リサの一人称が、原作呼んでも、『リサ』と『私』のふたつあって、使い分けが分からず、適当になってしまいました。
―キンジ視点―
姉さんが帰国して、数日が経った頃、リサが俺の家にやって来た。リサ曰く、
「ご主人様に、ご奉仕するのがメイドの努め。」
と、俺の家に乗り込んで来るなり、掃除や洗濯を開始し、今は、格安で仕入てきた食材を使い、料理を作っている。旨そうな匂いに、鼻腔をくすぐられ、食欲が高まる中、俺は勉強に集中している。
だから、リサの動きに気付けなかった。
突如、俺の左腕に抱きついてきたリサ―の腕に当たる胸の感触―に、俺のヒス的な血流が高まる。
「おい、リサ、なにを―」
俺がリサを引き離そうと、しがみつくリサに右の腕を伸ばした時、
「…ご、ご主人様っ…助けて…。」
リサが、消え入るような小さな声で、呼吸を乱し、俺を抱き寄せる。俺の伸ばした右腕を掴み、自らの胸に押し当てる。ロンドンで、シャーロックの奴が現れた時、いや、それ以上に怯えている。リサは、今にも死んでしまいそうな顔をして、乱れた呼吸を、俺の首筋に吐きかけながら、俺をヒスらせようと、必死に俺に、胸を、体全体を押し当てる。
そんな、リサのお望み通りに、なれてしまったよ。リサの勇者様にね。
ヒステリアモードとなった俺に、気付いたリサが、怯えた表情のまま、俺の顔を見て、
「ごめんなさい…ご主人様…、リサを…、リサを連れて逃げて下さい…‼」
そう、俺に懇願する。おかしい、シャーロックが現れた時でさえ、『守って下さい』と頼んだのに、今回は、『逃げて下さい』なのだ。シャーロック以上の敵…、あらゆる動物を従える、百獣の王を怯えさせる…、そして、『ごめんなさい』、ヒステリアモードの俺でも、勝てない相手。これらの鍵で、ヒステリアモードの脳が、答えを瞬時に導く。そう、狙撃手と言う狩人である、レキさえ怯えさせた猛獣を。
「リサ、怯えなくていい、君の隣には、俺がいるだろ。」
ヒステリア俺は、優しく、リサの目を見て、背中を撫で、落ち着かせる。
「ああ、ご主人様…、いいえ、いけません、今、近づいてくるそれは…」
俺の言葉に、リサは、一瞬の希望を見出したが、すぐに否定する。リサの獣の本能では、そんなにも恐ろしい存在なんだね。でも、
「リサ、大丈夫だ。君が怯える、‶それ″を、俺はよく知っている。とても美しく、優しい虎だよ。」
そう言って、この部屋にくるであろう、その虎を迎える為に、玄関に向かう。
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―リサ視点―
私、リサは、ご主人様―遠山キンジ様―のご新居を訪ね、メイドとしての仕事を行っております。掃除、洗濯を終え、ご主人様より、預かりましたお金で、買い物を済ませ、今は、料理を作っております。
少しでも、ご主人様の身体に良いものを食べて頂こうと、明日の朝食と昼食、数日冷凍で保存できる食事を作り、夕食に取り掛かります。
時折、ご主人様に頂く、「リサには、感謝している。」や「旨そうな匂いだ。」といった言葉に、モーイ、リサは、幸せいっぱいになります。そして、出来れば‶お情け″を頂ければ…、と考えておりましたら、料理も完成間際です。では、仕上げを…、そう思い、火を止めた瞬間―
ぞくっ、と悪寒が走り、体が無意識に震え出しました。私の中に眠る『ジェヴォーダンの獣』、その本能を死の恐怖が刺激し、その恐怖が、一歩一歩と近づくにつれ、死の恐怖は、死への覚悟へと変わりました。その牙が、向けられたならば、間違いなく、死が訪れる。
気がつけば、ご主人様に抱きつき、
「…ご、ご主人様っ…助けて…。」
自らの主人を危険に晒す、許されないことだと分かっていても、僅かな生の希望に、縋りつかずにはいられませんでした。私は、勇者様となった、ご主人様に、
「ごめんなさい…ご主人様…、リサを…、リサを連れて逃げて下さい…‼」
唯一の希望、あの牙から逃れる手段を、伝えます。
「リサ、怯えなくていい、君の隣には、俺がいるだろ。」
ご主人様の、優しい眼差しと、背中を撫でる手の温度に、安堵の心が一瞬だけ、芽生えますが、近づくそれの気配に、
「ああ、ご主人様…、いいえ、いけません、今、近づいてくるそれは…」
そう、例え、勇者様であっても…、そんな私の思いは、
「リサ、大丈夫だ。君が怯える、‶それ″を、俺はよく知っている。とても美しく、優しい虎だよ。」
ご主人様の言葉に、遮られました。そして、玄関に向かうご主人様。虎…?
それが、玄関の前に立った時、ご主人様が、扉を開けました。私は、部屋の隅で、ガタガタと震えるので精一杯です。
「姉さん、いらっしゃい。」
「金次、何故、返對しておる?それと、獣の気を微弱だが、感じるが?」
「中で、説明するよ。」
ガタガタと震える、私の耳に入った、『姉さん』の言葉。
「リサ、こっちにおいで。」
ご主人様の優しい声に、私は恐る恐る顔を上げます。目に映るのは、ご主人様と、美しい女性。この人から、あの恐怖が放たれているのが、分かります。この方が、ご主人様の『姉さん』…、
「おい、金次、あの者は大丈夫なのか?私の前に現れた犬の様になっているが。」
その犬が、気の毒でなりません。ふらりと現れた先に、貴方がおられたら、そうなってしまうでしょう。
「子どもの頃、家族で行った動物園、楽しくなかったなぁ。姉さんがいると、動物が怯えて出てこなくなるから。」
「お前たちは、よいではないか、兎を触ったりしていただろう。私はそのコーナーに近づくと、動物たちが気絶して、追い出されたのだぞ。動物は懐く方だと思っておったのに。」
お願いします、動物たちの為にも、動物園なんて行かないで下さい。懐いているのではありません、従っているだけです。恐怖と言う名の支配に。
「リサ、怯えるな、とは言わない。だけど、安心していい、この人は、俺の姉さん。君に危害を加えたりしないよ。」
そう言って、リサの手をご主人様が、握ってくれます。
「獣の気は、お前か。」
ご主人様の握って下さっている手を支えに、弱々しく立ち上がり、
「私は、リサ・アヴェ・デュ・アンク、ご主人様にお仕えしております、メイドです。リサとお呼びください。」
一礼し、自己紹介をしますが、怯えは消えません。
「リサは、凄く優秀なメイドで、俺も何度も助けられてる。」
ご主人様が、私の肩に手を添え、笑顔を向けながら、そんなことを言ってくれます。
「遠山金虎、金次の姉だ。愚弟が世話になっているようで、感謝する。」
かなこ様…、
「金に虎と書いて、かなこと読むんだ。」
ご主人様が、私に優しく耳打ちしてくれます。『美しく、優しい虎』ご主人様が、言っていた言葉、…そういう事ですか。
なんとか、落ち着きを取り戻した私は、料理の仕上げに戻ります。台所にいる私に、おふたりの会話が聞こえてきます。
「して、何故返對しておる?リサと情事の最中であったか?」
「姉さん、俺は、不義理を働くことはないよ。」
「そうか、女中とそういう事になるのは、珍しくないと思うがな。」
「姉さんの時代感覚が、江戸時代以前なのは分かったよ。」
かなこ様は、私の味方ですね。
さて、料理が出来ました。
「お夕食が出来ました。」
机にいそいそと料理を並べていきます。かなこ様が、
「しかし、あれだな、返對した弟と、向かい合っての食事はしたくない。」
そう言って、「喝ッ!」と一声、ご主人様の纏う空気が変わりました。
「姉さん、あんた…。」
ご主人様が驚いた様子で、かなこ様を見ます。まるで、ブラド様の『ワラキアの魔笛』の様に、ご主人様のHSSを解除してしまったのです。
「では、頂くとしよう。」
何でもないと言うように、かなこ様は手を合わせ、「いただきます。」と言って食事を始められます。私とご主人様もそれに習い、食事を始めます。
「旨いな。私は、この様に手の込んだ食事は作れんな。」
かなこ様から、お褒めの言葉を頂きました。
「ありがとうございます。かなこ様も料理をなさるのですか?」
「あれは、料理とは言えないだろ。」
ご主人様がそんなことを言います。どんな料理なのでしょうか?
「何を言う、ちゃんと焼いてただろう。」
「表面だけ炙った塊肉を、料理とは言わない。」
「ローストビーフでしょうか?」
私の問いに、ご主人様が、
「違う、本当に一瞬炙っただけで、味付けもしてなけりゃ、中身はただの生肉だ。」
「でも、食べたではないか。」
「結局、俺と兄さんは、切り分けて、焼き直してただろ。姉さんはそのまま食べてたけど。」
サバイバルでも、されていたのででしょうか?
「そもそも、姉さんは、包丁も使えないんだから、料理は出来ないでしょ。」
「使えないのではない、使わないのだ。包丁よりもこっちの方が切れるからな。」
そう言って、右手を見せる、かなこ様。
「切れすぎて、台所破壊して、母さんに大目玉食らってただろ。」
「それは、小学生の頃だ、忘れろ。今は、うまい具合に加減出来る。」
小学生の女児が、台所を手刀で破壊する…、
「どうした、リサ、顔色が悪いぞ。」
かなこ様が、私の顔を見て、そう言います。
「いえ、大丈夫です。おふたりの会話が、あまりにも衝撃的で…。」
「リサ、『姉さんだから』そう思って、思考の止めないと、精神が崩壊するぞ。」
ご主人様が、そう、私に助言をしながら、スープを啜ります。
その後、
「暴走した大型ダンプカーを、片手で止めたのって、小学何年の時だったっけ?」や「海割ったのは、中学生の時だったよね?」、「道に迷って、やくざの組ひとつ潰したのは、小学生の時だっけ?」の様な、おふたりが、懐かしむ様に、昔の記憶を掘り起こしながら、会話をしながら、食事を進めておられます。
その間、私は、ご主人様の助言通りに、思考を停止しながら、おふたりの会話に、相槌を時折、入れながら食事をします。味は分かりませんでした。
食事を終え、片付けも終えますと、そろそろ、帰る頃合いになっておりました。帰り支度をしながら、作り置きしている料理の場所を、ご主人様に伝えておりますと、
「金次、リサ。」
かなこ様が、私たちをお呼びになります。ご主人様とふたりでトコトコと、かなこ様の前に行きます。
「小遣いだ、必要なことに使え。」
そう言って、私たちに一万円札をそれぞれに渡してこられました。
「ありがとう、姉さん。」
そう言って、即座に受け取るご主人様。しかし、私はそうも行きません。
「そんな、受け取れません。」
そう言って、拒む私に、
「遠慮すんな、貰えるもんは、貰っておけよ。」
そう言うご主人様ですが、
「いいえ、リサは、メイドです。お小遣いは―」
「何を言っておる?女中は、家族であろう。家族に小遣いをやっているのだ。気にせず受け取れ。」
私の言葉を遮り、かなこ様がそう言って、私の手に一万札を握らせます。
「…家族。」
「そうだ、血の繋がりのある家族、それを支える奉公人たちのを含めた、もうひとつの家族。日本では、家中と言う時、後者を指す。故に、女中であるお前は、私の家族だ。」
ご主人様にお仕えする際、『家族の一員となれるよう頑張ります。』、私は、そう宣誓致しました。かなこ様は、それをご存知ないのですが、私を受け入れてくれました。
「姉さんが、そんなことを知ってるなんて…、病院に―」
「金次、殴るぞ。」
「ごめんなさい。」
そんなおふたりの会話も耳に入らず、私は一万札を握りしめる手が震え、ポロポロと涙が溢れ、零れ落ちていきます。そんな私に、おふたりがギョッとして、
「おい、リサ、大丈夫か。姉さんが怖かったのか?」
「待て、何故、私のせいになるのだ!」
「だって、最初は、ずっと姉さんに怯えていたし。」
私を気遣われるおふたりに、私は涙の止まらない顔を向け、
「いいえ、嬉しいのです。リサは、ご主人様の家族の一員となれるようにと、ずっと思っておりました。だから、かなこ様に家族と言って頂けて、嬉しくて、涙が止まらないのです。」
涙の止まらない顔で、笑顔を見せる私の頭を、かなこ様が撫でてくれます。
「私も、日本に戻り、弟や妹が増え、義妹まで出来た。更に、もう1人、家族が増えて嬉しいぞ。」
かなこ様の言葉で、以前の様な怯えや、恐怖は無くなりました。
かなこ様は、『美しく、優しい虎』、本当に、ご主人様の仰っておられた通りの、素敵な方でした。
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―キンジ視点―
リサが泣き止んだ後、姉さんが、リサを送って、そのまま帰る。と言ってふたりで、俺の家を後にしてから、十数分経った頃、スマホが、電話を告げるべく着信音を鳴らす。この着信音は、アリアか。出ても、出なくても怖い相手だ。しかし、出なかった場合、部屋に強襲をかけられるので、仕方なく出ることにした。
「なんだ―」
「遅いわよ、バカキンジ‼私が掛けたら、ワンコール以内に出なさい‼」
「悪かったよ、で、なんだよ?」
適当にアリアのお説教を流す。
「まったく、キンジは…、あんたのお姉さん、今いる?」
「ちょっと前に帰ったけど。」
姉さんに、何の用だ?
「私の直感では、いると思ってたけど、連絡が少し遅かったわね。」
相変わらずスゲーな、ホームズ譲りの直感。
「姉さんに、なんか用か?」
「あんたのお姉さんに、少し訓練を見てもらいたいの。」
訓練…、アリアが、姉さん直伝の格闘スタイルまで身につけたら、俺の身がもたない‼
「あー、アリア、姉さんは、人にものを教えたり出来ないぞ。驚く程に残念で、ポンコツな脳みそでな、会話が成立しない。だから、やめておけ。」
「違うわよ、緋緋神の力を見て欲しいの。」
「アリア、この間も言ったが、姉さんのあれは、超能力とかそれ系じゃなくてだな。」
「分かってるわよ、バカ。能力じゃなくても、同じ様なことができる人から、感覚とか聞いてみたいのよ。私は、早くこの力を使いこなさなきゃいけないの‼」
藁にも縋るって訳か。
「分かったよ、姉さんに連絡ついた時か、会った時に連絡する。」
「絶対よ、頼んだわよ、キンジ。」
電話が切れる。
「アリアも、あいつなりの目標持って、頑張ってるんだな。」
俺も、頑張らなくては。
俺は、ペンを握り、勉強に立ち向かう。俺も、負けられないんだ。
原作のロンドン編で、リサが、シャーロックの登場に、怯えるシーンがあって、じゃあ、シャーロックよりもヤベー奴が出たらどうなるんだろう?とか考えたら、こんなことになってしまいました。
ごめんなさい。