緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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外伝:緋弾のアリアif.if―虎と竜、武偵高生徒編ー

―竜宮アイラ視点―

 

 

 とにかく気に入らない!!

「アイラ様、おやめください!!」

 取り巻きの生徒たちが必死に私をとめるが、入学して一ヶ月、ここまでずっと我慢していたのだが、やはり限界というものがある。

「うるさい!!」

 取り巻きを一蹴し、遠山かなこに詰め寄る。

「遠山かなこ!!貴女に勝負を申し込むわ!!」

 ボケっと自分の席で外を眺めていた彼女の机を叩き、そう宣言する。

「…ん?おお!!構わぬぞ。」

 私の宣言まで、周囲のことなど心底興味が無かったのか、ワンテンポ遅れてそうあっさりと受諾する。

「ところで、お前は誰だ?」

 知らない相手からの勝負を、そんなにもあっさり受けたわね…というより!!

「私のことを知らないですって!!強襲科Aランクの竜宮アイラを知らないなんて、許されないわよ!!というより、同じクラスで隣の席なんだから、それくらい覚えておきなさいよ!!」

 最も、遠山かなこは、教室にいる間は基本爆睡しているが…

「そうなのか?まあ、そんなことはどうでもいい。さっさと勝負するとしよう。」

 私の言葉は、彼女の耳から耳を通り抜けているのか?という程に、関心さえ示さずにそう言ってのける。

「そうね、白黒はっきりつければ、貴女のその意識も変わることでしょう。」

 入学試験、そして入学初日に見せた彼女の力、それを信じきることは出来ない。何かの偶然が重なったのだ!!私がNo.1ではない、そんなの納得出来ない!!

 

「アイラ様…今からでもおやめになった方が…」

 取り巻きであり、代々我が竜宮家に仕える侍女である瀬木(せぎ)苗流(のうる)がそう言いながら、私の戦支度をする。竜宮一族の遺産、分かっているだけでも、千年近く前から受け継がれて来た、竜宮家の戦装束。対遠山かなこ用に持ち出した完全装備で挑む。

「これだけの装備に、完全無欠の私、これで負けたのなら、竜宮一族、いえ、人類の敗北と言っても過言ではないわ!!」

 竜宮家の納屋、その中に仕舞われていた武装。ご先祖様たちは一体何と戦ってきたのか、と、一族の嫡子である私でさえ疑問に思う程の武装を身に着け、そう宣言する。少し胸が窮屈だが、あの女を地に伏させる為なら仕方ない。

 いつ造られたのか、誰が何を意図して造ったのか、パパやお祖父様に聴いても分からなかった一族秘伝の武装、以前、好奇心で身に着けたそれは、私の持つある能力と恐ろしい程マッチしていた。

 失われた竜宮の血。そんなことを言われ続けた竜宮家。嘗ての竜宮家は、正しく竜の家系、他を圧倒する伝説の生物たる竜を彷彿させる能力を有していたと聞くが、それは、何百年も前に失われてしまっていた。

 そんな中、その失われた血が宿ったと、一族が狂喜乱舞する力持って生まれたのが私、竜宮アイラよ!!

 遠山かなこがなによ!!あの気に入らない女が虎なら、私は竜!!負ける筈がないわ!!

 

「遠山かなこ、貴女が虎なら、私は竜。竜宮の力、その身に叩き込んであげるわ!!」

 装束に武器、完全装備で臨む私に対し、遠山かなこは武偵高のセーラー服のまま立っている。

「うむ、楽しみだな。」

 そう言って、グーッとひとつ伸びをする彼女。それは、肉食動物が、獲物を追う前にやる、準備運動の様に思えた。

「覚悟なさい!!」

 秘蔵の大太刀を振るう。太刀が真紅の炎を纏い、遠山かなこを襲う。

 しかし、鎧袖一触の一太刀は、容易に躱される。

「摩訶不思議な太刀だな。」

「これは太刀の力ではないわよ。私自身の能力。竜宮家は竜の一族。竜の血は、こんなものじゃないわよ!!」

 刃を返し、二の太刀を振るう。遠山かなこが躱す先に炎を吐く。

「なるほど、竜か…鬼なら倒したことはあるが、竜は初めてだな。」

 直撃した筈の炎を、左腕の一振りで消し去りそう言う彼女。

「鬼?そんなものと竜を一緒にしないでくださるかしら。竜は強く、気高く、美しく、そして何より高貴なのよ!!」

 一族秘伝の武装の力を解放すると、装束から翼が生え、私の身体は空を翔ける。

 上空からの攻撃、所詮人間の遠山かなこには届かない世界よ!!

 竜の力を持つ私は、戦車よりも硬く、そして強い。当然、発揮する力は、人間如きが発揮出来るそれの比ではない。それが空を舞うのだ、生身で勝てる相手など、いる筈がない!!

「空中戦か、久しぶりだな。」

「待ちなさい!!なんで貴女浮けるのよ!!」

 何故か目の前に遠山かなこがいる。翼を持たぬ彼女が何故浮くことが出来るのよ!!

「浮くくらい、誰でも出来るのではないのか?」

 駄目だ、この女の言っている意味が分からない。誰でも飛べるのなら、人類は飛行機も気球も作らなかった。辿り着けぬからこそ憧れ、そこを目指したからこそ、人は大空を夢見て飛行する術を開発したのだ。

 空は特別な場所、人の身のみで辿り着くのは選ばれた者だけ、そう!!それこそ私の様に!!

「この雌牛!!地に落としてあげるわ!!」

「誰が雌牛だ!!」

 私こそ至高で最高のプロポーション。それよりも大きいこの女は、雌牛だわ!!

 右手に握った大太刀と、左手に宿る竜の爪、口からは火炎を吐き、果敢に攻めたてる。

「このホルスタイン!!ステーキにして差し上げますわ!!」

 武偵らしくないと、抑えてきた本来の口調に戻り始める。

「貴様、私を虎と言ったり、牛と言ったり、なんなのだ!!私は人間だ!!」

 少なくとも、彼女の言い分は、大多数の人間に否定されるだろう。空を駆け、竜の攻撃を蝿を払う様に容易くあしらう彼女は、竜の血を宿す私から見ても人間離れしている。

「うるさいですわ!!竜は最強!!その血を宿す私が最強で最高!!地を這う虎や、家畜と成り下がった雌牛が、私と同じ空を翔けるなど、許されませんわ!!」

「だから、誰が雌牛だ!!好きで大きくなったわけではない!!私だって、邪魔だと思っておるのに、勝手に大きくなるのだから仕方あるまい!!」

 私の攻撃を払い、距離を詰めてくる。

「牛女!!トドメですわ!!」

 渾身の一撃、巨竜が放った最高の一撃、私が放てる最高の一撃だった。

「遅いな…まるで牛歩、貴様の方が雌牛だ。」

 右脚の一閃、その威力と衝撃で、大太刀は砕け、柄は右手を離れる。

「地に落ちる雌牛はお前だったな、竜宮よ。」

 世界が真っ暗になる。竜の鱗、最強で最高たる私を撃ち抜く拳は、振りかぶったわけではなく、添えただけの様な、力を込めないものだった。

 

「アイラ様!!」

 目を開けた私を見て、歓喜の表情と共に私の名を呼ぶ苗流。

「負けたのね…竜、竜宮の嫡子たる私が、あんなホルスタイン如きに…」

 襲いかかる敗北感。

「アイラ様…その…」

 私にかける言葉を探しているのか、慌てふためく苗流の顔。それを見て、湧いてくるのは対抗心。

「いいですわ、今日のところは負けを認めるとしましょう。ですが、この世で最も美しく、強いのはこの私!!絶対に私の前に跪かせ、敗北宣言をさせてあげますわ!!」

 高笑いし、最強たる筈のこの身を超える怪物を跪かせ、真の最強となる宣言をする。

 遠山かなこ、枕を高くして寝ることなど、金輪際出来ないと知りなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―狐崎みすず視点―

 

 

 

 

 類は友を呼ぶ、そんな諺があるけど、本当にその通りね。

 かなこに付き纏う連中に、まともな者はいない。

 そんなかなこの第一の友人である私がその筆頭なのだろうけど、それを差し置いても、世間一般の常識から外れたみんなの頭のネジが吹っ飛んだ連中ばかりが寄ってくる。

 

「遠山かなこ!!今日こそ私に跪く日ですわよ!!」

 その最たる例が彼女、竜宮アイラだ。

 輝く様な金髪に、スラリと長く伸びた脚、かなこよりは小さいが、かなり大きい胸に引き締まった腰まわり。

 彼女を見た全員が全員、絶世の美少女と評するであろう顔立ち。

 おまけに、日本有数の巨大財閥の嫡子であり、頭脳明晰で並外れた身体能力、正しく非の打ち所がない筈なのだが、常軌を逸したナルシストで、何事もナンバーワンでなければ納得出来ないという自己愛の異常に強い人物だ。

「またお前か…流石に飽きてきたぞ…」

 あのかなこをウンザリさせる程、暇さえあれば勝負を挑む竜宮。かなこの姿が見えれば、必ずそう言って勝負を挑み、その度にワンパンで沈められている。

「今日こそ貴女をホルスタインらしく、無様に鳴かせてみせますわ!!」

 私からすれば、貴女も十分乳牛よ。

「アイラ様ぁ…もうやめましょうよぉ…」

 彼女のお付きである瀬木苗流が、心労で疲れ切った顔と口調でそう言うのも、見慣れた光景となっている。

「苗流!!貴女、この私、竜宮アイラがこんな雌牛に負けっぱなしでいいと言うの!!」

 彼女の返しもお決まりで…

「誰が雌牛だ!!」

「ゲフッ!!」

「ああ!!アイラ様ぁ!!」

 かなこが怒り、竜宮吹き飛ばされるまでがお決まりのパターンとなっている。

 こう見ると、なんだか竜宮が弱く見えるけど、竜宮は全力であれば、現在の武偵高の一年生では、かなこの次に強いのは間違いない。そもそも、かなこが異次元にいるから、実質一位ともいえる。

 一度、毎度見事に、かなこにやられる竜宮をナメて、戦いを挑んだ強襲科の生徒は、完膚なきまでに叩きのめされていた。

 竜宮の場合、相手が悪過ぎるだけで、普通にSランクの中でも上位クラスの実力者なのだ。

 最も、彼女の目立ちたがりな性格と、異常なまでに高いプライドで減点され、Aランクということになっているが。

 

「毎度、飽きないものね。」

「全くだ、その根性は評価するが、流石に毎日何回もこれでは、飽きてきたぞ。あやつ、毎度私を雌牛と言いおって!!」

 プンプンと怒るかなこ。

「なら、一回くらい負けてあげれば?そうすればもう来なくなるわよ。」

 彼女の場合、結局、勝ち誇って毎日やって来そうだけど。

「如何なる理由があれ、わざと負けるなど出来ぬ!!」

 そういう、融通の効かない不器用さは、きっと彼女と一緒なんでしょうね。この無意味な戦いは、これから卒業まで、ずっと続くのかしら?

 まあ、どうでもいいけど。

「ねえ、かなこ。今回の依頼の帰り道に、素晴らしい喫茶店を見つけたわ。こだわりの紅茶とセ○・サターンを愛する喫茶店、最高だと思わない?」

 私の好きなものを両方提供するという、素晴らしい店、立ち寄らないという選択肢は無い。

「やだ、ハンバーグがいい。今回は、私が決める番だ。」

 全く、融通が効かないわね。

「その喫茶店、ハンバーグもあるわ。決まりね。」

「待て、私はもっとがっつりとしたのがいい!!」

 乙女らしからぬリクエストを無視し、決定する。

 

「いいか、みすずの我儘に付き合うのだ、絶対に三つは食べるからな!!」

「しょうがないわね。一皿は奢るわよ。」

 そう言いながら、武検でさえ手に負えない様な強敵の元に向かう。今回得る報酬からすれば、安いものよ。

 

 

 武偵高に入学し、始まった一人暮らし。私たちふたりに、自炊という選択は無いので、必然的に外食に頼る私たちは、如何なる依頼や騒動よりも、夕飯のメニューの方が大事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜外・外伝―娘を思う静かなる鬼ー〜

 

 

―遠山金叉視点―

 

 

 

 

「ちちうえ。」

 拙い言い方、しかし、あどけなく愛らしい。駆け寄ってくる、愛娘。

「父上。」

 小学生になり、初めて友達が出来たと嬉しそうに言う姿。

「父上。」

 親の贔屓目もあるのだろうが、元々整っていた顔立ちは、体型と共に、徐々に大人の女性へと近づいてきた。あまりにも魅力的で、悪い虫がつかないか、心配になる中学校の入学式。

 そして…

「父上!!」

 世界で一番可愛く、美しい我が娘は、絶賛反抗期を迎えていた。

「かなこ、何度も言っているだろう。武偵高なんて物騒なところに、か弱く、可愛いお前が入ってしまえば、あっという間に野獣共の餌食になる。何も意地悪で言っているんじゃないんだ。」

 武偵高を受験したがるかなこを、なんとか説得しようとするも、普段は聞き分けの良いかなこが、絶対に譲ろうとしない。

「ならば尚の事行かねばならぬ!!私は、私よりも強い男に会いたいのだ!!」

 そんな奴、この世に存在しない気がする…しかし、万が一ということもある。もし、そんな奴がいたら、俺はかなこを守れる自信は無い。だって、かなこは俺よりも遙かに強くのだから。

 しかし、可愛い愛娘に傷がつくなど耐えられるものか!!ましてや傷ものにでもされてみろ、例えこの身が塵一つ残らないとしても、そいつを地獄に送ってやる!!

 

 だが、そもそも何故、かなこはそんなことを思い始めたのだろう?

「かなこ、何故強い男に会いたいんだ?」

 まさかな…最悪の理由を想定してしまい、思わずDEを己の頭に撃とうとしてしまいそうになるのを、首を振って否定する。

「私の旦那となる者を探す為だ。父上には関係ない。」

 想像した最悪よりも更に悪い回答だった。彼氏どころか、男友達でさえ赦せないのに、旦那、つまり夫。

「だ、駄目だ!!絶対に駄目だ!!絶対に認めないぞ!!」

 かなこを嫁にやるだと!!絶対に認めん!!俺の目の黒い内、嫌、仮に死のうと、記憶を失おうと許さん!!

「父上、何故だ!!何故認めてくれぬのだ!!もういい!!父上なんか嫌いだ!!」

 かなこは、とんでもない殺気を撒き散らしながら、家を飛び出してしまった。

「き、嫌い…」

 どうしよう、娘に嫌われてしまった…かなこと同じ年頃の娘を持つ同僚が、

「娘が反抗期で辛い。」

 と言っていたが、これ程のダメージとは…今まで数々の修羅場を潜り、数多の傷を負ってきたが、一番堪えたかもしれん…

 

 その日、かなこが帰ってくることはなかった。みすずちゃんの家に泊まっていると、彼女から連絡があり、とりあえず一安心したが、このまま帰って来なくなったどうしよう…

 不良となったかなこなど、手を付けられない化物が誕生してしまうぞ…最悪、日本が、いや、世界が壊滅してしまう…

「かなこ…」

 職場で、無意識に名前を呟いてしまう。

「どうしたんですか?金叉さん、今日は顔色が悪い悪いですよ。」

 後輩が心配そうに聞いてくる。

「娘が家出してしまった。」

 プライベートな問題を持ち込んで良い仕事ではないというのに、情けない限りだ。

 職場内、上司や俺と歳の近い同僚が、ビクッと反応し、緊張感が漂う。

「十五歳でしたっけ?絶賛反抗期ですね。」

 なんの緊張もなく、そう言う後輩。ああ、そうか、こいつにはかなこを紹介したことは無かったな。

「金叉くん、家出って、大丈夫なのかい…」

 俺も考えた最悪のルート、非行少女化したかなこを想像したのか、上司が青い顔をして聞いてくる。

「今は友達の家に泊まっているそうです。そうでなければ、仕事どころではありませんから。」

 かなこの居場所が分からなくなってしまっていたら、それこそ、超緊急事態であり、俺どころか、武装検事や公安、武偵庁が総出で捜索しなければならないだろう。正に仕事どころではない状況だ。

「親バカってやつですね。『静かなる鬼』も娘さんは可愛いんですね。」

 状況の分かっていない後輩がそんなことを言う。かなこは可愛いに決まっている。そんなことも分からないとは、一度沈めてやらねばならんな…おっと、そうじゃない。

「武偵高を受験すると言って聞かず、喧嘩になりまして…」

 経緯を上司に伝える。報告というよりも、相談に近かったが…

「金叉くん、私も娘がいるし、気持ちも分かる。しかし、冷静に考えてくれ。君よりも強い高校生が日本にいるかい?」

 全力で首を振る後輩。

「しかし、万が一という可能性が!!」

 かなこという例外がいるのだ、娘を愛する父親として、看過できない。

「確かに、君よりも強い者が現れるかもしれない。そんな可能性は否定出来ないが、私には、かなこちゃんよりも強い者が現れる可能性が全く見えないんだ。というより、現れてはいけないと思うんだ。武偵高を受験させるだけで、多くが救われるんだ。」

 つまり、かなこはずっとお嫁に行くことはないということか…

「分かりました。もう一度話し合ってみます。」

「そうしてくれると、本当に助かるよ。」

 みすずちゃんに連絡を取り、かなこが家に帰る様に誘導して貰う。妻、かなこにとっての母が亡くなって以来、かなこを最も上手く言い聞かせれるのは、悔しいがみすずちゃんだ。

 彼女なら、家に帰る様に上手く言いくるめてくれるだろう。

 

 珍しく定時で上がる事が出来、実家に辿り着くと、みすずちゃんからの指示通り、肉の焼ける美味しそうな匂いが玄関にまで届いている。

「ただいま。」

「金叉、おかえり。かなこはまだだよ。」

 まだ帰っていないのか…

「大丈夫、あの子は悪いことをする子じゃないわよ。」

 そうだな…なんせ、世界一可愛い娘だからな。

 食卓では食事の準備が出来ている。食べ盛りの方が息子たちは、夕飯を待ち遠しいのか、そわそわしている。

 かなこを待たずに、食べさせてやった方がいいかもしれないな。

 

「いただきます!!」

 元気よくキンジがそう手を合わせ、ご馳走に箸を伸ばす。

「ハンバーグ…みすずの言った通りだ。」

 音も気配もなく、食卓に座るかなこ。

「げぇっ!!姉さん、帰ってきたのかよ!!」

 箸を伸ばしていたキンジが、突如現れたかなこの姿を見て、そう言う。

「キンジ、死にたいのか…」

 そんなキンジに、キンイチが顔を青くしてそう言う。

「キンジ、姉に向かって随分な言い様だな。拳骨をくれてやる。」

 止める間も無く、光の様な速さでキンジが気絶する。

「かなこ!!それよりも先に、ただいま、でしょ!!それに手は洗ったの!?アンタはお姉ちゃんなんだから、もっとしっかりしなさい!!」

 母さんに雷を落とされ、

「ごめんなさい…ただいま。手を洗ってくる。」

 一瞬、俺と目が合い、直ぐに顔を背ける。まだ怒っているのか…ショックを受けるが、洗面所に向かう瞬間に見えたその目には、怒りの感情は見えなかった。

 

「いただきます。」

 行儀良く手を合わせ、ハンバーグに箸を伸ばすかなこ。

「かなこ、その前に言うことがあるんじゃないかしら?」

 母さんが、かなこの俯きがちな目を見てそう言う。

「うっ…」

 かなこの箸が止まる。暫しの沈黙。言葉を紡ぎたいが、恥じらいと、意地の様なものが邪魔しているのか、中々、かなこから言葉が出ない。

「かなこ…」

「父上…嫌いなど言ってごめんなさい…本当は父上は嫌いじゃないし、大切な家族で好きだ。」

 愛娘から好きだと言われたのはいつ以来だろう。

 一番最初は三歳の時だ。

 

「かなこ?パパのこと好き?」

 妻が俺を指し、そう質問した。

「パパとやらはわからないけど、ちちうえは好き。」

 結局、パパとは呼んでくれなかったな。

「かなこは何が好き?」

 妻が五歳のかなこ尋ねる。

「お肉。あとハンバーグ。」

「そうか、かなこは肉が好きだな。」

 可愛いかなこの答えに、頭を撫でながらそう言う。

「うん、好き。」

「じゃあ、パパとハンバーグ、どっちが好きだ?」

 きっと、俺と答えるのだと信じていた。

「んっと…ハンバーグ。」

 ショックだった。そう答えて、妻にしがみつき、ハンバーグをねだるかなこ。その間、俺は自室に籠もり、本気で泣いた。

 

 いかん、折角の幸福な時間だというのに、悲しい思い出など不要だ!!

「かなこ、父さんもかなこが大好きだ。だから、かなこの夢を応援したいが、反対する気持ちも分かってくれ。」

「分かっている。みすずからも言われた。父上は私を大切に思っているからそう言うのだと。」

 みすずちゃん、ありがとう。今度何か奢ってあげよう。でも、あの子容赦ないからなぁ…

「かなこ、分かってくれたんだな。」

「うむ、だから、このハンバーグを食べたら、父上と爺様を倒す。ふたり同時に相手し、勝ったら、武偵高に行っても問題ないと分かる筈だとみすずが言ってた。」

 ごめん、みすずちゃん。なんてこと言ってるの?父さんなんか、お茶吹き出してるし…

「待て、かなこ!!なんでそうなるんだ!?」

「父上や爺様よりも強い者は滅多にいないそうではないか。なら、そのふたりを同時に相手し、勝ったなら、私は、武偵高行っても大丈夫ということだ。」

 そう言ってハンバーグを口に運び、満面の笑みを浮かべるかなこ。可愛いなぁ…じゃない!!

 最悪、俺と父さん、ふたり揃ってあの世行きになるぞ!!

 

 その日、後に武装検事たちの間で語り継がれることとなった『史上最悪の親子喧嘩』と呼ばれる闘いが、巣鴨で巻き起こる。

 遠山家秘伝の奥義の限りととヒステリアモードの限界を尽くし、かなこに立ち向かう俺と父さん。息子たちは、震えてその闘いを見守っていた。

 そして、その闘いの果てを見た息子たちの残した言葉

「姉さんはヤバい。」

 この日以降、息子たちは姉であるかなこに、決して逆らうことは無くなった。

 

 

 

 

 

 

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