英雄フィアナの迷宮探索    作:雑魚王

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七話 一ヶ月の絆

 フィアナが半ば強引にリリと協力関係を取り付けてから早一ヶ月。二人の精神的距離は着実に縮まっていた。

 

「フィアナ様! 次は右です!」

 

「オッケー、リリ! 一当てするから、援護よろしくぅ!!」

 

 小人族、女、子供、非才の身、などの共通点が多いことが幸いしたのだろう、フィアナ/リリが求めるものをリリ/フィアナは即座に理解できる。まるで血を分けた姉妹であるかのように抜群となった連携は、戦力を二倍にも三倍にも引き上げていた。

 右側の通路から飛び出すダンジョン・リザードに対し、フィアナは矮躯を更に縮めることで噛み付きを逃れ、懐に潜り込む。すれ違いざまに一閃。首筋から血を噴き出すモンスターに、リリの追撃の短矢(ボルト)が突き刺さる。

 

 手斧を振り抜いた勢いを利用し、クルリと反転。今度は大きく振りかぶった獲物を、ダンジョン・リザードの首の裏側(うなじ)へと落とす。前後からの裂傷が合体し、太い首が転げ落ちた。

 

 以前は五分以上も掛けて倒したモンスターを、フィアナの無様なへっぴり腰が改善された今では楽々処理できる。

 成長著しい小人族のコンビは、第三階層にまで歩を進めていた。

 第三階層は、出現するモンスターや階層の構造、明るさなどがほとんど第二階層と変わらない。慢心するわけではないが、第二階層で培ったノウハウをそのまま活かせる階層であるから、一行(パーティー)は気楽に攻略を進めている真っ最中だ。

 

「んふふふ」

 

 ダンジョン・リザードの死体から魔石を取り出す、リリの手際は滑らかだ。

 どこに骨があるのか、どこに魔石があるのかといった体内構造は元より、効率的に作業を進めるために恐らくは刃を入れる角度も調節している。

 知識と経験。その双方が伴っていなければ叶わない早業だ。もしもフィアナがリリと同等の技量を望むならば、少なく見積もっても一年以上はサポーター業に専念せねばなるまい。

 加えて、リリは何もモンスターの解体作業のみを得意するわけではない。後方からの援護射撃や探索のペース配分、ダンジョン内に持ち込む物資の選定など、多岐に渡るサポーターの仕事全ての練度が高い。

 リリ以外のサポーターと組んだ経験はないが、それでも彼女が優れたサポーターであることは明々白々。サポーターの界隈に詳しくないフィアナが、初っ端から大当たりを引けたことは紛れもない幸運である。そのことを噛み締めれば、笑い声の一つや二つは漏れてしまう。

 

「フィアナ様、急に不気味な声を出してどうかしたんですか。それとも、頭がどうにかなりましたか?」

 

「ううん。リリと会えてよかったなーって思っただけよ!」

 

 抱き着き、わしゃわしゃと頭を撫でまわす。出会った当初よりも抵抗が弱まっているのは、単純にリリが抵抗を無駄だと悟ったためか、それとも表面上は嫌がりつつも心の中では受け入れているのか。その答えはリリのみぞ知る。

 

「もう! とにかく離れてください! 回収した魔石をバックパックに詰められないではないですか!?」

 

「むむむむ、それは由々しき事態ね」

 

「そうです。だから離れてください」

 

「じゃあ、回収が終わってから、またナデナデしてあげる!」

 

「どうしてそうなるんですかっ」

 

 日課の掛け合いもほどほどに。魔石を取り出されて灰化したモンスターを置き去りに、二人は次なる標的を求めて迷宮を探索していく。

 ダンジョンに記された書物を読み耽り、ギルドの講習を受けても、思わぬ障害は転がっている。例えば、地面の凹凸だ。ヒューマンや獣人ならば何でもないような凹凸も、小人族の短足には障害となり得る。

 絶対的に冒険者人口の少ない小人族のためだけに注意喚起する文言は、書物にもギルドの講習マニュアルにも載っていない。現地に赴き、体験して初めて認識できる。

 サポーター歴の長いリリをして、小人族の幼女とコンビを組んで探索することは初。フィアナにとっては、迷宮の全てが初体験。故に二人の冒険は未知との遭遇の連続であり、連携が滑らかになろうと、決して慢心が産まれることはない。

 

「リリ、あれ」

 

 T字路に差し掛かったフィアナは、一旦立ち止まる。壁に張り付きながらそっと曲がった先を覗き込むと、モンスターの影が複数屯していた。

 安易に通路に出ていれば、その直後に会敵していただろうことは必至の距離だ。数的に不利であることからも、突発的な会戦となっていたら、フィアナも危なかったかもしれない。小人族(じゃくしゃ)として生きる中で育まれた、慎重さに危機を救われた。

 リリを手招きすれば、フィアナの下からひょっこりと顔を出しながら敵戦力を冷静に分析する。

 

「ゴブリンですか。数は三体……武器はないみたいですね」

 

「あれくらいなら私一人でも何とかなるから、リリは一歩下がって周りを見ててもらえる? 後ろの通路でモンスターが生れ落ちて、挟撃されでもしたらマズいし」

 

「了解です。危なくなったら援護射撃を飛ばしますから、無茶だけはしないでください」

 

 打ち合わせを終えたフィアナは、瞑目して集中力を高める。敵に察知されることなく、敵影を発見できたことで、彼女には奇襲という手札が与えられている。あとは、それを活かしきれるかどうかだ。

 ゴブリンたちの配置と体の向き。フィアナが通路に飛び出してからの、即ちゴブリンたちに気付かれてからの距離と、間合いを詰めるまでの時間。道幅と地面の凹凸具合。障害物の有無。奇襲のアドバンテージにより一体は確実に即殺できるが、それを為したときの残り二体の反応。

 あらゆる要素を考慮し、無数の戦況をシミュレーションしていく。効率が悪い物、無駄が多い物、不確定要素が大きい物は軒並み排除。消去法で残った一つを洗練し、最適の段取りを組み上げる。

 

「――よし」

 

 呼吸を整え、武器の握りを確かめる。

 通路に飛び出すと、フィアナは最も手近な個体へと狙い定め、襲い掛かった。急襲にゴブリンたちも反応するが、遅きに失した。カーブによる減速も含め、最短最速の道順を選び取った、フィアナの先手は揺るがない。

 威嚇の咆哮を上げんと、口を開けたばかりの小鬼の頭を手斧がカチ割る。

 

「まずは一匹!」

 

 斧を引き抜く角度を調節し、ゴブリンの亡骸が自らの方へと倒れ込むことを防ぎつつ、フィアナは残りの二体を視界に収める。

 構えてはいるが、それだけだ。この時点で反撃に移れていないのだから、対応が遅れている。

 モンスターの不利は、冒険者の有利。したがって、フィアナが黙って見ているだけではいない。

 一匹目の死体を踏みつけないように、横にずれながら二匹目へと肉薄。ちょうど、三匹目の個体とフィアナとで二匹目を挟む位置関係だ。三匹目に対する肉壁を得て、一度に二匹を相手取ることを回避。さりとて、三匹目の個体が回り込めば、二匹目は壁としての機能を失うので、一息吐く間もなく手早く戦況を動かす。

 爪撃を盾で受け止めてから、カウンターの一閃で腕を刈る。悲鳴を上げるゴブリンを、円盾で殴りつけて横に飛ばすことで三匹目と正対。まったくの同時に、互いが互いの命を奪うべく、ゴブリンは腕を、フィアナは斧を振りかぶる。

 

 刹那の勝敗を、射程(リーチ)の差が分ける。

 ゴブリンも小人族も、ヒューマンの子供と同程度の体格しか持たない。しかし、体格が同じであろうと、無手の小鬼に対してフィアナは武器を握る。獲物分のリーチの優位のままに、フィアナが勝利し、ゴブリンは血の海に沈んだ。

 

「これで、ラストね」

 

 そして、隻腕となったゴブリンへと向き直る。

 フィアナが一歩足を踏み出せば、その分だけモンスターが後退る。フィアナは小細工は無用だとばかりに、真正面から斬りかかった。

 ゴブリンも応戦するが、既にして腕を失い、一度は気押されてしまった。趨勢は決している。

 ゆえに劇的な逆転が起きることもない。危なげなくモンスターを切り伏せたフィアナは、手斧を軽く左右へ振るい、鮮血を落とす。

 

「はいはい。格好つけてないで次いきますよー」

 

「ちょ、リリ!? それは言わない約束でしょーが!!」

 

【レイア・ファミリア】に新加入する幼女はどんな幼女が良いか

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