緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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外伝:緋弾のアリアif.if―開幕編Ⅱー

―キンジ視点―

 

 

 

 面倒くさいことになったな。

 アリアに強制的なパートナー契約を結ぶこととなり、そう思っていたが、その翌日は特にこれといった事はなかった。

 しかし、それとは別に、教務部からの命令で、重く嵩張るコピー用紙の運搬を行っていた。

「クソ!蘭豹の野郎、面倒くさいからって押し付けやがって…」

 ぶつくさと言いながら、倉庫から紙の束を持ち出し教務部へと向かっていた。単位が不安な俺が断れないと分かって押し付けやがったな。

 しかし、毎日毎日、しつこいくらい執拗に迫っていたアリアが今日はとんとやって来ない。俺としては平和でいいんだが、なんだか気味が悪い。

 あいつの性格的にパートナー契約が成立したと同時に更に押しが強くなると思っていたが、案外目的を達成したら興味が無くなるタイプなのか?

 そんなことを考えながら廊下を進む。教務部ももう目の前だ。

 

「ついてこいキンジ。」

「ぴゃぁっ!」

 なんの前触れもなく現れた姉さん。心臓がマジで一瞬止まったぞ!バクバクと痛い程脈打つ心臓を押える手は生憎塞がっている。

「ね、姉さん…ここ学校なんだけど…」

 絞り出した声でそう言う。

「それがどうした?行くぞ。」 

 ダメだ、話が通じない…

「ね、姉さん。待ってくれ。何処に行くのか分からんが、今仕事中なんだ。」

 手に持つコピー用紙の束を顎で指す。

「ならさっさと終わらせるぞ。誰に持って行くのだ?」

「ら、蘭豹だけど…」

「そうか、なら話が早い。」

 グイッ、と引っ張られた感覚の後、自分の足が床から離れているのが分かった。片手で軽々と俺を持ち上げ教務部に突入する姉さん。

 

 教務部、武偵高において最も危険な場所とも言われる場所。教員の機嫌や生徒の態度によっては、ボコボコでは済まない程甚振られる場所へノックもせずに突入するなど、普通の生徒なら恐ろし過ぎてやろうとも思わないだろう。

 それをこの姉は、扉を指先ひとつで吹き飛ばして突入する。

「なにしとんじゃぁっ!」

 暴挙に象撃ちをぶっ放す蘭豹を筆頭に、教務部全体から一斉に放たれる弾丸。普通なら恐怖でビビッてしまうのだが、今は姉さんに担がれている為、そんな恐怖は全くない。あるのは姉さんへの恐怖だけだ。

「なんだ?武偵高は随分と物騒になったのだな。私の時はこんなことはなかったぞ。」

 全ての弾丸を片手で払いそう言う姉さん。あんたの時もあってたよ。ただ皆あんたが怖くて手を出さなかっただけだ。

 そう、姉さんは武偵高の生徒だった頃から別格だった。教員やあの校長でさえ姉さんの反撃を恐れて何も出来なかったと、以前みすずに聞いたことある。

 それを聞いた時に思ったのは、『そりゃあそうだ』だった。武偵高の教師よりも強い、武装検事の中でもトップクラスだった父さんを、中学入学の段階で片手でいなしていた姉さんが、教員たちの手に負えるわけがないのだ。

 そんな姉さんが突如教務部へ現れたのだ、教員たちがパニックを起こさないわけがなかった。阿鼻叫喚の地獄絵図を想像したが、姉さんは誰よりも早く、そして速く動いた。

 

「蘭、久しぶりだな。キンジを借りていくぞ。」

 ドサッ、とコピー用紙の束が蘭豹の前に落とされる。

「あ、姉御…ど、どうぞ!なんなら一生こき使ってやって下さい。返しに来なくて結構ですので!」

 ふたりが知り合いだということにも驚くが、それ以上にあの蘭豹が信じられない位の汗を額に流しながらそう答えていることも驚くことだ。いや、待てよ…おい!俺を生贄にするなよ!

「よし、ではさっさと行くぞ。」

 その言葉と同時に、世界が光の線になり、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

「それで、今日はなんの用で呼び出したのよ?」

 神崎・H・アリアの質問にコーヒーを一口啜り答える。

「直に分かるわ。もうすぐ着くと思うけど、座ったら?」

 向かい合う位置にある位置を勧める。殆ど自宅と化している一軒家の事務所は、2階は生活スペースとなっているし、1階の3分の2はかなこに間貸ししている為、非常に狭くなっているけど、従業員は私とかなこだけ、事務仕事は全て私が行っているので、デスクも来客用と自分用のふたつで十分で、程よい広さだと思っている。

 

 武偵高の3年間、かなことコンビを組み、数多の依頼や任務を完遂し、面白い程稼いだ私は、大学進学と同時に一軒家を買い上げ、武偵事務所を設立した。それから司法試験予備試験を合格し、晴れて弁護士バッチを手にした後は武偵・弁護士事務所として稼働した。

 とはいえ、年に数件依頼を受ければ多い方で、一年間依頼を受けなかったこともある。依頼が無い、というわけではない。寧ろその逆、自分でも法外だと思うほどの金額を提示しても、依頼は後を絶たない。そんな数ある依頼を受けるか受けないかの決定権は私にある。だから面倒くさかったり、気に食わなければ依頼は受けない様にしている。そんな普通では有り得ない営業方針でも事務所が成り立っているのは、偏に一度の報酬額の多さだ。

 一般的な日本人の生涯賃金の数百倍の金額が一度の報酬で入って来ることさえある。それが最大の要因。かなこという最強の戦力を国家予算並みの金額をつぎ込んででも行使したい連中というのは、私が想像していた以上にこの世に存在している。

 最新型からひとつ型落ちした戦闘機でさえ1機100億円以上する。そんな戦闘機よりも遥かに強いのがかなこだ。戦闘機を10機買う位なら、彼女を雇う方が戦力としては上となるのだから、依頼が絶えないのも分かるが…

「世界って、私よりも腐ってるのね。」

 それが事務所を設立して最初に抱いた感想だった。自分でも分かる程性根が腐った私よりも、この世界は腐敗し、腐臭を漂わせている。最も、そのおかげで大金を得られるのだからwin-winなんだけど。

 まあ、そんなことはどうでもいい。目下、今現在一番大事なことは…

 

「来たわね。」

「来たって、誰よ?」

 私の言葉にそう返す神崎。

「みすず、連れて来たぞ。」

 米俵の様にひとりの男を担いで現れるかなこ。

「気絶してるわよ。」

 だらり、と力なく担がれた男を指す。

「む?全く、情けない奴だ。おい、起きろキンジ。」

 ソファーへ下ろし、体を揺するかなこ。しかし、中々目覚めない。そんなキンジの左頬をペシッ、とかなこが叩く。

「うっ…」

 キンジの目が薄っすらと開く。かなこには遠く及ばないけど、このタフさは流石姉弟ね。普通なら死んでてもおかしくないもの。

「ようやく起きたか。ほれ、みすずが話があるらしいぞ。」

「うげぇ…ところで姉さん、左の頬が滅茶苦茶痛いんだけど…」

 私の顔を見て、心底嫌そうな顔をした後、腫れた頬を押さえながらかなこを見るキンジ。随分と嫌われたものね。まあ、好かれても困るけど。

「唾でもつけておけ。直ぐに治る。」

 相変わらずな回答をするかなこを無視し、ふたりを呼んだ理由を告げる。

 

 暇潰しとストレス解消を兼ねた、愉快な喜劇が始ってくれると思うと、自然と口角が上がっていく。

 

 

 

 

 

 

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―神崎・H・アリア視点―

 

 

 

 遠山金次、彼をパートナーにしろ。

 転入初日に『武偵殺し』に狙われていたところで共闘した不可思議な男の話を契約書を書く為に事務所を訪問した際にしたら、狐崎からそう告げられた。

 そんなことを言われずとも、彼の力を目の当たりにしてから、パートナーとなることを考えていたし、なんだか命令されている様で気に入らなかったけど、彼に関する情報や行動の予想などは役に立った。

 彼が遠山かなこの弟で、彼女程ではないせよ、十分以上の実力を隠し持っているというのは身をもって知っている。それだけでも武偵として十分に魅力なのだが、それとは別に、なんだか彼に対して不思議な思いを抱き、実力とかそういうのとは違った魅力を感じる様になっていた。

「一度だけ。」

 そういう契約でパートナーとなったことを狐崎に伝えた翌日、呼び出しの連絡を受けたのだった。

 

「それで、今日はなんの用で呼び出したのよ?」

 用件も告げずに呼び出された身としては、文句の一つも言いたくなる。

「直に分かるわ。もうすぐ着くと思うけど、座ったら?」

 説明する気が全くないと分かる狐崎は、コーヒーを啜りながらそう言う。風穴を開けてやりたいが、ここで争っても意味がない。彼女と遠山かなこのふたりは、ママの冤罪を晴らすという目的において、最も強力な武器なのだから。

 

「来たわね。」

「来たって、誰よ?」

 事務所の入口を少し見て狐崎がそう言うので、質問する。しかし、その質問の答えは、彼女の口からではなく、直ぐに目の前に現れた。

「みすず、連れて来たぞ。」

 遠山かなこの姿と声。そしてその右肩に担がれているのは…キンジ!

 なんで気絶しているの…?

 

 目覚めたキンジと並んでソファーに座らされる。

「さて、大切な話をするわね。…でもその前に行くべきところがあるわ。」

 チャリ、と車のキーをキンジへと放り投げる狐崎。運転しろということだろう。

「行くって、何処だよ。」

 鍵を掴み取ったキンジが苛立った様子で質問する。

「行けば分かることをいちいち聞かないでくれるかしら?さっさと行くわよ。予約の時間に遅れるわ。」

 立ち上がり、そう言う狐崎。それと同時に身体が浮遊感に襲われる。

「姉さん、放してくれ!」

 キンジの言葉で、自分が担がれているのだと気付く。ホント一瞬でふたりを軽々と持ち上げる辺り、この人とは敵対したくないわね。

 

 某国産自動車メーカーの高級ミニバンに乗せられる隣に座るのは遠山かなこ。助手席には狐崎が座る。

 狐崎が手早くカーナビを入力し、音声案内が始まる。…目に映った目的地に、怒りや悲しみ、様々な感情が入り混じった、なんとも言えない思いが込み上がってくる。

「さあ、出発よ。」

 狐崎の声に、渋々という感じでアクセルを踏むキンジ。彼にはまだなにも伝えていないし、教えるかどうかも決めきれていなかったのに…この女、何を考えているの…

 

「ママ!!」

「アリア!!」

 アクリル板越しでなければ、どれだけ幸せだったのかしら。

 でも、もうすぐよ。1度っきりとはいえ、パートナーも出来たし、なによりも最強のコンビが味方についている。

「時間よ。」

 狐崎の声で面会が終わる。その時、今までの面会とは違う、少しだけ晴れやかな気持ちでママと別れることが出来た。

 

「少し待ってなさい。」

 私とキンジが面会室を出たところで、狐崎にそう言われる。彼女と遠山かなこが面会室に残ったまま、重い扉が閉ざされる。

「アリア…」

 心配といたたまれなさ、疑問の混じった瞳でキンジが私を見る。

「アンタに何も伝えていなかったのは悪かったと思っているわ。何度か伝えようとは思ったのよ。でも…」

 知ってしまったのなら、危険が彼にも及ぶ。完全なパートナー契約というわけではない彼をどこまで巻き込んでいいのか分からなかったのだ。

 沈黙の時間。お互いに何を言っていいのか分からなかった。

 

「待たせたわね、話は終わったわ。帰りましょう。」

 面会室から出てきた狐崎の言葉で拘置所を後にし、車へと乗り込む。

「おい、イ・ウーってなんなんだよ!?」

 車へと乗り込んで、開口一番にキンジが狐崎に詰め寄る。

「教えてあげてもいいけど、覚悟はあるのかしら?イ・ウーは第Ⅰ種機密。知れば公安0課や武装検事が消しに来るわよ。全てをね…」

 そう、イ・ウーはそういう扱いの連中だ。だからこそ中々言い出せないし、弁護士も見つからなかった。もっとも、じゃあなんでアンタは知ってて、しかも無事でいられるのか?という疑問はあるが、彼女たちはそういう次元の上にいるのだろう。

「勝手に巻き込んでおいてよく言うぜ…なんでお前は消されないんだよ…」

 まるで消されて欲しいと言わんばかりの言い方だ。

「公安や武検如きが私たちを消せると?もう少し考えてものを言いなさい。」

 呆れた、と言う様に狐崎が言う。少なからず日本では最強クラスであるふたつの組織を取るに足らないと言い切ってしまうこのコンビを野放しにしてていいのかしら…

 

 事務所に戻り、ソファーに腰を下ろす。ここから彼女の言っていた『大切な話』というのに入るのだろう。

「まずは落ち着いてこれを読みなさい。」

 差し出される1通の封筒。彼女は既に中身を確認しているのだろう、封が切られている。

 中から出てくるのは1枚に紙。その内容に怒りと、それ以上の恐怖が込み上がる。

「読み終えたみたいね。」

 そんな私の表情を見て察したのか、狐崎が落ち着いた様子で言う。

「待って!契約書を交わしたのよ!」

「よく読まずに署名と捺印したのね。あれは仮契約書よ。それに、仮に契約書だったとしても、着手金も貰ってないし、契約の無効化は可能なのよ。」

 あの紙に書かれていたのは、狐崎に対する勧告。私の依頼、要するにイ・ウーに関する件から手を引けということだ。そして、彼女はそれに従う気でいる。

「アンタたちなら政府だろうと、公安も武検も怖くないんでしょ!」

 そう、つい先程そう言っていたじゃない!

「ええ、別に彼らと1戦交えることになったとしても、こっちは全然構わないわ。寧ろそれを恐れているのは彼らよ。だから、武力ではなく、弁護士資格の剥奪という手に出たんでしょ。」

 狐崎に対する勧告内容は、この件から手を引かない場合、彼女の弁護士資格の永久的に剥奪するというもの。

「だから、私は貴女の依頼は受けられないわ。そもそも、資格を剥奪されたら、弁護士と依頼者という契約関係だって崩れるじゃない。それに、法廷にも立てないし、貴女の望む結果を出すことは出来ないのよ。」  

 彼女の言う通り、彼女が弁護士でなくなってしまったら、契約も意味を成さない。しかし、

「弁護士でなくとも武偵であれば逮捕権はあるわ!法廷に立てなくてもイ・ウーの奴らを逮捕出来れば冤罪は晴れるのよ!」

 裁判は別の弁護士に任せればいい。彼女たちならそれが出来る筈だ。

「まあ、そういう手もあるわね。でも、なんで貴女の為に私の弁護士資格を剥奪されなければならないの?別に弁護士という仕事に拘りはないわ。でもね、なんで私の社会的地位や資格をただの依頼人の為に奪われるのは看過できないわ。」

「は?」

「だから、なんで貴女の為にそこまでしなければならないのかしら?私は正直イ・ウーなんてどうでもいいのよ。7年前、奴らの全てを知って以来、興味なんて無くなったの。今回依頼を受けてもいいと思ったのも、なんとなく面白そうってだけだし。」

「ア、アンタ…」

 怒りで声が震える。最初から私やママの為なんて思いは無かったんだ…ひとりではしゃいで、そんな姿をこの女は笑っていたのね。

「まあ、私だってそこまで鬼畜ではないわ。現に、ちゃんと貴女の望む結果をもたらせる様にしてあげたでしょ。」

「いや、お前は鬼畜とかそういう次元を超えた性悪だろ。」

 キンジがそう言うが、そんな彼に対し、ドス黒い微笑みを向ける狐崎。背筋がゾクゾクと震える様な微笑みに、キンジは苦い顔をする。

「神崎さん。そこのバカをパートナーにさせたでしょう。貴女とこのバカのふたりなら、貴女の望みは叶うわよ。もっとも、御膳立てはしてあげたけど、貴女とキンジの契約がいつまで続くかは、貴女たち次第だけど。」

 彼女はどこまで知っていて、何を考えているのだろう。私の直感を持ってしても、分かるのは、私たちは彼女の掌で踊らされているのだということだけだ。

 正直、今すぐにでも風穴を開けてやりたいが、彼女の横に立つ遠山かなこの瞳を見ると、そうする覚悟が出来ない。

「どうしても駄目そうな時は、私ではなく、かなこ個人に頼みなさい。イ・ウーだろうが貴女の国のMI6だろうが、一瞬で潰してくれるわよ。まあ、かなこがそれを受けるかどうかは、キンジ次第でしょうけど。」

 余裕の笑みを浮かべる狐崎。やはり、彼女の掌で踊らされているのだろう。

「待て、なんで俺なんだよ!」

 キンジが不服そうに言う。それに対し、答えたのは、狐崎ではなく、遠山かなこだった。

「みすずに言われて思い出したが、そのイ…イなんとやらは大したことない連中だ。その程度の相手を倒せず、お前が私に泣きつくなら、お前を鍛え直さねばならんからな。」

「やります!やりますから!それだけは勘弁して下さい!」

 キンジが顔を青くしてそう答える。遠山かなこ、彼女は一体、どれ位強いのかしら…

 

「畜生、最悪だ…」

 狐崎の事務所を出た後、キンジがそう呟く。流石に彼に同情してしまう。

「ねえ、そんなに怖いの?アンタのお姉さん、遠山かなこって。」

 しかし、公安や武装検事に追われる可能性があるイ・ウー関連よりも実の姉を恐れる彼に疑問を持った。

「武検の数千、いや数億倍怖い。姉さんひとりで武装検事全滅させれるし。」

 実体験の様な口振りのキンジ。それが本当なら、怖いなんてレベルじゃ収まらないでしょうね。

「絶対、1度っきりだからな!俺は普通の人生を送りたいんだ!」

 力強くそういう彼、しかし、その目を見て直感が働く。

「どうかしら?アンタはなんだかんだ言って、あのふたりには逆らえないんじゃないかしら?」

 本当に感じたことは言えない。恥ずかしいから。だって、本当に感じたのは、半分以上が私の願望。キンジがずっと私のパートナーになってくれるという未来だったから。

 

 

 

 

 

 

 

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―シャーロック・ホームズ視点―

 

 

「お久しぶりね、『教授』。貴女の望む通りのシナリオにしてあげたわよ。『緋弾のアリア』だったわよね?」

 イ・ウーの生徒である理子くんと夾竹桃くんがそれぞれのターゲットへの正面対決入ったと連絡があった直後、突然イ・ウーの船長室に入った回線。予知出来なかった連絡者。そこから放たれた言葉。出来れば二度と聞きたくなかった声だ。

「ああ、お久しぶりだね、狐崎さん。ところで、僕は君にその話をした覚えは無いんだが…」

 

−−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−

−−−

 探偵として推理を極めてしまい、その推理力は、最早予知の域に迄達していたというのに、7年前、その予兆さえ見抜かせず。イ・ウーの真実を突き止めた少女、狐崎みすず。

 僅か17歳という若さで、僕と同等、もしかしたらそれ以上の推理力を持った少女に、驚愕と、それ以上の興奮を感じた。

 僕や、嘗て相対した宿敵にして好敵手、モーリアティ教授。それを超えるかもしれない存在という高揚感。童心に還った様に、いつになく興奮してしまっていた。

 

「イ・ウー。第Ⅰ種国家機密になるなんて、どれだけのものかと思ったけど、拍子抜けだわ。かなこの退屈しのぎにさえならないなんて。」

 僕と向き合った彼女の第一声はそれだった。イ・ウーのメンバーたちが次々と叩きのめされるという珍事を推理していた時だった。

「まあいいわ。疑問は解決されたし、帰るわ。」

 ひとりで納得し、完結した彼女に声をかけた。

「お茶くらい飲んでいったらどうだい?」

 それは、純粋に彼女に興味を持ってしまった故に出た言葉だった。

 

「何故君はここに?」

 狐崎みすずと名乗った少女は、差し出した紅茶を啜りながら僕の問いに言葉を返す。

「探偵なら、推理してもらいたものね。」

「はは、そうだね。じゃあ、僕の推理では、君は知的好奇心を満たす為にここへ来たんじゃないかな?」

 僕の推理に、カップを置く彼女。

「半分正解ね。イ・ウーなる組織の実態が知りたかったっていうのは間違っていないわ。でも―」

 そう、言葉にはしなかったけど、それも分かっている。彼女はひとりではない。もうひとりの為にも動いているのだ。

「君のお友達は随分と強いみたいだ。」

「ええ、そう。あの子の飢えを満たしてあげたいのよ。」

 彼女の友人は強過ぎて、己の力を存分に発揮出来ず、フラストレーションが溜まっているのだろう。

「なら、イ・ウーにおいで。ここはお互いを高め合う、言わば学校みたいなものだ。」

 彼女たちが欲しい。これ程の逸材はもうお目にかかれないかもしれない。

 緋弾の力さえ凌駕しそうなふたり組に好奇心が抑えきれなかった。

 

「お断りするわ。私ひとりだったら考えていたかもしれないけど、私にはあの子がいるもの。」

 まだ姿を見せない彼女の友人。その人物にも興味がある。

「残念だ。でも、それは断る理由としては情報があまりにも少なすぎる。」

「そうね。ああ、別に教えたくないわけじゃないわ。ただ、少し調べれば分かることよ。」

 次の言葉を促す。

「かなこは、教える、教わるという行為に対して絶望的に向いてないのよ。」

「成程、確かにそれはイ・ウーに居ても退屈だろうね。」

 推理出来なかった答え。しかし、悔しさよりも面白いと感じてしまった。

「それじゃあ、そろそろ始めようか。彼女も退屈しているだろうし。」

「流石名探偵ね。かなこ、相手してくれるそうよ。」

 その言葉と同時に現れる少女。ブロンドヘアーを靡かせる、女性嫌いな僕でさえ見惚れる様な美少女。

「今までの奴らよりも強いな。それも、盲目で…」

 目を合わせただけでそれを察する辺り、彼女の実力は本物だろう。彼女もまた、僕の推理を超えてくる存在らしい。

「よく分かったね。今まで誰にもバレなかったのに。何故分かったんだい?」

 僕の言葉に首を傾げる彼女。

「分かったからだ。他に理由があるのか?」

 成程、彼女は推理ではなく、直感だけでそれを察したのか。直感だけなら僕を超える。だけど…

「右のストレートだね。」

 彼女の攻撃を推理する。躱して正解だった。推理を超える威力、受けていればあの一発で再起不能だった。

 

「かなこ、彼は頭を最大の武器としているわ。最も得意とするところで戦ってこそ意味があるんじゃないかしら?」

 初撃を躱した直後、狐崎女史がそう言う。成程、かなこくんの直感は僕を超える。しかし、推理と知識であれば負ける気はない。面白い勝負だと思う。

「頭か…私も負けたことがないぞ。」

 己の額を親指で叩きながら、僕へと近づくかなこくん。何故だろう、彼女の考えが読めない。

「ふん!」

 条理予知の外…いや違う。彼女は何も考えていないんだ。読める筈がない。

 頭突きが決まり、意識が途切れる。あの最初の一撃は、彼女が僕の実力を測る為に、思考したが故に躱せたのだ。思考を止めた彼女の攻撃は、全て条理余地の外にある。

 こんな攻略法があったなんてね…

 意識が落ちるまでの一瞬で辿り着いた推理。僕は彼女には勝てない。理の中にあるからこそ予知が出来る。理から外れた彼女は、僕の及ぶ範囲にはいないのだから。

 

−−−−−−−

−−−

 

「僕も老いたみたいだ。君の考えが全く分からないよ。」

 彼女に、いや、誰にも打ち明けていない筈の秘密さえ知っている彼女に、柄にもなく恐怖を感じる。

「あれから考え方が変わったのよ。知的好奇心は永久に満たされない。なら、満ちないものを満たすより、楽しんだ方がいいと思わないかしら?」

「君にとって、僕の計画さえ喜劇の1幕だと?」

 まるで、全ての結末を知っているのかの様な口振りだ。

「貴方が追い求める色金とそれ以外、そうね、もうひとりの教授も、結局かなこの飢えを満たせない。それなら、少しは私を楽しませてくれたら十分、別に何も期待していないわ。」

 あの時の予想通り、彼女は僕を超えてしまったらしい。人の事は言えないけど、彼女は、性格さえまともなら、本当に僕を超え、世界で最も偉大な探偵になれただろうに…

「お生憎様、この性格は生まれつきだし、私はあの子の隣いれればそれでいいの。」

 口には出していない。電話越しでも思考を読み取れるみたいだ。

「それじゃあ『教授』、面白い舞台を期待してるわよ。」

 ブツリ、と切られる回線。

 なんだろう、胃が痛くなってきたよ。

 

 彼女との通話が終わり、それ程の時間も空かずに、理子くんと夾竹桃くんの敗北の一報が入った。

 別にこれは計画通りだし、なんの疑問も、違和感もないのに、なんだか彼女の掌の上で踊らされている気分になった。

「やはり、歳には勝てないのかな。」

 

 

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