ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー 作:つりーはうす
1話 ”星”のアルベルト
アルザーノ帝国、帝都オルランド。
その郊外には帝国宮廷魔導士団の総本部、人呼んで”業魔の塔”が聳え立っている。
"業魔の塔"内部、特務分室の職務室には席を挟んで二人の男女が向かい合っていた。
「アルベルト、これが次の任務よ。すぐに準備して」
「了解した」
任務書を手渡したのは、この特務分室の長にして、特務分室執行官ナンバー1、"魔術師"のイヴ=イグナイト。
近接魔術戦の大家、イグナイト家出身の若き俊才である。
そして任務書を捲っているのは、特務分室執行官ナンバー17、"星"のアルベルト=フレイザー。
特務分室のエースとして軍内で名が知れている凄腕の魔術師である。
「だがイヴ、解せんな。なぜこの程度の任務が
アルベルトが不思議に思い、任務書を読み進める。
"アルザーノ魔術学院に通うルミア=ティンジェルを護衛せよ"
彼女の身分は魔術の名門フィーベル家に属する以外取り立てて目を見張るものがない、普通の女子生徒だ。
そんな彼女を護衛する時間、労力があるのなら他に手を回すことがあるだろう。
いや、仮に護衛をするとしても、さして重要人物ではない者に特務分室のエースと謳われるアルベルトを派遣すること自体が可笑しな話である。
そう疑問を感じていると、
「はあ・・・やっぱり貴方は目聡いわね。バーナードなら何の疑念も持たず女学院生を護衛できるって喜ぶだけなのに」
いや、さすがの翁といえども少しは疑念を持つと・・・いや、思わないな。
アルベルトは同じく特務分室に所属している古参兵の日頃の行いを思い出し、このような評価を下した。
「いい、アルベルト。今から言う話は他言無用よ」
イヴが話し始める。
「まさかルミア=ティンジェルが亡くなったエルミアナ王女だったとは・・・」
”業魔の塔”内部の通路を歩きながら先ほどの内容を思い浮かべる。
ルミア=ティンジェルは数年前に亡くなったアルザーノ帝国第二王女、エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノであること。
そして彼女の近辺で天の智慧研究会の構成員が動いていること。
念のため護衛を派遣するが、彼女の出自が特殊であるため、周りに気づかれずかつ秘密を保持するため最小限の人員で護衛をすること。
万が一危機に晒された場合、全てに対処できる凄腕の魔術師を選んだこと。
以上の理由からアルベルトに白羽の矢が立たれた。
今回の任務もまた違う方向で厄介になりそうだな・・・
そう思っていると、
「おお、アル坊ではないか。聞いたぞ、美少女が数多く在籍しておるというあの学院に潜入するなんて。くぅ~、ずるい、ずるいわい!儂も可愛い女の子に囲まれて任務したい!」
アルベルトが冷ややかな目線で見る人物、それが先ほど話に出てきた特務分室執行官ナンバー9、”隠者”のバーナード=ジェスターである。
「冷やかしにきたのならどいてもらおうか、翁よ」
「おお~いかんいかん、すっかり忘れておった。ほい、アル坊」
バーナードが手渡したのは一冊の本であった。
「これは、翁?」
「学院に潜入するなら参考になるのではないかと思ってな。ほれ、彼の有名なライツ=ニッヒの作、”ロクでなしな魔術講師”じゃ。タイトルはふざけておるが、中身はスパイ物の小説として名作と謳われる
アルベルトは無言でこの本を見つめる。
「まあ騙されたと思って読んでみろ。なにか参考になる点があるかもしれん。こういう本は意外と馬鹿にはできんぞ。儂も潜入任務の際、大いに参考になったしな」
「・・・助言、感謝する翁」
バーナードから本を受け取り、懐に入れる。
「それでいつ発つんじゃ、アル坊よ?」
「準備出来次第と言われているが、すぐに発つ。暫くの間、留守になる」
「かぁ~。アル坊がいないとなると、グレ坊が一人でリィエルの面倒を見るのか。奴も大変じゃのう」
「グレンにはセラがいる。何とかなるだろう。では翁よ、失礼する」
アルベルトはもう用は済んだとばかりに前を向き歩き出す。
その背中を何やら含んだ笑みで見つめるバーナードであった。
ちょっと気分転換で書いてみました、つりーはうすです。
息抜きで書いていますので更新速度はいつもより遅めになりますが、楽しんで読んでください。