英雄フィアナの迷宮探索    作:雑魚王

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十六話 可愛いは正義

「――というわけで、この子を保護したの」

 

「というわけじゃなーい! あばばばばば、私のせいでレイア様がグレたー!」

 

 宿に戻った自称未来の大英雄を出迎えたのは、敬愛する女神プラスαだった。

 レイアの背に隠れた幼女が、窺うように小さく顔を覗かせる。既に風呂に入り身を清めたのだろう、くすんだ銀色の髪はしっとりと湿り気を帯びていた。

 丸みを帯びた碧眼と、無垢な白肌はあどけなさを感じさせ、大変に愛らしい女児である。

 なまじ容姿が優れているだけに、事情を明かされなければ、レイアは完全にアブナイ神だ。レズビアンとロリコンの二重疑惑(ダブルコンボ)を掛けられよう。

 

「ねえ、レイア様。ペットを飼うのとはわけが違うのよ? 私たち宿屋住まいだし……百歩譲って野良犬や野良猫は良しとしても、野良幼女て」

 

 たまさか『幼女』が拾い物に名を連ねる日がやってこようとは、フィアナをして思いもしなかった。しかも名実ともに神格者であるレイアが拾い主だ。もはや、それだけで騒乱の種となり得る。娯楽好きの神々に知られた途端、確実にちょっかいを出されるだろう。

 

「でも、フィアナちゃんが私の立場だったらどうする? きっと助けたいと思うんじゃない?」

 

「普通に見捨てるけど」

 

「思った以上にドライ!」

 

 リリを助けるために、フィアナは全力以上の力を振り絞った。

 そこまで頑張ることが出来たのは、リリが唯一の仲間であり友人であったからだ。見ず知らずの赤の他人のために東奔西走するほど、フィアナは人間が出来ているわけではない。

 

 ジロリ、とレイアを間に挟みつつ、銀髪の幼女を()め付ける。

 「ひぅ」と短く悲鳴を零して頭を引っ込める反応は小動物そのものだ。庇護欲は(そそ)られるが、それだけだ。爆弾と承知した上で抱え込む動機にはなり得ない。

 

「はぁぁああ。レイア様ぁ、実際問題、うちじゃどうにもならないでしょ。【ソーマ・ファミリア】の子みたいに、力のある派閥に任せるしかなくない?」

 

「それは私も考えたけれど……」

 

 銀髪の幼女に聞かせることではないと考えてか、レイアはフィアナの耳元に顔を寄せ、小声で告げる。

 

「生まれ育ちも分からない子を引き取ってくれる可能性は低いし、爆弾だって分かっていればこそ友神(ゆうじん)に押し付けるわけにはいかないわ」

 

 理は適っている。フィアナだって、もしも自分が拾った厄介事を友達(リリ)に押し付けて素知らぬフリをすることはない。

 「友達に迷惑をかけるくらいなら自分が苦労を背負う」という思考は、神も人も変わらない。

 納得と共感を示して「むむむ」と唸る幼女に、女神は畳みかける。

 

「そ、れ、にぃ」

 

 レイアは反転ししゃがみ込むと、銀髪の幼女に微笑みを向けた。

 

「ね、ジャックちゃん。私のこと、あの素敵な名前で呼んでくれる?」

 

「……神様(おかあさん)??」

 

「はぅ!」

 

 小首を傾げながら紡がれた一声に、女神(レイア)は陥落。胸を抑え、嬌声を上げた。

 頬を上気させ、潤んだ瞳で幼女を見つめる女神の画は、煽情的だが、それ故に言い訳の余地なくアウト。レイアが手を伸ばせば、誰もが幼女の貞操の危機だと感じること間違いなし。実に犯罪的である。

 たった一言で腰が砕け、俗にいう女の子座りの姿勢となったレイア。彼女は瀕死の身を推して突撃命令を下す。

 

「そう、私はあなたのお母さん。だからあなたより先に私の子になった、金髪のあの子は――」

 

「おねえちゃん?」

 

「ん゛ん゛ん゛っ!」

 

 穢れを知らぬ純粋無垢な輝きを湛える眼差しと、舌足らずにして可憐な声が紡ぐ『姉』の一言。一人っ子が夢想する『妹』なる至高の存在がここに具現したのだ。

 これぞ必中にして必殺のハートブレイクショット。

 フィアナの貧相な理論武装は、一瞬のうちに貫かれてしまった。

 しかし彼女は未来の大英雄。心臓を穿たれた程度で斃れるようでは、英雄になれない。不屈の覚悟で立ち向かう。

 

「ジャックちゃん、もう一声よ」

 

「おねえちゃん??」

 

 レイアだけならば、理論武装で抗うことが出来た。

 ジャックだけならば、気合と根性で耐え抜くことが出来た。

 けれど、二人が手を合わせてしまったらどうしようもない。フィアナの視線の先にある、幼気な女児を誑かす魔王(レイア)の図。絶望的な光景に、小人幼女の背筋に悪寒が走った。

 

「おねえちゃん……」

 

 ジャックの次の一言は消え入りそうなほどにか細かった。

 歯を食い縛って耐える形相により怯えさせてしまったのだろう。理解するや、フィアナは全身が鉛と化したような罪悪感に襲われる。

 それは世界が滅亡したような絶望などではない。世界を滅ぼしてでも、彼女の憂いを晴らしたいと願ってしまう。

 

「ジャックちゃん、これが最後の一声(ラストアタック)よ!」

 

「おねえちゃん!」

 

「ぐはぁああ!!」

 

 英雄の心に届く声は、いつだって真摯な祈りに他ならない。力強くも澄んだ叫びが、フィアナの心を打ち崩した。

 背中から「ビターン!」と音を立てて倒れ込む。完敗だ。天井を見上げる彼女の胸には、敗北による不快感さえ去来しない。蒙が啓けた爽快感だけが湧き上がる。

 上体を起こし、一人と一柱を視界に入れる双眸は、青空のように澄み切っていた。主神とアイコンタクトを交わし、小さく頷く。

 

「姉で妹で姉妹で家族なんだから、うん、一緒に暮らすべきよ。そうじゃないとおかしいわ」

 

 クルクルと掌が返る。フィアナの手首は回転式だったのだ。

 トテトテと駆け寄り、(フィアナ)は親愛を込めて(ジャック)を抱擁する。

 大きく息を吸い込み、白銀の髪の匂いを堪能。頬をプニプニと(つつ)き、その柔らかさを肌で記憶する。互いの鼻が接触しかねない至近にて、嘗め回すように碧眼を見詰めた。

 すべてが愛おしく、すべてを守りたい。

 この選択の果てに、如何なる結末が待ち構えていようと悔いることはない。答えは得たのだから。

 

「あなたを見捨てるとかいう戯言を、どっかの馬鹿がほざいたみたいだけど、あれは私じゃないから。私たち超絶美幼女姉妹の仲を引き裂こうとする、邪知暴虐の巨悪がどこかにいるだけだから。

 ほんとよ、ほんと。最初っからジャックの事を守りたいと思ってたもの。ワタシ、ウソツカナイ」

 

 

 

 

 

 

 

 




 シリアスではなく、シリアルでございました。

 fateシリーズでお馴染みの、殺人鬼系幼女ジャックちゃんの参戦だよー!


名前:ジャック・ザ・リッパー
性別:女
年齢:たぶん十歳くらい
身分:元孤児
出典:fateシリーズ
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