英雄フィアナの迷宮探索    作:雑魚王

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十話 殴り込み

 女神の泊まる宿に到着した少女二人を、レイアは優しく出迎えた。

 リリが背負う重荷を全て理解した上で、それでもなお受け入れると、母性溢れる笑みを浮かべたレイアの優しさに、灰被りの姫は大号泣。隣のフィアナは「あれー? 私のときは言葉を尽くしまくっても上手くいかなかったんだけどなー」と神と幼女の力の差に打ちひしがれた。

 ともあれ、リリの固く高い心の壁をレイアが崩したことにより、三位一体の共同戦線が結ばれ、三人は宿屋を出た。

 向かう先は【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)、ではない。本丸に攻め込む前に、保険を掛ける意味で、一つ寄るべき場所があった。

 

「ミーアー! ミアはいるー?」

 

「んなでかい声で呼ばなくたって聞こえてるよ」

 

 のっしのっしと店奥から現れる女主人は、低身長が基本のドワーフとは思えぬ長身と、ドワーフらしい恰幅の良さを併せ持つ。酔っ払い店で暴れる冒険者を片腕で放り投げる女傑は、平時であろうと迫力がある。彼女の女子力(物理)の前では、小人族の少女など子犬以下だ。純粋な握力だけでも、頭を粉砕されて余りある。

 

「ただ飯を食いに来たってわけじゃなさそうだが、どうかしたかい」

 

「うーんとねぇ……二時間後くらいに祝勝会しに来るつもりなんだけど、もし予定が変わって(・・・・・・・)私たちが来店しなかったら、これ(・・)をリューに渡してもらえる?」

 

 両腕を組みながら睥睨する女主人の瞳を、フィアナは正面から見返し手紙を収めた封筒を差し出した。

 零細ファミリアに過ぎた高級封筒は、明かりに照らした程度では中身を透かせない。外側に金を掛けるということは、中身の重要性にも転ずる。胡乱げなミアの視線を受け、フィアナは事情を少しだけ明かすこととした。全てを秘匿することも可能だが、それを実行すれば不和の原因にもなり得るからだ。

 

「リューが喜ぶプレゼントについて書いてあるだけよ。あの人に危険が迫ることはないわ、絶対にね(・・・・)

 

 強い念押しは『これ以上踏み込んでくれるな』という忠告だ。

 また、言葉を選んでいるということは、選ばれた少ない言葉に嘘はないということでもある。ミアが懸念する、『従業員が危ない橋を渡らされる可能性』はただの杞憂であると言外に示してみせた。

 必要最低限の情報開示だが、しかし相手は歴戦の女主人だ。不用意に踏み込むことはせず、引き際を弁えていた。鼻を一つ鳴らすに留め、まるで引ったくるようにして手紙を受け取ると、店奥の厨房へと戻っていく。

 ミノタウロスの如き、肩幅の広い背中に感謝の一念を捧げると、フィアナも踵を返した。店外で待機していたレイアとリリの二名と合流し、首尾が良好であることを伝えれば、いよいよ事態はクライマックスへと向かいだす。

 【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと、三人は歩を進めた。ギルドにてかのファミリアの団員に手を上げてしまったことから、時間を置けば報復されるかもしれない。それを防ぐための電撃作戦の決行だ。

 

 先陣を切る者はフィアナ・グローリー。いつにも増して気合の入った少女が、オラリオのメインストリートを颯爽と()く。

 二番手は、【レイア・ファミリア】主神の女神レイア。彼女はたった一人の眷属とその友人を助けるべく、いっそ大人げないほどに事態に介入する決意を固めていた。それゆえの中衛。前衛(フィアナ)を支え、かつ後衛(リリ)を庇えるポジショニングだ。

 そして最後尾。ある意味、本件における主役とも言えるリリルカ・アーデが一行(パーティ)の末に居た。不安と恐怖から足が重くなりがちな少女を、女神とその眷属が激励する。

 

「ここが【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)か。意外と小さいのね」

 

 【ソーマ・ファミリア】は狂人の巣窟だが、豊富な団員数と『ランクアップ』を果たした者が複数名在籍することから中堅の【ファミリア】に位置づけられる。

 しかし、団長が【ファミリア】の運営資金を横領しているためか、あるいは主神が酒造りに資金を投じすぎているせいか、中堅にしては資金に余裕がないらしい。彼らの本拠(ホーム)は同じ規模の【ファミリア】と比較すると、ずっと小さく、また年季が入っているようだった。

 見張りの一人も立っていない門扉を潜り、建物内に堂々と無断で侵入するフィアナ。さも当然のような顔をしてレイアがその後を追い、リリも「どうにでもなれ!」の精神で続く。

 

「うわ、きっつ」

 

 建物の内部には、咽返(むせかえ)るような酒気が充満していた。壁の向こうからは酔っ払いたちの下卑た笑いや呂律の回らない会話だけが響く。

 真面な場所ではないし、真面な者が一人としていない。擁護できる点が、真実一つもない。

 フィアナの短い悪罵には、他二名も共感しているのだろう。否定の声はおろか気配すら立ち昇らない。

 侵入してから汚点のみが転がっている【ソーマ・ファミリア】。酒と堕落と背徳の園は常人が忌避して然るべき場所だ。

 しかし、内心はどうであれリリは【ソーマ・ファミリア】の一員だ。そのため本拠(ホーム)の構造も熟知しており、彼女の案内の下に一行は一直線に主神ソーマの自室へと近づいていく。

 

 途中、闖入者の存在に気付き誰何してくる団員もいたが、残らず女神の微笑みに鼻の下を伸ばして道を空けた。所詮は飲んだくれ、警戒心や思考能力は微塵もない。『美女のおねだりを叶える良い男』を演じることに否やはないらしい。リリの同派閥団員を見る目の温度が非常に下がった一幕である。

 

「あんたがここの主神のソーマ?」

 

 バーン! と無駄に音を立てて扉を開け放ち、フィアナは室内にいた神物(じんぶつ)へと問いを投げる。垂れ流される気配から神の一員であることは間違いないが、それでも人違いならぬ神違いの可能性もないわけではない。確認は重要だ。神違いのまま問答を進めれば、間抜けどころの話ではない。

 なお、該当人物が何らかの作業――リリから聞く分には十中八九酒造に関する何か――を行っていようと知ったことではない。ソーマという神は、眷属など知ったことではないとばかりに酒造にのめり込んでいるというのだからお相子だ。

 

「もーしもーしっ!! 耳と頭が悪くないんだったらぁ! 返事の一つくらいしてくれませんかねぇ!!!?」

 

 数秒その場で待機すれども、返事がない。むかっ腹の立ったフィアナは、ズンズンと部屋に侵入し、ソーマらしき男神の耳元で声を張り上げた。

 大音量で放たれた、幼児特有の甲高い声はモンスターの咆哮(ハウル)にも似る。発達した声帯の能力も凄まじいが、それ以上に敵地のど真ん中で己の存在を知らしめる糞度胸は異常だ。

 事実、異常事態(イレギュラー)の発生を認めた【ソーマ・ファミリア】団長のザニスが駆け付けようと、フィアナは動揺も怯えもしない。侵入者も下手人も己であるにも係わらず、威風堂々と待ち構え、眼鏡をかけた男を睨み返す。

 

「ソーマ様、彼女たちは?」

 

「知らない。ザニス、お前がどうにかしろ」

 

 耳が痛むのか、顔を顰めながらもソーマの視線は手元の作業から離れない。ザニスの問いをあしらい、問題を丸投げする。主神という【ファミリア】の根幹にあるまじきぞんざい(・・・・)な態度は、ソーマの、そして【ソーマ・ファミリア】の常態なのだろう。

 向き直ったザニスは、フィアナ、レイア、リリの三名を一瞥すると、勝ち誇るような笑みを一瞬浮かべた。侵入者の過半数が小人族、加えてその一方が常日頃から見下している自団員であることが、彼の余裕に繋がったのだ。

 

「言うまでもないことだが、ここは我々【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)だ。我が同胞(ファミリア)であるアーデに誘われ、遊びにやって来たという風でもないと見えるが、何用かな?」

 

「私はおたくの娘さんとパーティを組んでいる冒険者なんだけど。今日、ギルドで魔石の換金したときに【ソーマ・ファミリア】の冒険者に活動の妨害工作を受けたのよ。そのことについて文句を言いに来たってわけ」

 

「そういうことならば、事前承諾(アポイントメント)を取るべきだと思うがね」

 

「見る限り酔っ払いしかいない【ファミリア】にアポ? 冗談でしょ。言伝さえ出来ないに決まってるわ」

 

 【ソーマ・ファミリア】には、美女の微笑み一つで氏素性の知れぬ者たちを主神の下へ行かせてしまった事実がある。フィアナのカウンターにはこれでもかというほどに説得力が搭載されていた。

 インテリを装ったザニスがピクリと表情筋を痺れさせるが、彼のことは最初から眼中にない。リリは【ソーマ・ファミリア】の闇を牛耳る大悪党かのように思い込んでいるようだが、フィアナにしてみれば小悪党がいいところだ。

 神酒を悪用した苛烈な暴政も、結局は酒の製作者がいなければ実現不可だ。成人した身でありながら、他人におんぶに抱っこされているだけの悪を成すだけで満足しているのだから程度が知れる。主神(ソーマ)が心変わりすれば、あるいは天界に送還された時点で、ザニスの牙城は崩れ去るほどに脆い。

 

「こちらの要求だけど、リリルカ・アーデの改宗(コンバート)を認めてほしいの。ついでに、今後うちの【ファミリア】にちょっかい出さないって誓いも立ててちょうだい」

 

 フィアナはソーマ目掛けて言ったつもりだが、当の神からは返答はおろか反応一つない。『ザニス、お前がどうにかしろ』の言葉通り、かの男神は自派閥の団長に裁量の全てを託したようだ。

 派閥の運営に関して、これほど無責任かつ無気力な主神もそうは居まい。それだけに【ソーマ・ファミリア】について調査しているうちに抱いた疑問(・・)は、単なる考えすぎではないと確信を得る。

 

「無駄だよ、無駄。お前程度ではソーマ様を振り向かせることはできない」

 

 向こうがその気なら、こっちもその気だ。ソーマがフィアナを無視するように、フィアナもザニスに取り合わない。

 視界の外で膨れ上がる、上級冒険者の怒気を受け流し、『ドン!』と力強く足を叩きつける。レベル1の小人族とは言え、【ステイタス】を持たない一般人とは雲泥の差の身体能力だ。力任せに踏み鳴らすだけでも、部屋中の物を揺らす程度のことは出来る。

 椅子が揺れる、机が揺れる。振動波の只中にあって繊細な作業が出来るものか。手元の狂いを恐れたソーマは、酒造作業を中断し、胡乱な瞳をフィアナへ向けた。

 

「やめろ。酒造りの邪魔になる」

 

「邪魔されたくないなら話を聞け」

 

 一応敵対派閥に類される【ファミリア】の主神に対し、零細ファミリア所属のレベル1冒険者の身でありながら命令する糞度胸。「マジかこの人」と言いたげなリリの視線が、ビシビシと背中に突き刺さる。

 好き放題に暴れ回る幼女を止めんと一歩踏み出すザニス。しかし、彼程度の悪党では、女神に手を上げることはできない。それを看破及び利用し、彼の眼前にレイアは現れ、行く手を遮った。いざとなれば天界に送還されない程度に神威を撒き散らす覚悟を決めた、女神が防壁となっているのだから、ザニスはそれ以上進めない。

 立ち往生する自派閥団長。一歩も引かない小人の幼女。それらを見て取り、ソーマは漸く話に応じる構えを取った。

 

 

 

 

 

【レイア・ファミリア】に新加入する幼女はどんな幼女が良いか

  • 他作品の幼女がゲスト出演
  • 黙って原作に従い、原作幼女を集める
  • 読者の考えた幼女が参入
  • 性別転換薬を製作し、男キャラをTS
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