―アリア視点―
緋緋神の力を完全に扱う為、SSRに出入りすることも増えた。それでも、一向に上達する気配がない。少し焦りを覚える私は、キンジのお姉さんに出会った。走って瞬間移動したり、空中を歩けたりするのに、超能力者でもないと言う、理解に苦しむ人だった。だけど、私の直感が、あの人に教われば、活路が開くと訴える。その直感に素直に従ってみることにした。
スマホが震える、着信先は、キンジね。慌てずに、ふーっ、と深呼吸をして、電話を取る。
「キンジ、あんたから連絡ってことは、お姉さんのことね。」
「ああ、明日でも大丈夫か?」
「問題ないわ、何処に行けばいいかしら?」
「それなんだが、その前に、お前に大切な話がある。午前中に俺の部屋に来れるか?姉さんとは、その後、合流する。」
た、大切な話って…、ウソ…、まさか・・、色んな考えが、頭を巡り、顔が紅潮していく。
「おい、アリア、聞こえてるのか、本当に大切な話なんだ。絶対にお前ひとりで来いよ。いいな。」
「…はい。」
そういう事よね…、切れた電話を放り投げ、枕をギュッと抱きしめる。どうしよう、声にならない叫びを、消すように枕に顔を埋め、ゴロゴロと転がる。
しばらく転がり続け、ピタリと止まる、いいえ、あのバカキンジのことだもの、どうせ的外れなことを言ってくるに違いないわ。…でも、指輪貰って時みたいに…。ボフン、と顔が紅潮する。まあ、とりあえず、明日はひとりで、キンジの部屋に…。悶々とした気持ちを抱いて、眠りにつく。
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―キンジ視点―
アリアに連絡した翌日の早朝、起床したての俺の鼻腔を、旨そうな匂いが刺激する。
「おはようございます、ご主人様。朝食の用意が出来ております。」
「ああ、おはよう、リサ。ありがとう。」
俺は、返事をした後、…え、寝起きの脳が覚醒する。
「ちょっと待て、リサ、なんでいるんだよ。」
「ご主人様から、本日の午前中に来いと言われましたので…?」
確かに、今日、リサとアリアを呼び出したが、問題は、そこではない。
「なんで入れたんだよ。」
「かなこ様に、合鍵を頂きました。」
リサが、ニッコリと、俺の部屋の合鍵を見せる。ガタガタっ、と合鍵を入れていた棚に駆け寄り、中を見る。…無い。姉さん、何してんの?
「かなこ様に、定期的に、ご主人様の様子を見てくれと、頼まれました。」
頑張ります。と言わんばかりに、ぐっと両手を胸の前で握るリサ。更に、続けて、
「かなこ様より伝言です。『リサに合鍵を渡したのは、私なので、文句があれば私に言え。』とのことです。」
なんて、恐ろしいことを言うリサ。リサから、この場で、合鍵を取り返した場合、姉さんによる鉄血制裁の後、リサに合鍵が戻る仕組みが、出来上がっている。
「えーっと、リサさん、合鍵を返してくれたりは…」
「駄目です。リサが、かなこ様に叱られます。」
はい、詰んだ。一旦、合鍵を取り返すことを諦め、朝食を取る。姉さんが忘れたタイミングを狙おう。
朝食を終え、食器を洗うリサとコーヒーを啜る俺。指定した時間まで、まだあるな。さて、アリアが来るまで勉強しよう。俺が勉強、リサが、掃除やら家事をこなし、アリアを待つ。
指定した時間の数分前に、玄関を叩く音がする。来たか。リサがパタパタと玄関に向かう。
「お待ちしておりました。アリア様。」
「リサ、なんであんたがいるのよ‼」
あれ、なんか嫌な予感が…
「ちょっと、バカキンジ!どういうことよ!」
ズンズンと、足音を鳴らし、アリアが近づいてくる。
「ま、待て、なんで怒ってんだ!?」
「あんたが、ひとりで来いって、大切な話って…、なのに…、うぅっ…。」
赤くなって俯くアリア。なんか勘違いしてたのかこいつ?
「ひとりで来いってのは、間宮とかが、つけてこない様に巻けってことで…」
「あんたって、いっつもそう‼勘違いさせるようなことばっかり言って‼」
「お前が何を勘違いしたのかは、知らんが、大切な話なんだ。落ち着いてくれ。」
「それで、ご主人様、お話とは?」
リサが、絶妙なタイミングで、合いの手を入れる。
「話すから、アリアも座れよ。」
アリアとリサが並んで座る。
「いいか、これから話すことは、他言無用だ。まあ、姉さんのことなんだがな…。」
「かなこ様の?」「お姉さんの?」
ふたりが、キョトンとした顔で俺を見る。
「ああ、まあ、姉さんのことを、お前たちは知ってしまったからな。」
「なにそれ、お姉さんのこと、知られちゃいけないわけ?」
「察しがいいな、アリア。そうだ、姉さんのことを誰にも言うな。姉さんの存在は、日本の特別機密事項になっている。」
「どういうことでしょうか?かなこ様は普通に出歩いておられますし、海外にも行っておられると、かなこ様本人からも聞きましたけど。」
リサが首をかしげる。
「それは、諦められてるからな。何十人もの武装検事が、姉さんの監視と身柄の確保を試みたが、全部無駄だったんだよ。どんな包囲網だろうが、監視網だろうが、すり抜けて、好き勝手やっちゃうんだよ。姉さんは。」
「武装検事が大人数でも、逃げられるって、本当に人間なの?」
「分類学上はな。」
アリアが、信じられないという表情を浮かべる。
「上海で戦った、猴。あいつのレーザービームが、貫けなかった、高張力鋼、あれを、最低出力の攻撃で、核シェルターの床ごと消し飛ばすような人だ。動画もある。」
そう言って、信じていないアリアに、GⅢから送られてきた、あの時の動画をパソコンで再生する。それを見終わり、
「分かったか。姉さんは、出鱈目に強い。強いのは、しょうがないんだけど。その力が、世界中で知られると、悪用する奴らとか、狙う奴らが出る可能性が高いだろ。だから、姉さんのことは、他言無用だ。いいな。」
動画を見て、啞然としているふたりに、そう伝える。
「ねえ、キンジ。意味が分からないんだけど。」
「俺も、分からん。『姉さんだから』仕方ないんだ。」
「モ、モーイ、かなこ様は、リサの想像以上に…。」
リサが、途中で言葉が詰まり、プルプルと小刻みに震えている。せっかく怯えがなくなったのに、ぶり返してしまった。
「とりあえず、お前たちを信頼しているから、伝えたんだ。頼むから、誰にも言うなよ。特に間宮、あいつ、俺が嫌がるって分かったら、言いふらす恐れがある。」
「それって、言いふらすと消されるわよね。」
「武装検事と公安が、乗り込んでくる。後はご想像にお任せします。だな。」
「まあ、そうなるでしょうね。」
はーっ、とアリアが、ため息をつき、
「まあ、お姉さんのことを隠さなかったってのは、私たちを信頼してるってことみたいだから。私も、その信頼を裏切る様なことはしないわ。」
「私もです。ご主人様。」
アリアとリサの口止めに成功した俺は、ひと息つく。
「はーっ、これで、姉さんのことがばれた面子の口止めは終了だな。」
そう言って、コーヒーを啜る。
「待ちなさい、キンジ。終了って、理子とレキには、先に話したのね。」
どういうことよっ!とアリアが大噴火。
「ま、待て、理子は口が軽いから優先してだな、レキは、なんとなくタイミングがあったからでだな…。」
「なんで私が最後なのよっ!」
ヤバい、このままだと、拳銃を抜くぞ。
「し、信頼してたから、アリアを一番信頼してたからだ。」
ははは、と誤魔化しにかかる。アリアは、ボンっ、と赤くなり、
「そ、そう、そういう事なら許してあげる。でも、次からは、私に何でも最初に言いなさいよね‼。」
と怒りを収めてくれた。よし、誤魔化し成功。
それから、姉さんが来るまで、アリアとリサを家庭教師にして、勉強を進めた。
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―アリア視点―
お姉さんと合流し、事前にチェックしていた、訓練出来そうな廃工場に行く。ここなら、夜は、不良の溜まり場になってるけど、昼間は人が来ないし、周りからも隔離されているから、ちょうどいいでしょ。と思ってたけど、さっきの動画みたら、少し、不安ね。
廃工場に入ると、キンジとリサに、周囲の警戒をさせ、お姉さんと向かい合う。
「キンジから、大方の話は聞いたが、要するに、なんとやらの力を見て欲しいと?」
「はい、緋緋神の力で、瞬間移動が出来るんですけど、思い通りに使いこなせなくて…。目に見える範囲だけしか出来なくて。」
「分かった、見せてくれ。」
お姉さんの言葉に頷き、瞬間移動をする。移動した先に、お姉さんも既にいる。
「成程、走っているわけではないな。原理が分からぬ。」
「そうですか、それで、何で私が、移動する位置が分かったんですか?」
「勘だな。」
そうですか、と答える。あれ、私の直感って外れたのかな、この人から教われる気がしないんだけど。
「しかし、見える範囲には移動できるなら、それを繰り返せばいいのではないか?私だって、走っている以上、障害物を避けたり、破壊しなければ進めぬからな。神崎のそれは、原理は分からぬが、結局は、同じことだ、難しく考えるのが悪いのではないだろうか?」
予想外にも、まともな回答を貰えた。
「難しく考えるな…。」
「そうだ、物事は単純明快、分からぬことは、正面突破だ。」
ニヤリとお姉さんが笑う。
「考えるより、使い続け、体に慣らし、身につける方が早いと思うぞ。では、鬼ごっこでもするか。」
「えっ?鬼ごっこ?」
「そうだ、ほら、逃げろ、捕まったら、そうだな…、こうだ。」
そう言って、地面を殴るお姉さん。地面がボーリングされた様に穴が開いている。
「制限時間は、そうだな最初は、三分でいいだろう。金次、時間を計れ。」
「えっ、ちょっと、待って…。」
だって、捕まったら、死ぬってことでしょ!キンジ、あんたも、なに準備してんのよっ‼
「では、開始だ。」
無慈悲にも告げられるスタート、
「ひぃっ!」
即座に瞬間移動を行う。
「ほれ、捕まるぞ。」
すぐに目の前に、お姉さんが現れる。
「!?~~~~!?」
声にならない叫びを上げ、瞬間移動を行う。するとまた、お姉さんが現れる。悪夢を何度も繰り返し、
「はい、終了ー。」
キンジの声が聞こえる。はぁ、はぁ、と息を乱し、地面にへたり込む。体力的にも精神的にも、過酷すぎるでしょ。
「リサ、水分補給に良いものを買って来てくれ。」
一方、お姉さんは、息ひとつ乱さず、涼しい顔でリサに指示している。
「神崎、よく逃げ切った。大した根性だ。」
へたり込む私の前に、しゃがみ、私の背中を優しく叩きながら、そう言うお姉さん。でも、分かってる、お姉さんは、わざと捕まえなかった。私に本気で逃げさせる為にしてたんだ。
「かなこ様、買ってきました。」
リサが、スポーツドリンクを差し出す。
「ほれ、神崎、疲れたろう、飲め」
お姉さんが、ペットボトルのキャップを開け、私に渡す。
「あ…、ありが…とう…ございます…。」
息も絶え絶えにお礼を言って、受け取ったそれを、ごくごくと飲む。
「お前は気付いてなかった様だが、残り一分頃から、移動の速度が上がり、距離が伸びていた。知らぬ内に、体に力が、馴染んでいったのではないか?」
言われても、分からない。息を整え、一度やってみる。トンッ、とキンジの前に、移動する。確かに、若干だけど、前よりも違和感なく出来てる気がする。気がするだけで分からないけど。
「何事も実践と、その反復で上達する。たまには、頭を空っぽにして、こういうことをしてみるのもいいと、私は思うぞ。」
私の後ろに、移動してきたお姉さんが、そう言う。私が振り向いて、その顔を見上げると、ニコリと笑う。
「姉さんの場合は、いつでも頭空っぽだけどな。」
キンジが拳骨を落とされる。それを見て、ケラケラと笑う。そうね、たまには、何も考えずに、遊ぶ感覚で、力を使ってみるのもいいかも、子どもの頃、遊びで色んな事を覚えたように。行き詰ってた道が、少し開けた気がする。
「あの、お姉さん、ありがとうございます。少し、道が開けました。」
ペコリと頭を下げる。
「金虎でいいぞ。それと、気にするな。私もなかなかに楽しかった。」
「姉さん、鬼ごっこの相手いなかったからな。すぐ捕まえちゃうから。」
その後、かなこさんが、私のレーザーを拳で打ち消したり、緋緋神の力を使って、いろいろとした、訓練というより、遊びだったけど、こんなに、思う存分に力を使えることがなかったし、どんなことしても、かなこさんが打ち消すから、絶対に安全というのも心強かった。
緋緋神の力を存分に使い、疲れた果てた頃。スマホが震えた。
「なによ、理子?」
「アリアー、女子会しよ。今夜理子の部屋に集合で、よろしくぅ。」
「ちょっと、いきなりなに―」
ブッツリと電話が切れる。
「まったく、理子ったら、突然女子会なんて。」
「行くのか?」
キンジが聞いてくる。
「仕方ないから、行くわよ。行かなかったら、後で色々と詮索されるのもあれだし。」
仕方ない、と疲労感の残る体に喝を入れ、
「かなこさん、今日はありがとうございました。また、機会があったら、お願いします。」
「ああ、気を付けて帰るんだぞ。」
かなこさんに一礼し、帰る。
最初は、どうなるかと思ったけど、曾祖父様譲りの直感は、流石ね。それに、キンジのお姉さん―かなこさん―とも仲良くなれたみたいだし。
体は、疲労感で思いけど、気持ちは、少し軽くなった。
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―キンジ視点―
アリアと別れた後、俺と姉さん、リサの3人も帰宅を開始する。3人で並び、歩いていると、
「おい、リサ。『女子会』とはなんだ。」
姉さんが、先程アリアの発したワードをリサに尋ねる。
「『女子会』とは、女性だけで集まり、お話しをしながら、食事をしたり、遊んだり、とりあえず、女性だけで集まる会と思っていただければ。」
「成程、それに、何の意味があるだろう。」
姉さんは、生物学上、女性になるけど、俺たち兄弟で一番『漢』って感じの人だからな。理解出来ないのだろう。俺も、分からんし。
「かなこ様も、一度『女子会』をしてみてはいかがでしょうか?百聞は一見に如かずと言いますし。」
リサ、余計なことをっ‼
「そうか、『女子会』か…。」
姉さんの不穏な呟きが、俺の恐怖を駆り立てるのであった。
なんとか早いペースで仕上がりました。
次回は予定していた、女子会の話にしようと思ってます。カナは勿論、クロメーテルさんも、キンコも出す予定です。
遠山家の女装率、おかしくないですかね?