緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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外伝:緋弾のアリアif.if―虎と竜、武偵高生徒編Ⅳー

―遠山かなこ視点―

 

 

 

 最近、竜宮と新入生の襲撃が減ったな。

 毎日数度ある襲撃、それが突然無くなり、リズムが崩れた様に思う。そう思う最大の理由は、みすずが事ある毎に、

「戦妹と用事があるの、また今度ね。」

 そう言う様になったことだろう。

「退屈だな…」

 強襲科の訓練施設、そこで鍛錬に勤しむ生徒たちを眺めながらそう呟いた。

 何故かビクリと震える生徒たち

「みすずも竜宮も、何をしておるのだ…」

 つまらぬ時間、如何に時間を潰そうかと、小動物の様に震える後輩たちを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―竜宮アイラ視点―

 

 

 

 

 

 

 

「僕、伊勢久美を、竜宮アイラ先輩の戦妹にしては頂けまんか?」

 片膝をつき。そう言い放つ後輩。伊勢久美。その目には、私を超えようとする野心が漲っていた。

「ええ、歓迎しますわ。この私の戦妹になれるということを、誇りに思いなさい!!」

 こういう輩でないとつまらない。あの遠山かなこを超え、私、竜宮アイラがナンバーワンであると証明するには、こういう配下が必要なのよ!!

 

 伊勢久美、東京武偵高一年。神奈川武偵中時代から変わらず強襲科のBランク。

 身長は158cm、一人称と体型、顔立ちから小柄な男子生徒かと思い込んでいましたが、服装(武偵高のセーラー服)同様、紛う事なき女子生徒らしいですわ。

 完全無欠な私からすれば、取るに足らないBランク相応の実力。しかし、思わず注目してしまったのは、その執念を見たからですわね。

「私に一撃でも当てれたら考えてやる。」

 戦妹志願者が殺到した遠山かなこが放った一言。新入生たちが個々に、時には編隊を組んで襲い掛かるも、有効打の一撃どころか、一秒間戦線を維持することさえ出来ずに意識を刈り取られていた。

 …私、やっぱり強かったんですわね。

 そんな光景を眺めながら、そう確信しましたわ。毎度勝てない、憎き遠山かなこ。あまりにも負けが嵩み、自分は実は弱いのでは?と疑心暗鬼に陥ることもあった、しかし、この異様なまでに強過ぎる好敵手と新入生の一瞬の格闘を見て自信を取り戻しました。

 彼女たちが全く反応出来ない攻撃が、私には見えていたし、反応し、対応出来るというのが分かったからですわ。

 

 そんな圧倒的な力の前に、憧れも、自信も廃り、翌日からは次の目標に逃げる者たち(それが私なのは納得出来ませんわ!!)。そんな情けない者たちを数日掛かりで薙ぎ払い、遠山かなこに挑み掛かった。

 そんな時、生意気にも、私と同時に攻撃を仕掛けた者がいた。あの絶望的で圧倒的な力量差に怯まず、挑める新入生。

 それが伊勢久美だった。

 そんな伊勢に対し、抱いた最初の感情は…

 

 邪魔ですわ!!

 この新入生が、あの雌牛、遠山かなこに一発でも攻撃を当てる?

 そんなの夢のまた夢。この私でさえ、認めたくは無いけど、遠く及ばない戦闘力を誇るあの女に、私にも一撃を当てることも出来ないであろう一年生が私と遠山かなこの一戦に混ざる。足手まといでしかないですわ!!

「このっ!!退きなさい!!一年の癖に!!私に譲りなさい!!」

 そう言いながら、遠山かなこに向け攻撃を放つ。

「年齢も学年も関係ないです!!僕が今日こそ勝つんです!!」

 そう言いながら一年も同様に攻撃を放つ。

「なんて生意気ですの!!それに服装!!男なのにスカートを履くなんて、風紀を乱していますわ!!」

 ふたり掛かりでも、遠山かなこに一撃も当てられない。それどころか、完全に見切った動きで、最小限の動きだけでそれらを躱してくる。

「僕は女です!!先輩だろうと許しません!!」

 私の言葉に、一年生が怒り、標的を私にシフトした。

「僕は女です!!先輩だろうと許しません!!」

 女性でしたの!?どう見ても男性にしか見えませんが…言われてみれば、男性よりも少し柔らかい雰囲気がありますわね。

 それから、遠山かなこをほっぽり出してふたりの戦いが始まる。

 戦いとはいうけど、実際は相手をしてあげる程度。竜の力を使わずとも、一蹴出来る程度の相手だと分かる。全ての攻撃をあしらい、彼女の持てる力、その全てを引き出させる。

 躱し、あしらい、手加減した一撃を当てる。まあ、手加減したといえど、彼女にとっては絶望的な一撃でしょうけど…

 ぐらり、と彼女の意識が遠のくのが分かる。所詮、この程度ですわね。遠山かなこに何度も挑み掛かる執念は認めてあげますわ…でも、圧倒的に実力が伴っていませんわ。

 

 倒れた、そう思った彼女が当たり前の様に立っている。…いや、意識は半分飛んでいる。目の焦点が定まっていない。

 しかし、そんな状態なのに何度も攻撃を放ってくる。そのどれもが、先程よりも強くなっている。

 面白い後輩が入ってきたものですわね…

 何度も攻撃を当てても、起き上がる下剋上の執念。

「なかなかやりますわね…でも、雌牛には遠く及びませんわ!!」

 そう、認めたくないが私よりも遥か高みにいるあの女にはどう足掻いても及ばない。

 それを教える一撃、竜の力を少し込めた一撃を放ち、この一戦に終止符を打った。

 

「苗流!!あの新入生について、一時間以内に調べなさい!!」

「はい!!」

 私の一撃を受け、気絶した彼女に、友人らしき新入生が駆け寄るのを見て、そう告げる。

 駆け寄った新入生から睨まれた気がしましたが、そんなことなど、今は取るに足らないこと。

「さて、よく逃げずに待っていましたわね、遠山かなこ!!逃げなかったことを後悔させてあげますわ!!」

 因縁の相手との戦いに挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―伊勢久美視点―

 

 

 

 

 遠山かなこ先輩、そんな人物に憧れ入学した東京武偵高。入学した際には、憧れは信仰に近いものに変わっていた。

 

「私に一発でも当てたらいいぞ。」

 数十人を一度に相手取り、そう言い放つ。

 余裕。そんな驕りと慢心が新入生たちの表情に溢れる中、僕は、『絶対に無理だ』そう確信に近いものを抱いていた。

 結果は予想通り。いや、それ以上。一発当てるどころか、数十人相手でも、一秒保つことさえ出来ない。圧倒的な力量差だった。

 呆気なく薙ぎ払われた僕たち。そんな翌日、新入生たちは誰も遠山かなこ先輩に挑むことはなかった。圧倒的強者。彼女の要求するレベルに達していないと理解した末に、次の目標へと移った。

 だけど、そんな圧倒的な力量差を見せられたからこそ、僕はますます彼女に憧れた。

 

 竜宮先輩に敗れ、戦妹の誘いを貰った翌日。

「遠山かなこ先輩!!今日こそ貴女の戦妹にしてもらいます!!」

 誰もが諦めた相手へ、懲りずに何度も挑み掛かる。

「竜宮といい、大した執念だな…」

 初めて挑んだ時から、もう既に数十回、日によっては一日に何度も挑み続ける僕に、少し呆れた様に言うかなこ先輩。

「それが僕の夢ひとつですから!!」

 竜宮先輩の申し出に、少し悩んだ。竜宮先輩だって、僕よりも遥かに強い。それもその筈。現在の東京武偵高に一人しかいない強襲科Sランクだ。(かなこ先輩はRランク)

 Bランクの僕との実力差は明白。勿論、ランクが全てではないのだけど、実際に相手をして貰い、その力の差を見せつけられ、痛い程実感した。

 そんな人物の戦妹になれる。きっとこれ以上ない幸運なんだろうし、実際嬉しい。彼女の元でなら、きっと今の何倍も強くなれる気がする。

 …だけど、僕は遠山かなこ先輩、その人に憧れて此処へ来たんだ!!

 

 雑念を払い、銃に刃、そして徒手格闘、僕の持つ全てを駆使して挑む。

「一日やそこらで人は強くならぬ…」

 全ての攻撃を軽くてあしらい、そう呟くかなこ先輩。

 その言葉が耳に届くと同時に、僕の意識は刈り取られていた。

 

 

「もっと強くならないと…」

 目覚めた時、頭に残り、何度も響く彼女の言葉。いつも介抱してくれていた理玖の姿は、今日はない。

 地面から起き上がり見えるのは、学園島を消し飛ばしてしまうのではないのか、と思ってしまう様なかなこ先輩と竜宮先輩の空中戦。何故あのふたりは飛べるのだろう?

 到底及ばないと分かる戦いだが、必死に挑む竜宮先輩に対し、涼しい顔で攻撃を無力化するかなこ先輩。

 僕から見れば、ふたり共、別次元の怪物。そんな怪物ふたりでも、竜宮先輩とかなこ先輩の間には、途方も無い高い壁があるのだと理解出来た。

「雌牛!!今日が貴女に土を着ける時ですわ!!」

「誰が雌牛だ!!このトカゲ女!!一撃でも当てておらぬではないか!!」

 更に速度と威力が上がる激闘。もはや目で追うことさえ出来ない。

 

 そんな激闘、しかし、決着はあっさりとついた。飽きたのか、かなこ先輩が少しだけ動きを止めた。いや、止めた様に見えた。

 その瞬間、竜宮先輩の姿が見えた。力無くかなこ先輩の腕に載っている。

 かなこ先輩が攻撃したのだ。そう状況的には理解出来る。しかし、何が起こったのかは分からなかった。

 気を失った竜宮先輩を地面に寝かせるかなこ先輩。すぐさま駆け寄る竜宮先輩の取り巻きの先輩(確か瀬木先輩だった筈)が小さな身体で竜宮先輩を担いで走り去って行く。

「伊勢…だったな?」

「ひ、ひゃい、しょうでしゅ。」

 そんな状況で、かなこ先輩から声を掛けられた。予想外のことに、テンパり、思い通りに舌が回らず、裏返った声に噛み噛みで答える。

「お前、竜宮についてみたらどうだ?アイツは、ああ見えて面倒見が良い。」

「ふぇ?」

 かなこ先輩から出た言葉に、間抜けな声が出てしまう。

「ぼ、僕は遠山かなこ先輩の戦妹になりたいです!!」

 例え憧れの人に勧められても、その意志は揺るがない。

「正直に言うぞ。お前は竜宮に遠く及ばぬ。そして、竜宮は私にとって脅威ではない。」

 彼女の戦妹の条件。一発でも当てたら認める。それが如何に高い壁か、それは身に沁みて分かっている。しかし、心の何処かで、何度もしつこく負い続ければ認めてもらえると思っていた。しかし、彼女の言う通り、そんな楽観的思考が認められるにも差が有り過ぎるのだ。

「一年…一年待って下さい。僕は竜宮先輩に追いつきます。そうしたら認めてくれますか?」

 超えるとは言えない。竜宮先輩でさえ遥か高みなのだから。

「…考えておこう。」

 少し笑い。そうかなこ先輩は言う。

 その微笑みに、胸を貫かれた。

 

「それにしても、理玖は何処に行ったんだろう?」

 いっつも一緒の理玖が居ない。部屋に戻ってひとりぼっちなのは、こっちに来て初めてじゃないだろうか…

 グ~とお腹が鳴る。理玖は何故か電話に出ない。

「冷蔵庫、何にも入ってない…」

 絶望的状況。僕は料理が出来ないし、備蓄食料も無い。どうしよう…

「そ、外に行こう…」

 理玖を探す意味もある。喧嘩した覚えはないし、怒らせた記憶もない。なら、彼女が純粋に何か用事があったんだろう。そう信じ、食事次いでに探すことにした。

 

「美味しそうだなぁ…」

 街の至る所から、美味しそうな匂いが漂ってくる。夕飯の為に外出したのに、僕の財布には、数十円しか入っていなかった。

 この間、駅前の募金に有り金全部突っ込んだのを忘れていた。

「僕、理玖に甘えっぱなしなんだな…」

 よく考えれば、家賃も食費も、全部理玖が負担している。彼女がいなければ、僕は本当に野垂れ死んでいただろう。

 美味しそうな食事の匂いに足が止まる。空腹時にこれは拷問に近い。理玖、何処に行ったんだ…申し訳無さに涙が溢れてくる。

「急に立ち止まられと、邪魔ですわ。…って、伊勢久美ではありませんの。貴女、何をしてますの!?」

「竜宮先輩…」

 街中で涙を流す僕に、ギョッとした顔で竜宮先輩がそう言った。

 私服なのか、武偵高のセーラー服とは違う、綺羅びやかで、高価だと分かる装飾品に飾られ、普段以上に輝いていた。

「なにがありましたの!?」

 心配そうに僕に問いかける竜宮先輩。

「竜宮先輩…」

 どう説明したものか…そう考えていると…

 グ~。と情けない腹の虫が鳴いた。

 

「情けない…しかし、哀れな後輩に施しを与えるのも、先輩である者の務めですわ。」

 見たことも無い様な高級車に乗せられ、隣に座る竜宮先輩はそう言う。

「すみません…」

 恥ずかしさと申し訳なさ、そして、あまりにも豪勢な車内に萎縮し、縮こまって答える。

「それで、何がありましたの?貴女の様な不屈の精神を持つ者が涙を流すなんて。」

 ジッと僕の目を見て質問してくる。

「それは…」

 どこから説明すればいいのだろう?己の生き方、信念への揺らぎ?理玖のこと?どれも安々と話していいことでは無いように思う。

「話たくなければ別に話さなくてもいいですわ。人間誰しも、一つや二つ隠し事はあるものですわ。それが、真に信頼している相手であっても…」

 興味を失った様にそう言う竜宮先輩。言葉の最後の辺りで瀬木先輩をチラリと見たその目は、自信家な竜宮先輩らしくない瞳だった。

 

「凄い…」

 見たこともない大豪邸に連れられ、見たこともない様な食事を出され、なんだか夢を見ているみたいだった。

「伊勢様、お風呂の準備が出来ております。」

 メイド服に着替えた瀬木先輩に促される。あまりにも至れり尽くせりな待遇に流石に気が引ける。それに…

「そんな!!これ以上ご迷惑をお掛けするのは…それに、瀬木先輩は先輩なんですから、後輩の僕にそんな敬語とか…」

 それが一番申し訳なく感じる。

「学園ではいざ知れず、ここは竜宮家のお屋敷、その使用人たる私が、お嬢様の、アイラ様の招かれた客人に、無礼振る舞いなど、許されません。」

 断固たる意思を示す瀬木先輩。

「お嬢様からの指示ですので、無理矢理でもお連れします。」

 小さな身体で僕を持ち上げ、少し早足で歩き出す瀬木先輩。…これは、無礼じゃないんですか?瀬木先輩の竜宮先輩への忠誠心からすれば、僕の意識を無視する程度、何の無礼でもないということだろうか…

 

「本当に女でしたのね…」

 脱衣場で身包みを剥がされ、浴場に放り込まれた僕の下半身を、先に浴場で待っていた竜宮先輩が見てそう言う。…言われずとも散々男女だ、男の娘だと言われてきたけど、目の前に完璧な、女性の理想の様なプロポーションを誇る人物がいると、流石に傷付く。

「好きでこんな身体になったわけじゃないもん…」

 涙ぐみながらそう呟く。貴女は良いですよね。持つものに、持たざるものの気持ちは分かる訳がないのだ。

「ま、まあいいですわ。この竜宮が誇る湯で日頃の疲れを癒やしていきなさい!!」

 話を逸らす様に竜宮先輩が自慢気に高笑いする。確かに凄い浴場だ。でも、此処に至る迄に、もはや別世界と思う様なお屋敷を見ていた僕は、わぁ~凄いという感想くらいしか出なくなっていた。

 僕の身体を洗おうとする瀬木先輩を必死に押し退け、湯船(昔家族旅行で行った温泉旅館のより遥かに大きい)に浸かる。

「ふ~っ。」

 結局僕はどこまでいっても日本人。普段水道代の節約の為、シャワーだけで済ませていたけど、やっぱり湯船に浸かるというのは気持ちがいい。

「ダラシのない顔ですわね。」

 長い髪をタオルで纏め、瀬木先輩に身体をマッサージされながら、竜宮先輩が言う。絵に描いた様な上流階級の姿だった。そんな竜宮先輩は、

「遠山かなこ…貴女はあの女の戦妹になりたいんでしょう?」

 強い目でそう問われる。

「はい…」

 ここまでお世話になって、そう言い切るのも気が引ける。しかし、その意思は揺るがない。

「揺らぎませんでしたわね…大抵の人間は、目先の欲に囚われるものよ。…ねえ、伊勢久美。そんな貴女だからもう一度言うわ。私の戦妹にならなくて?」

 真剣な瞳に吸い込まれる様だった。

「なんで…」

 彼女からそこまで求められる理由が分からない。僕は、彼女にとって、何の利も無い筈だ。

「そうね、先ず、あらゆる利より、己の信念を貫いたところ。次に、あの雌牛を相手に何度も挑むその精神力。第三に、利害が一致していること。そして何より!!この私に靡かなかったことですわ!!」

 ザバァ!!と湯船から立ち上がり、惜しげもなくその裸体を晒しながら言い放つ。

「今やあの雌牛に執着するのは貴女だけ!!見ていてイライラしますの!!今の貴女では到底及ばない!!この私でさえ、赤子の手をヒネる様にあしらうあの雌牛に、私にさえ届かない貴女が挑むのを!!」

 侮辱なのだろうか?いや、違う。竜宮先輩も憤っているんだ。この人はきっと、かなこ先輩に会うまで、ずっと一番だったんだろう。それが、絶対に越えられない壁にぶち当たり、それでも己のプライドと譲れないものを捨てきれず、挑み続けているんだ。

 人生で初めての挫折、それにどう対処するのか、彼女自身まだ決め兼ねているんだ。涙を浮かべたその瞳に、そんな苦悩を感じ取った。

「竜宮先輩…僕のこと嫌いですか?」

 そんな彼女にとって、きっと僕は気に入らないだろう。圧倒的才能を遺憾なく発揮してきた天才がぶち当たった壁に、僕の様な存在が挑んでいるんだから。

「ええ、本当に気に入らなかったわ。でも、貴女を見ていると、己を見ている様に感じたわ。だから、貴女を、あの雌牛に挑む資格を持つ程度には鍛えてあげようと思いましたの。」

 なんとも一方的な言い分だ。でも…

「魅力的な申し出ですね…でも、僕は…」

 断ろうと思った。

「多目理玖。本日、狐崎みすずの戦妹となった様ですね。今日は戦姉妹としての親交を深める為、食事会らしいですよ。」

 瀬木先輩の目が僕を見て、一瞬光り、瞳を閉じた。そして、竜宮先輩への耳打ちを、わざと聞こえる様に言う。

 …理玖が、あの狐崎先輩の戦妹に?そんなのなんにも聞いてない!!

 理玖は、そんな結構大事なことを、僕に伝えることをしたくない程、僕に腹を立てているのだろうか…

 

 怖くなった。唯一ともいえる繋がりが絶たれるのが。目の前の彼女に縋りたくなった。

 会ったら絶対に謝る。でも、謝っても許されなかったら…

 そんな恐怖が、僕の意志を揺るがせた。

「僕、伊勢久美を、竜宮アイラ先輩の戦妹にしては頂けまんか?」

 彼女の前に膝を付き。そう乞うていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―瀬木流苗視点―

 

 

 

 

 竜宮アイラ様。私のお使えする愛しき主人。

 竜宮に代々お使えし、それを生き甲斐としてきた瀬木家に産まれ、産まれた時より竜宮家にお使えする喜びを説かれてきた。

 それが正しいと思い込ませる洗脳教育であったのかもしれない。でも、アイラ様にお会いした初めての日そんな洗脳が解かれ、真の忠誠を誓った。

 

「なんという幸運なのだろう。アイラ様と同じ年に産まれ、仕えることが出来るとは!!」

 父が感極まった様に初出仕の日にそう言ったのを覚えている。

 物心つかぬ私にとって、そのアイラ様なる人物が何者で、どんな人なのか知らなかった。ただ、同い年の女の子と遊べると思って、少しはしゃいでいた程度の認識だっただろう。

「アイラ様、娘のノウルです。今日より、精神誠意お使え致します。」

 父に頭を押さえられ、ペッコリと頭を下げた形で床しか見えなかった。

「ノウル?変な名前。まあいいわ。アイラが友達になってあげる。」

 あまりにも高慢な言葉。ムッとして頭を上げた。その先に見えたのは、私の全てとなる人だった。

 透き通る様な金髪に碧眼。あまりにも美しく容姿。全てを捧げたいと思う姿だった。

「ノウル、挨拶をしなさい!」

 小声で父が言う。見惚れて、何も発せなくなっていた。

「瀬木流苗です…アイラ様にお使え出来ること、光栄に思います。」

 心の底から出た言葉。今振り返れば、この時、私はアイラ様に一目惚れしたのだ。

 

「流苗!!」

 毎日の様に名前を呼ばれ、毎日の様に我儘を仰られるアイラ様。その我儘も愛らしく。そして、愛おしかった。

「なんですの!!あの女!!」

 そんなアイラ様が変わったのは高校に進学してから。高貴で、そして、一族の悲願たる竜の血を復活させたアイラ様は、竜宮家にとって、最高、宝だ。そんなアイラ様には、最低限の自己防衛力を身に着ける必要があると、中高と武偵学校に通うこととなっていた。当然私もそれにお供する。

 武偵中、そこにアイラ様の敵などいなかった。竜の力を使わずとも、圧倒的才能と努力で、直ぐに一番になっていた。

 アイラ様は、それを最初は喜んでいたが、次第に退屈そうにしているのが、少し不安だった。

「遠山かなこぉ~っ!!」

 毎晩怒りを発散するかの如く、そう叫ばれれるアイラ様。しかし、以前の様な退屈に苛まれた目ではなく、心底悔しいという本来のアイラ様らしい天真爛漫な我儘っぷりと、楽しそうにする姿に、毎度気絶され、その度に心労で痛む胃が少し緩和されていた。

 

 二年生へと進級した日、そんなアイラ様の表情が険しくなった。

 伊勢久美という新入生のせいではない。

 伊勢に出会う以前、新学期が始まったその日の早朝。宛名のない手紙が、アイラ様に届いた。

 寝間着のネグリジェ姿のままそれを一読したアイラ様の表情が見る見る険しくなり…

「流苗!!掃除…いいえ!!焼却しておきなさい!!」

 ビリビリと手紙を破り裂き、床へとぶち撒け、怒気が混じった声でそう言い放たれた。

「かしこまりました。」

 不機嫌そうに着替えを始めるアイラ様を手伝いながら、そう言う。

 私がそうすると。言われた通りに従うと疑わないその姿に胸が痛む。

 アイラ様の着替えが終わり、お部屋を出られた後、私は破り裂かれた手紙を集めた。命令通りに燃やす為ではない。

 

 いけないことだと、許されないことだと分かっているのに、それを集め、繋ぎ合わせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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―多目理玖視点―

 

 

 

「みーちゃん先輩!!凄いよぉ~、キューちゃんが理玖のこと大好きって言ってくれたの!!それに、なんでも言う事聞くって!!」

 憎き遠山かなこ。その相棒ともいえる人物の戦妹になるなど想像してもみなかった。

 しかし、その効果が初日、その夜から現れ、私は歓喜し、翌日戦姉たる狐崎みすずの元にそう言って飛びついて成果を報告していた。

「抱き着かないで、鬱陶しい。」

 かわいい戦妹の歓喜の報告だというのに、私の戦姉は、心底面倒臭そうに私を押し退け様とする。

 非力な私の梗塞さえ押し退けられない、信じられない程非力な戦姉は、溜息をついて、諦めた様に抵抗をやめる。

「離さないと、戦姉妹契約を破棄するわよ。」

「え〜、リクなりの感謝の表現なのに〜。」

 パッと手を離す。それは本当に困る。

「全く、感謝の気持ちは金額か、労力で返しなさい。下らない親愛なんか要らないのよ。」

 戦妹割りよ。そう言って電卓を見せてくる。

「容赦ないなぁ~。」

 提示された金額はかなり高額。しかし、この戦姉は一応Sランクだ。相場からすれば破格の安さだろう。

「次は、リクの力で対価を払うよぉ〜。」

 紙幣の束を差出し、そう言う。相場からすれば安いとはいえ、流石に毎回払える金額ではない。

「ええ、そうなることを願うわ。」

 お金を受け取り、興味を無くした様にパソコンに向き直る狐崎。

「みーちゃん先輩〜。次はどうすればいい〜?」

 そんな彼女にもたれ掛かり言う。

「まずその呼び方をやめなさい。不快だわ。」

「え〜、いいじゃん〜。」

 そう答える私に、ゾッとする程の冷たい目を向ける。

「下らない仮面は、私の前では不要よ。安心しなさい、ここは私以外に誰もいないわ。バカの振りも、貴女がそうじゃないとわかっている相手にはなんの意味もなさないわよ。」

「参ったなぁ〜。…いつ気付いた?」

 

「貴女に会って最初の会話。」

「そこからかぁ~。流石、武偵高最高の頭脳。」

 拍手する私に、狐崎は冷めた目を向けながら言う。

「私は正真正銘本物の大バカを知ってるわ。貴女がどんなにその仮面を被っても分かるわ。」

「じゃあ、なんで戦妹にしてくれたの?」

 己を偽る私を、胡散臭いと見抜きながら、側に置く決断をした彼女に質問した。

「簡単よ。別に貴女が必要だと思ったわけじゃない、貴女が欲するものが、私にとっては邪魔だったから。」

 キューちゃんのことか…

「それじゃあ、利害関係が一致している間は、私に協力してくれるってことだよね。」

「そういうこと。勿論、対価は貰うわよ。」

「いいよ。キューちゃんがリクのものになるなら全部あげる。」

 それが叶うなら、他に何も要らない。

「歪んだ愛情ね。まあ、アレを抑えれくれればどうでもいいわ。」

 そう言って、プリントアウトされた紙を渡してくる。

「なにこれ?…へ〜、面白そう。」

 己の歪んだ欲望が湧き上がってくるのが嫌でも分かった。 

 

 

 

 

 

 

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