【疾風】のレベルは、第二級冒険者にも列せられる4。レベル2のザニスでは勝利の糸口すらつかめない絶対強者である。【疾風】が襲来した瞬間に、彼の死は確定する。
「安心なさい。私たちを無事に帰してくれたら、【疾風】の出撃要請も解除してあげるから。あんたが妙な抵抗をして時間を潰さなければ、十分に間に合うはずよ」
追い詰められた獣は何をするか分からない。逆上して襲われでもしたら、リリとフィアナの命はない。ザニスにとって【疾風】が強者であるように、レベル1のフィアナたちからすれば、ザニスは比類なき難敵なのだ。
戦わないに越したことはない。逆上した挙句に剣を取るという選択肢を消滅させるために、逃げ道を用意した。
「……本当か?」
「嘘を吐くメリットがないでしょーが。自室に戻って自棄酒でも飲んでるうちに、全ては終わるわ」
「……そうさせてもらう」
力なくフラフラと主神の部屋を出ていく男の背を見送ると、フィアナはソーマへと向き直る。リリの改宗のために、ザニスへの対応は必須であったが、重要度で言えばソーマの方が遥か上だ。消えた脇役に割く意識はない。
「話を本筋に戻しましょ。リリの改宗を許してくれるのよね?」
「ああ。お前の想いの丈と願いの真を見させてもらった。ならば、私が応えないわけにはいかないだろう」
酒神はリリを呼び寄せる。その際に、自身の【ファミリア】にリリルカ・アーデという小人が居たことさえ知らなかったと判明し、
子を軽んじるという行為は、母神である彼女には耐え難かったのだろう。ソーマを攻め立てるレイアの覇気といったら、ザニスを虐めたフィアナでさえ身震いするほど。
母は強し。
場のヒエラルキーが決定し、いざリリの
誰よりも改宗を願った彼女の、願いとは相反する一声だ。意図を測りかねるが、無視することは出来ない。
「ソーマ様。改宗する前に、リリに
【ソーマ・ファミリア】を去るから、その最後に酒に溺れたい。そのような甘い考えではない。
リリはフィアナを正面から見据える。
「フィアナ様は言ってましたよね。一緒に過ごした時間は嘘じゃないと。リリもそう思いたいんです。
例え念願の改宗が叶ったとしても、全てが人任せでは胸を張れない。きっと二人で過ごした時間を、これから過ごす日々を穢してしまいます」
待ち望んだ『明日』は誰かに手を引かれて行くものではない。自分の意思と足で行くことに意味があり、だから価値が生まれる。
けれど、リリと冒険する最中に見せた、大輪の笑顔もまた彼女の真実である。
つまるところ、リリを救うために、フィアナは余人から見て『冷酷』と評されるほどに刃を研ぎ澄ませただけ。彼女の冷酷さは、そのままリリへと向ける親愛の情の多寡でもある。
フィアナはリリのために、酒の神に啖呵を切った。神酒を飲み、打ち克ってみせた。
偉業を三連続で達成するだけの黄金の覚悟の煌めきを間近で目撃しながら、ただその恩恵に甘えるなど厚顔無恥にもほどがある。そんなことをしてしまえば、リリルカ・アーデは闇から抜け出す資格を失う。盗人よりも余程卑しい咎人へと落ちる。
リリはフィアナと冒険するために。フィアナの隣に立ち続けるために、自らの意思で踏み出さなければならない。
「ほぇぇ、リリが良い子すぎる゛ぅ゛」
神酒に対する
ザニスが消えて気が緩んだこともあり、滂沱の涙を流し、鼻水もまた然り。急激に湿地帯の広がる顔面のまま、リリに抱き着き頬を擦り寄せる。
「親戚のおばちゃんか何かですかっ。って、私にも付きますからやめてください!?」
涙と鼻水の特製ブレンドを、プライスレスでプレゼント。湿地帯は、その領域をリリの容貌にまで拡大した。
友の頼みを聞き入れたフィアナは顔を離すが、心の猛りは収まらず、顔面出身の水流も勢いを衰えさせない。故に、
「ぎゃー!? リリの一張羅に何をしてくれてるんですか、この方は!」
湿ったローブと、顔面を伝う濁った白液の痕跡。その立ち姿は、全身を無数の
リリの女としての尊厳は、シリアスな空気諸共フィアナによって凌辱されてしまった。
「話を、進めてもいいだろうか」
フィアナに外された話の流れを、蹴り飛ばして本筋へと戻す
姦しさ前回の空気は、男と言うだけで居た堪れないであろうに、平然と踏み入っていく勇気。これぞ神だ。
「リリルカ・アーデ。お前が望んだ
酒瓶を傾け、盃を
リリは、そして一度は神酒に勝利を果たしたフィアナも、遊んではいられない。香りだけでも、神酒は油断ならぬ存在なのだ。
「っ」
受け取った杯の、水面に映るリリの顔は揺れていた。あるは、盃を持つ手そのものが震えているのかもしれない。
虚像と視線を交わらせているだけで、過去の苦痛が鮮明に蘇る。
【ソーマ・ファミリア】の団員たちの狂乱。子を庇護すべき親の不在。助けを求めて伸ばした手を、慈悲なく叩き落されたこと。小人族だから、サポーターだからと、冒険者たちから加えられた数々の暴行。何よりも、神酒が齎した、絶大な
いずれも恐ろしい記憶だ。恐れて幼子のように震えても、誰も責めやしないほどの深い闇。底の見えない谷に引き摺り込むかのように、神酒は妖しく輝く。
呼吸を荒くするリリを、フィアナはそっと背後から抱きしめた。
「一人じゃない。私も一緒だから心配しないで」
「……一つ聞かせてください。フィアナ様はどうやって神酒の魅了を振り払ったんですか?」
フィアナの一言で、全身を包む寒さは消えた。触れ合う人肌の温度が恐怖を晴らす。
リリは、答えの分かり切った問いを投げた。
「そんなの簡単よ。レイア様に『いってらっしゃい』と『おかえりなさい』を言って貰えること。リリと一緒に冒険したこと。
掛け替えのない
「ですよね。――知ってました」
フィアナに倣い、杯に満ちる神酒を一口で飲み干す。
リリが試練を突破できたか否かは言うまでもあるまい。
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