インフィニット・ストラトス~織斑一夏からヒロインを奪おうとする転生オリ主の話~ 作:カイナ
「織斑一夏!! オレと勝負だぁ!!!」
IS学園一年一組教室内、大声を出したオレに対し、目の前にいる少年──織斑一夏がこっちを見上げてくる。
その顔はオレが小さい頃から修行を重ねた結果なのだと思う胸に阻まれてよく見えないが、長い付き合いだ。きっとオレの想像通りのぽかんとした間抜け面を晒している事だろう。
吾輩は転生者である。名前はまだない。
冗談だ。とはいえ前世での名前は覚えていない。現世での名前は「
そして転生したと言う通り、オレには前世の記憶がある。そして現世、この世界は前世においてライトノベルとして世に発表されていた作品『インフィニット・ストラトス』の世界。織斑一夏という少年を主人公にした、ハイスピード学園バトルラブコメディと銘打たれたハーレムラブコメものだ。
オレは死んだ時に神様に出会い、この世界に転生する事が出来るようになった。そしてこの作品のヒロイン達は(性格はさておき)見た目は全員見目麗しい美少女達。そんな世界に転生できるのなら男としてやる事は一つ。
(いやでも箒と鈴は原作開始前に一夏に恋い焦がれるわけだし、その初恋をないがしろにするのは悪いよな……なら目標はセシリア以下IS学園に入ってから出会うヒロイン達によるハーレムの座か?)
ちょっとそんな事を思いつつ、オレは自分を転生させてくれるという神様から得たいくつかの特典を手に転生した。
だがその野望を思い出したのは小学校二年生の頃だ。その時までオレは自分が転生したという事実すら忘れていた。
親の仕事の都合で家を引っ越すことになり、新たな学校に転校。その時、オレは自分が転生した事を思い出したからだ。何故か、それはいたからに他ならない。その野望を叶えるための障害にして
転校先の教室で挨拶をした時、主人公の織斑一夏とヒロインの篠ノ之箒がいた。その瞬間オレの記憶は覚醒し、そうなった瞬間オレはいてもたってもいられず、同じ教室のクラスメイトへの挨拶もそこそこにずんずんと強い足取りで織斑一夏の前へと歩み寄っていた。
「ん? なんだよ?」
その頃の一夏は「許さねえ奴はぶん殴る」と公言するような荒っぽい少年だった。だからか初対面のこちらを思い切り睨んできている。だがそんな睨みに怯むようではオレの野望を叶えるなど夢のまた夢、故にオレもニヤリと笑みを返した。
「お前、織斑一夏だな?」
「なんで俺の名前を知ってんだ?」
「そんな事はどうでもいい。まあ、名乗りもしないのは失礼だな。オレの名は浅山マコト」
今にして思えば不審者極まりないが、そんな事気にしていられる事はなく、オレは一夏にビシッと突きつけるように指差した。
「お前はオレのライバルだ! お前には絶対に負けないから覚えておけ!」
「…………はぁ?」
一夏のぽかんと口を開いた間抜け面と呆けた声がやけに印象に残った。
それから休み時間になるも転校生へのお約束、新たなクラスメイトからの質問攻めは特に来ない。というか周りは妙にこっちを見てざわざわしたりこそこそ何かを話している。
何故かは分からないが特に何もしてこないのならどうでもいいからと、オレは席を立つと長く伸ばした黒髪をポニーテールに結った少女──篠ノ之箒に歩み寄る。
「君、篠ノ之箒だよね?」
「……何故私の名前を知っているんだ?」
冷静に考えれば初対面の相手が自分の名前を知っているという不可解な状況に対し、警戒心マックスで睨んでくる。だがそれで怯むわけにはいかない、初恋をないがしろにさせてまで奪うのはどうかと思う。ならば話は簡単、オレを先に好きにさせればいいだけの話だ。
「まあ気にしないでくれ。オレは浅山マコト、君と友達になりたいんだ」
「……はぁ」
笑顔でそう言うオレに対して目をしばたかせて呆けた声を漏らす箒。周りから「あの男女と友達になりたいだって?」「はっ、変わり者もいるもんだな」とか男子のからかう声が聞こえてくるが、原作でも彼女はイジメられている描写があったからそういういじめっ子だろう。許せないことだ。
目の前の箒もそのからかいを聞いてけだるげに息を吐いていた。
それから放課後にまで時間は流れる。掃除当番が一夏とクラスメイト数名ということを確認したオレはまさかと思って転校初日だから校内を見て回りたいととってつけた理由で学校に残り、教室近くに隠れ潜んでいた。
するとやがて教室内から男の声が聞こえてくる。
「おーい、男女~。今日は木刀持ってないのかよ~」
「……竹刀だ」
「へっへ、お前みたいな男女には武器がお似合いだよな~」
「喋り方も変だもんな~」
マジかよ、と思わず一人ごちる。転校初日に箒が一夏を好きになるイベントが始まるという幸運に苦笑しつつオレは教室内に走り込んだ。全てはオレが箒のヒーローとなるために。
「だよなー。この間なんか、こいつリボンしてたもんなー。男女のくせによー。笑っちま──」
「だらっしゃーい!!!」
「──ふごっ!!??」
教室に飛び込んだ時には原作通り一夏がいじめっ子の一人を掴み上げており、既に少し遅かったと思いつつも教室に飛び込んだ勢いでいじめっ子目掛けて飛び蹴りをかます。
突然の脈絡のない乱入者に一夏やいじめっ子はもちろん、箒までも唖然としているが気にしない。オレは箒の前に立ってビシッといじめっ子を指差した。
「女子をイジメる不埒な輩はこのオレが許さん!!!」
「突然飛び込んできて何言ってんだお前!?」
オレのかっこいい決め台詞にいじめっ子からのツッコミが響く。
「言うまでもない。お前達が箒ちゃんを馬鹿にする言葉を聞き、颯爽と馳せ参じたに過ぎん!」
「なにを馴れ馴れしくちゃん付けなどしてるんだ貴様は!?」
今度は箒からツッコミが飛んできた。
「テ、テメエ転校生のくせに! 男女と友達になりたいとか、お前もしかしてこんなリボンも似合わない男女が好きなのかよ!? お──ふがっ!?」
飛び蹴りでぶっ飛ばしたいじめっ子のリーダーらしき男が声を荒げるも、今度は一夏がその顔面を殴りつけた。
「転校生がぶっ飛ばしてたからタイミング逃してたけどよ、さっきも言ってたよな? 笑う? 何が面白かったって? あいつがリボンしてたらおかしいかよ。すげえ似合ってただろうが。ああ、なんとか言えよボケナス」
しまった、原作の決め台詞を先に言われた……が、オレが言ったって不自然かもだしまあいいか。
「お、織斑も転校生も、お前ら先生に言うからな!」
「勝手に言えよクソ野郎。その前にお前らは全員ぶん殴る」
「人を暴言で傷つけといて、自分が傷つけられそうになったら先生に言うとかプライドねえのかテメエらは」
それからオレと一夏は三人相手に大立ち回り。原作で剣道だけでなく千冬から体術を習っているという一夏はもちろんだがオレだって家族から色々格闘技を習っているから引けは取らず、最終的にやってきた教師に一夏ともども押さえつけられて全員揃って職員室に連行。
保護者呼び出しになっていじめっ子が自分達に都合のいい事を並べ立てた挙句、その親もそれを全面的に信じてやれ警察だのやれ裁判だのと場がやかましくなる。一夏の保護者として呼ばれた千冬も頭を下げさせられていた中だった。
「す、すみません……浅山さんの保護者の方がお見えに……」
「フン、こんな教育のなってないガキの保護者なんて──」
どこか怯えた様子の教師の言葉にいじめっ子の親が鼻を鳴らして職員室の入り口を見るとそっちも沈黙。
「失礼いたします」
一言言って入ってきたのは三人の男性、一人は身長二メートル近い長身に鍛え上げられているガタイと褐色の肌、身体中に細かい傷がついている。とんでもない威圧感だった。
「申し訳ありません。父も母も仕事で忙しく、どうしても抜けられないということで、兄である俺達が代わって参上いたしました」
ぺこりと頭を下げる褐色の男。そう、これはオレの兄貴で浅山家長男、浅山
するとその後ろに立っていた、虎兄ちゃん程じゃないがガタイのいい、しかし無駄な肉のついていない身体をし、金髪オールバックにサングラスをかけた男性が突如腹を押さえて苦しそうに顔を歪めた。
「あ、す、すみません先生……お手洗いはどちらに?」
「あ、あっちです……」
「や、やって来てそうそうすみません、少し失礼します。兄貴、先に話進めといてくれ……」
そう言ってすぐさま職員室を出て行こうとする男性。だが彼は我慢できないというようにカバンから白い粉の入った粉袋を取り出しながら職員室を出て行き、それを見たいじめっ子の保護者やいじめっ子達の顔が青くなった。
(鷹兄ちゃんストレスとかに弱いもんなぁ、悪いことしちまった……)
浅山家次男、浅山
だがボクシングになると人が変わったように勇敢な攻めを行う癖に普段はちょっとしたストレスで胃腸に異常をきたす程に繊細で胃薬は手放せない。そんな兄が自分が転校初日に喧嘩して呼び出しを受けたなんて聞いたらストレス性胃炎を起こすのも仕方ないと、オレは自分の浅慮を恥じていた。
「それで、うちの馬鹿が問題を起こしたと聞いておりますが。詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
クイッと眼鏡を押し上げながら尋ねる、黒髪七三分けにこちらも虎兄ちゃんや鷹兄ちゃん程じゃないが身長の高い男性。
浅山家三男、浅山
兄ちゃん達全員格闘技を齧っているだけあってガタイはいいし皆親父に似たのか長身。母さんに似てチビッコのオレからすれば羨ましいがまだ成長期だからきっとなんとかなるはずだ。
そんな現実逃避をしているが竜兄ちゃんが元々吊り目をさらに吊り上げてこちらを睨んでくるのはすごい迫力があった。
「「「ご……ごめんなさーい!!!」」」
するとオレの隣に立ってさっきまでこっちをニヤニヤと嘲笑うように見ていたいじめっ子三人が突然大声で謝り始めた。
「お、俺達がおとこおん──篠ノ之さんに酷い事言ったんですー!!」
「う、嘘ついてごめんなさーい!!」
「ゆ、許してくださーい!!」
大声で謝り始めただけでなく泣き出すいじめっ子三人。先生たちがざわつき始め、さっきまで「織斑と転校生が突然殴りかかってきた」「俺達は悪くない、悪いのは織斑と転校生だ」と言ってたのをひっくり返す証言にいじめっ子の親達の顔が赤くなる。
すると虎兄ちゃんがのしのしと彼らの元に歩み寄り、いじめっ子達に視線を合わせるようにしゃがみこんで手を伸ばす。いじめっ子達がひっとか細い悲鳴を上げて目を閉じた。
「偉いぞ」
虎兄ちゃんが、その大きな手で順番にいじめっ子達の頭を撫でて、彼らを褒める。
「怒られたくないからと自分の悪いところを隠したくなる気持ちは分かる。だが今回勇気を出して自分が悪いと謝った事は怒られる事ではない。もちろん人を傷つけるような事を言うのは悪い事だが、その気持ちを忘れなければもう大丈夫だ」
「「「う……うわーん!!!」」」
虎兄ちゃんに撫でられたいじめっ子三人は大泣きしながら再び「「「ごめんなさーい!!!」」」と大声を出す。
「うお、何があったんだ?」
「もう終わったよ鷹……まあ、まだお説教が残ってるけどね」
胃薬を飲んで戻ってきた鷹兄ちゃんに竜兄ちゃんは終わったと答えた後、再びオレを睨んでくる。説教からは逃れられないなとオレは諦めてため息を一つついた。
それから虎兄ちゃんがいじめっ子達に説教を入れた後、今度はオレと一夏にも「女の子を守る気概は買うが何も考えずに暴力に訴えるのはよくない」と説教開始。しかも一夏の立ち姿を見ただけで体術の心得があるという事を見抜いたらしく、一夏に「特に君の身体は同い年相手には充分凶器となり得る。身体を鍛える事は素晴らしいが、それを力として振るう事の意味を忘れるな」と注意を飛ばしていた。
そしていじめっ子達が箒に「今まで酷い事言ってごめんなさい」と謝り、オレと一夏もいじめっ子達に(一夏は若干不服そうだったが)「突然殴ってごめんなさい」と謝って喧嘩両成敗という事で場は収まる。
そしてたまたま帰り道が一緒ということでオレと一夏、箒は保護者である千冬さんや虎兄ちゃん達と一緒に帰路につく。
千冬さんが「一夏の喧嘩に巻き込んだようで申し訳ない」と謝ったり、虎兄ちゃんが「いえいえ。どうせ勝手に首を突っ込んだんでしょう」と答えているのを横に聞いていると、箒が「なあ」と声をかけてきた。
「その、お前はなんであんな事をしたんだ? お前と私は今日会ったばかりだ、こんな面倒な事をする理由なんてないだろう?」
「何言ってるのさ? 言っただろ、オレは君と友達になりたいんだ」
「……変わっているな」
細めた目でこちらを見た後、はぁとため息をつく箒。そんなアンニュイなところも可愛い。
「……マコト、だったな?」
「ん?」
箒が腕組みをしながらオレの名前を呼んできた。
「お前の名前だ。友達なら名前で呼ぶくらい当たり前だろう」
「……ああ。これからよろしくね、箒ちゃん」
「ちゃんは止めろ」
こうして計画通り、オレは箒と友達になる事に成功したのだった。
しかしその後箒は一夏の方にも駆け寄っていき、その時の様子を伺えば、結局箒は一夏の方に想いを寄せるようになった様子だったが、今のところそれは仕方がないと諦める。これから振り向かせればいいだけだ。
それからなんやかんや
その数々の勝負の中の、三年生の時のバレンタイン。どちらが多くチョコを貰えるか勝負の時に、箒は一夏から隠れてオレにチョコを渡してくれて、もしやと思ったのも束の間。箒は憐れみを感じさせる視線でオレを見ていた。
「話は聞いた……お前も一本すら取れずに勝負ありといきたくはないだろう? 友として、せめてもの情けだ……」
「お、おう……ありがとう……」
友情とある意味で真心のこもった、コンビニで買えそうな甘い板チョコはしょっぱい味がした。
結果?オレは箒から貰った一個だけ、一夏はこの一年でかっこよさに磨きがかかり、女子から人気がある男子だったとだけ言っておこう。
ちなみに箒は結局恥ずかしさが勝って一夏にはチョコを渡せなかったらしい。つまり原作ヒロインの箒からチョコ貰ったのはオレだけって事で、実質オレの勝ちでよくね?
それからも四年の終わり頃に原作通りの理由で転校することになった箒が寂しくならないようにいつまでも忘れない思い出を作ろうとお別れパーティを盛大に開いたり、五年の初め頃に転校してきた凰鈴音と仲良くなったりしながら時間は過ぎ、あっという間に小学校卒業の日がやってくる。
「今日で小学校も卒業か……」
校門前で一夏が感慨深げに、今まで通っていた小学校を見上げる。鈴が「何似合わない格好してんのよ」とニヤニヤしながらからかい、一夏が「うっせえ」とぼやいた。
「ところでさ、マコト。俺と鈴は地元の中学行くんだけど、お前は違うんだろ?」
「おう。それに中学では学生寮に入る事になってる」
「寮か……学校も違うし、そうなったら今までみたいには会えなくなるよな……」
珍しく一夏が寂しそうな顔を見せてくる。が、そんなの
「なに言ってんだよ。会いにくくはなるけど、もう会えないってわけじゃねえんだ。また休みの日に予定が合えば遊ぼうぜ!」
「……そうだな」
「そうね」
オレがにっと笑ってそう言えば、やっと一夏もにこりと笑い、隣の鈴もにかっと笑う。
「それに、このオレがありがたい予言をしてやろう。オレ、一夏、鈴。この三人はたとえどこかで離ればなれになろうとも、いつか絶対、例えば高校になれば再会するってな!」
「ははは。随分と具体的な予言だな」
「ってか高校って、近すぎでしょ。そこは大人になったらとか……け、結婚して、再会とか言いなさいよ」
オレのありがたい予言を聞いた一夏が笑い、鈴も苦笑しつつも後半は照れながら答える。その時に一夏の方をチラチラと見ているものの一夏は全然気づいている様子を見せなかった。
それから小学校の思い出や中学校への期待を話しながらオレ達は帰り道を歩き、やがてそれぞれの家に続く別れ道に差し掛かったので、オレは別れを惜しみながらも未来に希望を馳せながらその道に踏み出し、最後に二人の方を振り返った。
「──じゃあな。また遊ぼうぜ!」
「ああ、またな」
「元気でね」
右手を振り上げてそう言えば一夏と鈴も手を振って答えてくれ、オレは手を下ろして二人に背を向けると一気に駆けだした。
最長でもたった三年間、一夏と鈴がオレと会うのを拒むはずがないから実際はもっと定期的に会えるはず。そう分かっていながらも、ここで駆け出さなければ振り返ってあいつらの胸に飛び込んでしまいそうだったから。
だがオレは一夏のライバルでいつか鈴をオレのハーレムに加える者。そんな情けない姿を見せるわけにはいかないと、オレは涙を拭いながら家に向かって走り続けるのだった。
それから中学に入ってからはなかなか会えなくなったものの、たまに予定が合って一緒に遊ぶことになった時には、一夏が進学先の中学校で友人になったという五反田弾や御手洗数馬と仲良くなったり、鈴がオレを見るたびにやけに睨んできたり、二年の終わり頃にやはり原作通り鈴が中国に引っ越すことになったので必死に予定を開けてまたお別れパーティをしたり、あっという間に月日は過ぎて行った。
ちなみに原作で鈴が一夏に告白する「料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?」の、日本でいえば毎日君の作った味噌汁が飲みたいプロポーズ(なお男女逆)のイベントは結局一夏が受けていた事をここに記しておこう。
そしてまた少し時間が過ぎて一夏は原作通り、オレも特典の力によってIS学園へと入学。そこで箒と再会したりセシリアとぶつかり合ったり鈴と再会したり、色々あって今に至るわけだ。
そんな事を思い出してどこか感慨深く思う。
だがここで満足するわけにはいかない。これから先、シャルロット・デュノアやラウラ・ボーデヴィッヒと言った新たなヒロインがIS学園にやってくる。まだオレの野望を叶えるためには油断できる段階ではない。
視線を下に向ける。オレの永遠の