―GⅢ視点―
捕獲した男たちを基地に運び、拘束する。目覚めたら尋問だな。
その間、とりあえず、あの格好のままうろつかれたらかなわねぇから、姉貴は九九藻とロカに連れられ、着替えに行っている。
「また破れたっ!」
九九藻の悲痛な叫びが基地に木霊する。何があったのかは想像がつくが、想像したくねぇ。
「GⅢ…」
「お、お目覚めか。」
拘束した3人の男たちの意識が戻ったようだ。
「ぶっ飛ばしてからゆっくり聞く。そう言っただろ。」
まあ、ぶっ飛ばしたのは半分以上姉貴だが、それは置いておいて、勝ち誇った態度で男たちに近づく。こういいった場合、優位性を示すことが第一だ。
「ふん、お前に負けたのではない。トウヤマ・カナコに負けたのだ。故に、お前に話すことなどない。殺せ。」
どこの部隊なのか、任務がなんだったのかは分からない。しかし、その忠誠心と覚悟は本物だ。
「…だが、ふたつ、教えておいてやる。別にお前に恨みも何もない。そして、俺たちの今、任務は完了した。」
男たちが、一斉に何かを握り潰した。
「てめぇら、なにをしたっ‼」
反応が遅れてしまい、男たちが
「さぁ、殺せ。殺さぬなら、自らこの命、絶つまでだが。」
こいつら、本気だ。…こういう状況なら、兄貴なら間違いなく止めに行くのだろうな。
「下らぬ。何のために私が加減したと思っている。」
「「「ト、トウヤマ・カナコ…」」」
毎度の如く、突然現れる姉貴に、男たちは驚きを隠せなていない。それは俺も同じくだった。
「あ、姉貴…服を着ろーっ‼」
さらしだけ巻いて現れたこのバカな姉貴に対して叫ぶ。
「騒ぐな、金三。ちゃんと着ているだろう。」
そう言って、さらしを指す姉貴。それを服とは言わねぇだろ…
「そんなことはどうでもいい。何のために私が加減したと思っている。」
バキバキと、男たちの拘束具の結束部分を素手で握り潰しながら、そう言う。
「情けはいらん‼」
姉貴に、そう怒鳴る男。
「情けではない。これは私の我儘だ。不殺は私の立てた誓い、その我儘に敗れた者には付き合って貰う。」
そんな男の顎を掴み、口説く様に、語りかける姉貴。
「俺たちに、敗者の誹りを受けろと言うのか。」
「そうだ。しかし、敗者は強い。落ちる所が無い。這い上がるだけだ。喧嘩なら何時でも買ってやる。」
聞き分けの無い子どもを諭すように、言葉を紡ぐ姉貴。
「後悔することになるぞ。」
「そうなってくれた方が面白いだろう?私は私よりも強い者に会いたいのだ。」
悪戯が成功した子どもの様に笑う姉貴に、流石に毒気が抜かれたのか、はたまたまともな会話を諦めたのかは分からない。しかし、張りつめた奴らの空気は霧散する。
「ほら、さっさと行け。」
姉貴が、急かす様に男たちを立たせ、
「帰れぬなら、私が送ることになるが、どうする?」
「遠慮させてもらう。それ程ヤワではないし、そっちの方が命の危険を感じる。」
姉貴にそう返し、邪気の無い笑みを向ける。
「さっきまで殺せといってた野郎が、命の危険たぁ、おかしな話だ。」
俺がそう皮肉ると、
「ふ、俺たちを生かしたことを必ず後悔させてやる。それまで眠れぬ夜を過ごすがいい。」
精一杯の捨て台詞を吐く。
「安心しろ、毎日熟睡だ。」
的外れな返答をする姉貴に、締まりがつかなくなったのか、男たちはそそくさと去っていき、その姿が見えなくなる。
「甘過ぎるんじゃねぇか?そんなことやってりゃ、本当にいつか寝首を搔かれるぜ。」
俺が姉貴に向き直ってそう言う。
「先程言っただろう。それならば本望だ。」
一言一句、偽りなど無い。本当にそう思っているのだろう。その真っ直ぐな瞳を見て思う、復讐だ、仕返しだと邪な感情では、決して勝てないだろう。姉貴は、俺たちとは違う次元にいる。それこそ、色金の力さえ軽く凌駕する様な…姉貴の強さが青天井だと、本当の意味で理解している兄貴や金一が、心底恐怖している理由が分かると同時に、心強くもある。なんせこんな、世界に喧嘩を売っても勝てそうな存在が姉なのだから。
「あの、一応服を用意しました。」
一枚のシャツを持って現れた複雑な表情の九九藻と、
「豪快に剥ぎ取られたよ。」
と、上半身裸のアトラス。
「私は別にこれでも構わぬが?」
「いいから着ろ‼羞恥心はねぇのか‼」
あられもない姿の姉貴に、シャツを叩きつけた。
「これからどうするつもりなんだ?」
シャツをきた姉貴に、そう問いかける。そもそも、ここまで何しに来たのかも、理由は曖昧だ。
「帰って寝る。」
そう言って、大きく欠伸をする姉貴。
「何しに来たんだよ…」
「男装したので見せに来たのだ。」
マジでそれだけの為に来たのか…
「苦労をかけると思うが、弟を頼むぞ。」
部下たちにそう言う姉貴。どっちかっていうと、この状況だと部下たちの心労は姉貴への対応だと思うけどな。
「そういえば、お前は玉藻殿の親類か?最近見ぬが、元気だろうか?」
姉貴が、九九藻にそう問いかける。
「は、はい。玉藻様はお元気だと思いますけど…」
「そうか、私が中学校を卒業してから一度も会っておらんが、元気なら良い。最近は星伽の守る緋色の金属も大人しくなったのだな。残念だ。」
その発言に、俺たち全員の目が、点になる。それって緋緋色金だよな…
「姉貴、それって、緋緋色金のことか?アレは兄貴とアリアが解決したぜ。しかし、残念ってどういうことだ?」
「確かそんな呼ばれ方をしておったな。金三も知っているのか?昔はよく暴れておってな。あれはいつだったか…小学校に入った頃だったか?私が星伽の社にちょうど遊びに行っていた時に突然暴れ出したので殴ってみたのだ。そうしたら静まってな。それ以来、暴れる度に呼ばれる様になったのだが、そうか、金次たちが解決したのか…割と力を込めて殴っても大丈夫な相手だったので、暴れなくなったのは少し残念だな。」
兄貴の退学、その遠因となった緋緋色金。幼少期に、それを殴って黙らせる姉貴。姉貴が極東戦役に参加してたら、早々に解決して、兄貴はまだ、武偵高の生徒だったかもしれない。…いや、この姉貴なら、中立の立場で全員殴り飛ばして、大混乱を巻き起こしていた可能性の方が高いか。
「まあ、それならいいか。我慢しよう。」
ひとりで納得した様に頷き、
「帰るとするか。」
「送って行こうか?」
俺の申し出に、
「結構だ。走った方が速いからな。」
足首を回しながら、そう答える。
「九九藻といったな。金三を支えてやってくれ。アレは金次と同じでアレだが、悪い男ではない。…まあ、そのあたりは、お前の方が詳しいだろう。」
「ひゃ、ひゃい。」
九九藻が、顔を赤くして返事をしているが、何のことだ?
「さらばだ。」
姿形も無く、きれいさっぱりこの場から消える姉貴。フレディの件に続き、またも助けられた事実を痛感する。姉貴の住む次元が違うとはいえ、俺だって、もっと強くならなければ…
「俺は…俺たちはもっと強くなる。」
俺の呟きに、部下たちが、嬉しそうな笑みを浮かべ頷いた。
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―キンジ視点―
塾が終わり、夜も深くなった街を歩き、我がボロ借家へと辿り着く。
腹減ったなぁ…いや、それ以上に、眠気が勝る。今日は直ぐに風呂に入って、寝よう。そして早く起きて勉強だ。そう決心して、玄関の扉を開ける。真っ暗な部屋、返事する者などいないが、一応「ただいま。」と小さく呟く。
靴を脱ごうとした時に、違和感を感じる。
「こんな靴、持ってたか?」
いや、持っていないな。そもそもサイズが違う。懐にあるベレッタに手を伸ばす。誰が何の為に?そんな疑問はあるが、それ以上に警戒することが最優先だ。武偵高だと、侵入を許した時点でこちらの落ち度なんだろうけど、このボロ家と乏しい資金では、そんなセキュリティを構築することは困難だし、そもそも、わざわざ俺を狙う奴などいないと、完全に油断していた。
明かりを付けず、静かに銃を構えながら中に入る。聞こえてくる規則正しい呼吸音。ベットの辺りか…
もしかして、リサや白雪が家事をしに、部屋に来て、そのまま寝てしまったのだろうか。そんな可能性が頭を過るが、直ぐに有り得ないと思い改める。あのふたりなら、どんなに眠かろうと、起きて俺を待つ。なら理子か?これが一番可能性が高いが、靴のサイズが合わない。
いや、そもそも、靴のサイズだとバスカービルの女たちは全員候補から外れる。ならあれは分かり易い罠で…
ダメだ、そう考える始めると、何もかもが怪しく感じてくる。
ええい、ままよ。一か八か、部屋の明かりをつけた。
「ね、姉さん…」
ベットで眠る、アホの姉さんの顔が見える。いや、何してんのこの人?
怒りや呆れといった感情が高まり、叩き起こそうと踏み出そうとした。俺の布団に、頼むから女の匂いをつけないでくれ。
踏み出そうとした一歩、その足を止める。そうだ…俺はなんてことをしようとしていたのだろう。危うく命を落とす所だった。
このバカ姉は、寝起きが恐ろしく悪い。叩き起こそうものなら、間違いなく数発は殴られる。そうなったら、永眠必至だ。
「ちくしょう…なんで俺の部屋は誰かに占領されるんだよ…」
涙を飲み、風呂場に駆け込み、静かにシャワーを浴びる。そして、姉さんを起こさないように、冷たい床に横たわり、眠りについた。
けたたましく鳴るスマホの着信音に、飛び起きる。今何時だ!?外から少しだけ差し込む光が、やけに眩しく感じる。重い瞼をなんとか開きながら、スマホを取る。げっ、もう昼前じゃん。早起きして勉強しようと思っていたのに、完全に寝過ごした。
そして、肝心の着信相手。そんなものは着信音で分かる。アリアさんだよ…あーあ、ワンコールで取らなかったからどやされるよ。
「えーっと、どうした?」
「遅いわよ‼バカキンジっ‼」
キンキンのアニメ声が、耳を貫く。
「あー、悪い。寝てた。」
言い訳のしようもないので、正直に謝る。
「全く、だらしないわね。バスカービルの面々でそっちに向かってる、と言っても、もうアパートの前だけど、今からそっちに行くから。」
ブチッと切れる電話。えっと…寝起きの頭で考えようとする間も無く、ゴンゴンと玄関を叩く音。もう来やがった‼
余りにも突然のことで、俺は多くのことを忘れていた。そう、床で寝ている理由さえも…
「あら、開いてるじゃない。不用心ね。」
ガチャリと開く扉。それで完全に思い出す。姉さんがいる‼今も規則正しい寝息を姉さん。昨日、あのまま、玄関の鍵を掛けるのを忘れていたのだ。
「おっ邪魔しまーすっ‼」
理子が勢いよく、部屋に飛び込んでくる。
「おお‼キーくん大胆だねぇ。誰連れ込んだの?」
「はぁ?どういうことよバカキンジっ‼」
「キンちゃん…?」
「・・・」
バスカービルの面々が俺に殺気を向ける。その視線の先、俺の背後に、ゆっくりと顔を向ける。
「は?」
何故昨日気付かなかったのだろう…
「ゆうべはお楽しみでしたね。」
某RPGを彷彿させる台詞を理子が口ずさむ。脱ぎ散らかされた服と女物のパンツ。姉さん…何やってんの…待て、そうなると、まさか…
「マズい、お前たち、騒ぐな‼」
「問答無用、風穴っー!!」
ギンギンと響く発砲音。一目散に逃げる俺。
「五月蠅いぞ…」
不機嫌な声が、静かに、それでいて、地が震える様な威圧感のある声が聞こえる。恐怖の魔王が目覚めてしまった。あまりの威圧感に、アリアたちも恐る恐る銃を下ろす。あのアリアを静めるなんて…
「か。かなこ様っ‼あのっ…」
白雪が覚悟を決めた様に声を発する。
「あぁン?」
「いえ、すみません。」
ひと睨みで抑えつけられた。必死に部屋の隅で、壁に向かって座る俺にはその光景は見えないが、その恐ろしさは身に染みて知っている。寝起きの姉さんを静めれるのは、母さんしかいない。だから起こさない様に細心の注意を払っていたというのに…
「金次…」
「は、はい…なんでしょうか…」
なんで俺の方に来るんだよ!?騒いでたのは俺じゃないだろ‼しかし、ここで振り向き、土下座する以外の選択肢は無い。
振り向き、土下座の態勢に移行しようとして、チラリと見えた姉さんの姿に、思考が停止する。え?なんで…?
「金次…」
ガシッ、とアイアンクローを決められると同時に叫ぶ。
「頼むから服を着てくれーっ‼」
脱ぎちらかされた衣類を見た時に、なんでこの可能性を考えなかったのだろう…全裸の姉の姿。もしかしたら、白雪はそれを指摘しようとしたのかもしれない。この威圧感に気圧されながらも声を発したその勇気は凄いな…そこで意識が途絶えた。
「―バ…ンジ…キンジ…バカキンジ‼」
キンキンと耳に響くアニメ声、
「…アリア…」
目覚めたばかりの、ぼんやりとした意識、それを目覚めさせる様に、その声で現実へと引き戻される。
「ぐぉっ!!頭痛ぇっ!!」
姉さんに掴まれた頭が痛む。あれだけの力で、骨が砕けて無いことに驚いてしまう。
心配そうにこちらを見つめるアリア。
「俺、どんくらい寝てた?」
「ざっと1時間ってところかしら。あまりにもうなされてるから、いよいよお迎えが来たのかと思ったわよ。」
そんなに気絶していたのか・・・
「そういや、他の奴らは何処行ったんだ?」
確かバスカービルの面子で来ていた筈。なのに、今ここにはアリアしかいない。
「ああ、それならもう少しで帰って来ると思うわ。それより―」
アリアの言葉の途中、風呂場の方から、シャワーの流れる音が響く。
「姉さんか・・・」
「ええ、そうよ・・・」
アリアも困惑気味で呟く様に言う。マジで何やってるんだろう、あの人・・・
シャワーの音が消え、戸が開く音が聞こえる。暫しの沈黙の後に、
「起きたか。」
タオルを首に掛け、湿った髪のまま、服も着らずに出て来る姉さん。すぐさま後ろを向き、
「姉さん、頼むから服を着てくれ!!」
姉さんでヒスった、なんてことになったら、俺は間違いなく死を選ぶだろう。
「全く、この程度で動揺してどうするのだ。お前はもう少し―」
全裸のまま、説教を始める姉さん。あんたには羞恥心が無いのか?せめてタオルくらい巻いてくれよ・・・
「かなこさん、その、流石にタオルくらい・・・」
アリア、今はお前だけが頼りだ。
「神崎・・・いや、義妹になるのだからアリアと呼んだ方が良いのか?まあいい、お前もだ。遠山家へ嫁に来るなら、金次の女嫌いを治す様に頑張って貰わねば困るのだ、子は多い方がいいからな。」
姉さん、あんた何言ってんだよ・・・
「こ、こどっ・・・子どもっ!?」
ボフッと瞬間湯沸かし器の様に一瞬で顔を真っ赤にしたアリア。普段ならガバメント出して風穴祭りなのに、モジモジとしおらしくなる。アリアは俺以外の遠山家の人間に対しては、何故か大人しくなるが、姉さんでもア祓い結界を張れるらしい。
「ただいまーっ‼…なにこの状況!?」
玄関の扉が開く音と共に理子の声が聞こえる。全裸で立つ姉さんとそれに背を向けて座る俺に真っ赤になってぼーっと立ち尽くすアリア。そりゃあ誰だって訳が分からないだろうな。
「理子、どうしたの?…って、かなこ様!?服買ってきたのですぐに着て下さい‼」
続いて入ってきた白雪が悲鳴に近い叫びを上げながら、バタバタと部屋へと入ってきた。なんとか危機は乗り越えた様だ。
白雪が姉さんを脱衣所に押込みながら、一緒に入っていく。姉さんがちゃんとした格好で出てきてくれることを祈るとして、
「なんでアリアは固まってるの?」
理子がこちらへ来ながら、座る俺の背後から覗き込む様に顔を寄せながら、そう聞いてくる。
「知らん。というより近い、離れてくれよ。」
少し動けば触れる様な距離の理子から醸し出される甘ったるい匂いに、血流が早まりそうになるのを抑えながら、そう言う。ようやく危機が去ったというのに、ここでヒスるわけにはいかない。
「えーっ、いいじゃんー‼」
そう言って、背後から抱きつかれる。背中に当たる柔らかな感触に更に血流が早まる。マズい、マズいぞ‼
なんとか理子を引き剝がそうとしている時、よりにもよって、意識が別の世界へと旅立っていたアリアと目が合った。それでなにかのスイッチが入ったらしく、ハッとした顔をした後、額にDの血管を浮かべ、
「あんたたちっ‼何してんのよーっ!!」
俺と理子にガバメントを向けながらアリアが叫び、発砲。俺と理子はワーワー騒ぎながらそれを躱していく。
「お、落ち着けっ‼」
「うるさい!風穴っ!」
ちくしょう、さっきまではやけに静かだったのに…姉さんの姿が無いからア祓い結界が無くなったのか?
「騒々しい奴らだな。」
「姉さん‼」
姉さんが俺たちの中央に現れた。ちゃんと服を着ていることに一安心していると、姉さんが握っていた拳を開く。その手の中からアリアの放った弾丸が床にバラバラと落ちる。相変わらずの人外っぷりを発揮した登場だな。
「全く、賑やかにするのは構わんが程々にしておけ。」
そう偉そうに言う姉さんだが、そもそもの原因は姉さんにあるのだが…そんな姉さんは、深紅のタイトドレスに身を包んでいる。
「しかし、この服、動き辛いな。」
窮屈そうに身を捩る姉さん。動き辛い?瞬間移動しておいて?説得力が皆無だぞ、姉さん。
「え〜、似合ってるのに〜。」
服を選んだのであろう理子が、姉さんの感想に対して不服そうにの声を上げる。
「ねぇ、キーくんもそう思うでしょ!」
理子が同意を求めてくる。確かに似合っているのだろう。しかし、その女性らしい格好は、俺が物心ついた頃から知っている姉さんのイメージとかけ離れている。常に動き易さと利便性のみを衣服に求めていた姉さんは、服装というのに対して無頓着だった。
そのせいか、今目の前で着飾っている姉さんに対して違和感しかないが、この残念な姉も大人になった、成長したのだと(内面は子供のままだが)、家族としてそれを受け入れる。
「馬子にも衣装ってこういう事になんだな。」
偽らぬ本音を伝える。チッ、と左頬に摩擦が起きた様な痛みが走る。
「どういう意味だ?…次は当てるぞ。」
姉さんの低い声が耳元で響き、左頬からツゥーと血が滲む。
「う、嘘です。冗談です。似合ってる。凄く似合ってるから!!」
怖過ぎるだろ!!死ねない俺が本気で死を覚悟したよ。
「ふ、そんなに褒めるでない。」
満足そうに頷く姉さん。いや、言わせてますよね。服装に倣って、せめてもう少しお淑やかになってくれませんかね、マジで。