緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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譲れない人々

―狐崎みすず視点―

 

 

 連絡先を交換しておいて正解だったわね。

 かなこが飛び出していった翌々日、ミラから連絡があった。何かやらかす気はしていたけれど、案の定やらかしているみたいね。

 詳しく話を聞くため、ミラを呼び出す。待ち合わせの当日、仕事はあったけれど、半休を取り、正午には職場を出た。手早く仕事を終わらせる為、久々に本気を出してしまった。

 待ち合わせ場所をクラブ○ガにしておいて良かったわ。ミラが来る迄の時間を、仕事で荒んだ心を癒やす時間へと変える事が出来るから。

 ダイナマ○ト刑事で助けたくないヒロインを助け出し、ハイスコアでランキングを塗り替える。本当ならば、全ての筐体に私の名を刻みたいけど、時間が足りない。

 

 ホント、羨ましい限りだわ。下りエスカレータに乗り、そんな事を思う。

 脳裏に浮かぶのは、現在待ち合わせしている相手と親友の姿。彼女たちの様に、自由気ままに生きていけるならば、どんなに幸福かしら。

 一度の仕事で、一般人の生涯収入以上の金を受け取る傭兵と、何故か働かずに生きていける最強の女。自分がどれだけ努力しようと、彼女たちの様な生き方は出来ない。彼女たちは残酷な存在だ。

 血の滲む様な努力をしても、圧倒的な才能でその上をいくのだから。

 彼女たちの様にはなれない。だけど、私は彼女たちにはない才能がある。それを理解しているのから、こつこつと仕事をしているのだ。

 何よりも、あの子の隣に立っていいのは私だけ。その思いがあるから、並び立つに相応しい武装弁護士という地位を築いている。

 もっとも、あの子はそんな事を気にもしないんでしょうけど。これは私の意地なのだ。

 

「相変わらず辛気臭い顔ね、こっちまで不幸が移りそうだわ。」

 エスカレーターを降りた先、何故かかなことキンジがいる。ついでにキンジの元同級生でチームのメンバーだった女の子たちまでいる。

 確か、黒髪ロングの少女が星伽白雪、かなこの従姉妹ね。金髪のふわふわしたのが峰理子、本名理子・峰・リュパン4世、元イ・ウーのメンバー。そして、過去に私と色々とあった神崎・H・アリア。もう1人のレキって狙撃手は今日はいないのね。 

「相変わらず辛気臭い顔ね、こっちまで不幸が移りそうだわ。」

 キンジへ、とりあえず挨拶する。

 それにしても、かなこは除くとしても、3人の美少女に囲まれてゲーセンって、いい御身分だこと。少し可愛がってあげようかしら。まあ、それよりも、

「狐崎っ…!!」

 敵意剝き出しのこの子が先ね。

 

 確かに、言い方というものがあるというのは分かるし、分かっている。でも、『誰にでも喧嘩を売る女』物心ついた頃からそう呼ばれてきた私は、それを改善しないし、する気も無い。そもそも、悪いとも思っていない。

 あの時の私の提案は間違っているとは微塵も思っていないし、寧ろ、正解だったと思っている。英国貴族としての権力とコネを持つ彼女が、私の駒としてかなこを捜す。発見次第、イ・ウーにかなこを送り込む。5分もあれば制圧出来るだろう。

 これ以上ない提案を彼女は蹴ったのだから、彼女に協力する気も失せた。そもそも、協力してくれと言われたから、仕方なく話を聞いて、提案してあげたというのに、逆ギレって何なのかしら、なんだかイラッとするわね。

 

 やりすぎた、とは思わない。だけど彼女の沸点が低すぎたわね。今にも銃を抜きそうな少女に冷めた眼差しを送る。強襲科の連中って、これだから嫌なのよね。とはいえ、彼女に対する興味はもう失せた。どうでもいいわ。仮に銃を抜いたとしても、かなこがいるもの。なんとでもなるわ。だって、あの子はいつだって私の味方だもの。

 

「みすず、そこまでにしておけ。」

 私と神崎の間に立ち、呆れた様に言うかなこに違和感を感じた。

「あら、私は1ミリ、いいえ、1ミクロンも悪くないわよ。」

「何があったかは知らぬが、言い方というものがある。昔からそうやって敵を作ってばかりだろうが。」

 モヤモヤとした感情が全身を駆け巡る。何故、彼女の肩を持つの?

「やめなさいよ、かなこに説教されるなんて、死にたくなるわ。」

「どういう意味だ!!」

 あなたは、何があっても私を肯定し、味方でいるんじゃなかったの?これ以上は喧嘩になるのは分かっている。今までもずっとそうだったから。だけどブレーキが効かない。

「1から言わないと分からないかしら?ああ、ごめんなさい。バかなこには分からないわよね。」

 かなこから怒りのオーラが目で見える程噴き出る。大体あれだけで人がぶっ倒れるのに、何故か私には何ともないのよね。かなこの拳だってそう、何故か避けれる。私は、武偵中のEランク生徒なんかよりも、遥かに身体能力で劣るのに、かなこの攻撃だけは避けれる。それは、初めから彼女に当てる気が無いのか、それとも、長い付き合いで、自然と身に付いてしまったものなのかは分からない。

 だけど、そのおかげで、周囲が戦々恐々とする中でも平然と立っていられた。

 

 とはいえ、こんな人目が多い所で揉めるのも考えものね。私たちは、子供だった昔と違い、今は社会人、節度というものがある。

 なんて考えはある。だけど…謝る気は全くない。私たちは何度も喧嘩してきた。私が先に謝ったのは、最初の一回目だけ、それ以外で私が折れたことは一度もないし、それは今も揺るがない。

 さて、どうやってかなこを謝らせましょうか…そんなことを考えていた。

 

「姐さーん!!」

 本来の待ち人である人物が、かなこに飛びつこうとして、反射的に殴られる。

 …あの子に殴られて起き上がれる人間を初めて見たわ。『要塞』の異名は伊達ではないということかしら。まあ、中々に絶妙なタイミングでの登場だったわよ、ミラ。

「かなこ、貴女と遭遇するのは予想外だったけど、手間が省けたわ。少し話があるの。」

 大切な話がある時に使う声のトーンでそう言う。

 本来、ミラの仕入れた情報に、私の持つ情報を加味し、現在のかなこに対する世界の動向を整理し、その対策を考える予定だった。まさかここにかなこが来ているとは思っていなかったけど、まあ、丁度良かったと思いましょう。

「分かった。場所は?」

 こんな喧嘩の終わり方は初めてね。お互い大人になったということかしら。

「変えた方がいいわね。少なくとも、ここは人が多過ぎるわ。」

「酒飲める所がいい。」

 私の言葉に、間髪入れずにそんなことを言うミラ。空気が読めてるのか読めてないのか、分からない子ね。

 

「ごめんなさい、私、貴女を見くびっていたわ。ここまで考え無しだったなんて…」

 『姐さんがアメリカで暴れたらしい。』そんな連絡をミラから受けた時点で嫌な気はしていた。だけど、

「なんで自分の事を調査している連中を殴り飛ばして来るのよ…」

 別に殴るのはいい、只々なんでそのまま帰すの?調査されるということは、情報が足りていないということであり、こちらにアドバンテージがあるということ。そのアドバンテージを何故手放すのかしら。そのまま確保した調査員を、私に引渡してくれたなら、情報の漏洩はおろか、こちらの情報アドを増やす好機であり、主導権も握れたのに。

「別によいではないか。相手が如何に姑息な手段を用いてこようと、私は常に正面突破で戦う。」

 ふふん、と無駄に大きな胸を張るかなこ。その姿にイラッとする。

「その何も詰まっていない、空っぽの脳みそに何を言っても無駄なんでしょうけど、少しは私の指示に従ってもいいんじゃないかしら?」

 部屋に似つかわしくない安物の酒を、ミラと酌み交わすかなこに溜息をつきながら言う。

 無駄に質の良いソファーに座り、そこから見える窓の外、他に高い建物は数える程しかない。ミラって本当にお金持ちなのね。都内有数のタワマン、その最上階を拠点にするか、位の軽い感覚で買えてしまうのだから。その癖に、質より量だと、安酒を大量に買い込む辺り、金銭感覚が理解出来ない。

「そんなに構えなくても大丈夫なんじゃね?姐さんならどんなエージェントが来ても返り討ちだろ。」

 ぐびぐびと、ジョッキに注いだラムを飲みながら、そんなことを言うミラ。その飲み方はどうなの?とは思うが、今それはどうでもいい。

「ええ、別にかなこが負ける可能性なんて1ミクロンも考えていないわ。ただ、無駄に敵を増やすメリットも無いし、事態が思い通りに進まなくなるでしょう。」

「お前が言うな。みすず。お前だって誰彼構わず喧嘩売っては私に殴らせていた癖に。」

「仕方ないでしょ、気に食わなかったんだから。」

「お前、ある意味スゲェよ…」

 ソファーの肘置きに腕を載せ、頬杖を付きながらそんなことを言ってくるミラ。その顔には朱が差し、酔いが回り始めている。

「そうだ、みすず。これを返しておく。」

 そう言って差し出される紙袋。アキバにあるコスプレ衣装店の店名が書かれている。それでなんとなく察する。

「壊したのね。まあ、買い直しているだけ、以前より成長したわね。」

 まだ封の切られていない、新品のBホルダー。なんで壊れるのよ…

「壊していない。動いていたら勝手に壊れたのだ。男装は当分もういい。胸がキツイし動きづらいだけだ。」

 耐えられなかったということ…何故、神はこの馬鹿には不要な女らしさを与えたの…

 己の胸に手を当てる。認めたくないし、気に食わないけれど、現実は覆らないのだ。

「おい、何故睨む。ちゃんと謝っただろう。」

「ええ、壊したことはもういいのよ。ただ、なんか気に食わないだけよ。」

 

「お、おい‼ちょっと待てよ‼聞き捨てならない言葉が聞こえたぜ。姐さん、男装したのか⁉」

「ええ、もう飽きたみたいだけどね。」

「うむ、当分やらんぞ。」

 かなこの言葉を聞き、ミラは一瞬で酔いが醒めた様な表情になる。

「ちくしょうーっ‼なんでそん時呼んでくれなかったんだよーっ‼俺も見たかったーっ‼」

 泣きながら床を転げ回るミラ。なんだか哀れね。

「ミラ、一応写真を撮ってあるのだけど。」

「いくらだ‼」」

 そういう躊躇いのないとこは好感を持てるわね。

「そうね…いくらまで出せるのかしら?」

「この部屋をやる‼」

「悪くないけど、固定資産税とか贈与税とか面倒なのよね。」

 予想以上の金額の物を差し出そうとするミラに口角が上がる。これ、いい商売になりそうだわ。

「因みに、私、かなこの写真、結構持ってるのよね。」

 そう言うと、ドタドタと何処かへ走っていき、すぐに戻ってくる。

「これでどうだ‼」

 差し出されるクレジットカード。ある意味現金よりも最高の贈り物ね。

「交渉成立ね。」

「良いわけがないだろう。」

 背後から飛来するかなこの拳を避ける。

「危ないわね。かなこには関係ないでしょう?」

「私の写真で儲けようとするな。欲しいというのならくれてやれば良いだろう。こうやって、場所や酒を用意してくれているのだ。」

 甘っちょろいわね。儲けられる時に儲けないなんて。

「いや、ちょっと待て。なんでアレを避けんだよ。」

 驚いた様子でミラが目を丸くしている。

「なんでって、なんでかしら?避けれるから避けただけよ。というより、当たったら死んじゃうじゃない。」

 貧弱な私にかなこの拳が当たったなら、下手したら骨も残らないんじゃないかしら。

「みすずも姐さん並ってことはねぇよな。」

「当たり前でしょう。こんなのが2人もいたら世界はとっくに滅んでるわよ。」

「ふーん、でもある程度はやれんだろ。」

 ゴス、と左肩にミラの拳が当たる。

「え‼なんでだよ‼」

「ミラ、みすずは私の攻撃以外は全く避けられない。というより運動とか全滅だぞ。」

「なんで武偵やってんだよ…」

「ふ、ふふふ、ふふふふふ…」

「マズい、ミラ、今すぐ謝れ。」

 突然笑い出した私を見て、かなこが焦る。

「ミラ、いい度胸ね。そう、そんなに私と喧嘩したいのね。」

 

 

 

 

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―冷泉為和視点―

 

 

 

 都内のとあるバー、カウンターに腰掛ける2人。僕と親友である真中(まなか)(あきら)。武偵高入学試験の時に、落ち込んでいた僕に声を掛けてくれたことがきっかけで、入学後も色んな武偵の風習を教えてくれたり、コンビを組んだり、本当に沢山助けられた。それを恩に着せる様なこともなく、ずっと仲良くしてくれた。

 本当にいい奴で、僕は彼の頼みなら、遠山さん以外の全てを捨てて、最優先にする位には彼を信頼しているし、感謝している。

 今日はお互いに予定が合い、久しぶりにこうやって飲めることに喜びを感じる。遠山さんに再び会う、そんな僕の1つの夢は叶ったそれも、元をただせば、彼との出会いが会ったからかもしれない。そういう意味でも本当に感謝しかない。

「しかし、冷泉が武装検事なんて、武偵高入学した時の俺に言っても、絶対信じないだろうな。あの時はお前が強襲科ってだけでも信じられなかったからな。」

「はは、本当にあの時はたいへんだったよ。何回死んだと思ったことやら。」

 実際、実力も、経験も、度胸も足りなかったあの時の僕は、毎日死にかけていた。自分でもよく生きてるなぁと思う程である。

「やっぱスゲェよお前、努力してたのも知ってるけど、才能とか相性とかもあるんだろうけど、それ以上に凄い執念みたいなのがあったし、今考えたら、本当、尊敬する。俺はあんな風になれなかったからさ。」

「そんなことない。僕だって1人なら諦めていたと思う。アキラが居てくれたから頑張れたんだ。…何か悩んでるの?」

 いつもとは少し様子の違う彼に訊ねる。もし悩みがあるなら、全力で助ける。聞かなきゃよかった、そう思うのはその直後だった。

 

「恥ずかしい話なんだけど、俺、ずっと好きな人がいるんだ。」

 アキラもか、僕もずっと遠山さんを追いかけている。

「それで、相手はどんな人?」

「冷泉も知ってる人だ。いや、冷泉が一番仲良いのかな。」

 僕と仲が良い女性?思い当たる人物がいない。いったい、誰のことを言っているんだろう…まさか‼いや、まさかね。もし、もしもアキラが遠山さんを知っていて、彼が彼女に恋心を抱いているのなら…僕は親友を失うことになる。

「まさか…」

「ああ、そのまさかだ。やっぱり気付いてたよな。俺、分かりやすかったし。」

 そんな…噓だと言ってくれ‼懐の銃に手が伸びる。

「そう、みすずちゃんだよ。」

「はい?」

 みすずちゃん?みすずちゃんって…

「もしかして、狐崎さん?」

「そう言ってるだろ。」

 頬を朱に染めながらそう言う親友。

「アキラ、悪いことは言わない。あの悪魔だけは駄目だ。」

 不幸というゴールしか存在しない茨の道を進もうとする親友を止めなければ。というより…

「それに、なんで僕が狐崎さんと仲良いって思われてるの?大っ嫌いなんだけどあの人‼」

「見損なったぜ、冷泉。みすずちゃんの可愛さが分からないなんて…」

 見損なったのは僕の方だ。あんな悪魔よりも悪魔らしい女のどこがいいというのだろう。一度病院に連れていった方がいいのだろうか?

「みすずちゃんみたいな、可愛い子と仲良いのに、他の女に現を抜かすなんて、お前大丈夫か?」

「はぁ!?僕の天使、いや、女神とあんな悪魔、比べ物になるわけないだろう‼」

 あの悪魔と遠山さんを比べるなんてこと自体が失礼過ぎる。

「なんだと‼」

 アキラが怒りを露にする。彼と喧嘩なんて、いつ以来だろう。

 でもいいんだ、喧嘩してでも、力ずくでも、彼を正常な道に戻さなくては…それが親友としての、僕の努めだ。

 

 カランカラン、と扉の開く音。

「あら、やっぱりこの店はやめておきましょう。」

「えーなんでだよ。面倒くせぇからここでいいよ。」

「ん?冷泉ではないか。」

 悪魔が天使と変なのを連れて来た。

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