今回は、かなこの存在が隠されず、普通に武偵高に入学出来ていたという設定で進めます。
―キンジ視点―
東京武偵高に入学して一年が過ぎ、2年生となった今、武偵殺しにヤラれた兄さんやその為諸々があり、武偵を辞める決心を決めた俺は、探偵科Eランクとして在籍しているというのに、周囲からの評価は俺の望む方向とは真逆となっている。
そもそもの原因は入学試験の際にHSSになって無双し、Sランクの評価を得たことであり、HSSを自在に操れない未熟さにあるのだろうが、様々なトラウマとかがあって、それは仕方なかったと割り切っている。
実際、それだけなら実力に波のある昼行灯で済んでいた筈だ。
しかし、そうならなかった理由はなにか?そんなものはひとつ。卒業して6年経つというのに、未だに伝説として語り継がれ、今なお伝説を更新し続ける史上最強と呼ばれる武偵が姉であるせいだろう。
入学試験で圧倒的な力を見せSランクで入学し、面倒くさいという理由で一切試験を受けずに、Eランクまで一時期落ちるが、『あんな化物を野放しにするな』という国際武偵連盟からのお達しで、強制的にRランクに格上げされた、現SDAランク総合1位の姉、遠山金虎のせいだ。
姉さんの弟というだけで、実力以上のものを期待されたり、蘭豹から八つ当たりされたりと、散々な目にあってきた。
でも、それとももう少しでおさらばだ。転入届を提出した俺は、晴れやかな気持ちで過ごしていた。
それだというのに、なんでこんな厄介事に巻き込まれなければならんのだ…
「あんた、あたしののドレイになりなさい!」
キンキンと響くアニメ声、ひょんなことからHSSの俺を見た神崎・H・アリアに付きまとわれる。
「悪いが、俺にそういう趣味はないし、武偵も辞めるつもりだ。」
仕方ないので、正直に打ち明ける。
「そう、でもこっちも、はい、そうですかって引き下がれないのよ!」
「知らん!そもそも俺を買い被りすぎだ!」
真剣な目で見てくるアリアだが、こっちだって真剣だ。
「確かに、あんたは私のパートナーになれるかもしれない実力がある。それは悔しいけど認める。でも、買い被り過ぎとかそういう問題じゃない!」
「何言ってんだおまえ?」
アリアの目には明らかな焦りがある。
「私と一緒に来なさい。…これは、私の命令じゃないわ。遠山かなこからの命令よ。」
これからなにが起こるというのか、ドバっと噴き出る汗が目に入ろうと気にしない程の絶望と恐怖が俺を襲った。
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―神崎・H・アリア視点―
東京武偵高転入前日、田園調布の住宅街から離れた一角。そこにある小さな一軒家にやって来た。
狐崎武偵・弁護士事務所。2年前は狐崎武偵事務所だったそこは、司法試験予備試験に合格し、弁護士資格を取得した所長、狐崎みすずによって名前が変更された。
武偵事務所時代からも、競合他社やゴロツキ共が唯一手を出さない、名前だけ全てを解決するなんて噂もある異様な事務所として、そして、異常に高い依頼料で有名な事務所だった。
ママの無実を正銘する為に、色んな弁護士の元に赴いた。しかし、皆がイ・ウーの話を出すと、妄言と笑われるか、又は断られるのどちらかだった。
そんな中辿り着いたこの事務所は、田園調布の一等地に狭いながらも一軒家として建っている所だった。
立地的には、かなりの収入が必要となる。それを数年維持出来てるということは、優秀な弁護士であり、武偵ということなんでしょうね。
だからなのかしら?イ・ウーの話題に移ったその時、他とはリアクションが違った。
「イ・ウー…懐かしい響きだわ。」
「懐かしい?あんたまさか…」
関わりがあるのか?ひょっとしたら元メンバー…様々な疑念が渦を巻く。
「貴女が何を考えているか、なんとなく分かるわ。でも、残念ながら大外れ。…あれは16の時だから、もう7年も前になるのね…」
続く言葉に備え、喉がゴクリと鳴りながらも、ガバメントに手を伸ばす。
「この案件、受けてもいいわよ。私、いえ、私たちなら今日にでも解決出来るわ。」
「は?」
話が突然飛び、間抜けな声が漏れる。
「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!7年前の話は!?」
正直、そこが気になってしまう。
「簡単よ、武偵高に退屈したから、適当な無法者相手に暴れてたのよ。その時に半殺しにした中に、イ・ウーがあったってだけ。」
「待って、意味が…」
これから決死の覚悟で戦いを挑もうという連中を7年前、彼女が同い年位の頃に半殺しにした?正直、この狐崎という女からは、それほどまでの強さは全くといっていいほど感じない。
「なんだ?客が来ていたのか。」
突然背後から聞こえる声。
「遅いわよ。それに来ていたのか、じゃないわよ。今日は依頼人が来るって、昨日伝えてたわよ。」
「そうだったか?…まあ、そんなことはいい。ほれ、土産に頼まれていたバターサンドだ。」
北海道の某有名店のレーズンバターサンドが入った紙袋を手に、狐崎の隣へ座る女。
「それよりも仕事は終わったのよね?」
呆れた様子で包み紙を丁寧に剝ぎながら、女にそう言う狐崎。
「勿論だ。ジンギスカンが食べたくなって店が開くのを待っていたら遅くなってしまったのだ。」
この女、なんか見覚えがあるような…
「ああ、神崎さん。紹介するわね。この事務所の武偵で、唯一の従業員、遠山かなこよ。明日貴女が転入する東京武偵高のOGでもあるわ。勿論、私もだけど。」
「遠山かなこ…」
見覚えがあって当然。それに、この事務所が別格扱いされる意味が分かった。史上最強の生物と畏怖される、Rランク武偵が所属しているなら、例え武装検事であってもヤり合うのは気後れするだろう。彼女ならば、イ・ウー全員を半殺しにしたと言われても納得出来る。
ロンドン武偵高にいた頃、絶対に戦ってはいけない相手として、顔写真付きで教わったその人物が目の前でバターサンドを口に放り込んでいる。
「何年だ?」
バターサンドを飲み込み、遠山かなこが私に質問してくる。
「何年?」
質問の意味が分からず、聞き返す。
「学年を聞いてるのよ。確か、2年生だったわよね?」
ああ、学年のことね。依頼に関することかと思ったわ。
「ええ、そうよ。それがなにか?」
依頼とは関係ない質問に、少し不機嫌そうに答える。今はそんな話をしている場合じゃない。
「みすず、依頼の内容は?」
私の答えを無視し、隣に座る狐崎にそう尋ねる。狐崎は溜息をついて、私に聞き取れないように耳元で囁いている。読唇術対策か、狐崎は口を開かずに腹話術を使っているせいで、話の内容は全く分からない。
「あんたたち、依頼人を無視するの!」
ほったらかしにされ、怒りが爆発寸前になる。なんなのよこいつら!
「ああ、すまない。なんとなくだが分かった。」
怒る私に対して、一切態度を変えずに、遠山かなこが口を開く。
「その依頼、受けてもよいが、お前の転入後にしてもいいか?」
「なに?先約でもあるってわけ?」
一分一秒も無駄にしたくないのに…でも、彼女以上の協力者を得る手は他にない。あまり期待せずに来たこの事務所だったけど、まさかこんな大物がいるとは思ってもみなかったわ。
でも、なんでそんな大事なことを、事務所
それなのに寧ろ、存在を隠す様にして依頼を待っている。まるで、彼女がそこにいるのを知っている者だけが依頼を出すことを望んでいるみたい…
「悪いけど、そこは守秘義務があるから答えられないわ。」
まあ、そう返されるのは予想通りだ。
「でも、転入後に契約した方が、貴女にとっても良い方向に向かうと思うわよ。」
「どういうことよ?」
やっぱり、この2人は何か重要なことを知っているみたいね。
「どうもこうも、そういう気がするだけよ。さあ、結論は出たわけだし、今日はお開きとしましょう。」
話す気はないみたいね。無理矢理にでも聞き出したい。ガバメントに手を伸ばすが、
「やめておけ。それを抜くとお前を殴らなければならなくなる。」
ガバに伸びた両手が掴まれる。速すぎてなにも見えなかった…
勝てる可能性は…無いわね。彼女の目を見てそれを察する。今こうしているのに、彼女の瞳は、全く戦う意識が無い。それなのにこれだけの速さ。上には上がいるのね。
世界最強がどの程度の高みにいるのか、今の私とどれだけレベルの差があるのか、試してみたい。そう思わないわけではない。でも、直感が絶対に戦ってはいけないと告げる。
「分かった、今回は従ってあげる。それじゃあ転入後、連絡するわ。」
やれやれと両手を上げてそう言う。
「ええ、そうしてちょうだい。見送りは?」
「不要よ。」
狐崎の言葉にそう返し、事務所を後にする。
あのふたりの思惑通りなのか、転入初日、衝撃的で、運命的な出会いを果たす。遠山キンジ、武偵殺しに襲撃されているところに助けに入った後、強猥まがいのことをされ、別人の様に強さを見せつけたその男に惹かれ、そして、パートナーになって欲しいと願った。
仕組まれたのか、それとも偶然なのか、それは今は分からない。だけど、この男となら、イ・ウーを全員逮捕し、ママの冤罪を晴らすことが出来る気がするのだ。
「あんた、あたしののドレイになりなさい!」
彼が欲しい。彼の部屋に乗り込み、伝えたその言葉は、そんな思いから出た言葉だった。
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―キンジ視点―
「な、なんで姉さんの命令なんだ!そもそも、お前がなんで姉さんから命令を受けるような立場になってるんだ!」
部屋に乗り込んで来るやいなや、放たれた言葉『ドレイになれ』そんな言葉よりも、更に恐ろしい言葉がアリアの口から放たれた。
姉さんの名前を知っている。それだけなら、東京武偵高の生徒なら皆知ってることでなんの疑問もない。武偵高の学生時代に、姉さんは様々な任務や依頼で暴れに暴れ(本人は暴れた覚えはないらしい)、S→E→Rランクというわけのわからないランク変動をやってのけ、更には、在学中にSDAランク初選出でいきなり総合1位という、これまたわけの分からんことをやってのけた。そのあまりにも突出した戦闘力で、あの暴力・銃撃、なんでもござれな凶暴な武偵高教師陣でさえも、恐れて碌に指導出来なかったという東京武偵高の伝説となった人だからだ。
しかし、何故アリアと姉さんが接触し、アリアが姉さんの命を受けているのかがさっぱり分からない。
「話すと長くなるし、協力関係にもない今のアンタには言えないわ。ただ言えるのは、遠山かなこ、そして、狐崎みすずが私のバックにいるってことだけ。」
更に聞きたくない名前が出てくる。あのふたりが一緒だと、俺は碌な目に合わない。
「みすずの事務所に行ったんだな…」
「そうよ。それだけは教えてあげる。」
ヒントはそれだけ。しかし、何故アリアがふたりと知り合ったのかは分かった。問題は、武偵か、それとも弁護士か、そのどっちへの依頼かという事だ。そして、それを知りたければパートナーとなれ、そういうことらしい。
ふたりの名前が出た以上、全力で逃げようとすぐさま捕獲されボコボコにされるのは目に見えている。選択肢はひとつしかない。
「分かった、分かった、なってやるよ!ただし、一度っきりだからな!」
こうして一度っきりのパートナー契約が結ばれてしまった。
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―峰理子視点―
見知らぬ連絡先から呼び出しのメッセージ。それだけなら別に無視すればいい。しかし、そうはいかない理由がある。ひとつはそのメッセージを受信した端末だ。
この端末のアドレスはイ・ウーのメンバー、しかもその一部にしか伝えていないし、漏洩しないように持てる全ての技術を注ぎ込んでいたということ。
そしてもう一つの理由はその内容。私が武偵殺しであることを知っているだけでなく。本名理子・峰・リュパン4世と書かれていること。イ・ウーが原子力潜水艦であることやブラドやヒルダとの関係など、知られたくないことも、知っている筈のないことが書き連ねてある。
まさかアリアが…
いや、それはない。彼女の性格なら、私が武偵殺しだと知ったら、こんな遠回しなことはせずに強襲してくるのは目に見えてる。
ならばキンジ…HSS状態ならいざ知らず、通常モードの彼を恐れる理由はないし、彼もアリア同様、こんなまどろっこしいことはしない。
なら誰が…
しかし、書かれている内容、私のことだけでなく、国家機密並みに厳重に秘匿されたイ・ウーの情報(私さえ知らない様な事まで)知りうる人物に興味はあるし、何よりも、これは脅迫、指示に従わなければ、計画は水の泡となる。
渋々と待ち合わせ場所に向かう。勿論、入念に準備を整えて。
「遅かったわね。武偵殺しさん。」
人気のない学園都市周辺の埠頭。灯台の明かりに照らされ現れた女。…見覚えがある。キンジの周辺を探っていた時に見た女。武装弁護士の狐崎みすず。
知っているのは名前と性別。キンジから聞き出した情報では、性格破綻者ということ。そして、キンジの姉で、武偵なら知らぬ者はいない、あの遠山かなこの相棒であること。
「ん~?なんのことかな~?理子分かんなーい。」
無駄と分かりつつも、バカキャラでとぼけてみる。情報収集に長けたこの女が、素顔を晒して現れている時点で、こちらの想像の数十倍の策が既になされているのだろう。
「そ、峰理子には分からないのね。なら4世さんなら分かるかしら?」
見下した瞳、嘲笑う様に上がった口角。全てが気に障る。キンジの言う通り、性格が悪い女だ。
「あぁ?」
相手の口車に乗せられてはいけないとは理解しているが、素が出てしまう。
「あら、気に障ったかしら?ごめんなさいね、4世さん。ところで本題なのだけれど、武偵殺しこと4世さんに―」
「4世、4世うるせぇんだよ!私は数字じゃねぇ!」
無駄と分かりつつも、怒りが爆発し、隠し玉であるはずの髪を操り、2銃2刀で襲い掛かる。
「いつか、本当に刺されるぞ。」
全ての攻撃が無力化されたと気付く前に、そんな声が聞こえた。
「その覚悟はあるし、碌な死に方をしないのも分かっているわ。」
自嘲気味に笑う狐崎。その前に現れたのは、一番敵対したくない女。遠山かなこ。
「全く、一度くらい痛い目にあった方が良いのではないか?」
「その時は死ぬ時よ。それよりも、さっさと終わらせましょ。」
マズい、そう思った時には既に手遅れ。掴まれた腕は、如何なる逃走術をもってしても抜け出せそうにない。そもそも逃げたところで一瞬で追いつかれる未来しか見えない。
「こちらとしても手は出したくない。大人しく話を聞いてくれぬか?」
遠山かなこが邪気のない瞳でこちらを見る。
「話?弟と依頼人を守る為に私を消すんだろ?」
戦闘態勢を切っていない、素の状態でそう言う。
「何を勘違いしているのかしら?私としては、あのふたりがどうなろうと知ったことじゃないし、かなこだって…」
「お前が殺せたとしても、キンジは死なんさ。死んだって生き返るぞ、遠山の男は。」
イカレてるとしか思えない言葉を当然といった顔で口にする遠山かなこに、ゾッとする。
「つまり、貴女が何をしようと私たちには関係ないし、邪魔する気もない。ただ、ふたつ約束しなさい。あのふたりを狙う計画において死人を出さないこと。そして、武偵高の生徒以外に被害を出さないこと。このふたつ。簡単でしょ?」
「随分とぬるいこって…」
予想以上に簡単な条件。しかし、あのふたりを倒さなければ、私がブラドたちから解放されることはない。
「安心しなさい。貴女の件はなんとかしてあげる。」
どこまでも知ってるんだなこの女は…
しかし、最強のコンビを味方につけれる可能性は、イ・ウーという組織以上に魅力的だった。