―金虎視点―
金次の家を訪問した日の夜。自室で、金次に言われた通り、確かに、私は、金一をあまり、構っていなかったと、振り返る。帰省した日も、ほとんど話していないしな。会いに行くべきだろう。
「そうと決まれば、明日、早速行こうとしよう。忘れぬうちにな。」
それでは、寝るとしよう。金次の家で、寝てしまい、眠気はないが、難しいことを考える。8+3は…。
ぐっすり眠った私は、朝食をとり、金一の気を探る。…移動が多いな。仕事でもしているのだろうか?仕事中に会いに行くのは、流石に迷惑になるのではないか?帰宅を待つべきなのだろうか?
考えていると、頭が痛くなってきた。やはり、私らしく、正面突破だな。とりあえず、金一の気を探って、会いに行こう。では、着替えるとするか。私は、昨日買った、スーツに着替え、自室を出る。
階段を下りると、私の服装を見た、婆様に声を掛けられる。
「あら、出かけるの?」
「うむ、金一に会いに行こうと思ってな。」
「あら、金一の家の場所、知ってたかしら?」
「いや、知らぬ故、気を探って行こうと思っている。移動が多い故、仕事でもしているのだろう。」
私が、そう答えると、婆様にドンッ、と頭を小突かれる。
「このお馬鹿‼金一が仕事してるって分かってるのに、なんで行くのかしら?カナコは、もう少し姉として、自覚のある行動をしなさい。弟に迷惑掛けてどうするの‼」
「いや、迷惑か、とか、帰宅後に行くかと考えたが、考えると頭が痛くなるので、行くことにしたのだ。」
ゴスッッ、ゴスッッ、婆様が、二発連続で拳を叩き込んできた。おお、これが、『秋水』という奥義だな。
「その頭には、何が入ってるのかしら?とりあえず、もう少し考えて行動しなさい。」
「婆様、考える暇があったら、正面突破した方が早いぞ。」
ゴスッッ、ゴスッッ、ゴスッッ、ゴスッッ…。婆様が、無言で『秋水』を、私に打ち続ける。しかし、面白い技ではあるが、威力が低く、効かぬな。
「はぁ、もう、この馬鹿娘は、身体の強さを、少しは頭に回せないのかしら。」
殴り終えたのか、ため息をつきながら、婆様が言う。
「金一の家の住所を教えるから、探すのはやめなさい。」
「分かった。」
婆様は、メモ紙に住所を書き、それと一緒に、紙袋を渡してきた。
「今日、届けに行こうと思ってたんだけど、町内会の集まりがあったのを、思い出してね。ちょうどいいから、持っていってちょうだい。」
紙袋の中には、料理の入ったタッパーが、数個入っている。
「引き受けた。では、行ってきます。」
紙袋とメモを持ち、玄関を出る。後ろで、婆様が、
「まだ、金一がいないのに行ってどうするの‼」
と言っているが、早い方がいいだろう。
「私も、土産を持って行った方がいいだろうか?」
近所の和菓子屋により、団子と饅頭を買い、メモを見る。字が多いな…、む、乃木神社の近くと書いてある。流石婆様だ。とりあえず、乃木神社まで走り、後は人に聞くとしよう。
人混みの間を縫って駆け、乃木神社に辿り着いた。さて、ここからが分からない。キョロキョロと人を探す。おお、警ら中の警官がいるではないか。
警官に案内され、マンションに辿り着いた。警官が、案内中、こちらを盗み見ていたが、なにか、不審に思われてしまったのだろうか?
金一の、部屋番号は101、これは読めたので、その部屋を探し、インターホンを鳴らす。はて、金一の気を感じぬし、何故鳴らしたのだろう?そもそも、いないと分かっているのに、何故来たのだろう?まあ、よいか。どこかで時間を潰そう。
帰ろうとした時、金一の部屋の中に気を感じる。この気は、金一ではない。何奴、と思い、玄関を蹴破ろうかと考えた時、パタパタと、部屋の中から音が近づき、玄関を開ける。
「誰ぢゃ?」
「誰だ?」
玄関から、異国の女が出てきた。
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―パトラ視点―
一通りの家事を終え、休んでおると、インターホンがなった。パタパタとスリッパを鳴らして、玄関に向かい、扉を開ける。
「誰ぢゃ?」
「誰だ?」
誰だとは、お主が、インターホンを鳴らしたのではないか‼無礼な奴じゃ。そう思い、訪問者を見る。なかなかの美女ぢゃな。まあ、わらわ程ではないがの。
「お主こそ、誰ぢゃ。わらわの家を訪ねておいて、無礼ではないか。」
「お前の家だと…。ここは金一の家ではないのか?」
この無礼者は、そう言うと、「間違えたか?」といい、部屋番号を見る。
この女、キンイチの名をだしておったな。知り合いかのぉ?…もしや、キンイチの昔の女!?
「ええい、わらわの質問に、答えぬか‼貴様は誰ぢゃ‼キンイチは渡さぬぞ‼」
「私は、金一の姉だ。渡すも何も、金一は留守であろう。」
…姉とな?女の顔を見る。…似ておらぬな。それに、留守と分かっておるのに、何故、インターホンを鳴らしたのぢゃろうか?
「婆様から、料理を預かってきた。置いてもいいか?」
女が、紙袋をズイッ、と見せ、玄関に置く。なんぢゃこれは?料理とメモ?メモを手に取る。
『パトラちゃん、料理を届けようと思ったけど、用事があったので、家の馬鹿孫に届けさせます。温めて食べてね。 遠山雪津 』
メモを読み、女を見る。本物の姉ぢゃと…、つまり、わらわの義姉上!?
とりあえず、義姉上を部屋に上げる。しかし、何故キンイチは、わらわに、義姉上のことを教えなかったのぢゃ?
「それでぢゃの、義姉上。」
「姉上?お前も最近増えた妹なのか?何故妊娠している?」
あれ?もしかして…、
「あのぉ、義姉上、わらわは、キンイチと結婚したのぢゃが…、それは…?」
義姉上は、ガタッと崩れ落ちた。
「け、結婚…だと…。聞いておらんぞ…‼」
あれ?キンイチ、言うておらぬのか!?これは、まずいのではないぢゃろうか。
義姉上は、ふふふ、と小さく笑い、
「そうか、つまり、お前は義妹か。成程、子まで既に…。」
「義姉上、挨拶がなかったのは、その…。」
「よい、お前は、私を知らなかったのだから。義妹よ名は、なんと?」
「あ、パトラぢゃ。」
「そうか、私は金虎だ。」
そう言うと、義姉上は、わらわの手をとり、
「愚弟を、頼む。」
頭下げた。
「こ、こちらこそ、よろしくなのぢゃ、義姉上。」
わらわは慌てて、頭を上げさせる。
それから、義姉上の土産の、団子と饅頭を食べながら、キンイチの昔話を聞いたり、キンイチとの出会いを話したりしておった。
「む、帰ってきたようだな。」
義姉上が玄関の方に視線をやると。玄関から、ガチャガチャ、と鍵を開ける音が聞こえてきた。
「キンイチー。」
わらわが立ち上がり、玄関に向かおうとする。あれ?義姉上がおらぬ。玄関から、キンイチの声が聞こえてきた。
「ただい…痛たたたた。」
何事ぢゃ!?義姉上もおらぬし、キンイチにも何かが起こっておる。慌てて玄関に向かうと。
「頭蓋骨が…割れるっ‼」
義姉上が、キンイチにアイアンクローをかけたまま、腕一本で、空中に吊るしておった。
「義姉上ぇ!?なにをしておるのぢゃぁ!?」
わらわの声に義姉上が、そのまま振り返る。
「なに、少し教育しているだけだ。」
教育…?虐待ではないのかのぉ?「がぁああ。」とキンイチの痛みに呻きが響く。
「義姉上‼やめるのぢゃぁ!!」
キンイチを助けねば、と義姉上の腕にしがみつく。義姉上は、わらわを見て、小さくため息をつき、キンイチを放した。解放されたキンイチは、痛みに蹲りながら、顔を上げる。
「キンイチっ‼」
キンイチにわらわは駆け寄る。報告を、ひとりだけ受けていない、義姉上の怒りは分かる。結婚の報告をしていない、キンイチに非があるのも分かる。ぢゃが、何故、大の男を片腕で持ち上げれるのぢゃろうか?
「姉さん、結婚報告が遅れていたのは、謝る。だから、パトラだけは…。」
わらわの命乞いをするキンイチ。
「もとより、義妹に手は上げぬ。それに、もう済んだ。金一、私に言うことがあるだろう。」
キンイチが、わらわの肩に手を回し、
「報告が遅くなってごめん。姉さん、俺、結婚した。」
キンイチの、その手に、わらわの手を添える。
「そうか、良き妻を貰ったな。お前には勿体ないくらいだ。」
義姉上が、キンイチとわらわの頭をポンポンと撫でる。
それから、義姉上と共に3人で夕食を食べる。食事終えた後、キンイチと義姉上が話しておる。わらわも片付けを終え、キンイチの横に座わろうとした時、キンイチがタブレット端末を取り出す。
「姉さん、GⅢから、こんなものが送られてきたんだが…。」
義姉上にタブレットが見えるように、机に置くキンイチ。わらわも覗き込む。動画が再生されるた、これは、義姉上が映っておるな。動画は、義姉上が分厚い鉄板に拳で穴を開けた後、虎の姿をしたなにか、を出し、その鉄板を消し飛ばしておった。その後、空中を走ったりしておったが…。
「おお、あの時のか。」
義姉上が映像を見て、思い出したように言う。
「なんぢゃ、これは?よく出来た映像ぢゃの。義姉上は、映画に出ておるのか?」
キンイチを見て、そう聞くと、キンイチは、苦い顔をして、
「パトラ…、信じられないかもしれないが、これは、実際に姉さんがやったことだ。」
なんぢゃ、キンイチも冗談が下手ぢゃな。
「ふふ、キンイチよ騙されぬぞ。」
「パトラ、俺が帰宅する直前まで、姉さんはどこにいた?」
キンイチが突然、違う話題の質問してくる。
「なんぢゃ、突然。そうぢゃの、わらわの前に座っておったが。それが…。」
わらわも、思い出し、ハッとする。あの時は、いろいろとあって、その疑問が生まれなかった。
「分かったようだな。俺の帰宅と同時に、玄関まで、一瞬で移動した。」
「つまり、義姉上は、わらわと同じ様な魔女なのぢゃな?」
瞬間移動、先程の動画で見せたことも、魔力で、身体能力を向上させたり、魔術によるものと考えると、一応納得できる。あれだけのことを、平然とやれるなら、とんでもない魔力を持っておるな。
「いや、姉さんは、魔女でも、超能力者でもない。」
「は?」
キンイチよ、なにを言っておるのぢゃ?あんな事、魔術や超能力、それも超一級の能力であっても難しいのぢゃぞ。
「姉さん、空中に立ってくれるか?」
そんなわらわを見て、キンイチが義姉上に声をかける。
「構わぬぞ。」
義姉上はそう言うと、階段を上がる様に、何も無い空中を歩き、立った。
「パトラ、魔力や、それに準ずる力を感じるか?」
「…な、何も感じぬのぢゃ‼キンイチ、どういうことぢゃ!?」
訳が分からぬ。魔力も無しに、何故この様なことが…。
「パトラ、姉さんについては、考えたら負けだ…。それが、どんなに有り得ないことでも、『姉さんだから』仕方ないんだ。」
理知的なキンイチが、説明も理解も放棄しておる。キンイチは続けて、
「いいか、パトラ。人類の歴史は、常に強い力を持つ者が勝者となってきた。その為に、武器、剣や銃が生まれ、その後も様々な兵器が生まれ、今も生まれ続けている。」
「それがどうしたのぢゃ?」
「その歴史に逆らい、己の身体ひとつ、拳こそが最強と本気で信じて、知性を代償に力を手に入れた怪物が、姉さんだ。」
「知性を代償…?」
「ああ、姉さんは、宇宙一の馬鹿だ。」
キンイチ、お主の姉ぢゃろうに、流石に言い過ぎではないかの?と思っていると、
「馬鹿とはなんだ‼」
義姉上が、キンイチに詰め寄ると、キンイチが、
「姉さん、4+7は?」
「キンイチよ、突然難しいことを言うな。眠くなるではないか。」
あ、アホぢゃ…。
「キンイチ、私は馬鹿ではない。私は勉強が嫌いで、考えるのと覚えるのが苦手で、忘れることが多いだけだ。」
しかも、自覚のないアホぢゃ…。わらわ、この義姉上と、上手くやっていけるのぢゃろうか…。
その後、キンイチと義姉上の、「馬鹿だ」「馬鹿ではない」の言い合いを聞きながら、わらわは思う。
とりあえず、生まれてくる我が子に、悪影響を与えるのだけは、勘弁して欲しいのぢゃ。
今回は、比較的短く纏めました。
次回は、遠山家6人で女子会(女装3人)か、リサを被害者にするか、まだ考えています。