私は次期アドラステア皇帝エ『レオノォォルゥゥ!!』 作:炭酸ソーダ
おかあさんといっしょ()
「今年は、三つ巴の戦いになりましたね」
グロンダーズ平原を見下ろす高台に、二人の人間がいた。共に緑がかった髪をしている二人は、平原で行われている模擬戦を観戦しているようである。
「ああ。中央の丘を取り合うのは常ではあるが……ここまで乱戦になるというのは、なかなかに珍しいことだろう」
「個人的には、青獅子の学級を応援したいところなのですが……」
「……」
帝国歴1176年、フォドラを揺るがす大事件が起こった。俗に言う、ダスカーの悲劇である。この事件で、ファーガス神聖王国は国王を失った。しかし、その影響は王国に留まるものではなかった。事件に関与したとして指名手配されたカロン家の娘カサンドラは、実家を出奔しセイロス騎士団に入団。前後して、大司教レアの暗殺計画が発覚するなど、1176年はセイロス教会にとっても激動の年であった。
「……そろそろ大勢も決まりそうです。セテス、移動の準備を……」
「……ん?」
男が怪訝な声を発する。
「どうかしましたか?」
「いや、私の見間違いかもしれないが……あの森のそばに、人影が見えないか?」
うん? 僕は、どうしたんだったかな。
起きよう。いや、なんか固いな。まるで縛られているかのようだ。自分の体に目をやると、確かに縄でぐるぐる巻きにされていた。周りを見ると、死んだような目をした子どもたちがたくさんいる。なるほど、これは……
「おい、ガキ。目は覚めたか?」
前方に座っていた、見るからに山賊といった装束の男が言う。その後ろから差し込む光、そしてガラガラという車輪の音。どうやらここはほろ馬車の中のようだね。
「お前、アミッドの岸で転がってたんだわ。息があったから、ついでに商品にしようとここに連れ込んだわけだ」
ああ、思い出した。大橋には検問があったから、面倒を避けて大河を泳いで渡ったんだった。しかし、記録の中のイメージと今の身体にかなりのスペック差があったから、思ったよりも疲労困憊だったんだな。
「これは、どこまで行くんだい?」
「アンヴァルまでだ。あそこにゃ上客がいるんでな」
ちょうどよかった。だったら、このまま乗っていればいいわけだね。
「君、名前は?」
「……」
10敗。暇つぶしに子どもたちに話しかけたものの、だーれも口を開かない。しょうがない、頭の中でオートマタの設計図でも書くことにしよう。
「……なに? セイロス騎士団が?」
アルレッキーノは炎を使うが、燃料はどうしようか。この文化レベルだと、石油が実用化されているとは考えにくい。となると……
「どうすんだよ! 荷台の中身を見られたら、俺たちゃ打ち首だぜ!」
パンタローネは空気を圧縮する。あれもそれなりの技術がいるけど、まあなんとかなりそうかな。
「……荷台の中身を、始末するか?」
コロンビーヌは……どっちにしようか。ゾナハ蟲がいないわけだから、姿はどっちになっても能力は初期の方になるかな。おっと、今まで黙っていた子が服を引っ張ってきた。ようやく話をする気になったのかな?いやいや、そんな恐怖に満ちた顔をしなくてもいいじゃないか。
「おい、てめえら! さっさと外に出ろ!」
抜き身の剣を携えた男がやって来た。ああ、そこの君は僕と話したかったわけじゃあなかったのね。
「分解」
とりあえず自分の縄を解いておく。泣きそうになりながら外へ出て行く子どもたち。まあ安心したまえ、目の前で死なれては寝覚めが悪い。でも、愛と勇気の前には恐怖と衝撃が必要だからね。
俺はしがない山賊だ。山賊つっても、主に人さらいが生業だ。殺人とは縁がなかった俺だったが、ついに人殺しまでするはめになっちまった。
俺の目の前には、恐怖に震えるガキ共がいる。俺が言えたことじゃねえが、可愛そうなやつらだ。突然攫われて、こっちの都合で殺されるってんだからな。
「一分やる。女神様でもなんにでも祈るがいいさ」
そんなことを言ってみたが、祈りたいのはこっちも同じだ。人を殺す、しかも年端もいかねえガキを殺すなんざ、死んだ後女神に何を言われるかわかったもんじゃねえ。
「分解……」
意識を失う直前に聞いたこの声は、一体誰のものだったんだろうな。案外、神サマが俺に罰でも与えたのかもしれねえが。
いよいよ始末されそうだったので動いたが……やけにあっさりだったね。山賊のわりに戦闘慣れしていなかったのかな?
「すごい! わるもの、やっつけちゃった!」
ようやく子どもたちが自分から話しかけてくれた。しかし、見た目もそうだが些かしゃべり方が幼い子ばかりだね。奴隷にするにしても、もう少し成長していないと使い物にならないと思うのだが。
「いっぱつでやっつけちゃった! お兄ちゃん、まじゅちゅし?さんなの?」
「いーや、違うね。僕はフェイスレス、からくりサーカスの団長だよ。まあ、団員はこれから作るんだけどね」
「サーカス! すごい、はじめてみた!」
サーカスが武闘みたいなものだと誤解されそうだけど、まあしょうがない。
「あ! でも、わるいひとはまだふたりいたはずだよ!しゃべってたもん!」
「そうかい。他に、何か聞いていなかったかな?」
「うーんと……せいろす?きしがいるからとか……」
セイロス教。あの闇うごから聞き出した、この世界の圧倒的多数派宗教だったはず。闇うごがテロリストみたいなものだとして、多分セイロス騎士はその反対の立場だろう。
「君たち、セイロス教って知ってるかな?」
「うん!」
「セイロス教の人たちって、いい人?」
「もちろん!しんぷさんはいっつもおかしをくれるんだ!」
じゃあいいか。この子たちは彼らに任せよう。山賊の話に上がっていたということは、この近辺に騎士団がいるということだろうし。
「じゃあ、これから騎士団を探そうか。君たち、しゃべらず静かに僕についてきたまえ」
「おにいちゃん、つよいんでしょ? わるいひとをたおさないの?」
素朴な疑問だ。しかし、できることなら戦いは避けたい。護衛のオートマタでもいれば戦闘上等だけど、今の僕は「分解」が使える以外は弱っちい少年でしかない。「分解」が届かない遠くから弓矢で狙われでもしたらかなりしんどいからね。
「能ある鷹は爪を隠すものさ。覚えておくと良いよ」
街道脇の森の中を進んでいく。街道を進んでいたほろ馬車が、騎士団との遭遇を避けようとした。つまりは、街道をまっすぐ行けば件の騎士団はいるということだ。
「ねえ、おとがきこえるよ」
一人の子どもが言った。確かに、何か聞こえる。……いや、聞こえるが、馬の駆ける音のような気がするなあ。これは、戦闘の音のような気がしないでもない。
「ガキ共ォ! どこだぁ!」
後方から怒鳴り声まで聞こえた。退くも進むもリスキーな選択だが……。後方には敵しかいないが、少なくとも前方に進めば騎士団はいるはずか。
「よし、君たち。走りたまえ!」
僕の声に合わせて、子どもたちは走り始めた。と、一人ずっこけた。ああ、泣いちゃった。これは後ろにばれたかな。
「立ちたまえ、君。あとちょっとだよ」
転んだ少年の足を見ると、折れた木の枝が突き刺さっていた。なるほど、これでは走れはしないか。意を決し、彼を背負った。……重い、というか僕が貧弱なようだ。他の子どもたちはもう森を抜けていったようで、森には僕たちの姿しかない。
「ぬぐっ!」
変な声がでた。左肩に痛みが走ったからだ。どうにも運が悪いことに、敵は弓を持っていたらしい。
「追いついたぞ、ガキィ……!」
背後には、目が血走っている山賊がいた。幸か不幸か、一人だけのようだ。
「君は終わりだよ。他の子どもが騎士団を連れてきてくれるだろうし、さっさととんずらした方がいいんじゃないかなあ?」
「うるせえ!あいつは逃げたが、俺は違う!てめえみてえなガキにコケにされて、みすみす逃げられやしねえんだよ!」
……戦うしかないか。背の少年をゆっくりと地面に下ろす。
「足が痛いだろうけど、頑張って逃げてね。僕も頑張って戦ってみるから」
「で、でも……」
少年は、僕の肩をじっと見つめている。なに、この程度。左腕がちょっとばかり動かないだけさ。
「大丈夫。うまくいくさ」
「ぎゃははは!んなわけねーだろ!そのガキが逃げ切れようとも、てめえだけは絶対にここでぶっ殺してやる!」
目がイっちゃってるよ。……ならこちらも、イかれた言葉を返そうかな。
「だって僕は『自分を信じている』もん」
「はあ?」
「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」
言うと同時に、相手めがけて走り出す。左腕が使えない以上、「分解」も意味がない。何か、ないか。四人の記録を探れ。自分を信じろ。自分の中に、打開策はあるはずだ。
「まっすぐ突っ込むなんざ、撃ってくれって言ってるもんだぜえ!」
奴が矢をつがえる。何かないのか、僕の記憶に!撃てるような何かが!
……撃てるような、何かの記憶。闇うごの……
「ファイアー!!」
「うがあああ!!」
いや、出せたね。そういえばこの世界、魔術があるんだった。一直線に進んだ火球は、男の顔面に直撃する。男は悲鳴を上げ、崩れ落ちた。いや、威力がおかしい気がするんだけどね。
ふと、後ろを振り返る。少年は、地面に血の跡を残しながらも森の出口へとたどり着いていた。ほら、自分を信じれば良いんだよ。記録ではもっと利己的な台詞だったと思うけどね。
「今年の鷲獅子戦は、勝敗なしの引き分けとする」
ナイスミドルの発言に、武装した人々が不満を口にする。といっても、本気で文句を言っているようには聞こえない。何なら口で「ブーブー」と言っている人もいるくらいだから、お約束みたいなものだろうね。
「しかし!乱戦の最中でも冷静を保ち、幼子を保護するべく行動した諸君は見事だった。士官学校の教師として、非常に嬉しく思う」
騎士団じゃなくて士官学校の生徒だったんだね。まあ子どもを保護してくれればどっちでもいいけど。
「貴方にも、お礼を言わないといけませんね」
演説を聴いていると、後ろから声がした。
「えー、大司教さんでしたっけ?僕が礼を貰う理由が分からないのだけど」
「貴方は、無辜の民草を救ってくれました。貴方がいなければ、彼らは無事ではすまなかったことでしょう」
お礼はありがたい。しかし、その目を僕は知っている気がする。その目は、一人の人間(というか顔)を求め続けたどこぞの4人の目に似ている。だから何だという話かもしれないが、近づきすぎない方がいいかもしれないね。
「通りすがっただけなのでね。早いところ、出立しなくてはいけないんだよ」
「ライブで治療したとはいえ、矢に射られたのです。そう慌てない方が良いですよ」
「いやいや、急いでいるのでね。好意はありがたいが、遠慮させてもらうよ」
そそくさと立ち去ろうとすると、レアは少し悲しげな目をした。少し心苦しいが、やっぱりどことなく彼らの雰囲気がするなあ。
「あ……せめて、名前だけでも聞かせて貰えませんか?」
「フェイスレス。からくりサーカスの、フェイスレスです。それでは!」
今度こそ、彼らの拠点を後にした。アンヴァルまでは、まだまだ距離がありそうだ。
「フェイス、レス……。覚えておきますね」
書くのもちょっとずつ早くなってきたかもしれません。見切り発車の書き貯めなしですが、ぼちぼちやっていきたいです。
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