緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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外伝:緋弾のアリアif.if―虎と竜、武偵高生徒編Ⅲー

―狐崎みすず視点―

 

 

 

 武偵高入学以来、かなこと共に、割の良い依頼の数々をこなし、貯金も随分と貯まった一年を過ごし、二年生に進級した。

 正直、かなこが進級出来るとは思ってもみなかったけど、武偵高としては、留年や退学などさせて、かなこが暴れた場合の被害の大きさを考慮して、仕方なく進級させたのだろうと推測する。最も、仮にそういう処分となっていたとしても、かなこはあっさりと受け入れる気もするけど。

 さて、二年生に進級して、一般中出身である私たちにとっては、初めて武偵の後輩が出来るわけだ。

 武偵高には、戦姉妹制度というものがあるらしく、戦姉妹契約を結ぶことで、戦姉としては、使い勝手の良い駒を手に入れることになり、戦妹は、小間使いをする代償に技術などの指導を受けることが出来るというわけだ。

 まあ、かなこと基本二個一で活動する私には不要だし、足手まといにしかならない上、戦妹の成績次第では、私の評価も下がってしまうというし、不要なものにリスクを負う必要などないわけだ。

 せっかく、専門である探偵科と、兼科している諜報科と鑑識科で主席となったのに、評価を落とす必要はない。

 

「狐崎先輩!!」

 諜報科の教室でパソコンと向き合っていた私に、声をかけてくる者がいた。

「仕事中よ、見て分からないのかしら?」

「す、すみません!!その、私を戦妹にして下さい!!」

 偶にこういう変わり者がいる。

「悪いけど、私は戦妹はとらないの。仮にとるとしても、使える駒でないなら要らないわ。」

 そう言い放つと、しょんぼりと帰っていく。

「物好きもいるものね。私から何を教わる気なのかしら?」

 正直、私が人より優れていると、自負出来る能力は、人に教えられる様なものではない。精々、変装術程度かしら?

 情報収集も、その整理も、如何に相手が嫌がるか、そこを考えれば自然と見えてくる。真実とは、誰かの不都合。そう理解していれば、自ずと答えは見えてくるのだから。

 それは教わるものではない。持ち合わせた感性によるもの。教わりたいと思う者は生涯持つことはないし、持って生まれた者は、教わる必要などないという、そういうものだ。

 つまり、教えるだけ無駄。だから、私の戦妹になりたいという者の申し出は全て断っているのだ。

 

「随分と人気者になったじゃない、性悪女。」

 そして、二年生に進級したのに、今だに彼女は付き纏い続けている。最近は、かなこだけでなく、私にも絡んでくる様になった。まあ、かなこに対する様に勝負を挑んでくるのではないし、誂う分には面白いから別にいいけど。

「そういえば、Rランクに昇格したらしいわね。おめでとう。まあ、それでも貴女は、相変わらずかなこに負けっぱなしだけど。」

 竜宮アイラ。二年強襲科次席となった彼女は、ランク考査試験でRランクとなり、実質主席と言われている。まあ、主席を争う相手がかなこじゃしょうがないでしょうね。

「う、うるさいですわ!!今日はまだ負けてませんわ!!」

 登校してくるなり、かなこに殴られに行くのが日課だった彼女。

「あら、朝一で殴られに行く極度のマゾヒストが成長したわね。正直、みんな引いてたし、教室という公の場で自分の歪んだ性癖を発散しなくなったのは、いい傾向だわ。」

「なっ!!なんですって!!私にそんな趣味は無いわよ!!…も、もしかして、みんなそんな風に思っていたと…」

「ええ、そうね。大丈夫よ、少し頭のイカれた変態程度にしか思ってないわよ。」

 まあ、これは嘘だ。皆、彼女が極度の負けず嫌いだと知っているし、最初の方こそ呆気に取られていたが、徐々に慣れてきたら、なんだか微笑ましいものを見る目で見守っていたし。

 何より、彼女の優れた容姿と根っからの我儘お嬢様な性格で、熱狂的なファンクラブさえ出来上がっている。

 でも、それは言わない方が面白そうね。

 

「で、でも、私にはファンクラブまで出来てましてよ!!」

 ああ、それは知ってたのね。まあ、目立つの大好きな彼女だし、知ってて当然ね。

「あら、あの変態同好会、貴女公認だったのね。流石、類は友を呼ぶわね。」

「むきーっ!!」

 あら、怒らせちゃったみたいね。目が竜化し始めてる。

「ここで暴れないでくれるかしら。機材も多いし、被害が大きくなってしまうわ。ほら、中庭にかなこがいるから、行ってらっしゃい。」

 後はかなこに丸投げする。だって、私の戦闘力、ゼロなんだもの。

「ふーっ…」

 呼吸の度にほんのりと炎が出てしまっている竜宮は、一息吐いて、教室を飛び出る。

 ホント、愉快な子だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―竜宮アイラ視点―

 

 

 

 

 この私が話して上げてるのに、なんて無礼な女なの!!

 

 狐崎みすず。遠山かなこと基本的に行動を共にする彼女。初めは、所詮虎の威を借る狐程度にしか思っていなかった。

 しかし、蓋を開ければ、そこにいたのは、知識と情報の怪物。座学にも自信のある私を以てしても足元にさえ及ばない。

 探偵科の主席候補に彼女がなった時、彼女の推理力は、もはや未来予知の域に達し始めていた。

 ふたり揃って異常。それが彼女と遠山かなこのチーム。如何に私のプライドを以てしても、敵わない世界、その頂きにいるのだと頭では理解している。

 だけど、それでも絶対に負けたくない!!

 だって、ナンバーワンは私じゃないと納得出来ないんだから!!

 

 あまりにも無礼で恐れ知らずな性悪女、狐崎みすず。この怒りを発散するには…

「遠山かなこぉーっ!!」

 中庭にいる遠山かなこに勝負を挑むべく、突進する。

「って!!なんですの、この状況は!?」

 呆気にとられ、怒りのあまり、竜化しかけていた身体が元に戻る。

 中庭では、キャーキャーと黄色い叫びが上がり、一年生の女子たちが一箇所に群がっている。

「遠山先輩!!戦妹にして下さい!!」

「お姉様なって下さい!!」

 強襲科とCVRの新入生たちが群がって中心には、鬱陶しそうにしている遠山かなこの姿がある。

 わ、私を差し置いて、こんなに注目を集めるなんて!!許せないっ!!

「退きなさい!!退きなさいよっ!!このっ、遠山かなこぉっ!!許しませんわ!!」

 新入生たちを押し退けようとするが、その波にのまれてしまい、ゴチャゴチャとした人波の中で藻掻く。

「このっ!!邪魔ですわ!!退きなさい!!私はあの雌牛に用があるのよ!!」

「誰が雌牛だ!!」

 人波をすり抜け、遠山かなこが私の胸倉を掴む。

「勿論、貴女のことですわ。遠山かなこ。今日こそ私に跪かせてやりますわ!!」

「一度でも勝ってから言え、トカゲ女。」

「誰がトカゲですって!!私は高貴な竜ですわ!!」

 翼を出し、空を舞う。この私をトカゲ呼ばわりなんて!!今日こそ最強は私だと証明してみせますわ!!

「この雌牛!!ホルスタイン!!ダチョウ以下の脳みそ!!」

「煩い!!えーっと…」

 拳と大太刀の剣戟を繰り広げながら、罵倒をする私対して、絶望的な語彙力で言葉に詰まる遠山かなこ。

 この一年、毎日数回勝負を挑み続け、少しだが、彼女の動きついていける様になった。

「隙ありっ!!ですわ!!」

 私を何と罵るか思案する為に少し動きの止まった遠山かなこ。その隙を見逃しはしない。

「遅い。」

 渾身一振りを、指二本で白刃取りされる。そのまま振り切ろうにも、刀を返そうにも、ピクリとも動かない。

「くぅっ!!離しなさい!!このっ!!」

「武器などに頼るからそうなる。闘いの真髄は拳と蹴り。その他は、所詮、それらを補うものでしかない。」

 力を篭めたのか、大太刀の刃が砕け散る。

「鍛錬不足だな。」

 毎度の如く、突き刺さる拳で吹っ飛び、意識を失った。

 

「全く!!気に入りませんわ!!」

 苗流の介抱と、竜故の回復力で目覚めた時、既に遠山かなこと新入生たちの姿は無かった。

「ア、アイラ様。もうおやめになってはいかがですか?苗流は毎日心配で胃に穴が開いてしまいそうです…」

「苗流!!なんてことを言いますの!!竜宮の跡取りたる私が、負けっぱなしなんて許されませんわ!!」

 そう、負けっぱなしなんて許せない。私が一番じゃなきゃ嫌なの!!

「はっ!!そういえば、何故私の下には戦妹申請が来ないのよ!!あの雌牛にはあんなに来てたのに!!あの雌牛の方が目立つなんて!!許せませんわ!!」

「多分もう少ししたら来ると思いますよ…」

 苗流が疲れた様に言った。

 

「竜宮先輩!!戦妹にして下さい!!」

「アイラお姉様ぁ!!」

 翌日、私の下に下級生たちが群がる。目立つのは良い。でも…

「貴女たち、昨日あの雌牛の所にいたでしょう!!」

 そう、あの時見た顔ばっかりだ。

「あら、大盛況ね。凄く目立っているじゃない、良かったわねまあ、全員かなこに振られて、第二候補の貴女のところに来たみたいだけど。かなこのお古でいいなら全部貰っていいわよ。あの子、うんざりしてたみたいだし。」

 ひょこっと顔を出し、そう言う狐崎みすず。何故か愉快そうに笑みを浮かべているので、余計腹が立つ。

「あの雌牛のお古ですって!!いりませんわ!!…このっ!!離れなさい!!ああ!もう!!放しなさい!!こらっ!!スカートを掴むのをやめなさい!!苗流!!苗流!!何処ですの!!なんとかしなさい!!」

 

 結局、少しだけ竜化し、彼女たちを振り払い、空に逃げた。

「遠山かなこ!!それに狐崎みすず!!絶対に許しませんわっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―伊勢久美(くみ)視点― 

 

 

 

 

 弱きを助け強きを挫く。

 そう有りたいと思い生きて来た。

 神奈川武偵中三年の夏。ある人物に出会い、その理想を見た。俗に言う、運命の出会いというわけだ。

 

「キューちゃん、今日も依頼?」

「そうだ。なんでも不当な取引をする無法者共がいるらしいからな。」

 友人の多目(ため)理玖(りく)の質問に、依頼書を見せ答える。

「また、割に合わない依頼だぁ~。キューちゃん、そんなの警察に任せて、理玖と遊ぼうよぉ~。」

 彼女は、何故か僕の『久』の字だけをとりキューちゃんと呼ぶ。

「そうやってなんでも算盤勘定するから治安が悪くなるのだ!!いいか、弱者の声を聞かずに、悪は挫けぬ。僕は絶対にそれを見捨てる様なことはせんからなっ!!」

 今回の依頼は割に合わないとかそういう次元じゃない程酷いというのは分かる。使用する弾薬や移動費を考えれば、大赤字だ。しかし、彼女の言う様に、警察という将来も考えてしまう。正義、己の信念、それを貫くのに、最も適した将来はなんなのだろう?

「損な性格だねぇ~。ま、そんなキューちゃんだからリクは好きなんだけど。」

 ギューっと抱きついてくる理玖。

「ぼ、僕にそんな趣味は無いと散々言ってるだろ!!離せ!!」

 ギャルっぽい見た目でスタイルの良い理玖は、男たちからモテるのに、何故か女の僕にご執心だ。確かによく男に間違われるけどさ…

「いいじゃん、リクも手伝ってあげるからぁ~。」

「僕ひとりでも十分だ!!」

 理玖を引き離し、走って逃げ出す。

「あぁ~、キューちゃ〜ん。」

 

「この辺りか…」

 依頼書を頼りに、依頼主の家を探す。神奈川から離れ、やって来たのは静岡。明らかに治安が悪いと分かる地域に足を踏み入れる。

「お願い!!お父さんを助けて!!」

 まだ幼稚園に通っている様な年頃の幼女が泣きながらそう叫ぶ姿が見え、駆け寄ろうとした。

「ああ、任せておけ。」

 そんな幼女の頭を軽く撫でる人物。見惚れる程の女である僕が見惚れる程の美人さんは、東京武偵高の制服を纏っていた。

「あのっ!!一体何があったんです!!」

 先輩となる美人に駆け寄って尋ねる。

「分からぬ。しかし、子どもが泣いているのだ。助けてやるのが当たり前だろう?」

 当たり前…

「さて、では行くか。」

 そう言い残し、姿を消した。

 その数秒後、

「ねえ、この子を見なかったかしら?」

 呆然と立ち尽くす僕の横に、高級車が停まる。運転席側の窓が開き、これまた東京武偵高の制服を着た、目の死んだ女性が写真を見せてくる。

「あっ!!さっきのお姉ちゃんだ!!」

 幼女が写真を見て、そう答える。

「そう…なんとなく分かったけど、少し話を聞かせてくれるかしら?」

 

 幼女の話は、いなくなった父親を探して欲しいという内容だった。

 しかし、彼女の話を聞く限り、ただいなくなったというわけではなく、拐われた様に感じる。

「そう、よく分かったわ。それで、お父さんの名前は?」

 死んだ目をした武偵高の生徒がそう質問する。

「えっと―――」

 ん?待てよ、その名前…今回の依頼人じゃないか!!

「ああ、そんな名前で割に全く合わない依頼があったわね。あのバカ、また勝手にタダ働きを…」

 溜息を吐く彼女。あれ、依頼人が拐われたってことは…マズい!!こんな悠長にしている場合じゃない!!

「ぼ、僕、スグに行かないと!!」

 慌てて立ち上がる。

「待ちなさい。何処にいるのか分かるの?」

「うっ…」

 分かる筈が無い。

「一緒に来なさい。貴女がどんなに急いで走るよりも、場所が分かる私と車で行く方が速いわ。」

 今の幼女の説明だけで居場所を特定したのか!?

「お、お願いします!!」

 彼女を信頼していいのか分からないけど、今は藁にもすがるしかない。

 

「これは一体…」

 明らかにカタギのものではないと分かる屋敷に踏み入り、見えたのは異様な光景。

 周囲に漂う強烈な硝煙の香りと、死屍累々と横たわる構成員たちの手には、様々な銃火器が握られている。間違い無く何十、いや、何百発という銃弾が放たれた筈だ。

 それだというのに、壁や柱、襖にさえ傷ひとつないのはどういうことだ?

「遅かったな、みすず。」

 そんな中、男性を片手で俵の様に担ぎ、そう言うあの美人さん。その足元には、数え切れない程の弾丸が落ちている。

「勝手に突っ走らないで、と何回言ったかしら?全く、お人好しが過ぎるわよ。」

 呆れた様に言う死んだ目をした女性。

「子どもが助けを求め泣いていたのだ、仕方ないだろう。」

 そう言い、こちらに向かってくる。

「この子の依頼を奪ったみたいよ。それでもいいのかしら?」

「そうなのか?悪かったな。報酬はいくらだ?」

 そう言って、片手で財布を取り出す美人さん。

「い、いません!!僕はただ、弱い人を助けたかっただけで…」

 こうして見ると分かる。彼女は、僕よりも遥かに強い。僕だって強襲科のAランクだが、彼女は、そんなランクとかそういう次元にいない様に感じる。

「良い心掛けだな…しかし、そういうわけにいかんだろう。」

 財布ごと渡される。

「みすず、帰るとしよう。」

「全く…」

 車に乗り込むふたり(正確には気絶した男性含め三人)を慌てて追いかけ、車に乗せてもらった。

 

「お姉ちゃん!!ありがとう!!」

「なんとお礼を言って良いものか…少ないのですがこれは依頼料です。」

 ボロ家に戻り、父娘感動の再会の後、そう言う父娘に、

「要らぬ。私はその子を泣き止ませたかっただけだ。」

 そう言って、死んだ目をした女性と共に出て行く。

「待って下さい!!」

 それを追いかける。

「なんだ?」

 振り返る美人さん。

「お、お名前を聞いても!?それと、いつもこんなことを!?」

 夕日を背に、彼女は答える。

「遠山かなこ。いつもというわけではない。」

「バカ言うんじゃないわよ。毎度タダ働きして…価値を下げるからやめなさいって言ってるでしょ。」

 遠山かなこ…私の理想を体現した人…

 

 なにやら言い合うふたりを見送りながら、何度もその名を心の中で復唱し、その姿焼き付ける。

「遠山かなこ…遠山かなこさん…」

 これ程憧れ、惚れ込んだ相手がいただろうか?いや、いない!!

 その日、僕は東京武偵高の受験を決めた。

 

「竜宮先輩!!」

「アイラお姉様ぁ!!」

 先日、見苦しい程にかなこ先輩の群がっていた彼女たち。今日は竜宮先輩に群がっている。

 全く、なんとミーハーで信念が無いのだろう!!

 一度断られ、それで次に移るなんて、信念が無い証拠だ!!

「遠山かなこ先輩!!僕を戦妹にして下さい!!」

 何度断られても、何度倒れても…何度だって、諦めない!!

「私に一発でも当てたらいいぞ。」

 かなこ先輩は、群がる後輩に飽き飽きしたのか、そんな条件を提示した。

 それから姿を見る度に挑み、吹き飛ばされる毎日。

「キューちゃん…もうやめようよぉ~。」

 毎度介抱してくれる理玖には感謝しかないが、僕は諦めない!!

 

「かなこ先輩!!今日こそ戦妹にして下さい!!」

「遠山かなこぉっ!!今日こそ平伏しなさい!!」

 かなこ先輩の姿を見かけ、毎度の如く勝負を挑む僕と、もう一人。これが、僕の第二の運命の出会い出会った。

 

 完全に一致したタイミングで、二年の次席、竜宮アイラ先輩が同時に挑みかかった。

「このっ!!退きなさい!!一年の癖に!!私に譲りなさい!!」

「年齢も学年も関係ないです!!僕が今日こそ勝つんです!!」

 ふたりでかなこ先輩に何度も攻撃を繰り返す。

「なんて生意気ですの!!それに服装!!男なのにスカートを履くなんて、風紀を乱していますわ!!」

「僕は女です!!先輩だろうと許しません!!」

 何故かかなこ先輩を無視し、激闘を繰り広げる。

「なかなかやりますわね…でも、雌牛には遠く及びませんわ!!」

 今までとは違う、強烈な一撃が僕の意識を刈り取る。正しく竜の一撃だった。

 

「キューちゃん!!」

 抱き着く理玖。此処は…保健室…

「理玖…」

 涙が溢れてくる。僕、かなこ先輩だけじゃなく、竜宮先輩にも負けちゃった…

 かなこ先輩は仕方ない。だって憧れだから。でも。それ以外には負けられない…正義の為に、負けたらいけないのに…

「キューちゃーん!!もうやめようよぉ~。リク、遠山俊かなこも、竜宮アイラも嫌い!!」

「理玖…」

 何度も馬鹿にされ、嘲笑われても付き合ってくれた理玖の涙に、ただ名前を呼ぶことしか出来なかった。

 

「所詮、その程度。あの雌牛…遠山かなこに挑もうなど、百年早いですわ!!」

 高笑いしながら現れた竜宮先輩。

「キューちゃんを馬鹿にするな!!先輩だろうと容赦しないんだから!!」

 竜宮先輩に噛みつく理玖。

「理玖、ありがとう。でも、君が傷つく必要はない。」

 僕の為に、君が傷つく必要はない。仮に、僕と理玖のふたりが、全力で挑んでも、彼女に勝てる気は全くない。なにより、竜宮先輩からは戦意は感じられない。

「伊勢新久良、貴女は他の新入生たちとは違う。決して叶わぬ願いだろうと、己の信念の為に食らいつく意地と根性があるわ。貴女なら、私の戦妹にしてあげても宜しいくてよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―多目理玖視点― 

 

 

 

 キューちゃんは誰にも渡さない!!

 

 伊勢久美、嘗て関東を納めた伊勢氏、後北条家ともいわれる家系の末裔たる彼女は、その始祖たる新九郎の再来と謂われる程、強くその血を受け継いでいる。

「弱者を救けず、何が正義だ!!」

 そう叫び、突撃する彼女の後ろをついてきた私にはよく分かる。

 幼き日、彼女の御屋敷で初めて合って以来、彼女に魅せられていた。

「キューちゃん。今日は何処に行くの〜?」

「理玖はついて来なくていい。危ないから。」

 そう言って誰かを助ける為に飛び出して行く彼女を必死に追いかけた。自分ではない、誰かの為に命を賭ける彼女に、惹かれ、私だけを見て欲しいと願ってしまっていた。

「キューちゃん。武偵になるのぉ~?」

「武偵になるのか迷っている。でも、誰かを救えるなら、それも良いかもしれない…」

 ただ、誰か人の為になりたい。その一心のみで、毎日傷だらけになっても、馬鹿にされても嬉しそう笑うキューちゃん。

「じゃあ、リクも武偵になって、キューちゃんを手伝ってあげる~。」

 だから、私だけを見て。キューちゃんは私だけのもののなってくれなきゃ嫌なの…

 

 だけど、キューちゃんはずっと、誰かの為に突っ走る。…そして…

「理玖!!僕は目指すべき人を見つけた!!」

 初めて見る様な歓喜の表情でそう言うキューちゃんに、ズキリと胸が痛む。

「遠山かなこさんっていうんだ!!彼女は僕理想だ!!僕は、東京武偵高に行って、彼女の戦妹になる!!」

 彼女の見つけた目標。今までなら、無条件で応援出来た。でも…リク以外の女の為なんて絶対嫌だもん!!

「やだ!!絶対やだ!!絶対に駄目なんだもん!!キューちゃんのバカ!!」

「ちょ、ちょっと!!突然どうしたんだよ、理玖。」

 突然怒り出し、ポコポコと肩叩きの様に拳を振るリクに、キューちゃんが戸惑う。

「やだ!!絶対ダメ!!」

 何が嫌で、どうダメなのか、それを言ってしまったら、もう今までの様な関係ではなくなる。それが何よりも嫌で、ただの駄々っ子の様にイヤイヤと泣いていた。

 

 結局、キューちゃんの意志は変わらなかった。

 私も一緒に東京武偵高に合格し、家を離れ学生マンションを借りた。

「理玖、ごめんよ…僕が借りれる家がないから、一緒に住むことになって…」

 カバンひとつだけの荷物と、制服一式だけを持ち、申し訳なさそうに玄関に立つキューちゃん。

 キューちゃんは貧乏だ。なんせ、赤字確定の依頼ばかり受けるし、偶に真っ当な依頼を受け、お金が入っても、直ぐに誰かの為に使ってしまうからだ。

「リク、キューちゃんと一緒で嬉しいよぉ。」

 偽らざる本心。

「理玖…本当にありがとう…僕は理玖がいなかったら、野垂れ死んでたよ。」

「キューちゃんならホントにそうなりそ〜。」

 薄っすらと涙を浮かべ、お礼を述べるキューちゃんに抱きつき、そう言った。

「大丈夫だよぉ、キューちゃんはリクが守ってあげるから〜。」

「理玖は弱いから戦えないじゃないか…」

 小さく笑い、リクの頭を撫でてくれる。

「リクはお医者さんだからぁ、キューちゃん守れるも〜ん。」

 キューちゃんの言う通り、リクは弱い。喧嘩なんかしたことないし、やっても絶対に負ける。だけど、怪我ばかりの彼女の為、武偵中進学以来救護科に入り、医の道を選んだ。

 

 生傷絶えない強襲科。そんな強襲科に所属し、暇さえあれば遠山かなこに挑みかかるせいで、一日に何度も気絶するキューちゃん。

「キューちゃん、大好きだよ…」

 誰もいない中庭のベンチ。気を失った彼女を膝枕し、その額唇をつける。遠山かなこ、アイツ嫌い。キューちゃんを奪おうとするから。でも、こういう瞬間をくれるのは嫌いなアイツの一撃なんだ…一瞬で意識を刈り取る程の攻撃なのに、キューちゃんの身体に痣ひとつつかない。理解出来ないけど、キューちゃんが無事ならそれでいいや。

 

 その日は違った。

 いつもは遠山かなこに負け、気絶していたキューちゃんだけど、今回は、竜宮アイラという変な女に負け、傷だらけになってしまっている。心配のあまり、救護科の保健室に運んだ。

「キューちゃん!!」

 彼女が目覚めた時、安心のあまり抱き着いてしまった。

「理玖…」

 キューちゃんは泣いていた。

「キューちゃーん!!もうやめようよぉ~。リク、遠山俊かなこも、竜宮アイラも嫌い!!」

 キューちゃんを泣かせる奴らは絶対に許さない!!大ッキライ!!

 それなのに、キューちゃんを戦妹にしようとする竜宮アイラ。キューちゃんを傷つけ、泣かせた大ッキライな女の申し出に、

「少し考えさせて下さい…」

 キューちゃんはそう答えた。

 

「絶対反対なんだから!!」

 自室に帰り、キューちゃんの好物である味噌田楽が並んだ食卓でそう言う。

「うん…でも、竜宮先輩は僕と同じ道、その先を行っているんだ…」

 弱々しくそう答え、箸を伸ばす。

「リクは絶対やだ!!キューちゃんはリクと一緒に遊ぶの!!」

 プクッと膨れ、そう言う。

「僕も理玖と一緒にいるのは好きだよ。…やっぱり美味しい。やっぱり、理玖の田楽が一番好きだなぁ…」

 キューちゃんはズルい。そうやって、いっつもリクを大好きでいっぱいにする。

 

 

 

 

 

 

 

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