私は次期アドラステア皇帝エ『レオノォォルゥゥ!!』 作:炭酸ソーダ
不明なユニットにダウンロードされたようです
「死んだか?」
「いや、まだ息はある。まあ、使えてあと一回ってところだろうな」
貴族の邸宅に盗みに入った。その時は、ちっとも悪いなんて思っていなかった。当然だ、彼らが良い暮らしをしているのは、ぼくたちが支えているからだ。だったら、多少返してもらってもバチは当たらない。そう、思っていたんだ。
……でも、バチは当たった。
女神様、ソティス様。ぼくがやったことは、それほど悪いことだったのでしょうか。薄暗い地下牢に繋がれ、得体の知れない実験で殺されそうになるほどでしょうか。
でも、きっとそうなのでしょう。
「女神様は、いつだってぼくらを見ていらっしゃる」
……司祭様、あなたの言うとおりでした。女神様は、こうしてぼくに罰を与えられたのでしょう。
意識が、遠い。
「おら、入ってろ!」
床に叩きつけられた。扉の閉まる音がする。でも、もう動くことすらできやしない。
ああ、女神様。
ぼくが、間違っていたよ。
……僕は、誰だ。
……前者の問いは、簡単に解決した。十数年も背負って生きてきた名前だ。そうそう忘れるものではない。
そう。ぼくの名前は、白金だ。
……いや、違う。そんな堅苦しい名前ではない。そうだ、ぼくの名前は、ディーン=メーストルだ。
……これも違う。名字など、ぼくのような家柄では持ちようがない。そうそう、才賀貞義だったかな?
……いやいや、違うだろう。もっとスマートでエキセントリックな名前だったはずだ。
……思い出せない。どうやら、ぼくは記憶を失ったらしい。
いや、正確には記憶を失ったと同時に新たな記憶を得たらしい。相反するような言い方だが、事実なのだからしょうがないだろう。何せ、自分の年も名前も思い出せないというのに、他人の記憶があるからだ。記憶と呼ぶよりも、記録に近しい。覚えているというよりも、知識として知っていると言うべきか。
自分自身の記憶ではないと断言できるその記録は、数にして4つもあった。ぼくの脳裏には、これまでの記憶がすっぽり抜けると共に4人分の記録が追加されたようである。
白金。ディーン=メーストル。才賀貞義。そして……
「フェイスレス、か」
さらに記録を探る。アクア=ウイタエ、しろがね、フランシーヌ、アンジェリーナ、エレオノール、エレオノール、エレオノール、エレオノール、エレオノールエレオノールエレオノールエレオノールエレオノールエレオノールエレオノールエレオノール……。
何処の誰かは知らないが、この記録の人物たちは一途で純朴だったに違いない。彼らの記録のほとんどが、同じ顔の女性で埋め尽くされていることがその証拠だ。……同じ顔?
「この4人は、同一人物か?」
記録を見直してみる。アクア=ウイタエ、柔らかい石、しろがね、転送《ダウンロード》理論……。なるほど、僕の記憶が消滅したのはこのせいか。しかし、僕の自我が残っているのは記録と食い違う。いや、
「才賀勝。この少年は、アクア=ウイタエの効能により自我を失わなかった。前例はあるか……」
ふと、我に帰る。ここは、どこだろうか。顔を上げると、鉄格子が見えた。どうやら、ここは牢屋の中らしい。
「……分解」
フェイスレス他の知識により、錠前は簡単に解除できた。いや、些か簡単すぎる。少なくとも、2000年代にしては機構が単純すぎる。
「ここは、どこだろうか。日本人はこんなアンティークな錠前なんて使わないだろうけど……」
扉から出る。その空間には、僕が入れられていた牢屋以外にもたくさんのそれがあった。薄暗いせいで、なんとも陰鬱な雰囲気が漂っている。地下牢と呼ぶ以外、そこをなんと呼べばいいのかわからない。
「うう……」
その一角から声がした。その牢屋の前に立つと、中には地面にうずくまる少年がいた。
「そこの君……」
言葉に詰まる。ある意味、人生で初めての対人会話である。どう話すべきか迷ったが、親しみやすそうなフェイスレスの話し方を真似することにした。
「キミ、 ここはどこかな? そして今は何年の何月なのかな?」
「……」
「おやおや、警戒しているのかね? 僕は怪しいものではないよ」
警戒心をほぐすため、フェイスレスを真似して顎を下へと引っ張る。びよーん。
「おまえも、被験者か?」
「被験者? そりゃまた何のだい?」
「魔術だ。紋章の実験のだ」
魔術。そのような単語は、彼らの記録にはない。あるにはあるが、それは現実のものではない。
「魔術ねえ。それで、ここはどこだい?」
「……知らねえ。でも、奴らは何度もコーデリアって台詞を口にしていた」
「こーでりあ? はて、そんな地名あったかな?」
こーでりあ、こーでりあ。彼らの記録を探るも、明確に該当するものは出てこない。というか、記録の連中が人類虐殺したり世界を滅ぼそうとしたようである。誰がやったかは知らないが、とんでもないものを突っ込んでくれたようだ。
「それで、今は何年だい?」
「帝国歴の11ななじゅ……げほっ!」
言いかけたところで、少年は吐血した。「分解」を使い、彼の牢へと入る。
……死んでいる。吐血したとはいえ、いくらなんでも突然すぎる。まるで……魔術でも使われたようだ。
「魔術か。こーでりあ、帝国歴。ここは、彼らの世界で
はないのかもしれないね」
となると、大変なことだ。記憶を失う前はいざ知らず、今の僕はこの世界については全くの無知でしかない。
「……おい、17番! 貴様、何をしている!」
ならば、知っていそうな相手に聞くのが早い。近づいてきた看守らしき黒装束の男に素早く駆け寄る。
「分解」
「ぐああああっ!」
両腕両足の関節を脱臼させた。彼はもう、地面を這いつくばることしかできないだろう。
「では聞こう。キミたちは何者だい?」
「……舐めるなよ、獣が!」
おお、彼の手から火球が飛んできた! なるほど、これが魔術というものか。しかし、脱臼している状態では狙いが定まらないようだ。
「しょーがないなあ。話してくれないなら、次は何を分解しようかな。指?肋骨?それとも首にいってみるかい?」
指。悲鳴が上がった。
肋骨。さらに悲鳴が上がった。
首。ここを分解する前に、彼は音を上げた。
「フォドラ、セイロス教会、アガルタ。ぜーんぶ初耳だよ。こりゃー世界が違うね」
返事はない。脱臼の痛みからか、男は気を失ってしまった。ま、シャンバラとやらの技術が進んでいるなら、早く治るかもね。そうなると、僕に転送が行われたのも、君たちの謎技術の影響なのかもね。
「しかーし、いよいよここは異世界なんだねえ。いや、僕にとっては愛すべき地元なんだろうけどね」
なんとなく、言葉にしてみる。しかし、それに応える人間はいない。
しかし、どうしようか。僕は白金でもなければディーン=メーストルでもないし、才賀貞義でもフェイスレスでもない。一人の女の子を何百年も追いかけようとは思わない。でも、とりあえず名前はフェイスレスにしようか。貌なしとは、記憶喪失の僕にはちょうどいい名前だからね。
廊下を進む。ぺたぺたと、裸足で歩く自分の足音だけが聞こえる。……ん?
「そ……そこに、誰かいるんですか?」
ほー、この声は女の子か。薄暗くて顔までは見えないが。まあ、通りがかった縁というものもあるかもしれないね。
「分解」
彼女の牢屋の鍵を分解する。錠前が地面に落下し、かつん、という音を立てた。
「逃げたければ逃げればいい。なに、礼はいらないよ」
「ま、待ってください。あなたは……」
「あいにく、忘れちゃってね。まあ今はフェイスレスとでも言っておくよ」
言葉は少なめに、そのまま廊下を進む。人助けも、案外気持ちが良いものじゃないか。
「フェイス、レス……」
特に誰とも出くわさず、地上へと出ることができた。そこは、大理石の床や意匠から判断するに、西洋風の建物の内部らしかった。
「だから何だという話だよね」
出口を求めて歩く。
「なっ、貴様……」
分解。
「おい、貴様……」
分解。わざわざ出口を探すのも面倒になり、近くの窓ガラスを「分解」し、外へ出た。彼らの知識と変わらず、僕に降り注ぐ太陽の光は眩しいものだった。
しかし、結局これから何をしようか。とにかく、今はこの世界を知りたい。脳みそに聞いてみたとはいえ、さすがに情報が足りない。いろいろな所を旅してみるのがいいかもしれないね。
「オートマタ、か」
オートマタは、そもそもは他者を喜ばせるものだ。となると……。
「サーカスでもやろうか?」
あれ、以外にも名案では? オートマタを大量保有しても比較的怪しまれないし、各地に赴いて情報収集ができる。いやまあ、オートマタがそもそもオーバーテクノロジーかもしれないが、外見は人間そっくりだから大丈夫だろう。
そうなると、団の名前も決めなければ。
「真夜中のサーカス」
いや、真夜中にはやらないからね。
「仲町サーカス団」
全く関係ないね。何でこんな名前が出てきたのかね?
そうだ、このサーカスの主役はオートマタだ。だったら、こういうのはどうだろうか。
「からくりサーカス」
……良い! 何でかは知らないけど、ものすごくぴったりな気がする! そうと決まれば、材料を集めてオートマタを作らないといけない。
僕の脳裏には、まず作るべき四体の人形の姿が浮かんでいた。
衝動的に書き殴ったんでえらい駆け足です。反比例するかのように筆は遅いです。いろいろ足りないけれど何よりも速さが足りない。
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