ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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10話 全員集合、アルベルト

「物事は上手くいかん、か」

魔術競技際は午前の部が終わり、1時間ほどの昼休憩に入った。

ただ休憩時間といえどもそこはアルベルト。

軍の携帯糧食で済ませ、ルミアの元に放った使い魔で彼女の周りを監視していた時、アリシアがお忍びでルミアの元にやってきた。

アルベルトもその可能性を排除していなかったため、注視していたのだが、ルミアは母親の手を取らず、足早のその場を去る。

跡に残っていたのは悲しそうな顔をしたアリシア一人だけであった。

 

 

 

昼休憩も半ばを過ぎ、アルベルトは競技場へ戻ろうとしたその時。

背中を、久しぶりに感じる殺気が駆け巡る。

この場に似つかわしくないその気配を感じ取り、すぐさま戦闘態勢に移り、殺気を感じた方向を見るアルベルト。

すると見覚えのある二人組が通りの向こうに立っていた。

 

 

 

「グレンとリィエルか。どうした、一体そんな殺気だってー」

「いいいいやぁあああ!!!」

アルベルトの質問にリィエルはその場で生み出した大剣を手に持ち、突進してくる。

遊びでも鍛錬でも演習でもない、ただ敵を討ち取るその行為にさすがのアルベルトといえども驚愕する。

だがそこはアルベルト。

仲間である自分を襲うという不可解な状況でもすぐに落ち着き、対処し始める。

 

 

 

「止まれ、リィエル!止まらぬなら撃つ!」

その回答が勢いの緩まぬ突進であることにアルベルトも決心する。

 

 

 

「”氷狼よ”」

瞬時にアルベルトは黒魔”アイス・ブリザード”を一節詠唱で唱える。

突き出した左手から凍気が溢れ出し、リィエル目掛けて氷雪が吹き荒れるのだが・・・。

 

 

 

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「クソッ!」

瞬時にアルベルトは理解した。

リィエルの奥にタレットカード(愚者のアルカナ)を手に持ち、固有魔術(オリジナル)を発動させたグレンがいることに。

 

 

 

帝国宮廷魔導士団特務分室執行官ナンバー0"愚者"のグレンが使用する固有魔術(オリジナル)”愚者の世界”。

一定時間内、グレンを中心に半径50メトラ以内では魔術が一切起動することができないという魔術師のとって天敵といえる魔術。

発動されるといなや、たとえ魔術を極めた第七階梯(セプテンデ)といえども一人の人間へと変わってしまうそんな恐ろしい魔術である。

 

 

 

しかしその特性上、グレンと共闘するには魔術を一切使わない者かその範囲外から攻撃する手段を持つ者に限られ、非常に癖のあるものだ。

だがアルベルトはその驚異的な狙撃力を武器に、その限られた者の1人である。

そのためグレンの固有魔術については特務分室で1、2を競うほど理解していると同時にこの場においてすでにほぼ詰みであることを理解していた。

範囲外に出れば可能性があるかもしれないが、それを特務分室において同じく1、2を競うほどの肉弾戦を得意とする同執行官ナンバー7"戦車"のリィエルが許すわけもない。

そうこうするうちに大剣が目前に迫ってくる。

 

 

 

「チッ」

アルベルトは胸からナイフを取り出し大剣を受け流す。

いなされた大剣は地面へとぶつかり、その場に衝撃が流れ地面が捲り上がる。

地面に打ち付けられた大剣をすぐさま持ち直しアルベルトに向けて一閃、二閃と振り回すリィエル。

アルベルトは持ち前の動体視力でなんとか捌くが、誰が見てもアルベルトが不利なのは一目瞭然だろう。

 

 

 

「会いたかった、アルベルト!」

「なら剣を納めろ!貴様がしてることは私闘。立派な軍紀違反だぞ!!!」

「?グレンが久しぶりに会う戦友との挨拶はこうだと聞いたけど違うの?」

大剣がアルベルトの目と鼻の先でピタリと止めるリィエル。

沈黙。

その場に何とも言えない空気が流れる。

挨拶を終えたリィエルはもうおしまいといわんばかりの相変わらずの無表情。

アルベルトもこれにはあっけにとられたようで、微動だにしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その空気をグレンがうち破る

「よお、久しぶりだなアルベルト。たっく単独任務だからどんなキツイことをしてるのかと思えばあーんなキャッキャッウフフしやがって。ちょっとは実戦を思い出せたかい、アルベルト君?」

誰が見てもイラつくような顔をしながら近寄るグレン。

アルベルトは無言で指を突き刺し、一筋の閃光がグレンの横顔を通り過ぎる。

 

 

 

「おいアルベルト!あぶねえだろ。何同僚に向けて魔術を放ちやがる。軍紀違反だぞ!」

「それをしてきたのは貴様のほうではないか、グレン」

アルベルトから今まで感じたことのない圧を感じ取るグレン。

これはヤバいと思ったのかすかさず。

「許してください!アルベルト様!!!」

見事な土下座をし許しを請うた。

 

 

 

「・・・ふん、くだらん。貴様に付き合う時間のほうが惜しい」

「ふぅ、まったくアルベルトの奴、すぐに暴力で言うことを聞かせ・・・いいえ、嘘です。だから指を下ろしてくれませんか?」

アルベルトは敵を射止める目でグレンに指を向けたが、暫くすると下した。

 

 

 

「それで何をしに来た、グレン。まさか俺の近況を見にわざわざフェジテまで来たわけあるまい。まああの”魔術師”がそんなことを許すはずもないが」

「もうちょっと気楽には出来んかね。まあその通りだ。俺たちはある任務でここに来ている。王室親衛隊の監視と陛下側近の内偵調査。前者は王室親衛隊の内部で過激派が目立つんで何か起こさないか見張ってろ。後者は天の智慧研究会に俺らの動きが読まれまくっているから探ってみろ。杞憂だとは思うがな。まあ陛下がフェジテに来られるっていうからその隙に尻尾を出さないかなと見張り中・・・おいおい嘘だろ」

グレンの様子がおかしい。

 

 

 

「どうした、グレン?」

「動きやがった。王室親衛隊の奴ら、陛下を軟禁しやがる」

魔術競技際は午後の部を控え、火種が降りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!まさか王室親衛隊の奴らが陛下を軟禁しやがるなんて」

「落ち着けグレン。王室親衛隊は帝国内部での右派筆頭。陛下に最も忠義の厚い者たちだ。陛下に危害を加えるとは思えん。その連中がなぜこんな短慮な行動に移ったのかその裏を探り行動すべき・・・まさか!」

「どうした、アルベルト。急に声を荒げるなんてらしくないぞ」

「・・・今から話すことは国家機密だ。外部に洩れたら俺は処刑されるし、貴様もただでは済まない。それでもー」

「いいからさっさと話せ。この件に関わることだろ?約束は守る」

いつもの飄々とした顔つきではなく、特務分室の顔を見せるグレン。

その様子を見て大丈夫だと確信したアルベルトは話を進める。

 

 

 

「まさか学院に亡くなったはずの王女がいて異能持ちだとはな・・・。十中八九それだろ。まずはこちらでその元王女の安全を確保、それからだな」

話しを聞き終えたグレンは事の大きさに驚きながらも次の行動へと移る。

 

 

 

「で、お前のことだ。その王女について場所は把握してるんだろ?さっさと行こうぜ」

「ああ、こっちだ」

3人はルミアの元へと駆けつける。

 

 

 

「体の力を抜いて動かぬことだ。急所を外せば苦しむこととなる」

「・・・はい」

学院の一角、縄に括られたルミア。

自分の素性が理由でいつでも死ぬ覚悟はしていたが、いざ現実になると怖いというもの。

こんな形でみんなと別れることに、そして実の母親に対してあの時素直になっていればよかったのに。

後悔と寂しさ、恐怖が混濁し命が奪われようとしたその時。

 

 

 

「女の子をよってたかって何してんだお前ら?」

場違いな声色が聞こえ、目を開くとそこには二人組の男女が立っていた。

衛士たちも人払いの結界が張っているこの場には何人たりともここに立ち入ることは出来ないはずなのだが、現に二人組がいることに驚きを隠せない。

だが隊長格であろう衛士の1人はすぐ気を取り直し二人に伝える。

 

 

 

「我々は女王陛下の命で動いている。邪魔するのならー」

それ以降、その男は一言も発することはなかった。

遠方からの狙撃である。

それに他の衛士が気を取られていると。

 

 

 

「よーしリィエル。やっていいぞ」

「ん、いいいいやぁあああ!!!」

リィエルが大剣をその場で生み出し物凄い勢いで残りの衛士へと近づく。

リィエルの接近を阻止するため魔術を発動しようとしたが・・・。

 

 

 

「な、なぜ発動しな・・・ガ八ッ!!!」

すでにその場はグレンの独壇場。

魔術を発動できない衛士たちはリィエルに鎧袖一触され、その場で伸びてしまった。

 

 

 

「・・・え」

「さてと、助けにまいりましたよお姫様」

急な出来事に頭が回らず茫然とするルミアだった。

 

 

 

路地裏にて。

「・・・そういうことだ。理解したかティンジェル」

「わかりました。けど先生が軍の密偵だったなんて驚きました」

アルベルトはルミアに現在起きていることを話し終える。

するとグレンも用事が終わったようで二人に近づいてきた。

 

 

 

「どうだ、グレン?」

「だめだ、セリカの奴ちっともうごいてくれん。まあ何らかの制約(ギアス)がかかってるに違いないな。俺がルミアを陛下の元へ連れていくことが唯一の解決法らしい」

「なるほど。だがどうやって厳重な警戒網を潜って近づく?」

「それだよな」

二人が悩んでいる際中、今まで黙っていたリィエルが立ち上がる。

 

 

 

「二人とも考えすぎ。私が作戦を考えた」

「ほう?言ってみろ」

「まず私が敵に突っ込む、次にグレンが敵に突っ込む、最後にアルベルトが敵に突っ込む。・・・どう?」

まるで名案を思い付いたかのようなドヤ顔をしながら作戦を言うリィエル。

もちろんそんな作戦が認められるわけもなく。

「お・ま・え・はもう少し頭を働かす努力をしろ!」

「痛い」

リィエルの頭を鷲掴みにするグレンであった。

 

 

 

「本題に戻るぞ。どうやって不審に思われず、女王陛下の元に連れていくかだ」

「けどよ、正直な話力技じゃないときつくないか?厳重警戒の王室親衛隊を潜り抜けるなんてほぼ不可能。あるとしたら陛下が王室親衛隊の元を離れるぐらいだがそんなことを奴らが許すわけないだろ」

「王室親衛隊の元を離れる?」

「どうした、アルベルト?なんか可笑しなことでも言ったか?」

「耳を貸せ、グレン」

何か作戦を思い付いたようでアルベルトはグレンに伝えた。

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