ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー 作:つりーはうす
魔術競技際は女王陛下の言葉と共に始まった。
今回優勝クラスには女王陛下直々に勲章を下賜するということで各クラスはそれぞれ意気込んでいるのだが、そんな中あるクラスが学院の噂の的となっていた。
アルベルトのクラスである。
成績優秀者で固めず全員平等に出場させるという手法、優勝候補筆頭のハーレイのクラスと優勝を賭けるなど、競技際が始まるまで話題に欠かなかったクラスであった。
もちろん前評判では優勝などありえないという意見で多数を占めており、誰も期待していないのだが・・・。
午前の部最終競技までの順位、第3位。
この思わぬ快進撃に生徒のみならず、観客も沸いていた。
平凡な生徒が成績優秀者を押しのけて活躍するその姿に、親近感を抱いたのかそれとも今までの競技際に飽きてきたのか観客のほとんどが2組の生徒を応援していた。
午前の部最終競技、”精神防御”が始まる少し前。
システィーナが心配そうにアルベルトに話しかけてくる。
「あの・・・先生。今からでもルミアを変えませんか?あの子に”精神防御”なんて過酷な協議は無理よ!他のクラスは皆男の子。女の子はルミアだけよ!」
競技”精神防御”。
精神汚染攻撃への対処法を競う競技である。
少しずつ精神汚染呪文の威力は上がっていき、最後まで残った者が勝者となり、得点を総取りする。
この競技の特性上、競技際でも1、2を争う過酷な競技にルミアを送り込むことを決めたアルベルトに対し、翻意するよう懇願した。
その横でギイヴルが皮肉げに伝える。
「先生にしてはやけに合理的な判断じゃないですか。治癒系が役に立つ競技がない以上、それ以外に特に長所のないルミアをこの競技に送り、他の戦力を温存する・・・いやいや大した戦術眼ですよ」
二人の話を無視していたアルベルトが話かけた。
「ティンジェルを捨て石に、か。ウィズダンはともかくフィーベル。貴様はずっと一緒に過ごしてきたではないのか?まあいい、よく見ておけ」
競技は始まり、他のクラスの生徒たちは次々と脱落していく
そんな中・・・。
「残るはこの二人。ジャイル君となんとルミアちゃんの一騎打ちだぁぁぁー」
誰がこの予想をしただろうか。
真っ先に脱落するであろうと思われたルミアが最後まで平然として立ち、残っていることに。
「う、うそ・・・」
「まさか・・・ここまで強かったのか」
先程までルミアの心配をしていた二人もこの結果に驚きを隠せなかった。
そんな二人に先程の質問に答えるアルベルト。
「この競技で競うのは精神汚染呪文への対抗呪文、白魔”マインド・アップ”だ。この呪文は素の精神力を強化させるだけのもの。つまり元々の精神防御力が強い者ほど大きな効果がある。素の生徒でティンジェルに勝る精神力を持つ者などおらん。だから俺は選んだのだが、まさか相手にも同じぐらいの精神力を持つ者がいるとは・・・不覚だな」
「そんなことより元々の精神防御が強い人って・・・私とルミアは同じ環境で暮らしているのよ!一体どうやってそこまでの精神力を持っているのよ!」
「それは本人の口から聞け」
「ふぅむ、ここまで粘るとは予想外だったよ。さて、そろそろ白魔”マインド・ブレイク”の呪文に行ってみようか。さあ、行くぞ!」
この競技で精神汚染呪文を唱えてきた学院の教授、ツェスト男爵が白魔”マインド・ブレイク”を唱え、それに応じてルミアとジャイルも
すると・・・。
「なんと”マインド・ブレイク”をも耐えたぁぁぁ」
この熱い展開に沸き立つ観客、そして生徒の歓声。
勝負はお互い一歩も引かず続いていく。
しかしとうとう終わりの時が近づいてきた。
「ああーと、ここでルミアちゃんがよろめいたぁぁぁ」
初期と比べて威力が高まった精神汚染呪文にとうとうルミアの精神防御が貫通し、膝を着くルミア。
意識が朦朧とした様子に観客ももうダメかと思ったその瞬間。
「大丈夫です。行けます!」
まさかの本人による続行の希望。
これには観客、生徒も驚き、辺り一面がルミアへの声援で会場は一層湧き上がる。
「では続いていきましょう!次はー」
「棄権だ」
会場の熱を冷ますかのようなアルベルトの突然の宣告に辺りが静まり返った。
「2組は棄権する。以上だ」
あまりの幕切れに会場はブーイングの大嵐。
それを意に介さずアルベルトはルミアの元へ行き労った。
「よくここまでやってくれた、ティンジェル。まさか相手にあのような者がいるとは・・・。俺のミスだ、すまなかった」
「いいえ、楽しかったですよ。負けたのは悔しいですけど私のクラスのために戦っているという気持ちになれたので」
二人が話している中、ブーイングから一転大歓声が湧きあがる。
どうやら残っていた生徒がすでに気絶していたらしく、勝利がルミアの元に転がり込んだのだ。
この結果に2組の生徒が観客席から飛び降り、ルミアの元へと駆け寄った。
「大事には至らなかったとはいえ女の子をこんな過酷な競技に出すなんて・・・アイツをシメるか、アリス?」
「いけませんよセリカ、彼に我儘を言ったのは私なのですから」
「冗談だよ、冗談」
貴賓席で勝負の行方を心配そうに見つめていたアリシアを気遣ってか、他人が聞くと恐れ上がることを冗談と言いのけるセリカ。
「まあそれは置いといて、だ。アリス、せっかくの機会なんだ。親子水入らず、あの子と会ってきたらどうだ?」
セリカに思わぬ提案をされたアリシアは目を見開く。
「なあに心配するな。私ほどの魔術師なら王室親衛隊の目を誤魔化すくらいのことなど造作もないぞ」
「ですが・・・」
「陛下、たまには良いのではないでしょうか?セリカ様は大陸屈指の魔術師、心配には及ばないかと」
「ほらほら、お付きの者もこう言っているぞ。たまには羽を伸ばしてこいよ」
自分のすぐそばでこの国のトップを言葉巧みに言いくるめるセリカを見て一人嘆く学院長であった。
同じくその様子を観客席から二人組の男女が眺めていた。
一人は20代に差し掛かろうとした青年。
なにやら不真面目そうに見えるが、その体からは修羅場を潜り抜けてきたことを感じさせる雰囲気を醸し出している。
もう一人は10代半ばの少女。
その精巧に整った顔とは裏腹な無表情がそのアンバランスさを際立たせている。
二人とも一般人が着ないであろう魔術戦用のローブを羽織り、その身に纏う雰囲気から明らかにこの場に相応しい存在ではないのだが、そこには何もないかのように周りは気にしていなかった。
「アルベルト、だよな」
「・・・ん、どう見てもアルベルト」
ぼそっと青年が呟いたことを応えるように少女も淡々と呟く。
二人の視線の先には先程”精神防御”の競技が終わり、生徒といるアルベルトの姿があった。
「ふーん?俺がこの猪娘の面倒を見ている間にあんな可愛い子たちに囲まれていたのか。へぇ」
その様子を怨みがましそうに見る青年。
その様子を見た少女は問いかける。
「・・・会いに行く?グレン」
「いや、このタイミングで会うのは無理だろ。会うならだれもいないタイミングを狙って・・・。そうだ、おいリィエル。お前、アルベルトに会いたいか?」
「?もちろん。最近全然会えてなかったから」
「そうかそうか、そうだよな。なあリィエル、久しぶりに会う戦友との挨拶があってだな・・・」
グレンと呼ばれた青年は一人悪そうな顔をし、リィエルと呼ばれた少女にあることを吹き込んだ。