緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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外伝:緋弾のアリアif.ifー虎と狐と毒百合編ー

ー獅堂虎厳視点ー

 

 

 公安0課

 この組織に入り、もう何年経つのだろう…生まれ持った特異体質と経験、技術で他を圧倒し、様々な事件や裏仕事を数々こなしてきた。三式となってからももう随分と経ってしまった気がする。

 そんな公安0課は、武装検事と同じく、常に命のやり取りをしており、明日は知れぬ身。当然、いつだって人材不足に悩まされている。

 優れた人材はいつだって奪い合いとなるのに、優れた人材は好き好んでわざわざ公安や武検を選ばない。それ以上に稼ぐ手段があるのだから、その選択は当然だと言える。

 なので、俺たち公安0課は、多少強引になっても、人材を引っ張って来る必要がある。目ぼしい人材を早めにピックアップし、何処よりも早く、強引な手段だって用いて捕まえる。相手は高校生になることが多く、如何に才能と実力があっても、経験値と技術で勝てる故にそういう人材確保術が用いられることもしばしばだ。

 

 じゃあ、なんで捕まえにきた相手に、俺たちはボコボコにされてんだ?

 東京武偵高の卒業を控えたあるひとりの生徒を獲得すべく、公安0課の総力を持って挑んだ一大大捕物の筈だった。

「なんだ?もう終わりか?」

 俺たちは総力を以てしても、傷1つどころか、有効打1つ与えることが出来ずに、地に伏していた。

「最近は、仕掛けてくる者がいなくなり、退屈していたのだが…やはり物足りないな。」

 遠山金叉の長女で東京武偵高3年、遠山金虎。異次元の強さと世界的に知られたビックルーキー。公安0課としては、喉から手が出る程欲しい人材だった。

 しかし、現実はどうだ?力で屈服させ、公安入りさせた後に、将来の一式を任せるなんて構想だったが、一から三式の総懸りでも手も足も出ない。

「して、お前たちは何者なのだ?私はこの後約束があるのだ、もう帰ってもいいのか?」

 ペシペシと俺の頭を叩きながらそう言う少女。起こそうとしているのだろうか?いや、殺そうとしているのか?だって一発一発が滅茶苦茶痛いぞ!

「痛ぇ!痛ぇって!ヤメろ!起きてるからヤメろ!」

 少女の手を払いながら、ふらつく足で起き上がる。

「うむ、なかなかに頑丈だな。まあ、手加減は完璧だったし、当然か。」

 うんうんと頷く少女。絶妙な力加減が出来たと自画自賛している。

「おい嬢ちゃん、オメェなんなんだ?」

 正直、同じ人間だとは思えない。

「武偵高の生徒だが?」

 何言ってんだこいつ、という目で俺を見る。自覚がないのかこいつは…

「卒業後、進路は決まってんのか?」

 この実力なら、引く手数多。どんな武偵事務所だろうが、組織だろうが、よりどりみどりだろう。

「4年程暇だな。全く、みすずの奴。大学に行くと言って聞かぬのだ!ふたりで一緒に事務所を持つ約束だったというのに!お陰でみすずの卒業までの4年、することがない。」

 あれ、これはチャンスなのか?4年という制限付きだが、暇を持て余す怪物を飼うことが出来る可能性がある。

「なあ、ならその4年間、公安に来ねぇか?」

 漸く交渉に入れる。さっきは少し殺気を出して近づいたら、交渉する間もなく、問答無用でボコられたからな。

「別に構わんが…公安とはなんだ?」

「嘘だろ…」

 純粋無垢な、曇1つない目で質問してくる少女。

 武偵高に通って、公安0課を知らない奴がいるのか!?しかも、知らない癖にノーラグでついてくる気だったぞこいつ!

 大丈夫なのか…寧ろ、今までどうやって生きて来たんだ…知らない人について行くなって教わってないのかよ…

「とりあえず、公安所属に異論はないんだな?詳しく話は後日やる。迎えをやるから、くれぐれも手を出さないでくれよ。」

「分かった。忘れるまで覚えておく。」

 しかし、このまま変に説明せず、引き込んでしまう方が良さそうだな。こいつがアホで良かったぜ。

 なんか不安な1言が聞こえた気がするが、聞こえなかったことにした。

 

 後日、よりにもよって送迎役は俺になってしまった。上司が言うには、俺が奴の担当になるらしい。

 何故だ、胃が痛くなってきたぜ。

 

「なあ、なんで殴った?」

「すまん、忘れていた。しかし、ちゃんと思い出したぞ。」

 待ちあわせの場所で再会、それと同時に一発殴られた。

 殴り心地で思い出したらしいこいつは、何故か褒めろという表情でそう言う。なんなのこいつ…

 しかし、以前より威力が低かった(それでも十分悶る程痛かった)あたり、本当に身分確認の為の一発ということなのだろう…

 あれ?それじゃあこれから毎日殴られるのか!?マズいぞ、1秒でも早く俺のことを覚えさせなければ、任務ではなく、日常生活で殉職することになってしまう…

 

「どうだ、分かったか?」

 机を挟み、向かい合って公安0課の仕事の説明を終え、書類を出す。こんなに苦労する新人研修は初めてだぞ。

「おい、聞いてんのか?」

 全く返事がない遠山かなこに声をかける。聞こえてきたのは規則正しい寝息。こいつ…

「おい!なに寝てやがる!起きろ!」

 何故このタイミングで寝れるんだ。本当に訳がわからない女だ。肩を揺すり、起こしにかかる。

「ん…うるさい!」

「ごぶぁッ!!」

 初めて喰らった一発よりも、遥かに威力の高い一発が顔面に突き刺さり、意識が一瞬で途切れた。

 

「おい、起きろ。こんなところで寝るな。」

 肩を揺すられ、うっすらと目が開いていく。

「全く、こんなところで寝るとは…」

 呆れた様な表情で俺を見下ろす遠山かなこ。いや、お前にだけは言われる筋合いが無い。そもそもの原因だってお前だろうが…

「人のこと殴っておいて、随分な言い草だな…」

「私は何もしておらんぞ?人のせいにするな。」

 こいつ、マジで寝惚けてやったのか。

「居眠りしてるお前を起こしたら殴っただろうが!お前に人をどうこう言う資格はねぇ!」

「難しい話をするのが悪いのだ!私が寝たのは悪くない!」

「うるせぇ!このバカ女!別に難しい話なんかしてねぇだろうが!」

 本当に、こいつで大丈夫なのか?今ならまだ間に合うんじゃないか?

「バカと言ったな!許さんぞ!」

 マウントをとられ、ボコボコにされる中、こいつは組織に入れるべきではないと確信する。

 こんな無茶苦茶な奴の手綱を、誰が握るというんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===============================

―狐崎みすず視点―

 

 

「それで、どうするのか決めたの?」

 卒業を間近に控えた休日の午後、喫茶店でかなこと話していた。

 卒業後、私は大学へ入学する。それは武偵高入学前から決めていたことだ。

 しかし、対するかなこには、なんの将来のビジョンもない。いや、あるにはあるみたいだけど、どれも今すぐというわけにはいかないものばかりだ。

 とりあえず自分より強い者を探すという最大の目標は、多分、一生達成されることはないでしょうし、一緒に武偵事務所を開くという目標も、私の大学卒業を待つことになる。

 彼女には空白の4年間が待っている。今日は、その4年を、どの様に過ごすのか、彼女の意思を尊重しながら、一緒に考えるつもりだった。

 

「決めたぞ。えーっと、こ、港湾0か?とやらに入ることにした。」

 自分が入る組織名さえ覚えていない友人に頭が痛くなる。

「港湾じゃなくて、公安よ。よりにもよって、面倒なところに入るのね。かなこなら、もっと稼げる場所は沢山あるのに。」

 彼女に公安0課が接触していたのは知っている。まさかそこをわざわざ選ぶとは思っていなかったけど、彼女ならその場のノリで勧誘に乗るのは十分に有り得ることね。

 まあ、公安0課なら、ちょくちょく抜け出して私との仕事も出来るし、よしとしましょう。そもそも、かなこ手綱は、私が握っているのだから。

「別に金など要らぬ。私は強い者と戦えればそれで良いのだ。」

 何度も聞いたその言葉。彼女の意思は揺るがない。それでも、私と共に歩むことを選んだのだから、自惚れかもしれないけど、彼女にとって、私の存在はそれと同等がそれ以上であるということね。

 柄にもなく口元が緩む。それを隠す様に、コーヒーの入ったカップを口元へと運んだ。

 

 かなこが去った後、ひとり喫茶店に残っていた。話すべき相手がもうひとりいるからだ。

「それで、目的は私?それともかなこかしら?教えてくれるかしら、鈴木桃子さん?それとも夾竹桃って言った方がいいのかしら?」

「噂通りね、狐崎みすず。彼女を帰してよかったのかしら?」

 イ・ウーという無法者たちの組織に属する少女。確か私たちと同い年だったわね。

「ええ、難しい話になるのなら、あの子は邪魔だもの。それに、私に何かあれば、あの子はそれこそ地の果てからでも駆けつけるわ。」

 夾竹桃、私ひとりであれば、赤子の手をひねる程度実力差がある。しかし、かなこと彼女は、それこそ比べものにならない力の差がある。

 警戒心が強い彼女は、かなこがいたなら現れていないだろう。

 

「信頼してるのね、彼女を…さっきの会話も盗み聞きさせてもらっていたけど…貴女たちいいわ。」

 鼻を押さえながらそういう夾竹桃。盗み聞きしていたのは知っている。その目的が知りたかったのだが、彼女の表情で分かってしまった。

「悪いけど、貴女が考えている様な関係ではないわよ。クリスチーネ桃子さん。」

 同人作家としての彼女の名を言う。

「それは大丈夫よ。妄想で補うから。…ああ、ちゃんと個人が特定出来る様なことは無いようにするから安心して。」

「作品にされること自体が安心できないわ。人の趣味にとやかく言う気はないけど、私に…私とかなこに害が少しでもあるなら、2度と筆を持てない様にするわよ。」

 私たちに害を成す者へ、容赦する気はない。かなこを言いくるめて、全力を以て必ず排除する。例え何処に隠れていようと。

 

「それは勘弁願いたいわ。それに、貴女とは友好的な関係でいたいわ。これから同じ大学へ通う者としてはね。」

「薬学部だったわね。法学部の私とは会うことは滅多にないとして思うわよ。」

「お互いに、今更大学で学ぶことなんてないでしょう?ただ、肩書の為。違う?」

「概ね当たりね。でも、私は他にすることがあるのよ。」

 かなこと共に適度な小遣い稼ぎをしなければならない。既に事務所を設立するのには十分な資金はあるが、資金は多くて困るということはない。稼げるだけ稼いでおくほうがいい。

「それに、かなこは公安所属になるわ。無法者集団のイ・ウーとしてはあまり関わらない方がお互いの為ではないかしら。」

「大丈夫よ。なんとなくだけど、あの子そういうことを気にしなさそうだもの。」

 案外人を見る目はあるのね。

「まあいいわ。大学の間は友好的にしてあげるわ。勿論、貴女次第だけどね。」

 彼女の持つ毒の知識は、なにかと役立ちそうだし、使えるものは使っておきましょう。

「なら、私たちは友人、ということになるのかしら?」

「残念だけど、それはないわ。あくまで友好関係、私の友人はかなこひとり。他はいらないのよ。」

 歪んだ価値観だが、それを変える気はない。

「それならそれで構わない、いいえ、そっちの方がいいわ。やっぱり、貴女っていいわ。」

 再び鼻を押さえる夾竹桃。なにかよからぬ妄想をしているのでしょうけど、考えるだけ無駄ね。

 

「じゃあ、私は帰るわ。お会計、お願いね。」

 椅子に置いていた荷物を手に取る。

「ええ構わないわ。とってもいいネタを提供してくれたんですもの。これくらい安いものよ。私は少しネタを纏めて帰るわ。」

 鼻を押さえたまま、そう答える夾竹桃。もう少し頼んでおけばよかったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―夾竹桃視点―

 

 

 筆が…妄想が…止まらない!止まらないわ!!

 

 少し前から目をつけていた女ふたりの武偵チーム。誰もふたりの間には入ることが出来ない、そう評されたふたりの武偵。その噂を聞いた私は、胸の高鳴りを抑えることは出来なかった。

 そんなふたりを偶然街で見かけ、その後を追った。途中、追っていることを気付かれていることが分かったが、彼女たちは私をあえて無視して会話を始める。

 氷の仮面でも被ったのかと言いたくなる様な、冷淡な無表情だった狐崎の口元が緩む。彼女が遠山かなこにしか見せない表情。

 いい!最高だわ!

 ああ、妄想が捗る!!これだから傍観者はやめられない!!

 

「それで、目的は私?それともかなこかしら?教えてくれるかしら、鈴木桃子さん?それとも夾竹桃って言った方がいいのかしら?」

 ひとり喫茶店に残った狐崎みすず。彼女から声が掛けられる。私の尾行はバレているのはわかっていたけど、このタイミングなのね。

 鼻から熱いものがこみ上げてくるのを押さえながら、向かい合わせに座る。

「噂通りね、狐崎みすず。彼女を帰してよかったのかしら?」

 本当ならふたりが並んで座る姿を眺めたかったけれど、遠山かなこは私の想像以上に破天荒。ちょっとした好奇心でどつかれたら、私は三途の川を渡ることになるのだから、彼女ひとりであることを幸運に思いましょう。

 そこから、彼女との話し合い。とは言っても、どちらも仕掛ける気はない気楽なもの。

 

 狐崎みすず、彼女は少し、ほんの少しだけ私に似ている。そう、陰気臭い感じとか…

「なら、私たちは友人、ということになるのかしら?」

「残念だけど、それはないわ。あくまで友好関係、私の友人はかなこひとり。他はいらないのよ。」

 少し親近感が湧いてきた私の申し出を、彼女は、バッサリと切り捨てる。

 断られ、流石の私も多少のショックはあるかと思っていたけど、彼女の返答にそれどころじゃなくなる。…最高のネタだわ。

「それならそれで構わない、いいえ、そっちの方がいいわ。やっぱり、貴女っていいわ。」

 鼻から熱いものが溢れてくるのをハンカチで押さえ、そう言った。

 

「じゃあ、私は帰るわ。お会計、お願いね。」

 狐崎が、椅子に置いていた荷物を手に取る。

「ええ構わないわ。とってもいいネタを提供してくれたんですもの。これくらい安いものよ。私は少しネタを纏めて帰るわ。」

 そう、喫茶店の会計程度安いもの。それよりも、今すぐにでも、この妄想を紙に書き起こさねば!!

 

 退屈になるだろうと思っていた大学の4年間は、想像以上に刺激的で、魅力的な日々になるわね…

 止まらない右手、思う限りの妄想を紙にぶちまけながら、これから始まる大学生活を予想し、左手に持ったハンカチで鼻を押さえた。

 

 

 

 

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