緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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風魔の救命活動

―銭形平静視点―

 

 

 

 狐崎みすずに誘導されやって来たビルの屋上。私にとって、この世で最も憎き、そして、この世で最も大切な敵が目の前に立っている。

「遠山かなこ、今度こそ逃さんぞ!!」

 今までとは違い、先祖代々受け継がれてきた十手を構える。

「岡っ引き…、銭形というのはあの銭形なのだな。」

 十手を見た奴の言葉。

 岡っ引きの子孫である私と、名奉行の子孫たる奴。曾ての身分なら奴が上だが、平成の世で、そんなものは関係ない。

「留置所で先祖に詫びろ。遠山かなこ、逮捕する!!」

「逮捕される様な罪は犯しておらぬ。岡っ引きの様な強引な手法で私は捕らえられんぞ。」

 岡っ引き、時代劇では現在の刑事の様に描かれるが、実際は、現在で言う司法取引を済ませた無法者。しかも、ノルマ達成の為に、不法逮捕や恐喝を平気で行っていたという。それにより、一時期廃止された制度でもある。

「痛いほど分かっている。故に祖先のことなど関係ない、私の最も得意な闘い方をするだけだ。」

 右手に握った代々受け継がれた十手、そして、左手には、父より譲り受けた手錠を握る。銃など不要。これが私にとって最高で、紛うこと無き最強の武器だ

「安心した。下らぬ価値観で手を抜かれてはつまらぬからな。さあ、私を愉しませてくれ。」

 まるで最強の大魔王の如く、口角を上げ、両腕を広げる遠山かなこ。

「逮捕だ!!遠山かなこ!!」

 そんな大魔王に挑む勇者の如く、十手と手錠を駆使し、奴に挑んだ。

 

 

 

 

 

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―遠山かなこ視点―

 

 

 

 銭形平静、実に愉快で、かけがえのない存在だ。

 相対する度に、振るう拳の一撃の度に強くなる不思議な人物。

 初めて見せた十手と手錠の二刀流、事実を言えば見切れる。躱す必要さえなく、奴の懐に入り、一撃で仕留めれる。しかし、奴の力を引き出したいという己の我儘で、それをあしらうだけに留める。

「まだ足りぬか!!」

 奴の声が聞こえる。

「足りぬ、しかし、面白い、実に愉快だ。」

 たった数時間で、格段に強くなった奴に嘘偽り無い感想を伝える。

「おのれ!!その余裕、今に崩してやる!!」

 一段と速度と技術を上げて挑み掛かる銭形。

「愚弟たちにも見習って貰いたいものだ。」

 何度拳を当てても挑みかかる奴の姿を見て、産まれた時から見守ってきたが、その時より雀の涙程しか強くなっていない弟ふたりを思う。

 あれだけ鍛えてやっても、今だ私の加減した拳を恐れる愚弟たちにも見習って貰いたいものだ。

「貴様を追えるのは私だけだ!!」

 その執念が成すものなのだろうか。私は銭形に敬意を持つ様になった。

「そうなのかしれんな。」

 不殺を掲げる私が、決して人に対して放たぬ、本来の力、その一部を込めた拳を奴に叩き込んだ。

 もし、これで奴が起き上がらぬなら、もう夢を追うのは諦めよう。そんな決意の一撃だった。

 

「かなこ、やり過ぎよ。」

 みすずの声に、家族とみすず以外に見せたことの無い力を出してしまったことを知る。

「何故だろう、父上と爺様を相手どった親子喧嘩以来、初めてこの拳を出してしまった。」

 武偵高進学に関して、初めてした親子喧嘩。その時以来、初めて放った拳。

 全力ではない、しかし、加減をほとんど意識しない拳を銭形に放ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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―銭形平静視点―

 

 

 

 

 今までとは次元の違う一撃。身体に当たる前から意識が刈り取られる、そんな信じられない一撃。

 当たったのだと認識さえ出来ずに、意識が暗転した。

 

 走馬灯の様に浮かぶ、父の顔と言葉。そして、母の顔と妹の顔、その言葉。

「孫の顔が見たい。」

「浮いた話がひとつもない。早くいい人を見つけて結婚して、安心させて。お見合いって手もあるわよ。」

「お姉ちゃんはいつ結婚するんですか?」

 正月に久しぶりに家族一堂に会した時の言葉だ。

「仕事が恋人で何が悪い!!私には追わねばならぬ相手がいるのだ!!」

 そう言って卓袱台をひっくり返し、泣きながら実家を飛び出た。

 そしてその時叫んだ言葉、今年の抱負。

 

「遠山かなこぉーーーっ!!逮捕するーーーっ!!」

 眼前に広がる月明かり。その光に照らされた遠山かなこの姿。

「ほら、生きていたではないか!!」

「化物ね。普通なら骨どころか、髪の毛一本も残ってないわよ。」

 クソっ、また気絶してしまっていたのか。しかも、嫌な事まで思い出してしまったではないか…

 しかし、今までとは違い、目覚めても遠山かなこの姿があるとはな。

「私が起きるまでに逃げなかったことを後悔させてやる。遠山かなこ!!逮捕だっ!!」

 倒れる前よりも身体の調子がいい。再び十手と手錠を構える。

「待って、なんで貴女涙声なのよ。」

 狐崎がそんな指摘をしてくる。

「う、うるさい!!そんなことはどうでもいいのだ!!さあ、遠山かなこ、来い!!」

 余計なことを思い出さない為にも、目の前の好敵手との闘いを欲した。

「本当に、愉快な奴だな。」

 そう言って、一歩踏み出す遠山かなこ。

「私は更に強くなっているぞ!!お前の様に、世界を股にかけ、様々強者を襲わずとも、お前の域に達してみせる!!覚悟しろ!!」

 そう、私はこいつだけを追い、そして追いつく。こいつの様に無差別に闘いを挑む浮気性ではない。一途に、お前だけを追い続けてやる。

「別に襲ってなどおらぬ。結婚相手を探していただけだ。」

 …結婚?奴の口から、そんな言葉が出るとは、全く想像していなかった。

「…結婚?知らぬ言葉だな…」

 そう言って無視を決め込むが、動きには動揺が出てしまう。

「知らぬ訳があるまい。私とて知っているのだから。」

「あら、少しは自分が途方もないバカだと自覚してきたのね。かなこ、成長したじゃない。」

「私はバカではないと何度も言っているだろう、みすず。」

 私よりも四つ歳下のふたりがそんなことを言っている。少なからず、お前は途方もないバカであることは間違いないと思うぞ。

「わ、私を前に、お喋りとは…舐められたものだ。」

「だから、なんで涙声なのよ。」

 何故だろう、視界が潤んでいる。これもきっと、奴の能力なのだな。

「私とて、早く結婚したいのだが、私よりも強い者に今だ会えぬ。早くせねば手遅れになってしまう。」

 手遅れ?なら、お前たちよりも年上の私はどうなるというのだ…何故こいつらの言葉は胸に刺さるのだろう。食らった拳よりも痛いぞ…

「安心しなさい、もう手遅れよ。そもそも、相手に求める条件が絶対にクリア出来ないもの。」

 相手に求める条件云々、やめろ、それは母に散々言われた言葉だ。

「行き遅れ、と弟たちに思われたくないのだ。」

 私は既に妹からそう言われているぞ。泣きながら殴ったがな!!というより…

「もうやめろーーっ!!」

 頼む、やめてくれ。あれ、何故だ、何故涙が止まらないのだ…

 ガックリと膝を付き、涙を流して叫んだ。

 

 

 

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

 

「結婚しろ、結婚しろと、好き勝手言いおって!何も好き好んで結婚しないわけじゃない!!相手がおらんのだから仕方ないだろう!!」

 ダン!!と空になったビールジョッキを叩きつけ、銭形が叫ぶ。だいぶ酔ってるわね。

 

 あの後、泣き崩れた銭形を誂って遊んでいたら、居酒屋に連行されてしまった。…少し遊び過ぎたわね。まさか手錠を架けられるとは…因みに、架けられた手錠はかなこが指先ひとつで破壊していた。

「行き遅れたのは自分のせいではないと言いたいのかしら?」

 面倒臭い。ジョッキに波なみと注がれたウーロン茶を口に運んだ後、そう言う。

「行き遅れてなどおらん!!私はまだ28だ!!」

「ガッツリ三十路ね。周りは既婚者が多くなってきたんじゃない?」

 いけない、つい誂ってしまった。

「そんなことはない!!結婚式の招待状など一通もまだ届いておらんぞ!!」

「貴女、友だちいないのね。」

 まあ、私も人のことは言えないけど。

「友だちくらいおるわ!!」

 届いたばかりのビールを一気に煽り、一息に飲み干してそう怒鳴る。

「そうなの?じゃあ具体的に教えてくれるかしら?最近連絡をとった友人は?」

 考え込む銭形。

「…私は、友だちさえいないのか…」

 そう呟いて、ホロリとひと粒の涙を流す。この人、面白いわね。

「みすず、これはどうすればよいのだ?」

 入店して既に一時間が経っているのに、今だタッチパネルの使い方が分からず悪戦苦闘しているかなこが助けを求めてくる。

「かなこはもう触らないで。壊したら厄介だわ。貸しなさい、何が頼みたいのよ?どうせ肉でしょ?」

 この子の力で下手に触ると、タッチパネルが跡形も無く消え去る可能性もある。

「そういうお前はどうなのだ!!友人は…遠山かなこがいる様だが、他にはおらんのだろう!?恋人の気配は微塵もないぞ!!」

 復活した銭形が絡んでくる。

「ご明察通り、私の友だちはかなこだけだし、恋人もいないわ。でも、貴女と違って、そもそも結婚する気もないし、必要ないから作らないだけよ。」

 偽りない、本当の気持ちだ。

「私とて、必要ないからしてないだけだ!!」

「でも泣いてたじゃない。正直に言ったらどうなの?」

 結婚したい、そう泣きながら呟いてた人物がよく言うわ。かなこの注文を済ませながらそう言う。

「結婚はしたい!!しかし、今は仕事が楽しいのだ、仕方ないだろう!!」

「そう言って行き遅れたのね。」

「フグゥッ…」

 銭形が泣きながら机に突っ伏した。やっぱり面白いわね、この人。桁違いの化物の癖に、自分に正直過ぎるのと、仕事以外は基本ポンコツなところは誰かに少し似ている気もするわね。

 

 かなこといい、銭形といい、見た目は悪くない。悪くないどころか、上の上、特上の容姿をしているし、条件さえ下げれば、幾らでも相手はいるというのに、なんでこうも頑固なのかしら。

 本心では結婚したくないのでは?そう疑いたくなってしまう。

「簡単な条件だと思うのだがな…うまく行かないものだ。」

 ボケっと話を聞いていたかなこが、机に突っ伏した銭形を見ながらそう言って、徳利を煽る。

「そういう呑み方じゃないわよ。なんの為にお猪口があると思ってるのかしら。」

 言うべきは、そっちではなく、この世で最も困難な条件を簡単と言うことなのだが、言っても無駄だろうしそのままでいいわ。

「面倒くさいではないか。それに、そんな呑み方では呑んだ気がせぬ。」

 だったら少しは酔った様子も見せて貰いたいものだわ。顔色ひとつ変わらず、アルコールの匂いさえしないかなこに呆れる。

「そんなだから結婚出来ないのよ。もう少し女らしくなりなさいよ。」

 溜息混じりにそう言う。誰よりも男らしく、誰よりも強いかなこ。どんな男だって気遅れするわよ。

「女らしくなれば結婚出来るのか?」

「さあね、でも、今よりは多少マシになるんじゃないかしら。」

 無責任に言い放ち、ジョッキに口を付ける。

「ふふふ、そうか、女らしさか…」

 銭形がそう言いながら復活した。もう少し大人しくしていてよかったのに…また騒がしくなるのね。まあ、愉しませてくれるなら別にいいけど。

「女らしさ、母や妹に散々言われ続けたが、私に足りぬのはそれだけ、それさえあれば結婚出来る!!」

 そういう考えだから結婚出来ないのよ。勢いよく立ち上がった銭形にそんな感想を抱く。

「なる程、確かに。私も母上や婆様に散々言われてきたな。」

 残念なのがふたり集まると、残念な方向にしか進まないのね。

「女らしさとは何処で手に入るのだ!!直ちに逮捕してやる!!」

 手に入るものではないわよ。お宝かなんかと勘違いしてるんじゃないの?

「みすず、何処を探せば出てくるのだ?」

 少なくとも、貴女たちの頭の中を探しても出てこないでしょうね。

「産まれて来た時に落として来たのか忘れて来たんでしょ。今更探しても無駄よ。」

 そもそも備わってなかったのかもしれないわね。

 私の言葉を聞いて、銭形とかなこは目を丸くする。

 

「では、私たちは一生結婚出来ないと…」

 銭形の絶望に満ちた声。

「待て、一纏めにするな!!私は結婚する。」

 かなこが銭形の発言に噛みつく。

「なにぉ!!お前ではなく、私の方が結婚するのだ!!少なくとも、お前よりは私の方が女らしい筈のだ!!」

「私の方が強いのだ、私の方が女らしい決まっておろう!!」

 駄目ね、こいつら。もう手遅れだわ。

 額を突き合わせ、一触即発の剣幕でどっちが女らしいかを言い争うふたり。

 そんなんだから女らしさが欠落してるのよ…

 

 止める気も起きず、アホなことで言い争うふたりを眺めながらウーロン茶の追加を頼む。

 まあ、傍から見てる分には愉快だからこのままにしておきましょう。

 ウーロン茶を届けに来た店員が怯えている。面白そうだし、店員に止めさせてみようかしら?

「貴女、アレを止めてくれるかしら?」

「無理でござるよ…某、まだ死ぬ訳にはいかないでござる。」

 よく見ればこの店員、キンジの戦妹だわ。確か、風魔だったわね。戦妹でなく本人がいれば、もっと面白かったんでしょうね。…連れて来とけばよかったわ。

 ふたりの間に押し込み、ボロ雑巾となるキンジの姿を見たかったけど、次の機会にとっておきましょう。

「それじゃあ、私は明日も仕事があるから帰るわ。」

 ふたりを放置し、立ち上がる。

「えっ!?ちょっと待つでござるよ!!こんなの某にどうしろというでござるかぁーーーっ!?」

「恨むならキンジ恨みなさい。」

 そう言い残し、個室を出る。

「どういうことでござるか!?あっ、駄目でござるよ!!ここで喧嘩したら店が消し飛んでしまうでござるよぉーっ!!」

 哀れな悲鳴を聞きながら、居酒屋を後にする。ホント、かなこといると飽きないわ。タクシーに乗り込み自宅へ向かう。

 

 部屋に着き、シャワーを浴び終えた時、あるネットニュースが目に飛び込んできた。

「早めに帰って正解だったわね。」

 『品川で居酒屋崩壊!!欠陥か、それともテロか!?』という表題。何故この規模で暴れておきながら、被害が建物だけというのが驚きだ。

 なんでも、店員の懸命な避難誘導が功を奏したらしい。案外やるわね、風魔陽菜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―風魔陽菜視点―

 

 

 

「なんでこうなるでござるか!?」

 

 バイト先の居酒屋で、師匠の姉上こと、遠山かなこ殿と、それと喧嘩しているスーツにコート、ハットを被った女性。酔っ払った末の喧嘩、居酒屋では偶にあることでござるし、気にする様なことではないでござるな。…いや、やっぱりおかしいでござるよ!!あの姉上殿と喧嘩出来るって、どんな化物でござるか!?

 なんで注文されたウーロン茶を届けに来ただけなのに、大怪獣の大戦争に立ち会うことになるんでござる!?

「貴女、アレを止めてくれるかしら?」

 お二方の連れなのか、あのふたりとは違い、戦闘力を感じられない女性にそう言われる。

「無理でござるよ…某、まだ死ぬ訳にはいかないでござる。」

 この状況だけでストレスで死にそうだというのに…

「それじゃあ、私は明日も仕事があるから帰るわ。」

 某の言葉は完全に無視。ふたりを放置し、立ち上がる女性。

「えっ!?ちょっと待つでござるよ!!こんなの某にどうしろというでござるかぁーーーっ!?」

「恨むならキンジ恨みなさい。」

 叫ぶ某にそんな事を言って、本当に帰ってしまった。なんでそこで師匠の名前が出るんでござるか!?

 もしや、師匠による修行でござろうか?いや、それは流石にないでござるよ。だって、あのふたりの間に入ったら、強くなる前にこの世から消滅してしまうでござるからな。

 

「ならば、どちらが女らしいか、はっきりさせようではないか。」

「望むところだ。今度こそ逮捕してやる。」

 お二方、そんな理由で争っていたのでござるか!?そんな理由で争っている時点で、女らしさの欠片もないでござるよ!!

 ふたりが放つ恐ろしい気配に気圧される。マズい、これはマズいでござるよ。お二人とも、もう戦闘モードになっているでござる。

 こんな怪物ふたりが暴れたら、某のバイト先が消し飛んでしまうでござる。しかも、お客もまだ多数店内にいるので、巻き込まれたら、恐ろしい数の死者が出てしまうでござる。

 

「皆様、今すぐ店の外に逃げるでござるよ!!この店は消し飛んでしまうでござる!!」

 恐怖で震える足で、なんとか個室を飛び出し、精一杯に叫ぶ。

「おい、バイト!!巫山戯た事を言ってんじゃねぇ!!」

 店長がマジギレしてるでござるが、某、嘘偽りは言ってないでござるよ。

「巫山戯てなどござらん。店長、直ちにお客を外に逃がすでござるよ。」

 覚悟は決めている。多くの命を救う為、躊躇無くクナイを店長の首元に突き立て、脅す。言っても信じて貰えぬなら、こうするしかないでござる。

 

 不満や怒りの声が上がりながらも、あのふたりを除いた、全ての客を店の外に出した。

「何も起きねぇじゃねぇか!!」

 店外で店長が怒鳴る。しかし、某は本気で安堵した。店内から、信じられない殺気が放たれたからだ。

「なんとか間に合ったでござるな。」

 その直後、居酒屋は消し飛んだ。崩壊とか倒壊ではなく、消し飛んだ。瓦礫や柱、椅子やテーブル、そこにあった物の何一つ残らず、元々何も無い空き地であったと言わんばかりに、完全に消し飛んだ。

 あまりの光景に、皆が言葉を失っていた。某も、これ程とは思ってなかったでござる。 

 しかし、やり遂げた。店舗以外に被害を出さなかった。達成感と重責からの解放された喜びに、涙が頬を伝う。

 

「詳しい話は署で聞かせて貰おう。」

「あれぇ!?なんでこうなるでござるか!?」

 某、頑張って多くの命を救ったでござるよ!?褒められこそあれど、何故某を連行するでござるか!?

 振り返ると、某を疑いたくなる気も分かるでござるし、某の話を信じられる訳がないでござる。

 だって、某だっておかしいと思うでござるよ。なんで喧嘩で店が跡形もなく消し飛ぶんでござるか…

 冷たい留置所中、渡された食事は思いの外、美味しかったでござる。

 

 

 

 

 

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