Muv-Luv Alternative The Phantom Cemeter(改稿版) 作:オルタネイティヴ第Ⅵ計画
Episode7.第207衛士訓練小隊
2001年10月24日(水)05:50
――ゆさゆさ。
「……」
――ゆさゆさ。
「……」
――ゆさゆさゆさゆさ。
「……んぅ?」
揺さぶられる感覚が長く続いたことで、武は浅い眠りから目を覚まし、唸り声をあげた。
浅い眠りの理由は至極単純で、前日同様悪夢と言っていいのか武も迷いはあるが、その手の類の夢にうなされていたことが主な原因だ。
ようやく浅い眠りから深い眠りへと移行できるかといったその時に、彼は揺さぶりにあったのだ。
仰向けに寝ていた武の胸のあたりが、何か小さいものに圧迫されている。
圧迫と言っても、とても弱い力だが。
武はこんなことをする人物に、心当たりがあった。
薄っすらと目を開けると、真っ先にトレードマークのうさ耳が視界に入った。
やがてそのうさ耳をつけたものが誰なのかはっきりする。
もっともうさ耳をつけた人物など、この横浜基地においては一人しかいないだろうが……。
「……か、霞ぃ、頼むあと5分……」
武がそう声を発したことで、彼を揺すっていたその動きが一度止まる。
「よし……」
眼を閉じて再び眠りに付こうとしたとき、再度揺さぶりが開始された。
――ゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。
「……」
武はもう5分は意地でも寝たいため、霞の揺さぶり攻撃を敢えて無視する。
暫く揺さぶりを続けた霞だったが、やがて諦めたのか揺さぶりをやめた。
だが結構な揺さぶりを続けられた武の脳は、既にある程度覚醒していた。
そして次に霞が何をするのか、思い出そうと少し思考を巡らせる。
が、生憎もう十数年も前のことで中々思い出せない。
武が思い出そうとしている中、霞が次の攻撃に移った。
「……んっ」
武が引っ張って顔を隠していた毛布を、力を込めながらゆっくりと引っ張って剥ぎ取っていった。
一見相反しそうな行為だが、霞はそれをなぜかやってのけた。
中学生程度の少女の腕が捻りだせる精一杯の力を出しつつ、ゆっくりズルズルと武の身体から離れていく毛布。
一体どんな手品なのか……。
「……くっ!?高等テクニックの習得が早すぎる!」
時期的には秋というには遅く、かといって冬というには若干早いかなという時期。
冬入りともいえる時期であるので、毛布を剝ぎ取られればそれなりに寒い。
毛布が完全に剥ぎ取られたことで、武は仕方なくベッドから身を起こし、寝起きのため半開きの目の隙間から、霞を見つめる。
「……霞、おはよう」
「……起こしていたんですね」
「ん?」
一瞬、霞が何を言っているか分からなかった武。
だが、時計を確認すれば丁度起床ラッパ10分前。
いつの時代も、どの世界の霞も時間には正確だ。
武を起こすという重大任務を達成した霞は、扉を開けて部屋から出ていこうとした。
「……ばいばい」
「あぁ、またな」
別れを告げて、霞は武の部屋から去っていった。
そこで武はふと2つのことを思い出した。
1つは、霞が毛布を剥がすという行為を、武を起こしに来た初日にやってのけたのは珍しいということだ。
前のこの世界では、ある程度時間が経ってから習得した技だった。
この世界にやって来てから、霞が武を起こしに来たのは今回が初めてであり、このイベントが発生するのは、本来であればもう少し後のはずだった。
自分の知る前のこの世界……即ち武の記憶と現状の世界での出来事に、既に若干のズレを感じている。
ほんの僅かな違和感であるのだが……何故か無性に気になる武だった。
これが後にどのような影響を及ぼすのか、現時点での彼には全く想像が付かなかった。
2つ目は、霞にこういう時は、ばいばい……ではなく、またね……という言うことを教えてやらねばならないということ。
次の機会に霞に確実に言おうと、武は心に誓った。
「いよいよ今日からか……」
そう武はひとり言を呟く。
最初の夕呼との交渉はまずまずと言ったところ。
ここが成功しなければ意味はないが、取り敢えずは乗り切った。
というか乗り切らなければ先はない。
この程度のことを成せないようであれば、彼に英雄たる資格はない。
そのことは当然当人も自覚している。
今日からはいよいよ本格的に歴史への介入を始めるとき。
しかも今後の計画のことを考えると、第一印象及び第一インパクトは非常に重要になる。
故に気を引き締めなければならず、少々の緊張心をもって武はそう呟いたのだった。
「ふぅ……」
洗面台にて顔を洗った武は、国連軍少佐の軍服に着替えて起床ラッパを待った。
武はこれから身に纏う、ある種の仮面をオン状態に切り替えた。
これから彼が身に纏う仮面は、ただの国連軍少佐白銀武としての仮面ではない。
世界を救う英雄としての白銀武、いや……2周目の夕呼が名付けた、ガキ臭い英雄としての仮面だった――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「小隊集合!」
太陽が天高く昇った頃、訓練校のグランドにまりもの声が響いた。
何故集合をかけたのか。
それは武がこちらに向かってきたことに、まりもが気づいたからに他ならない。
時刻的には午前10時前後と言ったところ。
本当はもう少し早く顔を出すつもりだったのだが、夕呼への書類の提出やら話し合いやら何やらでだいぶ遅れてしまったのだ。
しかし幸か不幸か、午前中の訓練の一番よいタイミングで顔を出せたようだと武は思った。
「敬礼!」
千鶴の声で、全員がまりもに対し敬礼をする。
まりもが敬礼を解くと、それに倣い分隊も敬礼を解く。
武はそれをまりものすぐ後ろで眺めていた。
小隊各員は皆、敬礼をしなかった武の姿に疑問を持ち、身体こそまりもの方を向いていたが視線だけは常に武の方を向いていた。
本当はまりもに対し失礼極まりない行為なのだが、まりもは咎めることを敢えてしなかった。
武は小隊……正確には第207衛士訓練小隊B分隊5人の視線を、一手に集めることとなった。
そう、
5人の視線は武の全身をくまなく見回した。
汚い表現をすれば、それはまるで全身をなめまわすかの如くだった。
武はこの手の視線を2周目の世界で散々貰っているため、何も感じなかった。
寧ろ当然の反応だろうと思っていた。
(そういや2周目の時も、夕呼先生の副官だって紹介された時はこんな視線をよく貰ったっけな……)
武の心の中を覗いても、この動じなさである。
流石の精神年齢と言ったところか。
因みに、何故そのような視線に慣れているのかを解説すると、武は夕呼の副官という立場をかつて経験していた。
オルタネイティヴ計画総責任者の副官というからには、相当な人物だろうと周りは当然思う。
しかしいざ目の前に現れたのは、20代そこそこの佐官だった。
当然いろいろな目線で見られていた。
好奇心、嫉妬、下心、懐疑心、様々な視線を様々な場でもらった。
故に武はこの手の視線に既になれてしまったのだ。
逆にその手の視線に比べれば、この程度痛くも痒くもなかった。
話を戻そう。
まりもが武の紹介に入った。
「紹介しよう。こちらが今日から貴様たちの特別教官に就任される、白銀武少佐だ」
「敬礼!」
再び千鶴の一声で、分隊が敬礼をする。
BDU姿の武が敬礼を返し、少し間を開けて腕を下すと、皆も敬礼姿を解いた。
「白銀だ」
武の挨拶は非常に短かった。
そして武はとある人物をジッと見つめた。
暫く無言の状態がこの場を支配し、皆が武に対し奇怪な目を向ける。
そして遂に我慢出来なくなったのか、見つめられた人物が声を発した。
「あ、あの……僕に何か?」
武は思う。
(どういうことだ?この時期、美琴はいないはずだ……)
そう、見つめられたのは鎧衣美琴だった。
「鎧衣!発言を許可した覚えはないぞ!」
堪らず声を出した美琴に対し、まりもがすかさず注意の声を飛ばす。
「かまうな、神宮司軍曹」
「はっ」
武の脳内が疑問に支配されるが、奇しくもまりもの一声で我に返る。
(後で夕呼先生に相談すべきか……いや考えるのはあとにしよう)
武がそう思っている間に、まりもが次の行動に移った。
「では、一人ずつ自己紹介を……」
「いや、いい。軍曹。こいつらのことは書類で既に知っているからな」
「はっ」
「中々修正しがいのあるやつらのようだしな……」
武のその言葉にまりもが一瞬だけ眉間にしわを寄せた。
そんな彼女のことを知ってか知らずか、武はさっそく本題に入った。
「さて、今日からは俺も貴様たちの訓練を見ることになる。最も俺の専門は衛士訓練課程だ――つまり総戦技すら突破していない貴様たちは俺の担当外、ということになる」
武が何を言い出すか、その一挙手一投足に注目していた小隊は、少なからず衝撃を受け、目を見開いた。
彼女たちにとっては酷な言い方だが、それを最初の掴みとしたかった武にとっては、大成功と言ったところであった。
武は彼女たちの目の前を、ゆっくりと歩き始めた。
「――軍隊とは本来、軍人を育成するための場所だ。貴様らのようなお嬢様が、興味本位で来ていい場所ではない。遊び半分で戦場に出られでもしたらそれが最後。周囲に迷惑を掛けるばかりか、同じ隊の……或いはそれ以外の隊の奴らを、そしてその隊の奴にとっての仲間を死なせることにもなる――最も貴様らはそれ以前の問題だがな」
通り過ぎる間、武は一人ひとりの目を見つめながら歩いた。
その眼には果たして、何が映っていたのだろうか。
逆に、彼女たち207B分隊は、武の目に何を見たのだろうか。
武は心を鬼にして言葉を続ける。
「貴様らは一度、総戦技演習を落ちている。充分な訓練期間があったにも関わらず、だ――全くの問題外だな。おまけに同期の207A分隊は、ほぼ文句無しの成績で通過している。そして彼女たちは、
まりもに問題があるわけがないと、そう武は思っているし信じている。
加えて武自身、まりもを師と仰くと同時に尊敬もしている。
これは武だけでなく、目の前にいる207Bは勿論のこと、過去のまりもの卒業生たちも全員が恐らく同じ思いだろう。
そのまりもに対し、僅かながらでも矛先を向けることに、武も躊躇いがなかったわけではない。
だが、全員の心に油を注ぐには十分な効果があると思ったからこそ、あえて職務不適格と言う部分を強調し、まりもに矛先を向ける事にしたのだ。
最も彼女たち207Bの隊員の心に、油を注ぐだけでは意味がない。
この言葉の元は、火に油を注ぐ……だ。
つまり、火がなければ油を注いでも意味はない。
だから次は彼女たちの心に、火をつけてやる必要がある。
逆に火を出すためには、油を注ぐ必要があるとも言える。
この両方を、武は行わなければならない。
案の定、まりもをターゲットとする武の作戦は、ある程度成功したと言えるだろう。
まりもを罵倒したときの207Bの反応は、皆一様に同じではなかったが目を細め、怒りの表情を見せていた。
「本来ならば、不合格となった時点で問答無用で実家に送り返してやるところだが……本当に残念なことに、貴様らにはもう一度、総戦技演習を受ける権利が与えられてしまっている。従って、本当に不本意ながら神宮寺軍曹も、そして俺も貴様らの再教育に付き合わなければならないわけだ」
武は一度言葉を切り、全員の様子を伺う。
まりものみならず、自分たちも馬鹿にされているのだから、当然怒りの籠った視線や表情を武に向けていた。
しかし、不思議と彼女たちから反論は出てこない。
我慢しているのか、或いは何かしら思うところがあるからなのか、はたまた見当違いなことを考えているのか。
ただ、1つだけハッキリしていることがあった。
全員が武に対し、既に良い印象は持ってはいないということだ。
皆、様々な意味の籠った視線を武に向け、なおかつその視線を一度も外さなかった――あの壬姫ですらも。
(……それでいい)
と武は思う。
反骨精神が何よりこの時代において、人を良い方向にも悪い方向にも育てることが出来るからだ。
あとは良い方向に、武が導いてやればよいだけのことなのである。
「――だが、今の貴様たちでは総戦技演習の突破など、例えお天道様が西から登るようなことがあったとしても無理だろう」
「ッ!?」
ここで一度冷や水を浴びせる。
この言葉は強烈だったようで、分隊全員が動揺した。
心のうちでは薄々感づいていたことだからだ。
このままでは無理だと。
皆が己の出自に拘り、殻に籠っていた。
だから千鶴は己の作戦を人に押し付けようとし、それに従わないから悪いのだと言い訳をしている。
だから慧は分隊長に従わず、己のみを信じて動いている。
だから壬姫は意見を表立って言わず、流れに身を任せている。
だから美琴は表面上、諍いを宥めつつ、いざという時には動かないでいる。
だから冥夜は皆に見切りをつけ、表面上は周りを窘めつつ、独断で動いている。
(どうやら大方は成功したようだな……)
武は内心、黒い笑みを浮かべた。
「ここに除隊申請書を用意した。貴様らには今ここで記入してもらう。ただし、日付は記入しないこと」
武は手に持っていたクリップボードを見せた。
そこには人数分の除隊申請書が用意されていた。
取り出したボードをまりもに渡し、彼女たちに書かせるよう促す。
だが、ここで遂に抗議の声が上がった。
最初に発したのは千鶴だった。
「ま、待って下さい!私たちはまだ除隊するとは言っていません!」
「まだ、か?まだ除隊する気がないということは、いずれ除隊する気はあるということだな?」
千鶴が一瞬怯む。
「そういう訳では!?」
「なら榊訓練生、貴様にとって最も分かり易い言い方をしてやろう。
「ッ!?」
最初にボードを渡された千鶴は、ペンを手に取り暫く硬直していたが、武の視線に根負けしたのか、まさに渋々といった様子で記入を始めた。
分隊長である榊が記入したためか、或いはその間が役に立ったのか、次に渡された冥夜は間など作らずさっさと記入を終えた。
それでも手には若干の戸惑いがあったようだが。
慧と壬姫、美琴も同様に記入した。
回収したボードをまりもから受け取った武は、全員の記入を自らの目で確認すると言葉を再開した。
「わざわざ言う必要もないとは思うが、一応教えておこう。俺が貴様らに衛士になる資格なしと判断した場合、即刻日付を記入し香月博士並びに基地司令に、この俺が直々に提出するつもりだ。それと併せて帝国政府に抗議を出そう。貴様らは衛士どころか、兵士としても無能の底辺だとな」
皆の反応はそれぞれだった。
怒りを露わにしながらも現状を理解するもの、不安と混乱に陥るもの、怒りのみに取りつかれるもの、その真意を推し量ろうとするもの。
しかし、そんなことにはお構いなく武は言葉を続ける。
「まぁそうならないための訓練だ。嫌なら今すぐギブアップすればいいだけのこと。簡単だな」
場の空気は最悪といってよい。
一部は今にでも突っかかりそうな勢いだ。
まりもは武の後ろに立ち無表情でその様子を見つめていたが、その思いは複雑そうだった。
武の向きではまりもの表情は見えないが、そう感じ取れた。
「さて前置きはこれぐらいにして訓練に移ろう。まずは完全装備でグラウンド100周だ。150分以内でな」
「ッ!?……失礼ながらそれは無理です!」
あまりにも無茶苦茶な命令に、千鶴が反論する。
この中で誰よりも規律を重んじている彼女が、上官命令に抵抗するのはどういうわけだろうか。
その時の感情で動いてしまったといったところか。
「無理だと?では貴様は命令不服従で除隊だな」
問答無用とはまさにこの事か。
武は反論を即却下した。
別に睨んだわけでも、声量を大きくしたわけでもない。
しかしそこには確かに威圧があった。
その威圧に圧倒され、千鶴は黙ってしまった。
(これが20歳前後の少年が発せるものなのか?)
まりもは何故この少年が歳不相応な、少佐という階級を得ているのかその理由を、その一片を見たような気がした。
(夕呼の副官を務めているというだけで、ある程度の予想は付いていたけど……この子は一体どんな経験をしてきたというの?)
まりもは、白銀武という少年が分からなかった。
いや、正確には判断するには情報が足りなさ過ぎるといったところか。
武の発した威圧に分隊の誰もが圧倒され、驚きを覚えた中、慧だけは武を未だにジッと細目で見つめ続けていた。
それを察せない武ではなかった。
「いい目をしているな、彩峰。安心しろ。貴様ならこなせるさ……俺は榊と違い出来る命令しかしない。無論、初期の作戦に固執することもしない」
「ッ!?」
「まぁだからといって、独断は勿論のことだが、コッソリと
この言葉に慧だけでなく、他の者たちも肩を静かに震わせた。
「さぁ、とっとと準備を済ませてこい!」
武の合図で207B分隊にとっての、かつてない地獄が始まった――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
場所は変わり、夕呼の執務室。
時刻は既に22時を周っていた。
武は結局、訓練時間ギリギリまで207Bをしごき倒した。
その後夕食を取り、少し休憩がてら書類を作成してから、夕呼の執務室を訪れていた。
「ピアティフから聞いたわ。随分としごいたみたいねぇ」
執務室中央のソファーに腰を掛ける武に対し、夕呼は珈琲の準備をしながらそう言った。
武は夕呼の雰囲気に疑問を持った。
(何だろう……夕呼先生の雰囲気が、少し和らいだ気がするのは気のせいかな……)
内心そう思いながら武は返答する。
「いい薬にはなったでしょう。まりもちゃんが何も言わなかったのは意外でしたが」
207Bへの訓練終了からそれ程時間も経っていないが、やはり既に夕呼にも伝わっていたようで、これが今日の両者の最初の話題となった。
「まりもはわかってるわよ。ただ、必要以上に深入りはしないのが、まりものいいところであり、悪いところなんでしょうけど」
夕呼は入れた珈琲カップを2つ持ちながら、自身もソファーに腰を下ろし、いつものように綺麗な美脚を組んで座った。
そして片方を武に差し出す。
「ありがとうございます……やっぱりどの世界でも、夕呼先生はまりもちゃんのことをよく理解してますね」
武はそう言ってから珈琲に口を付けた。
どうやら本物の珈琲のようだ。
「ブルーマウンテン……のブレンドですか?」
彼のその発言に夕呼は目を見開いた。
「へぇ……あんた、珈琲の味がわかるのね」
そう言ってから自身も珈琲に口をつける。
何故武が珈琲の銘柄を知っているのかと言うと、それはループしているからだ。
要は2周目の世界で、夕呼に珈琲の銘柄を教えてもらっていたからなのだ。
それを何となく覚えており、何となく口にしただけだったのだが、これが思わぬところで夕呼には高評価だったようだ。
そして夕呼が先ほどから感じていたことを口にする。
「にしても、あんたも一緒に訓練に参加する必要ってあったの?少し汗臭いわよ」
「あぁ、すみません……ええ、意味はありますよ」
武は理由を説明した。
すると夕呼は何故か関心を示した。
というか、夕呼も意外と軍隊のいろはについては知らないらしい。
「へぇ……そういうこと。じゃぁまりもも一緒に訓練してるのかしら」
「まりもちゃんですからね……」
武は柔らかい笑みを浮かべながら言った。
それに対して夕呼がやや怪訝そうな表情をした。
「昨日から思ってたけどあんた、まりものことをまりもちゃん……って呼ぶのはどういうわけ?それに随分とまりものこと分かってるみたいじゃない」
「そんなことないですよ。ただ、元の世界で担任だったってだけで――呼び方はどうも元の世界の癖が抜けないんですよ。それにまりもちゃんもなんだかんだ、この呼び方を俺だけじゃなく、生徒全員に対し黙認していましたから……半分諦めもあったと思いますが」
「そう……まりもはいい先生だったのね」
今度は夕呼が滅多に見せない優しい目をした。
「いえ、夕呼先生もいい先生でしたよ?」
「フンッ……それよりあんたを呼び出した理由だけど、八咫烏からの
「あ、意外に速かったですね」
武の言葉に夕呼が少し不満そうな顔をした。
「せかしたのはどこの誰よ。明後日、いえ明日には戦術機シミュレータへのインプットを終える予定だから、終わり次第確認してちょうだい。明日も訓練を見るの?」
「はい。そのつもりです」
「なら出来上がり次第、ピアティフに呼びにいかせるから。訓練の途中でも来なさい」
武は頷いた。
「了解です。なら取り出したXM3の確認が済み次第……」
「ええ。あんたの要望通りA-01の教導……やらせてあげるわ。明日の確認具合にもよるけど、そこから2日ぐらいで他のシミュレータへのインプットは済ませておくわ。その間、シミュレータが使えなくなるわけだけど……はぁ、速瀬たちに文句言われそうね……」
そこで登場した速瀬という意外な単語に、武は頭に疑問符を浮かべた。
「速瀬中尉たちにですか?どうしてです?」
「あんたに負けたのが、余程悔しかったんでしょうね。涼宮妹と共にあれからずっとシミュレータルームに籠りっぱなしよ。あの様子じゃ、いつか体調崩すわね」
水月と茜は先日の横浜基地襲撃事件以来、毎日シミュレータの使用申請を行っていた。
A-01部隊は、他の部隊より優先してシミュレータを使用する権限を与えられている。
そのため、差し当たって問題は起きてはいないものの、1日中シミュレータを占有するのは異例なことであった。
(速瀬中尉や涼宮らしいと言えばらしいけど……ちょっと心配だな)
2人がどうしても心配になったので、武は夕呼に更に追加でお願いをした。
「夕呼先生……シミュレータへのインプット早めにお願いします」
「あ~あ、分かったわよ。ったく、忙しいったらありゃしない……」
武は苦笑しながら頭を下げた。
「よろしくお願いします……あと、この書類にすみませんが早めに目を通してもらえますか?」
そう言って武は書類を差し出す。
夕呼は珈琲カップを机に置き、書類を受け取った。
「何?これ」
そう言いながら彼女は書類の表紙を見た後、中身を確認し始めた。
「今後の計画の概要になります。主に計画は3段階からなっています。まず……」
概要は昨日伝え、GOサインを貰ってはいたが詳細は伝えていないので、武は計画の詳細を書類に纏めて提出した。
そして夕呼の開いているページ数を目で確認しながら、説明を始めた。
自分で書いた書類だ。
どこに何を書いたかは当然覚えている。
説明中、彼女は特段口を挟まずに聞いていた。
書類の内容がきちんと纏められていたからか、或いは武の要約がしっかりとしていたからか。
恐らくはその両方だろう。
説明を終えると、夕呼は書類を膝の上に乗せて言った。
「わかったわ、あんたの計画通りに進めましょう。何箇所か修正してほしいところがあるけど、これでいきましょう」
彼女の言葉に武は意外な顔をする。
当然何箇所か突っ込まれるとは思っていたので、それに対する回答も用意してきていたのだが、あっさり通ったので前述の通り少々以外だったのだ。
「細かい確認はしないので?」
「あら?何か不安があるっていうの?」
何をいまさらという夕呼に対し、武は肩の力を抜いて言った。
「いえ、随分と高い評価を頂いているようで……」
「あたしの性格を知らないあんたじゃないでしょ?」
「そうですね……先生の性格はよく存じ上げておりますとも」
夕呼は両手を横に広げて言った。
「なら、いいでしょ?無論、あんたが主体になって計画は進めてもらうけど、ここに書いてあるように細かい裏仕事はこっちでやるわ……だからあんたは思う存分やりなさい」
「ありがとうございます」
純粋に夕呼に褒められるのは嬉しい武だったが、何か嫌な予感も同時に感じた。
大抵夕呼が手放しで褒めることは少ない。
そもそも彼女が褒めること自体が珍しい気がするので、やはり嫌な予感はする。
「この書類、よく出来ていたわ――あんた珈琲の味だけじゃなくて、こういう文官的な作業も出来るのね……」
「そりゃぁ随分と鍛えて頂きましたからね……」
「あたしに?」
「ええ……途中からかなり小間使いされていたような気もしないですが」
その発言をした直後、武はしまった……と後悔した。
少し悲観的になりすぎて自分で墓穴を掘ったような気がした。
「あら?我ながらいいアイデアね……じゃぁこれから面倒事も含めて細かいことはあんたに任せようかしら?」
自分で掘ってしまった墓穴だ。
せめてここは可能な限り言い返してやろうと心に決めた武。
「あの書類地獄をするくらいなら、まだヴォールク・データを単騎でやらされた方がマシですよ」
咄嗟に出た発言がこれだった。
咄嗟に出たが故に口調もかなりキツめというか、変に重みのあるものになってしまった。
だが逆にそれがよかったのだろう。
夕呼は目を見開いて驚く。
そして顎に手を当てて微笑みながら言った。
「――言うわね……いいわ、明日あんたの腕を存分に見せてもらおうじゃない」
武はやっちまったなぁ……と後悔の念に駆られた。
そしてそれから幾度かの冗談を挟み、話は再度今後の打ち合わせ内容に路線を戻し、2人は会話を終えた。
武は本日感じた違和感……美琴の件を終ぞ話すことはなかった――。
皆様、お久しぶりです。
最近、世間や会社がAIと五月蠅いので自分もようやく使ってみることにしたのですが、なんですかあれ……マジで便利過ぎないですか?
本当になんでもしてくれるんですねぇ……試しに別作品のSSを描かせて見たのですが、正直文章表現力に敗北を感じました。
ですが!!私にも意地がございます。この作品は一切、AIを使わないで最後まで描き上げさせて頂きます。
Xの方では、AI生成のイメージ画像、例えば夕呼先生とタケルちゃんのワンシーンとかを上げることがあるかもしれませんが……文章は意地でも私の出来損ない脳ミソフル回転で行きますよ!
ではまた次回お会いできるのを楽しみにしております。