緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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試合終了

御幣島(みてじま)あびこ視点―

 

 

 先程とは変わり、決勝は先攻、一塁側のベンチとなった。まだ相手チームは来ていない。

「これは大変なことやと思うよ。」

 急遽変更されたルールをメンバーに、この危機的な状況を伝える。

「でも、ピッチャーとキャッチャー抜いても、内野6人に出来るんやろ?そない問題ないんちゃうか?」

 楽観視するはるか。

「全員経験者ならな。素人の寄せ集めやし、6人おったとしても、内野抜かれる可能性は高いんや。強襲ライナーとか捕れへんやろ。」

 守備は素人が思っている何十倍も難しいんや。野球で一番難しいんが守備と言っても過言やない。イレギュラーバウンドする時もあれば、風向き、太陽の光、あらゆる条件が毎回違うのに、毎回同じ様に捌き、同じ様に送球しなければならない。練習どころか、初体験の奴らにそれを求めるんは厳しい。

 もっとも、武偵っちゅう荒事になれた奴らやから、なんとか対応出来とるけど、経験者として見れば、やはり危うい場面が多い。

「なるべく、外野フライで打ち取る様な配球にしてもらうけど、ピッチャーかて抜け球やコントロールミスはあるからな。内野もさっきまでとは違って、しっかり集中しとってくれや。」

 さっきの試合は、正直することがなかった。キャッチャーの目の前に落ちるバントでさえ、外野からノーバンで捕球する怪物がおったからな。でも、今回はそうもいかん以上、少しのミスも許されん。間違いなく相手は内野のエラーを狙ってくるやろうからな。

 なんせ、決勝の相手は、大阪、いや、関西で最王手の武偵事務所たる廿山(つづやま)武偵事務所。数百人の武偵を抱える巨大武偵事務所で、最近は武偵の仕事だけでなく、貿易やら店舗経営など手広く事業を拡大している新進気鋭のベンチャー企業となっているが、裏では、武偵を傭兵として海外へ派遣している疑惑や、市議会や府議会、果ては国会議員との繋がりなど、黒い噂も後を絶たない。

 こっちも武偵が大半を占めるチームになっているが、相手は全員が武偵。しかも、そのメンバーは全員、高校野球、又は大学野球の経験者だ。どう考えたって、相手が有利なんは間違いない。

 

「なんや、女の子ばっかやんけ。」

 到着した相手チームの第一声で、眉間に皺が寄る。こいつらも、性別で決めつけるんか。

「おい、女だからと油断すんな。あの面子よう見てみぃ。強襲科Aランクの御幣島に阿倍野、それだけやないで、あのピンク髪は、お前らでも知っとる、Sランクの神崎・H・アリアや。武偵として十分以上の実力者、女やからとなめとったら、足元掬われるで。」

 ガタイのいい男たちを押し退け、小柄な男が現れる。廿山(つづやま)篤史(あつし)。廿山武偵事務所の所長だ。

「うちの若いのがすまんな、御幣島。」

「かまへんよ。ウチとしては、油断してもろた方がえかったねんけどな。」

「そりゃあ、悪かった。ところで、あの話、受ける気になったか?」

 あの話、要はスカウトだ。関西一円ではそれなりに名の知れた武偵であるウチらのチーム『浪花の虎乙女』は、卒業も視野に入った今年から、廿山武偵事務所のスカウトがあった。

「悪いねんけど、もうちっと考える時間貰えへんやろか。大学も視野にあんねん。」

 半分嘘で半分ホント。廿山の下に付く気は端から無いが、大学に行きたいっちゅうんは本当や。

 そもそも、はるかは家業を継ぐので、経営学を学ぶ為に大学進学が決まっとるし、ひらパー姉さんは研究したいから武偵大へ進学を決めとる。ウチも大学では女子野球があるからもあるけど、オカンみたく教師もええかなって感じで武偵大行こうかなと思っとる。

「ま、なるべく早めに決めてぇや。なんなら、野球で決めてもええで。」

「どういうこっちゃ?」

「俺のチームが勝ったら事務所に入る。阿倍野建設が勝ったら入らん。てのはどや?」

「野球賭博はアカンで。球界追放や。」

 ウチの返答に、ケラケラと笑う廿山。

「まあ、ええわ。しっかしまあ、おっそろしい面子やな。神崎にレキ、SDAランク総合93位の遠山キンジ…」

 笑顔は消え、武偵の目になった廿山。えぇ、遠山の兄さんって、そないな化物んやったんか!!知らんかったわ。

 遠山の兄さんの方を見ると、ごっつ嫌そうな顔しとるな。あんまり実力を晒したくなかったっちゅうことかいな?能ある鷹は爪を隠すとは言うけど、武偵かてホイホイと手の内は見せんからな。遠山の兄さんは、頭の先から爪先まで武偵ってことか。

「なにより、名前を見て驚いたで。突然現れたSDAランク総合1位でRランク武偵、顔の写真どころか、名前以外なんの情報もあらへん謎の武偵がこないべっぴんさんやったとはな。」

 金虎はんを見る廿山。その目は、未知の存在に対する恐怖と好奇心が宿っている。

「なあ、全員うちの事務所に来ぃひんか?うちは完全実力主義やから、あんたらやったらあっちゅう間に億万長者やで。」

 そう言う廿山だが、冷めた視線を向けられ苦笑いをする。

「すまんなぁ、仕事柄、優秀な武偵に目がないねん。堪忍な。ほな、お互いフェアプレイで楽しもうや。」

 ニカッと笑い、三塁側ベンチへと戻って行く。フェアプレイねぇ…武偵ばっかやし、めんどい事にならんとええねんけどなぁ…

 

 ベンチに置かれた金属バットとは別に、ビヨンド・もっこすをバットケースから取り出す。

 なーんか、きな臭いねんなぁ…

 

 

 

 

=================================

―キンジ視点―

 

 

 1回表、アリアがセンターフライで倒れ、先程の様に理子と姉さんが敬遠されると思っていたが、理子がセカンドゴロで倒れ2アウトとなる。まさか、姉さんと勝負するつもりなのか!?さっきこちらのベンチで話していた廿山とかいう男の口ぶりから、姉さんの恐ろしさは十分理解している筈だし、さっきの試合もスコアラーなんかを送って知っている筈だというのに…

 少しでも姉さんに関する情報があるのなら、勝負は無謀だし、敬遠さえも通用しないというのは分かる。それなのに、なんで…

 左打席に入った姉さんは、初球、デッドボールになる様な、内角高めのシュートがかったストレートを完璧に捉え、場外へと軽々と叩き込む。それと同時に、奴らの目つきが変わる。それまでどこか見下した目をしていた連中の目は、完全にプロの目になっていた。

 バットの届く範囲なら、全て場外へと叩き込む。そんな姉さんの異常さを知るための最小限の出血。野球における1点は大きい。しかし、その1点を失ってでも、あいつらを本気にさせたのが、廿山の戦略ということなのか…

 

 それを証明するように、それまでとは別人の様に球が走る。女子野球部所属の御幣島が、なんとか合わせた当たりも、ピッチャーフライに終わる。

「クソっ!!なんやあのスクリュー!山本昌かいな!」

 左投手が投じた変化球を打ち損じた怒りを露にする御幣島。

「スクリューですか…厄介ですね。」

 柴島もグローブを填めながらそう言う。

「1点取れただけマシやと思わんとな。」

 ベンチの奥に座る阿倍野が2人を安心させるように言う。

「せやな。ほな、しっかりと守って、さっさと攻守交代といくで!」

 

 しかし、案の定というのか、執拗に内野への強打を狙う相手チーム。それは分かっていたのだが、分かっていてもそう簡単に捕れたら、皆プロになれる。

 そういうわけで、内野安打に進塁打、エラーが重なり、あっという間に1点を返され、交代となる。

「正直、これ以降点を取れる見込みはないで…もう失点は許されへん。」

 姉さんの恐ろしさが充分相手に伝わり、且つ内野の脆さと、得点力の不足が明白になった今、こちらが勝つ手段は、敬遠される理子と姉さんで得点圏にランナーが進んだ状態となった時だけに近い。それに対し、相手は毎回得点のチャンスがある。

 こちらが圧倒的に不利だ。

 2回の表、柴島が変化球を引掛けショートゴロ、続くオッサンと俺が三振で、あっさりと交代となる。

 これ、マズいんじゃないか…

 勝機(姉さんの攻守)を断たれた状況では、勝ちの目は無い。このままだとただ働きどころか、大赤字だ。

「なあ、御幣島。このままだと…」

「負けるな。」

 あっさりと言う御幣島に少しイラッとするが、その表情を見て苛立ちは消える。ここに居る誰よりも真剣で、悔しさの滲みだした表情を見て、苛立ちが消える。まるで、全てを賭けた博打に挑んでいるかの如き目に、吸い込まれる様だった。

「金虎はんを封じられたなら、勝ち目はない。…普通はな。せやけどな、何百点取られようと、コールドがない以上、ゲームセットまで負けとらんのや。」

 バットを握り締めながらそう言う御幣島に返せる言葉が無かった。

 

 御幣島の闘気に当てられたかの如く、2回表、先頭打者の柴島が痛烈な2塁打を放つ。それに続く様にオッサンがセンター前に弾き返し、ノーアウト1、3塁で俺の打席が回ってくる。

「キンジ、決めなさいよ!」

「キンちゃん!頑張って!」

「キーくん!」

「キンジさん…」

 バスカービルの面々からの檄が飛ぶ。プレッシャーと緊張で、妙に肩に力が入る。

「遠山の兄さん…楽しんでぇな。」

 今この場で、誰よりも勝ちたいと思っている御幣島が、なんとか作り出した笑みでそう言う。…お前、なんて顔してんだよ…

「あんまり期待してくれるなよ…」

 苦笑いでベンチに答え、打席に向かう。

 打てる気なんてしねぇなぁ…そもそも、素人が仮にも青春の半分近くを野球に捧げた連中に勝てるわけないだろうが…人間、諦めが肝心。そんな風に言う人も多い。俺もそう思うさ。でもな…

 

 あんな顔見て、諦めましたじゃ、寝つきが悪ぃんだよ!

 

 初球、投手が投球フォームに入ったと同時に3塁ランナーの柴島がスタートを切る。投じられた直球に、俺がなんとかバットを合わせる。ボテボテと転がる打球。ファーストへ全力疾走しヘッドスライディングで飛び込む俺が見た光景は、ショートが捕球し、本塁へと送球する姿。

「セーフ!」

 同じく本塁にヘッドスライディングで滑り込んだ柴島が1点を勝ち越す。無言で一塁ベースを殴る俺に、ベンチは沸き立つ。

「だせぇなぁ、可愛い子が多いんで、いい所見せようってぇんか?」

 ユニフォームに付いた泥を叩きながら一塁ベースに立つと、相手のファーストがそう見下した笑みで言う。

「素人に負けるセミプロの方がだせぇさ。あんたらだって、武偵の端くれだろ?武偵憲章10条、忘れたとは言わせねぇぜ。」

 『諦めるな、武偵は決して諦めるな。』依頼を受けた以上、貫いてやるさ。…もっとも、さっきまでは諦めてたんだがな。

 見下した様な冷めた笑み、それで分かる。負けないさ、こいつらにはな。正直、今の俺じゃあ役には立たないだろう。でも、腹は括ったさ。泥臭く、みっともなくていい。スマートな勝ちなんかいらない。最後に勝っていればいいんだ。そっちのほうが、俺らしい。

 

 三振とゲッツーで2回の表の攻撃は終わる。結局1得点で終わるが、勝ち越したことに変わりはない。

「遠山の兄さん…」

「御幣島、勝つんだろ?さっさと行こうぜ。」

 グローブを手に取り、サードとショートの間へと向かう。

「せやな。しっかり守っていくで!」

 パァンとグローブに拳を打ち付ける御幣島。そう、絶対に勝ってやる。

 

 

 

 

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御幣島(みてじま)あびこ視点―

 

 

「せやな。しっかり守っていくで!」

 気合を入れてベンチを飛び出る。一瞬でも負けを認めそうになった自分が情けないな。遠山の兄さんの泥臭いプレーで目が覚めたで。

 そんなウチの肩を優しく叩く手、振り返ると金虎はんがおる。

「愚弟のやる気を引き出してくれて感謝する。あの愚弟ときたら、何かとやる気がないのでな。そろそろ教育的制裁を加えようと思っておったが、それも無用になった。」

 おっかないことを平然と言うなこの人は…あんたの鉄拳制裁とか三途の川を越えるで普通。てか、やっぱ親族やったんやな。

「こっちこそ、ありがとうございますや。腑抜けそうやったけど、喝入れてもらいました。」

 ウチの返答に、ふっ、と笑い。

「安心しろ。私は、負けるのが嫌いなのだ。」

 そう言って姿を消す金虎はん。目線を正面へと戻すと、既に外野にいる。ホンマ、味方やったら頼もしい限りやな。

 

 それから、泥臭い試合が続く。4回に1点を返され同点となるも、それ以外、互いに点を許さない攻防が続き6回裏2アウト。見るからにバテたオッサンが2アウト2、3塁のピンチを招く。

 最後の力投とばかりに投げ込んだストレートが、フラフラと三遊間へと上がる。

「キンジ!」「遠山の兄さん!」

 ショートの神崎とウチが声を掛けながら、遠山の兄さんのフォローに回る。よし、アウトや。そう思った時、風が吹き、高く上がったボールは方向を変える。

「アカン!」

 風に流された打球を覚束ない足取りで追う遠山の兄さんに不安を覚え、交錯覚悟で突っ込む。

「兄さんどくんや!」

「えっ!」

 ボールに意識を奪われていた兄さんの反応が遅れる。目を離したことで、ボールは兄さんのボールの横を落ちていく。そこへと頭から滑り込む。

「「ぐっ!」」

 2人の体が絡み合う様にゴロゴロとグラウンドを転がる。…ボールは!?

 ああ、よかった…入っとる…

 白球の収まったボールを掲げる。

「アウト―!スリーアウト!チェンジ!」

 三塁塁審の声が上がる。

 そこで気付く、

「ちょっ!兄さん大丈夫かいな!」

 遠山兄さんに馬乗りの様な態勢になってしまっとる。転がっとる時も、クッションになってくれとったみたいやし、怪我しとらへんやろか…

「ああ、大丈夫だよ。御幣島、怪我はないかい?」

「へ?ああ、ウチは大丈夫やで。」

 慌てて立ち上がる。なんやろ?兄さんの雰囲気というか、纏う空気が変わっとるで。

「ちょっと!あんたたち!何してんのよ!」

 神崎がキンキン声を響かせる。

「アリア、何を怒っているんだい?君が心配するようなことは怒っていないよ。」

「わ、私が心配するようなことですって!とういより、なったのね、その御幣島で!」

 神崎が顔を赤ぉしてなんか言っとる。

「ああ、ならなきゃ失礼だろう?勿論、それがアリアであってもね。」

 

 雰囲気の変わった兄さんとベンチに帰ると、金虎はんを除いた助っ人の空気がピリピリとし始める。なんや?なにが起きとんや?

「すまん、あびこちゃん。もう限界や。」

「お、おお、おっちゃん。よう投げてくれたで。後は任せぇ。」

 見るからに疲労困憊のおっちゃんの降板は致し方ない。7回は神崎で行くとして…

「すまん、白雪はん。次から入ってくれるか?」

「え、うん、大丈夫だよ。」

 神崎や理子、レキとバチバチに火花を散らしていた白雪はんに守備を頼む。とはいえ、守備位置やが…

「ああ、それなんだが御幣島、次の回、俺が投げるよ。」

 遠山兄さんがそう申し出る。え?神崎に頼もう思ってたんやけど…

 不安そうなウチの視線に気づいたのか、

「大丈夫、もう前には飛ばさせないさ。なんせ、君に教えてもらった変化球があるからね。」

「いや、あんとき全然投げれてへんかったやん!」

「大丈夫、任せてくれ。」

 耳元で囁かれる言葉。なんやこの人、ちょっと前まで近づこうともせぇへんかったのに…

「わ、分かったから、離れてくれへん!ウチ、今汗かいとるし…」

 ウチは野球一筋ではるかみたいに男には惚れられることもなかったから、こういう距離感がなんかこそばゆい。そう言って押し返す。

 

「ちょっと、キンジ!」

 再び助っ人陣が盛り上がる。それを受け流し、遠山の兄さんは、

「そうだ、申し訳ないけど、キャッチャーも変えてくれるかい?」

「変えるって、誰にやねん。」

 まともな選手もうおらへんで。

「姉さん頼めるかい?」

「ちょい待ちぃ!それはアカンて!外野がすっからかんになるやんか!」

 金虎はんが外野から消えたら、相手はフライでもいいから外野を狙ってくる。そうなったら、前に飛んだ瞬間終わるやないか。

「断る。」

 ウチの意図を知ってか知らずか、金虎はんがそう言い放つ。

「何故私がお前の女房役にならねばならんのだ!私は私より強い者の妻にしかならん!」

 アカン、この人何言ってんやろ。そもそもあんたより強い人がおってたまるかい!

「「「女房役…」」」

 何故助っ人連中は殺気を放つんや…

 

 ベンチで、味方に殺気を放つ助っ人連中を諫め、1アウトごとにキャッチャーを交代することで落ち着く。…いや、落ち着いたんやろうか…

 それからの遠山の兄さんは、別人の様な動きとなり、プロもかくやという剛速球と変化球で相手打線を翻弄するが、こちらも得点を入れられずに9回を迎える。

 9回表、9番から始まる攻撃、三者凡退で倒れるのは有り得ないのが救いやな。仮にこの回を三者凡退にで終わらせ、延長戦となれば、10回表の先頭打者が3番、つまり、四球で歩かせようと、勝負しようと1点を取る金虎はんが控えることになる。それを避けたい相手は、絶対に2、3番を敬遠するやろ。そうなれば、4番のウチに掛かる責任は測り知れない。

 柄にもなく、胃が痛ぉなってきたわ…

「御幣島、9回だが…」

「なんや遠山の兄さん、なんかええ案でもあるんかい?」

 ピッチャーのおっさんが降りた今、9番は白雪からやし、正直あんまり期待できんな。

「いや、ただ、折角なんだ。代打を使うのも手じゃないか?」

 代打、確かに、こっちには代打の神様かもしれへんはるかがおるが…

「タイミングはどないするん?金虎はんの前にランナー出しても意味ないで。」

 既に白雪は打席に立っている。

「勿論、姉さんの前では駄目だ。アリアには申し訳ないけどね。」

「兄さん…あんた何考えとるんや?」

 

 1アウトでランナー無し、2番理子に代わり、代打はるかを告げる。

「あびこ!ちょい待ってぇな!こない重要な時に私やなくても…」

「いや、はるか、お前しかおらへんのや。普段バールぶん回しとる感じでボール打ちゃ大丈夫やから。」

 不満そうな顔をするはるかにバットを渡す。

「簡単に言うなぁ…なんや、金属バットってバールより大分軽いやんか。」

 軽々とスイングする度にブン!ブン!と風を切り裂く音が鳴る。うん、なんの心配もいらへんな。

「はるかー!かっ飛ばせ!」

 ベンチから声を張り上げる。

 勝負は一瞬やった。相手の投じた初級、脱力感がありながらもスイングスピードのある理想的な一振り。バットにボールが当たった瞬間に分かる、完璧な一撃。相手投手もそれが分かったのか、打球を見送ることもなく、グラブを叩きつける。

 綺麗な放物線を描きながら、ぐんぐんと伸びていく白球はフェンスを越える。

「やった!やりよった!やっぱりはるかは史上最強のスラッガーやったんや!」

「はるか先輩!最高です!」

 ウチといずみがベンチで歓喜の声を上げる。

 それから連続敬遠の後、ウチといずみ、そして遠山の兄さんの連打でこの回一挙5点を取り交代となる。

「さあ、最終回、ぴしゃりと締めて終わるで!兄さん頼むで!」

 ポンと遠山の兄さんの肩を叩く。

「いや、この回、俺は投げないよ。」

「は?」

 突然なにを言い出すんやこの人は…

 

 

 

 

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―キンジ視点―

 

 

「俺が投げる時、キャッチャーを1アウトごとに代わる約束だったけど、順番的に次はアリアなんだ。アリアはさっき交代してもう出れない。なら俺は投げれないよ。」

「ア、アホぬかすな!そない理由で投げへんとか許されんわ!」

 勿論、御幣島が怒るのも分かる。だけど、今の俺は女の子を悲しませることが出来ないんだ。ベンチに座るアリアにウィンクし、御幣島に向き直る。

「問題ないさ、俺なんか比べものにならない大エースがいるだろう。なぁ、姉さん。」

「死ぬ気か!」

 通常時ならそうなるだろう。だが、今の俺なら、姉さんの指先だけで投げた球くらいなら受けれる。

「大丈夫、俺は『殺しても死なない男』らしいからね。」

 キザにそう言って、キャッチャーの防具、ミットを身に着ける。

 

「ストライク!」

 ズバン!と球場に響き渡る様な豪快な音をたててミットに白球が収まる。要領は弾丸キャッチと同じだ。『秋水』で勢いを殺し、ミットに収めるだけだ。もっとも、なんで弾丸よりも勢いがあるのかは、姉さんだから仕方ないだろう。

 全てど真ん中のストレート、三球三振で1アウト。とはいえ、相手も分かってきただろう。俺は真ん中しか捕れない。少しでも球の位置がズレれば、後ろへと逸らすことになる。

 だから、次第にバットを振り始める。しかし、かすりもしない。さあ、あとひとりだ。

「直球でど真ん中、それが分かってりゃ、然程難しくはねぇ。」

 打席に入る打者、ああ、こいつファーストの奴か。

 初球見送りストライク。こいつ、多分当ててくるな。打席を離れ、一度スイングをするそいつを見て、なんとなくそう思う。

 マウンドを見れば、姉さんは退屈そうにボールを指先で転がしている。

 そして2球目、予想通りスイングしてくる。スローモーションの世界で、ボールとバットがぶつかるのが見える。当然、その後も。

「ぐぁぁぁっ!」

 バットに穴が開き、ボールは直進しミットへと収まる。バットが宙を舞い、打者が手を押さえてうずくまる。自身に満ち溢れていた奴の目には、その面影さえない。あるのは、恐怖と絶望。

 相手チームのメンバーが集まり、奴の手にスプレーをかけたり、様々な処置を試みるが、意味はないだろう。なんせ、怪我とか痛みの問題じゃない。心が折れてるんだからな。

 結局、ピンチヒッターが打席に立つが、見逃して三振。ゲームセットとなる。

 

「よっしゃー!勝った!勝ったで!」

 ワーッと盛り上がるチームメイトたち。

「姉さん、お疲れ様。」

「この程度で疲れるわけがないだろう。それより…」

 姉さんの野生の勘が何かを察知したのだろう。まあ、俺でも分かる程度だけどさ。

「分かってる。きな臭いな。勝利の余韻には、長く浸れないみたいだ。」

 あんたら、プロならもう少し殺気を隠せよ。駄々洩れだぜ。

 

 

 

 

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御幣島(みてじま)あびこ視点―

 

 

 

 表彰式が終わり、すっかり暗くなった球場。

「ホンマようやってくれた!念願の優勝や!」

 はるかのオトンが笑顔で涙を流すという器用なことをしながら全員に礼を言う。

 ワーワーと盛り上がる中、ビヨンド・もっこすに手を伸ばす。

「ホンマ、助っ人の皆、ありがとうな。これで依頼完了やで。報酬は後日改めて、ホンマありがとな!」

 手配していたハイエースに助っ人たちを乗せ、そう言う。

 これから先はウチが片付ける。正直今日はあんましいいとこなしやったからな。

「あびこ、あんたひとりで行く気かい。ひらパー姉さんなんか完全武装しとるんやで。」

 バールを手にしながらそう言うはるか。

「なんや、折角カッコいいとこ見せたろ思たんに、残念やわ。」

「相手は現役のプロやし、数も多いんや、いくらあんたでも、荷が勝ちすぎるんちゃう。」

 ふっ、とお互いに小さく笑い。

「おっちゃんごめん!少し寄り道して帰るわ!」

 

 カッコよく決まったと思ったんやけどなぁ…

「なんなん、もう終わってるやんけ。」

 死屍累々と地面に突っ伏す無数の武偵たち。

「武偵憲章第8条『任務は、その裏の裏まで完遂すべし。』よ。」

「神崎…」

 帰らせたつもりやったんやけどな。

「もっとも、理子たちは何にもしてないんだけどね~。」

「すまんな、うちの暴れん坊が運動不足解消するって聞かなくてな。」

 理子と遠山の兄さん。

「それで、その暴れん坊将軍様は何処におるん?」

 姿が見当たらない。

「それが…」

 

「お好み焼き食べに何処か行った!?」

 あまりにも自由気ままな生き様に笑いが込み上げる。

「最高やで!ホンマ気に入ってしもうたで金虎はん。」

 面白い人、そして、少し憧れる人。勿論、ああはなりたいとは思わへんけど。

 

 

 

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