口調とか、一人称とかいろいろと無茶苦茶です。
ごめんなさい。
―サイオン・ボンドのトラウマ―
「ここは。」
目が覚め、周りを見る。…本部の治療室か?体を起こそう動いた時、左腕に痛みが走る。その痛みで、思い出す。
「俺は、負けたのか。」
某国の秘密工作員の処理、その任務を終えた直後に、現れた女。女とは関わらない、そう決めている俺でさえ、一瞬、見とれてしまう美女だった。
しかし、俺が気づけないレベルで気配を消していた時点で、警戒すべき相手と分かったが、そいつが、俺の利き腕を当てたことで、更に警戒を強めた。
その女は、英語が通じず、日本語を扱うことで、日本人だろうと予測した。そのせいで、ひとりの日本人、俺の認めた男、『トウヤマ・キンジ』を思い出してしまった。そして、その名を出したことが、間違いだった。女は、トウヤマを知っていた。そして、そのトウヤマに勝ったと言った直後、奴は戦闘を開始し、俺は、負け、ご覧のあり様だ。
あいつが何者かは分からないが、トウヤマの敗北に反応し、俺を攻撃したということは、奴は、トウヤマの女か、敵なのだろう。そんな予想を立てる。前者なら、トウヤマの評価を改める必要がある。後者なら、とんでもない奴に目をつけられたな、と生きていることを祈るばかりだ。
サイオンは前任者の養父のことを振り返る。養父は女好きで、優秀なエージェント
であったが、女に足を引っ張られていた。だから俺は、女との関わりを避けてきた。
そして、今回の出会い。
「女とは、恐ろしい生き物だ。」
サイオンは誓った。絶対に女とは関わらない、いや、関わりたくない。
サイオンの女嫌いは、これまでの倍の速さで加速したのであった。
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―シャーロック・ホームズ一世が最も推理を外した日―
僕は、シャーロック・ホームズ。自分で言うのもなんだが、世界一の探偵だ。今の武偵制度の元にもなった。僕の推理力は、日々向上し、今では未来予知の域に達した。僕はこれを『条理予知』と呼んでいる。
そして、僕は、イ・ウーという組織のリーダーを今はしている。ここには、様々な超人たちが所属しており、日々、研鑽を積んでいる。また、新たなメンバーを加える為に、世界中の有能な人材を求め、勧誘している。
そんな中、僕が目を付けた一族、『遠山』と『間宮』だ。実に興味深い。彼らが加われば、イ・ウーは、僕が、あの子に譲る時に、更に素晴らしい組織になっているはずだ。『間宮』の勧誘は、メンバーに任せるとしよう。もっとも、『間宮』は加入しない、と推理してしまったけれど。
『遠山』の勧誘は、僕が、いや、推理したら、僕以外、行けないだろうね。『遠山』には、面白い人物が多数いる。金叉を筆頭に、金一、金次、ああ、他にも、人工的に作られた、『遠山』もいると推理したよ。
でも、僕が勧誘はしたいのは、『遠山金虎』だね。彼女は、日本政府が存在を秘匿していた。まあ、秘匿していてくれたおかげで、推理出来たけどね。強すぎる故に隠された。興味深い『遠山』の中でも、そんな彼女に一番の魅力を感じた。しかし、推理してみると、確かに彼女は、強い。メンバーたちだと、全員で行っても、返り討ちにされると推理出来た。だから、僕が行くことにした。僕の好奇心もあるけれどね。
さて、ここにいるはずだ。うん、やはりいた。僕は、盲目となっているが、分かる。あそこにいる、ブロンド髪の女性が、『遠山金虎』だ。僕の推理では、人気のない所に行って、殺気でも出したら来るはずだ。僕は、殺気を徐々に強めながら、移動する。
ここでいいかな、人気も監視もない海辺に立つ。ここなら、本拠地―原子力潜水艦・ボストーク号―も寄せられる。最高の立地だ。
「推理通り、来たようだね。」
遠山金虎が、僕の殺気を追ってやってきた。
「強者の気を感じたが…、貴公で違いないか?」
「君の言っている、気というのが、これのことなら、僕で間違いないよ。」
そう言って、殺気を強める。あの、自由気ままに振る舞う、イ・ウーのメンバーたちを纏めてきた、彼ら以上の強者である証明。その殺気を放つ。
「む、この気、確かに貴公に相違ない。」
この殺気で怯まない…、推理はしていたけれど、日本政府が隠す訳だ。では、勧誘を始めようか。僕の推理では、彼女と一戦交える必要があるけれど。
「なかなかの気、強者とお見受けする。出来れば一戦交えたい。」
推理通りだね。でも、その前に、
「その前に、ひとついいかい?僕は、君を勧誘しに来たんだ。イ・ウーという組織にね。僕はシャーロック・ホームズ。その組織のリーダーをしている。僕の推理では、君は、僕の話しを聞けば、興味を持つはずだよ。」
僕の言葉で、彼女が、ピクリと反応する。それを見て、勧誘を続ける。
「イ・ウーでは、自己の鍛錬や目的の実現、それぞれの目標の為の組織だ。メンバーたちは、時に教師となり、自身の技術を伝え、時に生徒として学び、自己を高める。僕の推理では、強さを求める君に、ピッタリだと思うんだ。」
勧誘の第一段階を終える。僕の推理では、彼女は、僕との戦いを求める。
「出来れば一戦交えたい。その返答はないのか?」
「推理通りだ。では、僕への返答は、その後にしよう。」
ここまで、推理通りだ。お互いに構えを取る。彼女に笑みが浮かび、口を開く。僕の推理では、彼女が、直ぐに仕掛けてくるはずだった。
「失礼だが、貴公は、目の光を失っていると見受ける。しかし、今まで相対した者たちよりも、強いようだ。なかなかに心躍るぞ。」
僕の推理が外れた…、何故、彼女は、僕が盲目と見抜いた?今まで、誰にも気付かなかった。
「まさか、僕の推理が、外れるとはね…。何故、僕が盲目だと、分かったんだい?」
彼女は、僕の問いに、
「分かったからだ。」
答えになってないね。いや、直感で察知した、ということなのだろうか?彼女の評価を上方修正する必要がある。戦闘力に直感を加える。その上で推理すればいいだけだ。
さて、推理出来た。僕が、盲目と分かった彼女は、手加減したカウンターでくる。僕の左の手刀を右手で止め、左の拳で、僕の脇腹を狙う。
「では、始めようか。」
僕が踏み出して、左の手刀を振り下ろす。推理通りに、彼女は動いた。
「推理していたよ。」
そう言って、彼女の拳を止める。お互いに、再び距離をとる。
「もう少し、力を出してよさそうだ。」
「そうだね、そうなるのも推理していたよ。」
そう、推理通り。次は…
「先程より、推理、推理と…」
彼女が怒気を含み、ブツブツと呟き出す。推理通り、そして、『条理予知』の説明を聞いて、驚愕する、と推理する。
「すまないね、僕はシャーロック・ホームズだから。推理は、癖みたいなものなんだ。僕は、推理が極まって、予知になってしまったみたいだけどね。僕はこれを、『条理予知』と呼んでいる。」
さて、驚いたかな?
「えぇい、推理、推理と五月蝿い‼それに、シャー…、なんとやらなど、知らぬわ‼」
彼女が怒声と共に襲い掛かる。まさか、この短時間で、二度も推理を外すとは‼僕は、一瞬で、彼女の攻撃を推理する。ここだ‼ 彼女の右の拳が届く位置を推理し、それを捌く。
「ぐはっ。」
彼女の拳が、腹部に炸裂し、肺の空気が吐き出される。速い、推理よりも、速い。ふらふらと立ち上がる。先程の彼女の発言から、ひとつの可能性を推理する。恐らく、それが、推理が外れた理由だ。
「ほう、加減はしていたが…、立ち上がるのは、貴公が初めてだ。だが、決めた。私は、貴公の組織には入らぬ。」
「何故か、聞いていいかい。」
何故だろう、先程、可能性を推理してから、彼女を推理することが出来ない。元々、女性の感情を推理するのは、苦手だったけど、彼女はそれ以上に分からない。
「戦に推理など不要‼ただ、正面突破あるのみ‼貴公とは相容れん。」
彼女は所謂、『脳筋』と言われる存在だろう。しかし、そうなれば、勧誘は簡単だ。勝てばいい。彼女よりも、強いと証明すれば、必ず従うはずだ。それに、もう二度も外れたが、推理通りなら、攻略法を見つけた。
「なるほど、それでは、仕切り直しと行こう。」
構えを取る。動いた‼
「6+8は?」
攻略法、それは、考えさせる。僕の推理では、彼女は、失礼だが、馬鹿だ。彼女に、思考させ、動きを散漫にさせる。人は、問題に対して、無意識に反応し、思考してしまう。更に、『分かる』、または『分かりそう』な問題に対しては、特に反応する。彼女の頭脳だと、程よい問題だろう。タイムラグが生まれる、そこを叩く。
ピクリと彼女が反応する。勝った‼そう確信し、拳を繰り出す。
「分からぬ‼」
僕の拳よりも先に、彼女の拳が届く。吹っ飛びながら、考える。思考の放棄?いや、それでも、もう少しタイムラグが、生まれるはずだ。導き出した答えは、彼女の言葉の通り、『分からなかった。』。彼女の頭脳を推理出来なかった。それが、敗因だ。
地面に落ちる。薄れゆく意識の中で、彼女の勧誘は辞め、別の『遠山』の勧誘を決意する。イ・ウーは、教え、教わる、学びの場だ。だから、僕が、推理出来ないレベルの馬鹿に、それは無理じゃないか。
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―蘭豹、命を懸けた逃走劇―
香港で最強、無敵の武偵。それが、ウチ、蘭豹や。
今日は、麻薬組織の拠点と構成員の制圧。あっちゅう間に終りよった。ちぃっとばっかし、暴れすぎてもうたが、関係あらへんな。
一仕事を終え、海を眺めて酒を飲む。美味い。しっかし、暴れ足らへんな。最近じゃあ、ウチを見たら逃げよる。逃げる奴らの相手ばっかしで、つまらんなぁ。酒を呷る。香港は、故郷やけど、飽きてきたわ。
海を眺め、異国に思いをして馳せていた時、海から、人が上がってきた。髪と衣服を海水で濡らした女が、ウチに近づいてきた。なんや、えらい別嬪さんやな。
「すまぬ、ここはどこだ。」
別嬪さんは、ウチに日本語で話しかける。海難事故にでもあったんかいな?
「ここは香港やで。」
とりあえず、日本語で教えてやると、別嬪さんは、
「おお、それはよかった。香港に『無敵の武偵』なる人物がいると聞いて、思わず、日本からの泳いできたが、無事にたどり着けたか。」
なんちゅうか、見た目のイメージとちゃうな。まあ、おもろい奴やな。退屈しているウチは、この、破天荒な別嬪さんに興味が湧く。
「ところで、『無敵の武偵』なる人物を知らぬか?」
別嬪さんが、ウチに聞く。ウチのことやで。そう言おうとしたが、ひとつ思いつく、
「日本の姉ちゃんは、そいつ見つけて、どないするんや?」
「無敵というくらいだ、とてつもなく強いに決まっている。私を倒せる人物か、戦って確かめる。」
ほう、やろうっていうんかい、ええで、おもろくなってきた。ウチが、その『無敵の武偵』なんは、ぶっ飛ばしてから教えたろ。
「そうか、ほなら、ウチに勝てたら、教えたる。」
「分かった。」
その言葉に、酒を置き、銃を向ける。ええで、久々に逃げへん相手や。まずは、小手調べや。引き金を引く。別嬪さんが銃弾を掴みよった。ウチの気分は、最高潮に達する。これや、こんな奴とやり合いたいんや。別嬪さんは武器を持ってへんし、
「力比べといこうや。」
銃をしまい、別嬪さんに近づき、両手を取る、プロレスでいう『手四つ』、別名『フィンガーロック』。徐々に力を入れていく。別嬪もウチのやりたいことが分かったようだ。
「ほな、いくで。」
ウチの力には、男でも、勝てるやつはおらへん。一気に力を込め、ぐっと押す。びくともせぇへん‼
「では、私の番か。」
別嬪が、力を入れると、ウチの手に激痛が走る。なんちゅう握力や。そして、押してくる。
「ぐぐぐっ…。」
歯を食いしばって、なんとか押し返そうとするが、あかん、無理や、押し倒され、ブリッジのような体勢になると、手を離され、仰向けに倒れる。
力比べで負けた…。こんなこと初めてや。でもな、戦いは、力だけやないで。起き上がり、素早く懐に飛び込み、攻撃を放つ。放った右の拳が掴まれる。すかさず左の拳を叩き込む。だめや、これも掴まれた。そんなら足や、右足を上げる、その瞬間、
「安心しろ、加減はしてやる。」
掴まれていた左の拳が放され、掴んでいた右の拳が振り落とされる。強烈なボディーブロー、地面に叩きつけられる。あかん、速すぎて、見えへんかった。ウチは、目の前が真っ暗になった。
ズキッという、鈍い腹部の痛みで目が覚める。
「ここは…、ウチ、生きてる…‼」
痛みを堪え、身体を起こす。ウチは、負けた、それも完敗。悔しさが、一瞬、込み上げる。
「起きたか。なかなかに早い目覚めだ。愚弟よりも頑丈かもしれぬな。」
ウチ気絶させた人物がそんなことを言う。その人を見とったら、負けた悔しさとかが、無くなる。ウチと同じ女、それなのに、圧倒的な強者。尊敬の念が湧き上がる。
「あの、ウチ、蘭豹言います。姉御と呼んでも?」
「む?まあ、別に構わぬが?」
この人についていこう。そう決意する。
「して、蘭よ、私が、勝ったのだ。教えてもらおう。」
教える…?ああ、『無敵の武偵』か‼そりゃ、ウチのことでした。って言わないかんな。そう思い、口を開きかけた時。
「ふふ、楽しみだ。『無敵』というのだから、多少、気合いを込めた拳程度なら、なんともないのだろう。とりあえず、出会い頭に、軽く一撃を入れるか。もしかしたら、初めて本気で戦えるやもしれん。」
楽しそうに呟きながら、笑みを浮かべる姉御。とりあえず…、出会い頭に…、あかん、ウチや言うたら殴られる。と、とりあえず、どの程度の攻撃がくるんか、知らな。だ、大丈夫やろ…、さっきのくらいやったら、気絶ですんだし…。
「あのぉ、姉御…、その軽く一撃とやらは、どの程度のもんです?」
「おお、そうだな、蘭にも見せてやろう。ここなら、人気もないし、周りは海で建物もない。大丈夫だろう。」
そう言って、姉御は波打ち際に立つ。
「では、いくぞ。」
そう言った姉御の右の拳が、金色の光を纏い、
「せいっ‼」
拳を地面に叩きつける。大地が抉れ、海が割れた。そして、何事もなかったかのように振り返り、
「『無敵』なのだから、この程度の攻撃なら耐えられだろう。」
あんなん食ろうたら、骨も残らんで…、あかん、ウチが、『無敵の武偵』言うたら、あれが問答無用で叩き込まれる…。尊敬の念が、一瞬で恐怖に代わった。
「して、蘭よ、『無敵の武偵』はどこにおるのだ?」
死にたない、生存本能が、脳内アラームを響かせる。
「いや、その、それがですね、姉御、実は、そんな奴、おらんのですわ。デマです。デマ。」
と噓を伝える。
「なんと‼それでは、私の求めた相手はおらぬのか…。」
よっしゃ、信じてくれた。更に騙さな。
「そうなんです。なんや、どこの国かは忘れましたが、そこに『無敵の武偵』がおるんですが、何故かそれが、香港におる、っちゅうデマを誰かが流しよったんです。」
「ならば、世界のどこかにおるのだな。こうしてはおれん。蘭よ、私はもう行く。そ奴を探しにな。また、ここ、香港にも来るが、その時は、案内を頼むぞ。」
そう言って、姉御は走り出し、海の上、水面を走り、去っていく。水の上走れるのに、なんで泳いできたんや?
いや、そんなことは、今は、どうでもいい。とりあえずは、騙せた。でも、また香港に来くる言いよった…、その時に街の人間が、ウチが『無敵の武偵』や、ってばらしよったら…。死んでまう。いや、騙しとったこともバレて、もっと恐ろしいことになるかも…。
逃げるで、香港から。姉御は日本人やし、日本に『無敵の武偵』がおらんのは、知っとるやろし、探さへんやろ。灯台下暗し、姉御の祖国に逃げるで。思い立ったが吉日、すぐに日本へ向け出発する。出国時に永久追放だなんだと言ってきよったが、そんなん、どうでもええ。今は、ただ逃げる。それだけや。
それから、ウチは、日本の東京武偵高の教諭になり、さらに時が流れた。
お、弟やと…。隣に立つ、元教え子の遠山を見て、出会ってしまった姉御を見る。
「嘘やろ、全然似てへん。」
もし、遠山がウチのことを話したら…、死ぬ。あかん、逃げな。
「あ、あの、教員の飲み会があってまして…、失礼しますっ‼」
脱兎の如く逃亡。飲み会の席に辿り着く。
「すまんが、急用や。」
自分の荷物を掴み、立ち去る。綴が、
「んー、蘭が酒ほったらかしとか、おかしくねェ?」
と言う。綴、お前、知らんのやな。
「死んだら、酒も飲めへんのや‼」
蘭豹は、恐怖の女大魔王の手から逃れるべく、夜の街を駆け抜けていった。
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―愛娘の将来―
俺、遠山金叉は、職場のデスクに飾った、家族写真を見つめる。今日は、焼肉にでも連れていってやろう。
今日は、愛娘、カナコの合格発表の日だ。結果は、俺を含め、ここにいる全員が分かっている。不合格だ。そういう圧力が掛かっているからだ。そして、俺たち、武装検事と公安が協力し、カナコの秘匿と監視、護衛に努める手筈だ。
写真に写る、今よりずっと小さなカナコを、指で優しくなぞる。すまない。俺は、カナコの夢を潰す側に立っている。しかし、娘を守る為、仕方がなかった。愛しいあの娘を危険に曝したくなかった。同僚たち、特に結婚し、子のいる者たちには、俺の気持ちが、痛いほど分かるのだろう。職務とはいえ、ひとりの少女の夢を絶つ。気分のいいものではなく、心が痛む。
「カナコちゃん、大丈夫だろうか?」
上司が、俺に声を掛ける。
「今日は、焼肉に連れて行きます。あの娘が好きですから。」
「そうしなさい、今日は、定時ですぐに上がっていいから。」
「ありがとうございます。」
上司の気遣いに感謝する。
「まだ、カナコちゃんは若い。時間は掛かるかもしれないが、立ち直って、新たな目標を見つけれる筈だよ。」
確かに、カナコは強い子だ。すぐに立ち直ってくれるだろう。可愛い娘の姿を思い浮かべる。
「新しい目標か…」
俺が、今のカナコと同じ歳の時、どんなことを考えてただろうか?そもそも、男と女で違った考えになるのだろうか?
「俺は、ずっと武装検事を目指してましたね。遠山先輩は、どうだったんですか?」
まだ若い後輩が、俺の呟きに反応した。
「なんだったか、思い出せないな…。」
そこから、皆で昔を懐かしみ、思い出を語りながら、仕事をこなす。そんな中、ひとりの女性武装検事が、
「私は、高校上がった時は、彼氏を作ることばっかり考えてたなぁ。」
彼氏、だと…。俺の殺気が放たれる。
「そ、そうだ、模擬戦闘の映像、手に入れたんですよ。娘さんの活躍を見ませんか?」
俺の殺気を受けた後輩が、話題を逸らすべく、申し出る。確かに、見たい。
「ああ、見せてもらえるか。」
俺は、殺気を抑え、映像を見る。同僚たちも集まって来た。映像は、カナコによる、一方的な蹂躙。皆が、やべぇ、だのスゲェ、だの言っているが、俺の感想は違う。
「カナコ、よくここまで、力を抑えれるようになった。」
強すぎる力に悪戦苦闘していた娘が、見事に手加減を覚えた。娘の成長が嬉しい。
「手加減してんのは、分かるんですけど、本当の実力が分かりませんね。どうなんですか?」
映像を見ていた内の、ひとりが聞いてくる。
「そういえば、この間の休日に、海に行った時が、少し力を入れて地面を殴っていたが、地面が抉れて、海が割れていたな。確か、ビデオに残してたな。」
俺は、ケータイのフォルダを探す。あった、あった。
「これだ。」
俺は、その動画を見せてやる。どうだ、俺の娘は可愛いだろう。
「俺、政府の対応が正解だと思います。」
どうした急に、お前、最初に聞いた時、断固反対すべき、って言ってたじゃないか。他の同僚、上司でさえ頷いている。何故だ、何故可愛いと言わない。しかし、こんなに可愛いと、悪い虫がつかないか心配だな。先程の言葉が蘇る。彼氏…。
突然噴き出た、俺の殺気に、周囲が慄く。彼氏、そんな奴がいたら、遠山家の家訓『できるだけ殺人はするな。』に従い、殺しのライセンスのある武装検事になっても、守り抜いたそれを…
俺の緊急連絡用携帯が鳴る。思考を破棄し、応答する。
「どうした。」
「父さん、大変だ、姉さんが…」
キンイチが焦った様子で話す。カナコがまさか、男を‼一瞬、そんな考えが過るが、そうか、と思い直す、カナコの受験に関することは、まだ家族に教えていない。カナコが、『どんな馬鹿でも合格出来る武偵高』に落ちたと、ショックを受けているのだろう。
「キンイチ、落ち着け、カナコが落ちたのだろう。帰って話すから…」
「違うんだ父さん、いや、それもだけど、姉さんが、家出した‼」
そこからは、政府も武偵庁も、公安も、当然俺たち武装検事も大慌て。大捜索が始まった。
2日後、岩手県沖、海上を走るカナコの姿が、海上保安庁によって確認される。制止する職員を無視し、
「アメリカに強者を探しに行く。」
と告げ、疾走、行方不明となり、捜索が再開するも、発見には至らなかった。
それから2か月後、
「父上、おかえりなさい。」
帰宅した俺を、何事もなかったかのように玄関で出迎えるカナコ。
「おかえり」は、俺の台詞の気もしたが、愛しい娘の姿を見て。
「ただいま、カナコ。」
捜索で疲れた体に元気が湧く。しかし、少し、お説教せねばな。そう思い、口を開く前に、
「では、行ってきます。」
カナコが駆け抜けていく。
そして、再び、我が愛おしい娘は、旅立った。捜索する者たちの気も知らずに。
金叉の情報が無さ過ぎて、えらいことになってしまいました。
反省しかありませんが後悔はしていません。