私は次期アドラステア皇帝エ『レオノォォルゥゥ!!』 作:炭酸ソーダ
いきなり総合評価が50くらい増えたんですけど。なんで?
「ダウンロード理論……!」
だうんろーど? フェイスレスは、よくわからない言葉を使うことがある。
「おい、どうした?」
ジェラルトもそう思ったのだろうか。彼が聞かなければ、私が聞いていたと思う。
「……実はね、ジェラルト君。ベレス君の脳内には女の子が住んでいるんだよ」
あ、時間が止まった。
「お……おぬしおぬしおぬし! それはわしら3人の秘密だと言ったじゃろう!」
「……あ、うん。ごめん、軽率だったかもしれないね」
フェイスレスが動揺している。なかなか珍しい光景だと思う。
「その、だうんろーど? がどうかしたの?」
「……」
言いよどむ姿も珍しい。彼は、いつもなら即断即決のはずなのに。
「……いつか言ったっけ? 柔らかい石は、擬似的な不老不死を為せるんだって」
「うむ? 聞いたような気がするが」
「柔らかい石が浸かった水は、万能薬アクア=ウイタエになる。その使い方は2つあるのさ。1つは文字通り、万病を癒やす薬として。そして、もう1つが……人体を溶かし、それを飲んだ生物に溶けた者の人格を植え付けることだね」
「人格を……」
「いや、厳密には違うかな。溶けた者の意思を植え付けると言った方が近い。溶けた人物が不老不死を望んでいたなら、飲んだ人間の人格は消し飛ばされる。単に復讐を望んでいたとしたら、人格は消えないかもしれない。ただ、飲んだ人間は一生復讐という理念に取り憑かれることとなる。……まあ、ろくでもない代物さ」
「それが?」
「人から人へと意思を植え付けようとする考え方。これが、ダウンロード理論さ」
「だから、それが……」
いや。私の脳内には、ソティスという人格がある。
「気づいたかい、ベレス君。……そう、君の脳内にはソティス君がいる。そして、君の心臓は紋章石という石っころで、それを埋め込んだのはレア君だ。僕には、ソティス君の存在と紋章石の件が無関係だとは思えないんだよね」
確かに、私が一般人とは異なる点は2つ。脳内に幼女がいることと、心臓が動いていないこと。……これらを切り離して考えるべきではないのかもしれない。
「僕の記録の彼らは、ダウンロードの方法を2つ知っていた。1つは、アクア=ウイタエによるもの。2つめは、機械に脳内のデータを読み取らせ、他人に書き込むというもの。……3つめや4つめの方法があったって、僕は驚かないよ」
「……おぬしは、レアとやらがそれを行ったと言いたいのか?」
「うん。……おそらく、紋章石の材料はソティス君の心臓とかなんじゃあないかな。それを何らかの手段で加工して、ベレス君に入れた。その何らかのという部分が、僕の知らない第3第4の方法になるんだろうね」
常識から乖離しすぎていて、素直には飲み込めない話だ。
「しかも、それをやったのがセイロス教の大司教だ。女神様を崇拝する彼女が、女神様の名を持つ女の子をダウンロードさせようとした。……彼女の目的が、ようやく分かったような気がするね」
「つまり……わしは、やはり女神ソティスであるということか」
「レア君の行動が、その信憑性を補完しているだろうね」
……いや、元々そうだと思っていたけれど。女神と同じくソティスを名乗り、時間を巻き戻すような存在。女神でもなければ悪魔か何かだと思う。
「で、おそらく彼女はダウンロードが成功したと思っている。だから、僕がうろちょろしたところで特に罰するつもりもないんじゃないかなあ。まさか僕がダウンロード理論を知っているなんて夢にも思わないだろうしね」
当然だ。そんな知識を持っている人間がいるなんて、普通の人間は思いもしない。
「……問題は、実際はダウンロードが成功していないということさ」
「そうなのか? 現にわしはこやつの中におるではないか」
「レア君の目的は、主神ソティスの再誕とかだろう。そうだとしたら、ただの人間であるベレス君の自我は消滅していることが前提のはずさ。しかも、自我の植え付けは成功しているものの、件のソティスは記憶がすっぽ抜けてしまっている。これでは、ダウンロードは成功したとは言い難いだろうね」
…………
「そう、おそらくは彼女が望んでいた通りには成功していないのさ。……シトリーは、果たして危篤だったのかね?」
「……おぬし、まさか」
「レア君は、かつてシトリーに紋章石を移植し、神祖ソティスをダウンロードしようとした。だが、ダウンロードは成功しなかった。でもさ、一度入れた心臓なんて、そう易々と奪えるものじゃあない。じゃあ、いつ取り出す? ……取り出されるべき正当な理由がある時が最も疑われにくいよね」
娘が産まれた。しかし、娘の心臓は止まっている。……母は、自らの心臓を取り出して与えるように懇願した。もしくは……
「心臓を、娘に与えるべきだと促された……?」
先日のアビスでの一件の後。レアは「母子共に危篤だった。シトリーが望んだから、その心臓を移植した」と語っていた。しかし、その発言の事実を証明できるのは、出産に立ち会っていたというレアしかいない。
「そもそもさあ。この時代の人間の知識レベルで、心臓を移植してくれなんて言うかなあ? 内臓を移植するなんて発想が、そもそも出てくるとは思えないんだけど」
……私には、出てこないだろう。いや、感情の勢いに任せて「心臓をやってくれ」とは言うかもしれないが、それは無理難題に近い要求だ。よしんば産婆にできるわけもないし、そもそも理性では不可能だと思って言っているはずだ。
「シトリーは既に故人だ。問題なのは、ベレス君。君が今生きているということだよ」
「こやつが『失敗作』だとわかれば、レアは……」
「やりかねない。……いつだったかな、僕は彼女に『フェイスレス』を見たんだ。その時はなぜそう思ったかわからなかったけど、僕の直感は的確だったのかもしれないね」
……レアが、私を殺す?
「そもそも。紋章石が心臓だとしたら、英雄の遺産本体はなんだろうね。……僕には、どこか生物の骨のように見えるんだけどさ」
手元の剣が、重みを増したような気がした。
さて。
ベレス君がボイラー室を出ていったので、ここにいるのは僕一人……と、四人か。
「ダウンロード……まさかこんな世界でも目にするなんてね」
大司教レア。彼女について確定しているだけで、ベレス君に改造を施し、1000年生き続け、少なくともジェラルト君が知る限りの100年ほどはフォドラの最高権力者に居座り続けている。
ダウンロードはともかく、最低でも心臓移植が可能な技術。アビスの本を見るに、おそらく他の科学技術についても知識を有している。……それだけあるなら、さっさと闇うごを駆逐できたんじゃあないのかね?
「喫緊は、彼女がベレス君を始末する可能性があることか。……コロンビーヌ!」
「はっ!」
ひっさしぶりに声を聞いた気がするけど、数ヶ月間この四人は僕の背後に控えていた。とはいえ、そろそろ配置転換かな。
「金鹿に戻って、関係構築を再開してね。あと、ベレス君から目を離さないこと」
「……承知しました」
承知したと言いつつ、不承不承だねえ。僕はそれほど頼りないかな。
「お前達も、各学級に戻りなさい。……ドットーレは、しょうがないから僕の護衛ね」
「異論はございません!」
「……」
「……は」
ウキウキなドットーレと、対極的なパンタローネとアルレッキーノ。
「……不躾ながら。ドットーレのみで、御身は安全でしょうか」
「おいパンタローネ、己をあまり舐めるなよ?」
「炎帝の襲撃は、あの一度だけだった。子細はわからないけど、彼らにもそう易々と襲撃できない事情があるみたいだね。だからまあ心配しないでよ」
ジャコもせっかく作ったんだから、活躍の機会があってもいいじゃないの。
「……失礼を致しました」
「いいっていいって。んじゃ、みんながんばってね」
三人が部屋を出て行った。
「じゃあドットーレ、君にも任務を与えようかな」
「はっ? フェイスレス様の護衛が、己の任務なのでは……?」
「ああ言った方が、奴らのモチベーションに火が付くだろう? ……君にはね、元灰狼の学級の一員として、僕の手となってもらうよ」
「はいはい、従順な手でございますよ」
器具の影に隠れていたユーリス君が姿を現した。
「うん、四人の感知を掻い潜るなんてやるじゃあないの。それだけ潜めるなら、どこに潜入するにも大丈夫じゃない?」
「……お手柔らかに頼むぜ?」
先日、灰狼の学級は解散した。したのだけど……ユーリス君という有能な駒を、そうそう手放すほどの余裕もないんでね。金の力で雇うことにしたわけだ。
「で、新生・灰狼の学級の初課題はなんでしょうかね?」
「セテス君に恩を売る。失踪したフレン君を、どこよりも早く確保してほしい」
話はやや過去に戻る。
「フレンはいるかぁー!!」
先日、セテス君が浴室のバックヤードに乗り込んできた。なんでも、フレン君が行方不明になったそうだ。
「あの子は……私の全てなのだ! 何が何でも見つけてみせる!」
彼らの正体を掴んでいるからか、普段のセテス君は僕をすこぶる警戒している。のだが、フレン君に何かあると、彼はわりとなりふり構わないみたいだね。
「というわけで、フレン君を真っ先に確保。彼との交渉に使うよ」
「おいおいおい。恩を売るんじゃねえのかよ」
「見つけたという恩を着せておいた上で、こちらの要求を通りやすくするんだよ」
「……まあ雇われの身だ。やるだけやってやるさ」
「あんた、ポンと俺たちを雇ったが……どこから金を得てるんだ?」
「子ども向け卓上絡繰り人形『とら』の販売さ。修道院に出入りする行商人に売らせているんだけどね、これがフォドラの子どもにウケてるんだよ」
「……楽しそうだな」
「まあね」
ちょっと短かったですかね(3888字)
まあ多少はね?
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