ーキンジ視点ー
「雑魚ばかり…しかし、市民の平和と安寧の為、見過ごすことは出来んな。」
そう言って俺の肩を叩くベージュのコートとハットを被った美女、最強の警察官と評される銭形平静。
「アンタ一人でなんとでもなるだろ!!俺を巻き込むなよ!!」
得物を手にし、血気だった男たちが俺と銭形に今にも襲い掛かろうとしていた。
「真面目で善良な人々を糧にし、不当に奪う連中が裕福に生き、奪われた者が泣き寝入る…そんな不条理を許せんだろう?」
確かな怒りを込めた瞳で男たちを睨む銭形。
「そんなもん綺麗事だ、現実はそんな不条理しか存在しないだろ。」
そう返す俺の背中を銭形が勢いよく叩いた。
「流石、金叉さんの息子だ。捻くれようと、確かな正義を持っている。」
嬉しそうに一瞬だけ微笑んだ銭形は、
「背中は任せたぞ!!」
そう言い放つと、不可視の銃弾よりも早く弾丸を複数放ち、最前列の男たちの得物弾いた。
いや、アンタ一人で十分どころか、戦力過剰だろ…
弾丸飛び交う中、無傷で一方的に、瞬く間に十数人を徒手で無力化する銭形を見てそう思う。
兄さんの不可視の銃弾よりも早く正確な射撃と、ヒステリアモードの俺たち兄弟(姉は除く)以上の格闘術、正しく最強と言える実力者。
そんな銭形の快刀乱麻の逮捕劇を見ながら思う。
姉さんって、本当に人間なのだろうか?
正直、銭形よりも強い人間が存在するのなら、全盛期のシャーロックや初代リュパン等、歴史に名を刻む者たちであるだろう。そんな偉人を指先一つでダウンさせる怪物である我が姉。
姉さんについて考えるのはやめよう。
俺は普通に生きたいんだから。
迫りくる男の攻撃を辛うじて躱し、ベレッタを構える。
ヒステリアモードでもない俺でも、こいつら程度なら二、三人くらいなら相手に出来る。
「正義って言葉は狡いだろ…逃げたらご先祖様にあの世でボコられるんだよ!!」
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遡ること十数分前、塾帰りの俺は日の沈んだ町の中を歩いていた。
家に帰って復習しよう。
そんなことしか考えていなかった俺の肩は突然肩を掴まれた。
「未成年が不用心に出歩くな。通常なら補導対象だ。」
肩を掴んだのは見覚えのある化物、銭形平静だった。
「塾帰りで、寄り道もせず家に帰る未来ある若者なんだが。」
気配を微塵も感じることもなく接近されたことに動揺したが、それを隠す様に言い放つ。
「遠山金虎の弟だ、学力はあまり期待しない方が良い。」
ポンポン、と優しく肩を叩かれ、無礼極まりないことを言われる。
「宇宙一の大馬鹿と一緒にするな!!流石にあれは例外だ!!」
姉さんの頭脳と同等扱いされ、遺憾の意を唱えた。
「…勉強、教えてやろうか?」
同情的な表情と言葉で返され、不安に駆られる。
もしかして、俺はあの姉さんと同レベルなのか!?
無意識に懐のベレッタに手が伸びる。
もしそうなら、こめかみを自分で撃ち抜きそうだ。
「それで、その宇宙一の大馬鹿はどこにいるのだ?」
俺の首に腕を絡め、身体と顔を近づけて銭形は言う。
ムニュ、と柔らかい感触が左腕を襲い、血流が速まりヒスの前兆を感じ掛けたが、それ以上に恐怖が勝る。
あれだ、こいつは見た目にはヒス的に非常によろしくないが…
姉さんと同列か…
ヒステリアモードのトリガーとなる以上に、生物としての恐怖が上回る相手だ。
「知らない、あの人の動きが分かるなら俺はとっくに公安か武検…世界のそういった組織に拘束されてるさ。」
神出鬼没の我が姉は、一度姿を消したら最後、その姿や位置を捉えることが出来る者は存在しない。
そんな姉を追う異常な人物に正直にそう答えたら、
「使えん奴だ…」
そうやれやれと溜息を吐かれる。
正直、相手が化け物でなければ全力でぶん殴っていたと思う。殺されるからしないけど。
「まあいい、お前も遠山金虎の弟、私的に言えば危険分子、しっかりとマークしていくつもりだ。」
そんな恐ろしいことを言って俺から離れる。
「まあ、そうは言っても金叉さんの息子だからな、ある程度は赦してやろう。」
ハハハと笑いながら俺の背中をバシバシと叩く。
痛ぇ…姉さん程ではないけどアリア以上の馬鹿力だ。
「さて、そんなお前に嬉しい一報だ。」
笑いながら動く所作さえ見せず俺を逮捕術で拘束した銭形は、
「ここいらで不穏な動きをする連中がいるらしい、少し協力しろ。」
有無も言わせぬ力を掛けてそう言った。
「痛ッたたたた!!分かった!!協力する!!協力するから離せ!!」
これはお願いではない、強迫だ。
そんな不満は言えそうにない。俺は大切な両腕を守る為に嫌々ながら協力を申し出た。
全部姉さんのせいだからな!!