「――というわけで、この子を保護したの」
「というわけじゃなーい! あばばばばば、私のせいでレイア様がグレたー!」
宿に戻った自称未来の大英雄を出迎えたのは、敬愛する女神プラスαだった。
レイアの背に隠れた幼女が、窺うように小さく顔を覗かせる。既に風呂に入り身を清めたのだろう、くすんだ銀色の髪はしっとりと湿り気を帯びていた。
丸みを帯びた碧眼と、無垢な白肌はあどけなさを感じさせ、大変に愛らしい女児である。
なまじ容姿が優れているだけに、事情を明かされなければ、レイアは完全にアブナイ神だ。レズビアンとロリコンの
「ねえ、レイア様。ペットを飼うのとはわけが違うのよ? 私たち宿屋住まいだし……百歩譲って野良犬や野良猫は良しとしても、野良幼女て」
たまさか『幼女』が拾い物に名を連ねる日がやってこようとは、フィアナをして思いもしなかった。しかも名実ともに神格者であるレイアが拾い主だ。もはや、それだけで騒乱の種となり得る。娯楽好きの神々に知られた途端、確実にちょっかいを出されるだろう。
「でも、フィアナちゃんが私の立場だったらどうする? きっと助けたいと思うんじゃない?」
「普通に見捨てるけど」
「思った以上にドライ!」
リリを助けるために、フィアナは全力以上の力を振り絞った。
そこまで頑張ることが出来たのは、リリが唯一の仲間であり友人であったからだ。見ず知らずの赤の他人のために東奔西走するほど、フィアナは人間が出来ているわけではない。
ジロリ、とレイアを間に挟みつつ、銀髪の幼女を
「ひぅ」と短く悲鳴を零して頭を引っ込める反応は小動物そのものだ。庇護欲は
「はぁぁああ。レイア様ぁ、実際問題、うちじゃどうにもならないでしょ。【ソーマ・ファミリア】の子みたいに、力のある派閥に任せるしかなくない?」
「それは私も考えたけれど……」
銀髪の幼女に聞かせることではないと考えてか、レイアはフィアナの耳元に顔を寄せ、小声で告げる。
「生まれ育ちも分からない子を引き取ってくれる可能性は低いし、爆弾だって分かっていればこそ
理は適っている。フィアナだって、もしも自分が拾った厄介事を
「友達に迷惑をかけるくらいなら自分が苦労を背負う」という思考は、神も人も変わらない。
納得と共感を示して「むむむ」と唸る幼女に、女神は畳みかける。
「そ、れ、にぃ」
レイアは反転ししゃがみ込むと、銀髪の幼女に微笑みを向けた。
「ね、ジャックちゃん。私のこと、あの素敵な名前で呼んでくれる?」
「……
「はぅ!」
小首を傾げながら紡がれた一声に、
頬を上気させ、潤んだ瞳で幼女を見つめる女神の画は、煽情的だが、それ故に言い訳の余地なくアウト。レイアが手を伸ばせば、誰もが幼女の貞操の危機だと感じること間違いなし。実に犯罪的である。
たった一言で腰が砕け、俗にいう女の子座りの姿勢となったレイア。彼女は瀕死の身を推して突撃命令を下す。
「そう、私はあなたのお母さん。だからあなたより先に私の子になった、金髪のあの子は――」
「おねえちゃん?」
「ん゛ん゛ん゛っ!」
穢れを知らぬ純粋無垢な輝きを湛える眼差しと、舌足らずにして可憐な声が紡ぐ『姉』の一言。一人っ子が夢想する『妹』なる至高の存在がここに具現したのだ。
これぞ必中にして必殺のハートブレイクショット。
フィアナの貧相な理論武装は、一瞬のうちに貫かれてしまった。
しかし彼女は未来の大英雄。心臓を穿たれた程度で斃れるようでは、英雄になれない。不屈の覚悟で立ち向かう。
「ジャックちゃん、もう一声よ」
「おねえちゃん??」
レイアだけならば、理論武装で抗うことが出来た。
ジャックだけならば、気合と根性で耐え抜くことが出来た。
けれど、二人が手を合わせてしまったらどうしようもない。フィアナの視線の先にある、幼気な女児を誑かす
「おねえちゃん……」
ジャックの次の一言は消え入りそうなほどにか細かった。
歯を食い縛って耐える形相により怯えさせてしまったのだろう。理解するや、フィアナは全身が鉛と化したような罪悪感に襲われる。
それは世界が滅亡したような絶望などではない。世界を滅ぼしてでも、彼女の憂いを晴らしたいと願ってしまう。
「ジャックちゃん、これが
「おねえちゃん!」
「ぐはぁああ!!」
英雄の心に届く声は、いつだって真摯な祈りに他ならない。力強くも澄んだ叫びが、フィアナの心を打ち崩した。
背中から「ビターン!」と音を立てて倒れ込む。完敗だ。天井を見上げる彼女の胸には、敗北による不快感さえ去来しない。蒙が啓けた爽快感だけが湧き上がる。
上体を起こし、一人と一柱を視界に入れる双眸は、青空のように澄み切っていた。主神とアイコンタクトを交わし、小さく頷く。
「姉で妹で姉妹で家族なんだから、うん、一緒に暮らすべきよ。そうじゃないとおかしいわ」
クルクルと掌が返る。フィアナの手首は回転式だったのだ。
トテトテと駆け寄り、
大きく息を吸い込み、白銀の髪の匂いを堪能。頬をプニプニと
すべてが愛おしく、すべてを守りたい。
この選択の果てに、如何なる結末が待ち構えていようと悔いることはない。答えは得たのだから。
「あなたを見捨てるとかいう戯言を、どっかの馬鹿がほざいたみたいだけど、あれは私じゃないから。私たち超絶美幼女姉妹の仲を引き裂こうとする、邪知暴虐の巨悪がどこかにいるだけだから。
ほんとよ、ほんと。最初っからジャックの事を守りたいと思ってたもの。ワタシ、ウソツカナイ」
シリアスではなく、シリアルでございました。
fateシリーズでお馴染みの、殺人鬼系幼女ジャックちゃんの参戦だよー!
名前:ジャック・ザ・リッパー
性別:女
年齢:たぶん十歳くらい
身分:元孤児
出典:fateシリーズ