私は次期アドラステア皇帝エ『レオノォォルゥゥ!!』 作:炭酸ソーダ
えっ、笑えって?
馬鹿言っちゃいけないよ。そんな顔を笑うなんて、人として最低だよ。
うわあ、怒らないでよ! 僕、変なことは言ってないだろ!?
もういいよ! 僕帰るからね!
あ、そうそう。ドットーレの技は完全に不明なんで、独自解釈です。
「やられたねえ」
やられた。突然現れたんだから。帰るときも突然消えるよね。秘密兵器ジャック=オー=ランタンまで使っておいて、無様なもんだよ。
「フェイスレス様! お怪我の治療を!」
「ああ……そうだったね。ベレス君、ライブ使えるっけ?」
「すまない。今は兵士だから、許可されていない」
謎ルール。魔法職でないと、魔術は使えないらしい。……あれ、魔術だっけ、魔法だっけ。どっちでもいいか。
「ドットーレ。とりあえず水だけでもかけておこうか」
「は……はい。失礼いたします」
あいたたたた。紺碧の手は、本来は水圧カッターみたいなものだ。その出力を極限まで減らすことで、水道から出てくる水流くらいまで減圧できるけどね。
『しかし、その……ジャコというのは、なんじゃ?』
「自動人形ではなく、ただの人形だよ。正式には懸糸傀儡だったかな。指で糸を操作することで、まるで人間のように操ることができるのさ」
ジャコが便利すぎるから、他のは作るつもりはない。こいつだけでわりとどうにでもなるからね。空も飛べるし。
「……彼らは、何者だろうか」
「コスタス君曰く、ルミール村の件の元凶らしいよ。……あ、コスタス君が人形だったっていうのは内緒ね。レア君が噴火しちゃうから」
レア君には「実験で飼い殺しにするから」という理由で譲って貰ったからねえ。無罪放免なんてばれたら、騎士団が地の底まで追いに行くよ。
『しかし、あれは瞬間移動かの。面妖な術じゃのう』
君に言われたくはないだろうね。
「しかし、面倒なことになったね。捕らえられたら良かったのだけれど、逃してしまった。この地下室も彼らに露見してしまったね」
『そうじゃのう。あの瞬間移動をどうにかせんと、巻き戻しても意味がないしのう』
ホントにね。僕の記録も大概ずるいと思ってたけど、あっちもずるいよね。僕のが一応科学技術であるのに、あっちは物理法則を無視してくるし。
「柔らかい石の制作を急がないと。でも、ここで作るわけにもいかなくなっちゃった。どうしたものかねえ」
修道院で堂々と作るわけにはいかない。柔らかい石なんて、たぶん教義に中指立ててつばを吐きかけるくらいの存在だよね。わりと不可侵地帯で、人目があって、何かやってても気にならなさそうな所。ないかなあ。
「お風呂で作れば良い」
正気かい、ベレス君。
地下の破棄を決定し、地上……というかベレス君の部屋に上がってきた。さすがに2人&四体は狭いね。
「さて、どうしようか」
「お風呂……」
まだ言う。本気かね、ベレス君。
「……失礼ながら、あながち下策でもないかと」
「アルレッキーノさあ。別に彼女の肩を持つ必要はないんだよ?」
「……このパンタローネも、同意いたします」
お前もかい。この流れだと……
「己も、むしろ己からお願いいたします」
「アタシも同意見です、フェイスレス様」
……なんで? 君ら、柔らかい石を舐めてないかね? あれ一個でたぶん帝国が買えるくらいの値が付くんじゃないかなあ。
『風呂は、素っ裸で入るものじゃ。あの炎帝が何者かはさておき、武装したままではさすがに入れまい』
それもそうか。いや、でも柔らかい石だよ? あれを風呂場で作るってのはさあ。
「浴室なら、我ら四体が揃っていてもとやかく言われますまい。炉の火、それに送る風。湯の基となる水、そして熱。我らの能力が使われているのですから」
……。
「ボイラーだとか難癖を付ければ、大型の機械を持ち込んでもさほど問題ではありますまい。その辺りは、先生の協力が必要になりますが」
パンタローネ、ベレス君を先生って呼ぶんだね。
「我らが24時間体制で警戒いたします。今日のような失態は犯しませぬ」
もう人間じゃないのばればれじゃないの。セイロス教的に自動人形ってセーフかな。わりとアウトな気がするけど。
「わかったわかったわかった。わかったからそれでいーよ」
「……つまり、24時間風呂に入り放題になる?」
君、わりとそれが狙いだったんじゃないの?
「というわけで、彼らは人間ではなーい。僕が作った自動人形だよーん」
教団の連中も生徒もできるだけ集めて、後から追求される前に言ってしまうことにした。
「自動……人形?」
あ、皇女サマ。わりと久しぶりに見た気がするね。
「そう、人形。こんな鼻した人間いるわけないじゃん」
「ずっと仮面だと思っていたのに……」
パンタローネは見るからに怪しいけど、アルレッキーノとかコロンビーヌとかはわりと人間っぽいよね。ドットーレ? 帽子がでかいよね。
「あ、そうか。昼寝しようとしたら、隣がキリキリうるさかったんだよね。機械だから歯車の音がしたのか」
リンハルト君、耳良いんだねえ。
「そんな……そんなことが許される筈がない!」
白々しい。前執務室で見たくせに。
「君は絶対言うと思ったよ、セテス君。でもさあ、それってダブルスタンダードって言うんだよ。略してダブスタさ」
「……」
もうレア君は気づいてるよね。あんなもん、置いとかずにさっさと溶かせばいいのに。
「なんだっけ、封じられた森? あそこに一杯あるよね」
「貴様! あそこは立入禁止区画だぞ!」
「入るなって言ったら入りたくなるよ。それに、あそこに入ったのはガルグ=マクにやってくる前だし。不可抗力?」
あそこにあるのは、大昔の……なんて言えばいいかな。まあ、ロボットみたいなやつの残骸だね。あえて言わないでおこうか。
「で、どーすんのよ。大司教猊下、あとは君のさじ加減でしょ?」
「……一つだけ、よろしいでしょうか」
「何なりとどうぞ?」
「その技術が、悪意の者に奪われる可能性は?」
そこだよね。神秘性はともかく、現実的にはそこが問題になる。……闇うごの技術は凄いけど、これが簡単に作れりゃ苦労しないよ。
「ゼロ! 断定しちゃうよ」
「根拠はありますか?」
「彼らは任意で自壊できる。歯車以下にまで細分化してね。よしんば敵の手に落ちても、材料だけじゃあどうしようもないだろうよ」
これは、本来のオートマタの機能にはない。フランシーヌ人形は、壊されにわざわざ日本まで行ったわけだし。闇うごなんて危険団体があるから、しろがねをパクって付け加えておいたのだよ。
「……ならば、良いでしょう。引き続き、彼らを在籍させることといたします」
ごめんね。こいつら、多分浴場に入り浸って授業さぼるわ。
「驚きましたな。まさか、彼が機械だったとは」
「……ええ。でも問題は、フェイスレスの技術力よ。あれでは、まるで……」
「彼らよりも、先にいるかもしれませんな」
「…………」
「……機械、ならば破壊しようと新たに作れる。ふ、逸楽……!」
「……あなたは余計なことをしないでちょうだい」
「おい、聞いたか?」
「何をだよ。名詞を言え名詞を」
ガルグ=マクの麓には、それなりに街が広がっている。生徒たちは、休暇にはここで買い物を楽しんだり、食い歩きを楽しんだり……。とにかく、それなりに街がある。
「ガルグ=マクだよ! 俺らにも浴場を開放するってよ!」
「浴場って、あの!? 『食い倒れ』のイングリットちゃんがいつも言ってる?」
「そう、あれだよ! 広い湯船に、セッケンとかいう魔法の道具! そして……」
「「至高の飲み物フルーツ牛乳!!」」
「……いや、でもなあ。あそこ、登んのに何分かかんだよ」
「それがな……機械式の昇降機で、麓から歩かず行けるんだとよ!」
「すげえ! 管理人……えー、何だっけ」
「フェイスレスだろ?」
「あー、そうだ。会ったことねえが、フェイスレス万歳!!」
その噂は、人から人へと伝播していく。解禁当日には、浴槽が人で溢れかえるほどの大盛況となっていた。
「これでよろしかったのでしょうか?」
「何だね、ドットーレ。意見があるなら言ってごらんよ」
「僭越ながら。……闇うごが、紛れ込むかもしれません」
「闇うご、あの肌の色じゃ素っ裸になれないんじゃない?」
「……それは、盲点でした」
「……ふう」
女湯。この世の不可侵領域は、されど人類の半数にとってはそうではない。その事実がありながらも、女湯とは不可侵領域の換言的な存在である。
「……ねえ、グリットちゃん」
「なんですかあ。わたしはげんかいがちかいかもしれません」
「先生、いつから入ってるのかしら」
「じゅぎょうがおわってからすぐじゃないですかあ」
「……それって、3時間前のことよねえ」
ベレスにとって、浴槽は馴染みの無いものであった。幼い頃から「壊刃」の娘として男所帯で育った彼女。傭兵団が、そう頻繁に風呂に入ることはない。馴染みが薄いのは当然である。今年から遭遇したこの未知なる存在に、彼女は心を奪われていた。
「天にも昇る心地だ……」
「師、隣良いかしら?」
「……どうぞ」
ベレスの隣にやってきたエーデルガルト。その視線は、ちらちらと隣を盗み見るようなものであった。
「せ、師。フェイスレスのこと、好きかしら?」
「ぶほお!」
離れた場所でドロテアがむせていた。
「好き? ……嫌いなはずがない」
「……そう。やはり、そうなのね」
「楽園の創造主……神? 風呂の神? ソティスよりも実利に叶う……」
『おぬしおぬしおぬし!』
エーデルガルトは、下を向いてぶつぶつと呟いていた。ベレスは、そんなことには目もくれず逸楽に浸っていた。ドロテアは、のぼせたイングリットを引き上げていた。
「フェルディナントに……ローレンツかよ!? お前、こんな大衆的な所に来るんだな」
男湯はといえば、クロードが貴族2人とブッキングしていた。
「ああ! 風呂とは、世間の情報が集まる所だ! この中においては、貴族も平民も関係なく語り合う! そうすることで、市井を理解することができるのだ!」
「僕としては、もっと空いた時間が良かったのだけどね。まあ、概ねはフェルディナント君と同意見さ」
併設のサウナ室からは、全身を朱色に染めた二人が出てくる。
「ふん。俺の勝ちだな、猪!」
「ああ。これ以上は体に良くないからな」
「……チッ、そういうところが気に食わん!」
そう吐き捨て、冷水に浸るフェリクス。ディミトリも後を追っていく。
「しかし、なかなかどうして良い気分だ。どうにかグロスタールにも普及させたいところなのだが……難しいだろうね」
「ま、そりゃあな。人力でやるなら、膨大な薪と清潔な水が必要になる。貴族がやるならともかく、平民には不可能だろうよ」
「いや、魔法を活用してはどうだろう! 光魔法を経由することで……」
「お呼びですか、レア様」
姦しい浴室に反し、聖堂の2階は静寂に包まれていた。
「良く来てくれましたね、カトリーヌ」
「もちろんですよ。それで、用件は何でしょう?」
「……ロナート卿が、教会への叛乱を起こしたそうです」
いつぞやの温泉会よりよっぽど温泉会だろ。
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