになっとらんやんか‼むしろ武器つかう方がハンデやんか。

「武器無しの方が強いでしょ‼あの人‼」

 いずみも同じことを考えていた様やな。

「ホンマやで、セガールかと思ったわ‼」

 冗談言っとる場合じゃないのは分かるが、こうやって軽口たたいておらんと、精神持ってかれるわな。

「あびこっ‼いずみ‼いくで‼」

 はるかの声、それだけで分かる。長年積み上げてきた腐れ縁故の連携、チームワーク。

 背負っていたバックから硬球を取り出す。

「地獄の千本ノックや‼」

 硬球をノックすると同時に、いずみとはるかが発砲する。ひらパー姉さんも動いとるし、つるみも逃げておらん。いつも通り完璧な連携やな。

 いつもと違う点があるとすれば、相手に対して全く有効打になっとらんことやな。弾丸を掴んだり殴って撃ち落とすだけでなく、硬球はご丁寧に蹴ってこちらに打ち返してくる。試しにその球を打ち返してみるが、その衝撃で手が痺れる。

「ひらパー姉さん‼」

「了解~。」

 タイソン君2号が顧問の頭上から拳を振り下ろす。後輩の指導で使った時とは違う、本物の鋼鉄の拳。

 ガンッ!という音が響き、タイソン君2号の左腕が破壊される。しかも、顧問は、その間、タイソン君2号を殴った右腕とは逆の腕、つまり左腕だけでウチらの攻撃を軽く払う。

 

 まいったで、どないしよう。キレたオカンよりも、怖いんやけど…




 次回で名古屋編完結予定です。
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