―神崎・H・アリア視点―
大阪組が動き出したことで、各校のチームも様子見を終え、動きが見え始める。
「私たちも続くわよ!」
正直、勝ち目があるなど思えないが、各校の精鋭が立ち向かっているこの時がチャンスだろう。
理子と白雪も獲物を構え、覚悟を決めたようだ。
「レキ、任せたわよ。」
インカムでレキに言葉を送る。あかりがかつて、私との『エンブレム』でそれを奪い取った技が破られた今、最も勝率の高い方法は狙撃しかない。近・中距離での勝ち目は無い。ならば出来る限り意識を引き付けて、回避不可能な状況を作るしかない。
バリバリと両手に握ったガバメントの弾倉が尽きるまで撃ち続けては、エマージェンシーリロードを繰り返す。弾を打ち尽くした生徒たちが、複数での接近戦に持ち込むが、それこそ虫を払う様にあしらわれ、吹っ飛んでいく。曾御爺様の条理予知を超える純粋な動体視力と、一撃で決着をつける火力、時間を稼ぐことすら不可能に近い。
「いやぁ、笑えないねぇ。マジでチートだよ。あんなのと一緒に過ごしているたんだから、そりゃあ、キーくんも人間やめてる訳だよ。」
「ほんと、笑えないわよ。バカキンジは偶に人間やめたことをするけど。かなこさんの場合、常時それを超えた動きしてるのよ、去年の1年間で、超常現象起こす連中には慣れていたつもりだったけど、そんな驕りが吹っ飛んだわ。」
去年戦った、イ・ウーや極東戦役での超人や怪物との戦いで、ビックリ人間や生物には慣れた気でいたけど、今対峙している相手は、規格外過ぎる。ブラドの様に、不死身に見えても弱点があるならば、勝ち目はある。しかし、弱点が分からないし、見当たらない場合に、どうすればいいのか。
「いやぁ、正直、敵じゃなくてホントに良かったよ。」
「激しく同意するわ。」
仮に極東戦役なんかで敵として対峙していたなら、バスカービルどころか、
「参ります‼」
白雪が日本刀を構え、突撃する。無謀な攻撃だが、レキの狙撃のタイミングを作る為に必要な犠牲なのだ。
「かなこ様、いえ、義姉様、お覚悟‼」
白雪の振り下ろした白刃は、左手の人差し指と中指で挟まれる。
「ナイスファイトや、巫女のねえさん‼」
その隙を見逃さず、大阪組のバットとバールが振り抜かれる。それで終わらせない。私と理子、それに大阪組の2年生が引き金を引き続ける。
恐らく、特攻を仕掛けた3人はここでK.Oだろう。タイミングは今しかない。
「―私は一発の銃弾―」
インカムから聴こえるレキの呟き。左手で白雪、右手で大阪の2人の武器を抑えながら、右足だけで私たちの弾丸を捌き続けていたかなこさんへの狙撃、小さな円の中から出来ない以上、回避は出来ない。
ペッ、と唾を吐く様に口から何かを地面に出す。7.62x54mmR弾、レキの放った銃弾だ。
「良い連携だな。なかなかに楽しめた。」
その言葉と同時に、白雪と大阪の2人が弾き飛ばされる。いつでもそうすることが出来たと言わんばかりに。それによって、私の勝機は尽きた。最初の宣言通り、手加減に手加減を重ねているのだと痛感させられ、心が折られる。
私たちの作戦にわざと乗り、全てを出し切らせ、力の差を見せつける。正しく横綱相撲、生物としての格の違い、それが鮮明に理解させられる。
ひとり、またひとりと、碌に抵抗も回避も出来ずに拳圧によって飛ばされる衝撃波に倒れていく。
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―
これは何が起こっているのか。
大地が割られ、拳を振るう度に起こる衝撃波、生徒たちが構え、放つ銃など、無意味と言わんばかりに弾丸を撃ち落とし、即興であることを考慮すれば、完璧と称賛出来る連携も無情にも圧倒的な個の力で無効化された。
初めて遠山特別顧問の話を校長に聞かされた時、感動と憧れを抱いた。身体能力や腕力が必要とされる武偵の世界で、頂点に立った女性。ナゴジョで教育者をする身としては、憧れない理由などなかった。その一方で少し嫉妬もあった、如何に努力を重ねようと、ランキングの末端にさえ名を刻まぬ教え子がいること、そして、その頂きへと至れないことを分かってしまった自分自身の複雑な感情がそうさせていた。
しかし、名古屋駅で初めて姿を見て、それ程の人物なのか疑ってしまった。第一印象は、頂きに立つ者とは思えない程、普通の武偵。容姿からして、CVRだと言われても、なんの疑問も抱かなかっただろう。
だが、私が渡した衣装に着替えた時、その肉体を見て、その疑問が払拭された。見事に割れた腹筋に、女性としての柔らかさを残すしなやかな筋肉。野生の肉食動物の様に、獲物を狩る為の体。その美しさに思わず見とれる程だった。
「安心しろ、本気など出すわけがなかろう。」
そんな尊敬や憧れという柱が崩れ落ちていくのを感じた。圧倒的不利な条件を次々と定める、最後に言い放った言葉がこれだ。それが生徒たちを本気にさせる為の、意図的な挑発だとしても、この研修への招集が掛かる程の実力を身につける為に努力を重ねてきた生徒たちへの冒涜、そのように感じてしまい、教育者として、彼女に敵意の目を向ける。
それは、私だけでなく、校長や、ただひとり、ハンデが足りないと発言した蘭豹教諭を除いた教員たちも同じだった。
この場にいる教員たちが言葉を失っている中、
「言うたやん、ハンデが足りひんて。」
蘭豹教諭がそう呟く。彼女が何故彼女を知っていたのか、それは分からないが、この圧倒的な戦況を予測していたのだろう。
「…どの程度のハンデが必要だと?」
思わず、そんな疑問が漏れていた。
「姐御とやり合うなら、両手両足使用禁止でも勝てる気せぇへんわ。でも、ええ経験になったんとちゃいます?世界にゃ上の上、そのまた上がおるって分かったやし、そんな奴と会った時どないすりゃええか…逃げの一択、それが生き残る為の最善策や。ホンマええ教訓やで。天狗になって殉職する前に知れてな。」
死地をくぐり抜けてきた教員たちには、心に響く言葉だった。
勇敢さや、諦めないという精神、それは素晴らしいものだし、評価されて然るべきだとは思う。しかし、そんな立派な精神論も、圧倒的強者と相対した際に有効なのか?それは否だ。それは、武偵や軍人、様々な前職の教員がいるが、全員が身をもって分かっている。
彼我の戦力差を見極め、戦いを避ける。これが戦いにおける最大の基本事項であり、絶対的で普遍的な事実である。しかし、自身のランクや評価、実力を過大に評価し、驕り、それによって戦力差を誤り、殉職する者たちも見てきた。真の一流とは、如何なる状況、戦況でも生きて帰ってくる者だ。敵を知り己を知れば百戦殆からず、簡単な様で、これを誤る者は多いし、後を絶たない。
そういう意味では、蘭豹教諭の言っていることは正論で、核心をついている。この研修に来るまで、武偵高という世界で上に立ち、慢心していた者もいただろう。それらを正し、世界の広さと、自身に向き合う機会となるかもしれない。しかし、一方で不安がある。
「生徒たちは立ち直れるでしょうか…」
圧倒的な力量差を見せつけられ、心が折れる者もいるだろう。
「そこで立ち直れんのなら、元から武偵なんぞ無理や、っちゅことでしょう。蹴落とされ、路頭に迷おうと、猫じゃらし食って生きて、這い上がろうとしとる、そういう奴が生き残る世界でしょう?武偵っちゅう世界は。」
そんな生徒を知っているという語り口で蘭豹教諭が言う。
「それに、まだ終わっとらん。姐御がまだ構えを解いとらんで。」
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―間宮あかり視点―
「―――りっ‼あかりっ‼」
私の名前を呼ぶ声で意識が戻る。そうか、私、投げられて、気を失っていたんだ。
「あかり、大丈夫か!?」
「ひかちゃん…」
ナゴジョの制服を身に纏った従姉妹の姿、つばめやこまち、他の従姉妹たちの姿もある。
「寝てる場合じゃないぞ。アリアさんに頼まれた。あかりを連れてこいってさ。」
アリア先輩が?グラウンドの中央に目を向けると、未だに戦い続けている先輩の姿が見える。それだけじゃない、ボロボロになりながらも、何度も立ち上がり、食らいついていく他校の先輩たちの姿。その中には、昨日指導してくれた御幣島先輩たちもいる。
「正直、勝ち目は無い。だけど、『エンブレム』というルールなら、まだ可能性がある。」
「でも…」
完全に手加減された上、鳶穿を使わせて貰って、それでも無効化されて、この有様なんだ…
「ひとりじゃない、ボクたちも一緒に行く。」
従姉妹たちも頷く。
「間宮の力、見せてやろう‼」
ひかちゃんの言葉に立ち上がった。
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―神崎・H・アリア視点―
「どうする?キーくんが言ってたみたいに、土下座する?」
なんとか軽口を叩く理子。言葉は軽いが、その表情や動きは、かなり追い込まれ、限界に近い様だ。
「そんな情けない選択肢はないわ‼」
そう返すが、私も限界に近い。なんせ、今立っているのは私たち2人だけなのだ。頼みのレキは右肩に衝撃波を受け、狙撃位置の変更と回復を待たなければならない。白雪は先程の一撃でまだ意識が戻っていない。
「―っ‼」
横っ飛びして、飛来する衝撃波を躱す。ゴロゴロと地面を転がり、ガバメントの引き金を引く。何度もこんな事を繰り返し、制服だけでなく、顔にも砂がついている。しかし、それを払う暇も与えられない。
「六甲颪に 颯爽と~♪」
歌が聞こえてくる。
「すまんな、遅ぉなったわ。」
ふらふらながらも、立ち上がった大阪組、それだけでなく、他校の生徒たちも立ち上がり始める。
「いつまで寝てるんだ、白雪。」
理子が白雪の耳元で金次の声を模写して呟くのが聞こえた。
「キンちゃん‼」
白雪も復活した。それも、元気一杯に。
「狙撃、何時でも可能です。」
インカムから聞こえるレキの声。諦めた者はそこにはいなかった。
「アリア先輩‼」
「遅いわよ、あかり‼」
そして、私たちにとっての切り札も到着した。
「反撃開始よ‼」
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―
まだ諦めてなどいない。
立ち上がる生徒たちの目は、敗者のそれではない。目の前に立つ、強大な敵に立ち向かおうと、執念を燃やす、挑戦者の目だ。
生徒たちの視線の先に立つ、件の人物は、小さな笑みを浮かべる。まるで、そうなると分かっていたかの様に。
果敢に攻め、吹き飛ばされる者、肩を貸し、立ち上がらせ、共に立ち向かう者、立ち上がる強さ、共に進む強さ、この研修で出会ったばかりの生徒たちが、長年のパートナーの様に共に立ち上がる姿を目に焼き付ける。
『
「勇敢なる生徒たちよ、結構至極、最強・最美を成せ…」
まだ勝負は終わっていないが、そんな言葉が零れる。
「さっきまでと、顔付きが変わっとる。」
蘭豹教諭が生徒たちを見て、そう言う。生徒たちだけでない、教員たちも、その姿を目に焼き付けようとせんばかりに、真剣な顔になっている。
「ま、それでも勝てるとはさっぱり思わんのやけどな。」
台無しだった。
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―間宮あかり視点―
次が本当のラストチャンス。アリア先輩たちが最高のタイミングを作ってくれる。飛来する衝撃波を躱しながら、鳶穿を打てる位置をキープし続ける。
遠山かなりさんと目が合う。一瞬だったけど、優しい目だった。まるで、年の離れた妹たちと遊んでいるかの様に。
「あかり‼」
アリア先輩の声、
「ひかちゃん‼みんな‼」
レキ先輩の狙撃、一斉の包囲攻撃、そして私たち間宮のとどめ。
「届く前に撃ち落とす、それは簡単だが、楽しくないだろう?」
気が付くと、両手を掴まれ、ぶら下がり健康器に掴まった様な格好になる。私以外の生徒、間宮のみんなも、一瞬で吹き飛ばされていた。
「1回目よりもいい動きだった。しかし…」
右手に突然触れる、銃の感触。
「相手に気付かれようと、奪える速さを身につけよ。」
右足のホルスターから、銃の重みがなくなっている。掴まれた手を、離された感覚は無かったのに…感覚さえ感じさせない速度で私の銃を抜き取った!?
「それに、反撃でしか放てぬのは改善した方がいいな。まあ、片手でも使えるという点では、ヰ筒取りよりも使い勝手は良いが。」
何故かぶらりと宙吊りのままで話を聞かされる。しかし、完全に油断している。背後で地べたを這いながら、近づいているひかちゃんに気づいていない。
「こっちも間宮か?」
サッカーボールをリフティングする時に足の先で上げる様に足を動かすと、、ひかちゃんの体が宙に浮き、左腕で拘束された。気がついたら、私は右手ひとつで両腕の手首を掴まれている。
宙吊りとなった私たちふたりは、必死に藻掻くが、少し手に力を込められるだけで、激痛が走り、抵抗する気力も、体力も瞬時に奪われる。
「鍛錬も、技術もまだまだ未熟、されど、良い目だ。」
見惚れる様な笑顔でそう言う。その一言とその笑顔だけで、吸い込まれる様に引き込まれる。アリア先輩に初めて会ったあの時の様な衝撃と、憧れ、尊敬が沸き起こる。
「私を―」
「もう一度立ち上がって見せよ。さすればもう一段、登れるやもしれぬ。」
私の言葉を遮り、そう言う。そして、その言葉と同時に、景色が高速で流れていく。さっきよりも速いんですけど‼
ボールの様に投げられながら思う。さっきの感情は一瞬の気の迷いだ。そう、一種のストックホルム症候群の様なもので、あの人はアリア先輩と違う。
アリア先輩がエベレストの頂きだとすれば、あの人は、大気圏を突破し、神の怒りに触れず、壊れなかったバベルの塔。それに、何よりも…
ついていける気がしないし、あの人を目指してはいけない。そう思う。多分、人間に戻れなくなる。
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―神崎・H・アリア視点―
あかりとその従姉妹(ひかりだったかしら?)が投げ飛ばされていく様子が見える。
万策尽きた、それ以外の言葉がない。勝てる見込みが無くなった。こうなった以上、残された選択肢はふたつ。玉砕か、降伏か。
後者の選択、これが実戦、命が掛かった戦いだとすれば、それが正しいと私の直感が告げる。しかし、それは意地やプライドが邪魔をする。真っ先に『土下座』という選択肢が出せるキンジが羨ましくなるとは思わなかった。意地もプライドも捨て、生きて再起を図る。傍から見れば、無様で情けなく映るかもしれない。だけど、それが戦いという世界に身を置く上で、最も必要な覚悟かもしれない。
今回ばかりは意地もプライドも捨てて、素直に白旗を揚げようかしら。今あるのは、かなこさんの圧倒的な力への敬服と恐怖。不要な戦いと怪我のリスクは避けるべきだろう。
パァン、静まり返ったグラウンドに銃声が響く。
「良い心構えだ。峰…いや、理子と呼べと言っていたな。」
かなこさんが弾丸を掴み、そう言う。理子、あんたまだやるつもりなの!?
「くふふ、覚えててくれたんだぁー。そうだよ、理子って呼ばないと。だって、遠山理子ですから。」
かなこさんへ向けて駆け出す理子
「「はぁーーーっ‼」」
その発言に、私と白雪が、青筋を立てて叫ぶ、
「この泥棒猫、キンちゃんの正妻たる私を差し置いて、何を言ってるの!?」
「キ、キンジは、私を選んだの‼風穴開けるわよ‼」
ピリピリとした空気で3人が額をぶつけ合い、メンチを切る。そんな3人の間に着弾するレキの狙撃。
「ちょっと‼レキ‼なんのつもりよ‼」
インカム越しに叫ぶが、返答はなく、沈黙を貫くが、更にもう一発弾丸が飛来する。
そう、あんたも敵ってわけね…
「なんだ、金次の奴、随分と好かれておるな。金一の奴にも子が出来、遠山家も安泰だ。」
そんな修羅場を見て、ははは、と豪快に笑うかなこさん。
「また義妹が増えるな。それも4人とは…家族が増えることは良いことだ。お前たち、強い子を産むのだぞ。安心しろ、子は私が鍛えてやろう。」
上機嫌で私たちの肩を叩くかなこさん。
「「「あっ。」」」
私たちの後ろに立つかなこさんを見て、私たちが声を漏らす。その声に、かなこさんが首を傾げ、私たちと同じところに視線を合わせる。
「あ。」
かなこさんも自分の足元を見て、間抜けな声を漏らす。
円を出たら負け、自分で定めたルールを、自ら破り、そこに立っていた。
「しゅ、終了です‼」
暫しの沈黙の後、ナゴジョの校長が声を響かせる。勝った、のかしら?正直これなら負けの方がいいんだけど…
===========================
―
勝った、いや、勝ったといっていいのだろうか?
「決まり手が痴情のもつれってなんやねん‼」
蘭豹教諭が隣で手を腹を抱えて笑っている。勝利を捥ぎ取った東京武偵高の生徒たちも、何とも言えない表情で佇んでいる。
「全く、情けない負け方をしてしまった。負けたというのに、湧き上がるものが何もないぞ。」
腹を抱えて笑う蘭豹教諭の背後から声が聞こえる。その声に、私たちを含めた教員たちが振り返る。
「しかし、なかなかに将来有望な学生たちだな。蘭、あれはお前の教え子だったな。でかした。」
ポン、と蘭豹教諭の頭に手を置く遠山特別顧問。いつの間にそこに…教員の誰一人にも気づかれず、一瞬で背後をとっている。何よりも衝撃を受けたのは、グラウンドの中心にいる姿を見ていたのに、その動きが何一つ見えなかったということだ。
「そうだった。狙撃手…レキだったな。あやつも新たな義妹となるのか。」
そう言って、姿が消える。新幹線よりも速く移動出来ると送迎した際言っていたが、冗談ではなかったのか…
「ウチ、首繋がっとるか?」
蘭豹教諭が、青ざめた顔で苦しそうに、そう言ってくる。青ざめた顔には、油汗が滲み出ている。
「ええ、繋がってますけど。」
当たり前のことを何故そんなに切羽詰まった様子で聞くのだろうか?理解に苦しむ。
「ほな、生きとるっちゅうことか…」
何度も遠山特別顧問に触られた頭と首を撫でながら、そう言う。
「生きてるって、ええなぁ…」
彼女と遠山特別顧問の間に何があったのだろうか?とても気になるが、恐ろしくて聞けなかった。
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―遠山金虎視点―
「本日は遠い所から、ありがとうございました。」
名古屋武偵女子校の校長がそう言って、私を見送る。名古屋駅までは、行きと同じ面子で車に乗る。
「遠山かなこさん。貴女は、何者なのですか?」
隣に座る斑鳩殿が、こちらを見ずにそう言った。
「分からぬ。それは他人が決めることだ。ただ、言えることは私は私だ。」
己が何者なのか、遠山という家に生まれ、遠山金叉の長女、遠山金虎。それ以外の何があるというのか。
「貴女からは
「知らん。獅堂殿と似たようなものかもしれんな。」
私は家族と髪の色も違えば、瞳の色も違う。血の繋がりを疑われたこともあった。それでも家族は誰も私の存在を疑うことはなかった。ならば、それでいいのだ。
「では、率直に申し上げます。貴女は何を考えているのですか?」
ようやく、こちらに顔を向けてそう言う。
「私よりも強い者に会いたい。今はそれが一番か。…いや、最近家族が増えたのだ、弟や妹たちとのコミュニケーションを取らねばならんな。…どっちを優先すべきだろうか?」
「いや、私に聞かれましても…」
それもそうか、しかし、考えるのは苦手だ。みすず当たりに聞いてみるか?金一に、いや、あの時はカナの姿だったか。まあ、それはいいか。あそこまで信頼されていないとは思っていなかった。割とショックだったな。ということは、先に優先すべきは弟や妹とのコミュニケーションだろうか?
そういえば、金一だけでなく、金次と金三まで女装しているのは驚いたな。しかも、カナに負けず劣らずというのは、なかなかに悲しいことだ。遠山の男は女装が似合うのだろうか?
いや、弟たちが女装するのなら、私はそれを頭ごなしに否定せず、同じ立場に身を置き、同じ視点を得るのが家族として、姉として重要なことかもしれない。
「私も男装してみた方がいいのだろうか?」
「ですから、私に聞かれましても…でも、似合うとは思いますよ。」
この場合は喜ぶべきなのだろうか?分からぬ。何やら難しくなってきた。仕方ない、やはり、みすずに相談するとしよう。
名古屋駅に着き、忘れる前に行こうと思い立ち、新幹線には乗らず、みすずの元に駆け出した。
名古屋編終了となります。
次回は男装して、サードを襲撃する予定です。