緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

40 / 59
 大阪組再登場します。
 


開幕

―キンジ視点―

 

 

 みすずとアリアが遭遇し、何故か姉さんとみすずが一触即発となりかけた日から数日後の昼前、再び険悪な雰囲気でみすずと姉さんが俺の部屋へとやって来た。

「相変わらず辛気臭い部屋ね。」

 入るなり俺の部屋を酷評するみすず。

「だったら帰れよ。」

 さっさと帰って欲しいし、何よりもさっきからひと言も言葉を発さず、不機嫌そうに腕を組んでいる姉さんが恐ろしい。…俺なんかやったっけ?

「帰るわよ。こんなとこ居たくないし。これ、渡しておくわよ。」

 そう言ってA4サイズの封筒を渡して来る。

「なんだよこれ。」

 封筒にかかれているのは、都内の大学病院の名前。まさか俺の對卒、その治し方でも調べてくれたのか?

「さあね、それじゃあ私は帰るわ。かなこも、子どもじゃないんだから、さっさと機嫌を直しなさい。」

 姉さんを置いて、みすずは帰っていく。

 

 みすずにそんな優しさがあるとは思えないが、急いで封筒から中身を取り出す。

「診断書?」

 なんでこんなものが…というか、これ姉さんの診断書じゃないか!まさか、なにかあったのか!?

 読み進めていくが、なんの異状もないどころか、信じられないくらいの超健康体だ。

 そりゃあそうか、病気どころか怪我ひとつしたことがないんだから。家族で釣りに行った時も、釣れた河豚を食べて全然問題なかった人だし。

 そもそも、なんの検査なんだよ。

「ああ、そういうことか。」

 診断書の最後の1文で全てを悟る。

『とんでもないアホ。』

 辛辣だが、何ひとつ間違っていない診断結果。ケチのつけようも無い。

「良かったな姉さん。健康そのものじゃないか。」

「当たり前だ!私に異常などない!それだというのに、みすずの奴が無理矢理病院に連れて行くのだ!」

 病院へ行く機会なんかなかったから忘れてた。姉さん病院嫌いだったなぁ。

 あと、頭に間違いなく異常はあるぞ姉さん。言ったら怖いから言わんけども。

「ま、まあ、みすずも姉さんを心配してやったんだろうし、そんなに怒らなくていいじゃないか。」

 まさかみすずの肩を持つ日が来るとは思ってもみなかったが、姉さんの馬鹿さ加減は異常だし、心配や不安になるのは俺も同じだ。

 俺の言葉を受け、バツが悪そうに顔を背ける姉さん。なんやかんやで姉さんにとってみすずは大切な存在の様だ。

 

「昼食でも食いに行くか。」

「そうしよう。」

 姉さんの有難い申し出に全力で頷く。姉さんの良いところは、絶対に奢ってくれることだ。万年金欠である俺に、まともな食事をタダで提供してくれる。

 ラーメンもいいし、寿司とかも食べたい。すき焼きとかもいいな。何処へ行くか…そんなことを考えていると、玄関を叩く音が室内に響く。

 こういう絶妙なタイミングで来る奴は、碌な知らせを持って来ない。居留守を決め込みたいが…

「なんだ?」

 勝手に扉を開ける姉さん。

「ヤッホー、キーくん!…って、あれ、かなこさん!?」

 理子か…ってことはあいつらも一緒の可能性があるな。

「理子、それに神崎と白雪、レキも一緒か。」

 姉さんが玄関でバスカービルの面子と話している。この隙きに逃げるか…

「ちょうどよかった、これからキンジと食事に行こうとしていたが、お前たちも来ればいい。」

 姉さんの言葉で、俺の中の天秤が動く。タダ飯か面倒くささか…

 若干の差でタダ飯に天秤が傾いた。

 

 アリア行きつけの中華料理店で、チャーシュー麺とチャーハンが俺の目の前に置かれる。理子は見ているだけで汗が出るような、真っ赤な激辛のエビチリと麻婆豆腐を、白雪とレキはシンプルなラーメンを、アリアは安定のももまんを山積みにしている。そして、姉さんのチャーシュー特盛のチャーシュー麺。全ての料理が到着し、食事が始まる。

「ねぇ、キーくん。大阪行こ。」

 突拍子もない理子の言葉に、疑問符が頭に浮かぶ。

「なんでだよ?」

「キーくんに依頼を紹介したげる。大阪でのお仕事、報酬は150万、どうよ!?」

 150万、安くないというより、俺にとってはとんでもない高額な報酬に心を動かされるが、

「内容は?」

 とはいえ、金に釣られて碌でもない仕事をさせられる可能性も有り得る。

「大阪で草野球の試合だよ。勝てば報酬、負ければタダ働き。あ、旅費は自己負担だよ」

 旅費がネックだな…じゃなくて!

「待て!なんで草野球で150万なんて大金が報酬になるんだよ!?絶対ヤバい仕事だろ!!」

「いやー、それがねぇ、マジなんだよー。こないだナゴジョでの研修で知り合った大阪の子から頼まれてねー。草野球大会の優勝賞金が1000万なんだってー。」

 草野球大会で賞金1000万…どんな大会だよ…

「私と理子で裏取りもしたけど、間違いないわ。毎年行われている正式な大会だし、賞金もちゃんと出てるわ。」

 ももまんを両手に持ちながら、アリアがそう言う。

「関西一円の大企業がお金を出してやってる大会なんだって。凄いよね。」

 白雪が感心した様に言う。関西で野球って、阪神と甲子園ってイメージしかないけど、野球自体が好きな人が多いのかもしれないな。

「そういうことなら構わないけど、そもそも面子はどうなるんだ?」

 以前、武偵高で単位不足でサッカーの試合に出たが、あんな感じの寄せ集めなら、優勝は厳しいだろう。

「今のところ、依頼主の大阪の武偵高生徒が3人と元々のメンバーが2人、それと私たち。キーくんが入ってくれたから全部で10人だけど、依頼主からは6人用意して欲しいって頼まれてるから、あとひとり必要なんだけど。」

 なんとも微妙な面子だな。大阪の連中の実力は知らないからなんとも言えないが…

「お前ら、野球経験は?」

「無いわ。」

「無いよー。」

「無いよ、キンちゃん。」

「無いです。」

 全滅かよ。俺も遊びでやった程度だし、無理だろ。

「よく受ける気になったな、そんな依頼。」

「いやー、なんか楽しそうだったから。」

 理子よ、そんなんでいいのか…

「この話は無かったことに…」

「待ってよキーくん!理子思いついちゃった!優勝間違いなしだよ!」

 話を切り上げようとする俺に、理子がハイテンションに言う。

「思いついたって何をだよ。下らんことなら俺は下りるぜ。」

「くふっ、理子思いついちゃったんだ〜。かなこさん、野球しよ!」

 こいつ、とんでもない札を選びやがった!

「私は構わんぞ。」

 あっさりと承諾する姉さん。

「ま、待ってくれ。姉さん、野球のルール分かってるのか!?」

 野球は物理攻撃禁止だ。というより、野球に限らず、格闘技以外のスポーツは物理攻撃禁止だ。姉さんはそれを分かってるのか?

「以前みすずの奴に嫌という程叩き込まれた。あいつ、運動嫌いの癖に、神宮球場でヤクルト戦だけは見に行ってたからな。何度無理矢理連れて行かれたことか。」

 以外な事実、昔、何度か姉さんが遅く帰って来ることがあったけど、野球観戦に行ってたのか…

「決まりー!!これで優勝間違いなしだよキーくん!!」

 はしゃぐ理子。しかし、俺は勝ち負けに対する不安よりも、姉さんというこの世界の不確定要素が野球をするという不安が勝っていた。

 

 

 

===============================

御幣島(みてじま)あびこ視点―

 

 

「はい、頼まれてたやつ。」

「おお!毎度、ホンマありがとうやではるか!」

 毎年、ペナントレースが開幕すれば、甲子園で観戦可能な日程をはるか教えている。何故なら、はるかの父親は、阿倍野建設というデッカイ建設会社の社長であり、阪神の熱狂的なファン。甲子園にもスポンサー広告を出したり、後援会で多額の援助をしたりと、阪神に魂を捧げた男や。当然、スポンサーシートを毎年数席確保しているので、そのチケットを譲って貰っているのだ。

 因みに、ウチのオトンは私設応援団の団長で、球場ではるかの父親と意気投合し、ウチらが生まれる前からの付き合いや。

「なんや、どうしたんや?」

 しかし、チケットを渡すはるかの様子がいつもと違う。これは間違いなくなんかあったな。

「うん、実はな、今年も草野球大会があんねんけど、うちの会社のチームで季節外れのインフルエンザが蔓延して、面子足りひんねん。」

 阿倍野建設も毎年参加する、阪神優勝祈願祭たる草野球大会。阪神の後援会企業が金を出し合って賞金と球場を用意し行われる一大イベントや。

「え、ホンマ!それじゃあ、おっちゃんめっちゃ落ち込んでんとちゃうん。」

 はるかの父親のチームは、毎年優勝を逃しており、今年こそはと息巻いていた。勿論、賞金の為ではない、ただ、野球を愛する者として、優勝を目指してたのを知っている。

「落ち込むどころか、躍起になって、今から面子を集める言うて聞かんのよ。正直私はそない興味ないし、どうでもええんやけど、毎日毎日騒ぎよるから、お母ちゃんも大概にせぇ言うて怒って大変なんよ。」

 同じ野球ファンとして、そして、チケットのお礼もせなあかんからなぁ…

「よっしゃ!ウチが出たる!それに、いずみも連れてこ。」

「いや、ふたりじゃ足りんて…会社のチームふたりしか残ってへんもん。」

 噓やん!そんなインフルエンザって蔓延するんか!おっかないわぁ。

「それなら、ウチに任せとき!絶対メンバー集めて、おっちゃんに優勝カップを渡したる。チケットのお礼や。」

「そないせんでもええんやけどな…」 

 早速メンバー集めや!

 

「参ったで…」

「ええ、ホンマに…まさか全員用事があるとは…」

 いずみを連れ、野球部の面子に声を掛けたが、皆依頼や用事が入っており、日程が合わない。

「ピッチャーが残ってたのが救いですね。」

 インフル蔓延の阿倍野野球部は、先発ひとりと外野手ひとりという恐ろしい状況。投手がおるんがせめてもの救いやな。

「最悪、ウチがキャッチャーやな。しっかし、思った以上に集まらへんなぁー。」

 結局この日は、面子を集める事が出来なかった。

 

「あびこちゃん、ありがとう!ありがとう!」

 野球大会に関して話をしに、はるかの家を訪れたら、はるかの父親に泣きながら感謝を伝えられる。

「おっちゃん、泣かんといてぇな。泣くんは優勝してからや。それより、面子なんやけど…」

 正直厳しい、言いたくはないが、無償で参加してくれる奴なんか中々おらん。

 そう言いかけた時―

「理子ちゃんやん。うわぁー、可愛ぇえな。私もそんなん着てみたいわ。」

 はるかがスマホを見ながらそんなことを言っている。…理子?ああ!あのナゴジョに来とった神崎のチームメンバーか!

「なぁなぁ、この服めっちゃ可愛ええよ。」

 そう言ってスマホの画面に映る、写真を見せてくるはるか。間違いない、東京武偵高の奴や。その時ウチに電流が走る。神崎を筆頭に、あいつら身体能力は滅茶苦茶高い。使えるんちゃうか?

「はるか!いつの間に連絡先交換しとったんかは知らんけど、ようやったで!これで草野球優勝、ついでに阪神優勝や!」

 なんのこと?というように首を傾げるはるかからスマホを奪い取る。

「ちょっと!なにすんや!」

 怒るはるかを無視し、

「おっちゃん、賞金はいらんのやんな?」

「賞金なんかいらへん!欲しいんは阿倍野建設野球部の優勝杯だけや!」

「おっしゃ!流石おっちゃんや!優勝は決まりやで!」

 はるかのスマホの電話帳から、理子の名前を見つけ出し、発信する。

「ヤッホー、はるにゃん。どしたの?」

「すまんがはるかやない。ウチや、掛布2世こと御幣島あびこや!」

「おおー!あの時の!どったの?」

 

「成程、それなら理子にお任せを~。優勝すればいいんだよね。」

「頼むで!」

 通話が終わる。

「ええのあびこ?あの子たち多分ド素人やで。」

「中途半端な面子よりかは、あの身体能力があればマシや。おっちゃん!対戦チームのデータってあるん?あったら見して。」

「任せろ!」

 おっちゃんが書斎に駆け込む。

「今日から作戦と対策考えるから、数日休むわ。オカンに伝えといてぇな。」

「自分で言ったらええやん。なんで私が…」

「だって、絶対オカンがブチ切れるん分かっとるもん。」

「分かっとんなら、ちゃんと学校行って、放課後やったらええやん?」

「いや、阪神戦の中継見なアカンから、その時間考えると、学校行ってる暇ないねん。」

「あびこ、あんた学生の本業分かっとるん?」

 はるかが呆れた様子で溜息を吐いた。

 

 そしてやって来た大会当日。

 大会といっても、参加チームは4チームのトーナメント戦。午前中にそれぞれ別の球場で同時開始で2試合行い、決勝戦を午後から行うことになっている。

 はるかの父親を筆頭に、各チームのオーナーは既に火花を散らしている。

「あびこ、ひとつ聞きたいんやけど…」

「なんや?ひらパー姉さんとつるみは数合わせで、試合は出らんから安心してええよ。」

 まあ、あのふたりは出らん方がマシなレベルやしな。

「ちゃう、そんなことやないねん…」

「ほななんや?」

「なんで私がメンバーになっとるん!私野球なんかしたことないんやで!」

「ドアホ!あない理想的なスイングしといて野球せんなんか、許されるわけないやろ!」

 メインウェポンたるバールを手にし、フルスイングをかますのがはるかの戦闘スタイル。スイング速度、ヘッドの位置、全てにおいて理想的なスイングをするのはるかが野球をしないなど許されへんぞ。

「はるか先輩、代打でいいんで、お願いします!」

 いずみも頭を下げる。あんなスイングを見せられて、野球人としてそのプレーを見たくならないということは有り得ないのだ。

「まあ、いずみがそう言うならしゃあないな。でも、ホンマに代打だけやからな!」

 バールが金属バットに持ち替わる。関西最強のスラッガーが誕生した日である。

 

「ごめーん、遅くなっちゃった!」

「おお!久しぶりやん!」

 東京武偵高の面子も到着し、準備万端や。

「はるにゃーん!久しぶりー。」

「理子ちゃん久しぶりやなぁ!ホンマ今日も可愛ええなぁ。」

 はるかと理子が楽しげに話ている。

「うげぇ、女ばっかじゃねぇか…」

 ひとりげんなりとしている冴えない男。誰やこいつ?

「ちょっとバカキンジ!シャキッとしなさいよ!」

 神崎がそいつに吠える。バカキンジ…?どっかで聞いたような…

「おお、兄さんが例の色男か!いやぁ、4人もいっぺんに誑し込むなんて、ホンマ凄いやっちゃな!」

 思い出したで、あん時神崎たちの痴話喧嘩で出とった名前や。

「あんたも気を付けなさいよ。バカキンジは、女の子に節操ないんだから。」

 んー、まあ、顔はそこそこカッコイイ方かもしれんけど、正直ウチの好みやないな。

「まあええわ、ウチは御幣島あびこ、よろしゅうな。」

「あ、ああ、俺は、遠山金次、よろしく。」

 握手でもしようと思ったけど、なんか避けられとるな…しっかし、遠山ねぇ…

「ちょい待ち!理子、5人しかおらへんやんけ!」

 数えて見れば、5人しかおらへんやん。別にそれでも試合は出来るけど、それじゃあ投手が足りへんで。

「もういるんじゃないか?」

 遠山の兄さんがそんなことを言い出す。なにいっとんや?透明人間でも連れてきたんか?

 

「待たせたな。少々寄り道をしていた。」

「ひぃ!」

 心臓が止まるかと思ったで!突然目の前に現れたあの時の特別顧問、遠山金虎はん。両手には大きなビニール袋がふたつ。たこ焼きの、鰹節とソースのいい匂いが漂ってくる。アカン、腹減ってきたわ。

 …って、ちゃう!なんちゅうもん連れて来とんや!確かに、間違いなくこの場の誰よりも身体能力は高いやろうけど、そりゃあ常識の範囲内であってくれなアカンて。

「あびこ、これ大丈夫なん。」

「先輩、相手チームに死人が出ますよ…」

 え、これウチの責任なん!

 

「と、とりあえず全員投げてみてぇや。」

 投手で使えそうなんがおることを祈りながら助っ人たちにボールを握らせる。

「ピッチャーもいないのか!?」

 遠山の兄さんが驚いた様に言う。

「いや、おるにはおるんやけど、ひとりだけやし中継ぎはいるやろ。」

 現状先発ひとりという酷い状況やからな。キャッチャーミットを手に取り、中腰になる。

「ほな兄さんから投げてぇや。」

 スパン、という音を立ててミットにボールが収まる。素人にしては遅くはない、伊達に武偵という荒事に長けた仕事しとらんな。

 とはいえ…

「変化球は投げれるん?」

「いや、無理だ。」

 それじゃあ厳しいな。

「一応投げ方、いうてもウチが知っとる程度やから大したんじゃないけど教えとくわ。」

 勿論、投げれる様になるとは思っていないが、万が一の可能性に懸ける。

「ほな次いくで!」

 理子、神崎、レキ、白雪、順番に球を捕る。この中では神崎が一番やな。とはいえ…

「神崎、サイドで投げてみ。」

 身長が低い神崎では、投げ落とす様なオーバースローよりも横の変化がつくサイドスローの方がいいやろ。

「分かったわ。」

 指示通りにサイドから投球する神崎。スパン!とミットに収まるボール。球速は落ちたが、変則型としてワンポイントで起用するならありかもしらへんな。

「よっしゃっ!おおきに。だいたい考えが纏まったで!」

 さて、打順と守備位置決めな。

「おい、私を無視するな。」

「すんません、まだ死にたくないなんです。壁に向かって投げてくれます?」

 人間投げて170km/h出す怪物の球なんか受けれるわけないやん。

「なんや、そっちのチーム、ガキ、しかも女ばっかやんけ!こりゃあ楽勝やな!」 

 対戦相手の面々が、ウチらの試合前の練習風景を見てそう言う。

「女やから楽勝?ウチらを見くびんなや!」

 女子野球部主将として、何度も男だけのチームに負けてきた。それでも、女やから負けたなんて思ったことなんかない!

 見下した様にニヤニヤと見てくる奴らに腹が立つ。

「先輩…」

 ウチと一緒に、何度も悔しい思いを飲み込んできたいずみが隣に来る。

「いずみ…絶対負けへんで。誰にも、女やから負けたなんて言わせん…」

「はい!」

 いずみが闘気の籠った返事した。

 それと同時に、ドガーンという、爆発音が球場に響く。

「加減が難しいな…」

 そう言って、再度投球フォームをとる遠山金虎はん。そして、再び爆発音。啞然とする相手チームと、頭を抱える遠山の兄さん。

「報復死球だけお願いしようや。」

「いいですねそれ!」

 ウチの意見に、いずみが賛同する。

「いや、一番アカンやろそれ…」

 はるかの冷静なツッコミ、だけどそれと同時に同じ女でも、あんな怪物を超えた球を放れるんやと嬉しくもある。

「勝てる、勝てるんや…」

「いや、受けるキャッチャーおりませんよ。」

「あ、そうやった…」

 でも、相手への牽制にはなったやろ。

 

 

 

===============================

―キンジ視点―

 

 

 ドガーンという、爆発音に頭を抱える。

 野球はボールを破壊するスポーツじゃない!見るも無残にはじけ飛ぶ軟球と抉れた球場横のコンクリート製の壁。

 こんな球撃てる奴はいないが、捕れる奴もいない。一球一殺でキャッチャーが変わるならありだが、ルールとしても、そして人道的な判断でも、それは出来ない。

 姉さんが投げれば負けはないというのは分かっていたことだが、受ける捕手がいないことも分かっていたことだというのに、理子の奴、余計なことしやがって…

「キンジ、どの程度なら捕れそうだ?」

 そう言いながら、何度もボールを投げる姉さん。その度に破裂する軟球。

「とりあえず、ボールを割るなよ…」

「むぅ、なかなかに難しいな。」

 腕を振り、投げ込まれるボールは、何度やっても破裂する。

「いっそ、指だけで投げたら?」

「こうか?」

 ズバーンッ!と壁にボールが当たり音を響かせる。破裂してない!

「おお、うまくいったぞ!」

 いや、なんで指だけで投げてあの球速なのかとか、いろいろと言いたいが今は姉さんの成長を喜ぶべきだ。

「御幣島!これならどうだ?」

 捕れるか?そう目で訴える。スピードガンを手にした御幣島は、

「いや、無理や…200km/h超えとるもん。」

 そりゃグローブ越しでも手が壊れるな。

「ま、まあ、最悪登板してもらうかもしれんけど、とりあえず金虎はんはセンター守ってや!打順は3番でお願いしまっせ!」

 姉さんが本気で守ったら、内野と外野ひとりで守れそうだな。

 

 こうして始まった草野球大会一回戦、

1番、アリア(遊)

2番、理子(一)

3番、姉さん(中)

4番、御幣島(みてじま)(三)

5番、柴島(くにじま)(二)

6番、知らんおっさん(補)

7番、レキ(左)

8番、俺(右)

9番、ピッチャーのおっさん(投)

 という打順で試合に臨むこととなった。とりあえず、姉さんの前にランナーが溜まっていれば、大量得点が可能だろう。最悪姉さんが投げれば相手も戦意喪失するだろうし。勝てる、勝てるんだ。

 そう思っていた。

 

「おい、握っただけで折れたぞ。」

 グリップが握りつぶされ、ぽっきりと折れた金属バットを手に姉さんがそう言った。

 

 駄目かもしれないな…

 

 

 

 

 

 




オリンピックで野球見てたら無性に書きたくなりました。
正直無茶苦茶な内容になります、本当に申し訳ございません。













カクヨムURL
https://kakuyomu.jp/works/16816452219160331735

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。