ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー 作:つりーはうす
「遅いな〜何してるんだろ、先生とルミア」
午後の部が始まっているというのにルミアとアルベルトが一向に現れないことに不安を感じるシスティーナ。
午前の部は健闘していたのだが、地力の差なのか他のクラスと段々順位を開けられる。
クラスの雰囲気も下がり始め、誰しもがここまでよくやったじゃないかと優勝を諦めかけている。
システィーナは一人クラスを奮起していたが、それも限界というもの。
早く先生が帰ってこないかと待ち望んでいたその時。
「あ~お前らがアルベルト・・・じゃなかった。アルトが担任しているクラスだよな?」
声をかけられ振り向くと飄々とした男性と表情が死滅した少女の二人組が立っていた。
「そうですけど・・・貴方たちは一体誰ですか?」
「俺はアルトの、まあなんだ古い付き合いだ。そしてこいつはリィエル。表情筋が死んでいるがまあ悪い奴じゃないぞ」
「その先生の知り合いの貴方がたが一体なんの用ですか?」
システィーナは突如現れた二人を訝しみ要件を聞く。
「何、アルトの奴にどうしても来てくれないかと頼まれてな。まあしょうがないからこの寛大なグレン様が来てやったのにアイツときたら急に用事が出来たらしくてどっかにいっちっまってな。で、ここからが本題なんだがなんでも優勝してくれとアイツに頼まれてな。しょうがねえから今からこの俺、グレン大先生がお前らを率いてやる。まあ大船に乗ったつもりで安心しろ!」
何やらカッコつけて言い放つグレンの急な申出に戸惑うシスティーナと2組の生徒たち。
当然だろう。
いかに先生の(自称)知り合いといえども赤の他人にクラスの指揮を譲り、そして優勝を狙えと言われると誰でも驚くだろう。
それ以前にこの男の態度がシスティーナの癪に障る。
それも相まってかもちろん回答は。
「お断りします」
「・・・へ?」
「確かに先生の知り合いかもしれませんがあなたは学院の関係者じゃありません。そんな人にクラスの指揮を任せれるわけないでしょ!さあ帰ってください。先生には私から言っておきますから」
「ちょっ、ちょっと待て」
グレンの必死の呼びかけに答えず、足早に立ち去るシスティーナ。
しかしリィエルに手を引っ張られ、立ち止まる。
「な、何?」
「・・・お願い、信じて」
システィーナの手を取ったリィエルと近い距離で目を覗き込むシスティーナ。
そして二人を交互に見比べ、何かを考えるかのように押し黙り、言った。
「・・・分かりました。監督をお願いします。グレンさん」
急に意見を変えたシスティーナに動揺が走る生徒たち。
彼らを落ち着かせようとシスティーナは続ける。
「不本意だけど、あの先生が任す人よ。この人は信じられないけど私は先生の判断を信じるわ。それに誰が監督でも私たちがすることは変わりないでしょ?それに先生は私たちのことを信じてクラス全員を出場させたのよ。先生の顔に泥を塗るわけにはいかないじゃない。そうでしょみんな?」
「そうだよな、先生のためだ」
「よし、やってやろうぜ!」
クラスの雰囲気がもう一度明るくなってくる。
クラスを焚きつけたシスティーナはグレンへ意味ありげな視線を送った。
「そういうことですのでお願いしますよ、グ・レ・ンさん?」
「・・・おお」
何やらシスティーナがうまく勘違いしてくれたとホッとするグレンだが、それでもこうも信用されないことに少し落ちこむのであった。
一方、フェジテ市街地のとある路地にて。
(まったく潜入ぐらいスムーズにやれ)
アルベルトは路地を駆け抜けながら先ほどのグレンの様子を視ていた。
現在アルベルトはグレンと仮サーヴァント契約をすることで視覚を同調し、グレンが見ている光景を擬似的に共有している。
グレンとリィエルがなんとかクラスへと潜入しているのを見ていたアルベルトは今何をしているかというと・・・。
「いたぞ、あそこだ」
追手の親衛隊から逃れるため、ルミアに変装したリィエルを抱きかかえ、路地を疾走していた。
アルベルトが提案した誰にも邪魔されずルミアを女王陛下の元へと連れていく方法。
それは優勝したクラスのみ陛下から直接勲章を授かる表彰式を利用するというもの。
リィエルに"セルフ・イリュージョン"で変装したルミアを表彰式に送り込むという算段だ。
それを実行するためグレンとアルベルトは動く。
しかし、この作戦で一番負担が大きいのはアルベルトである。
まず一つとして、現在進行形で行われている王室親衛隊から逃げ続けること。
しかも会場に注目されるのを防ぐため親衛隊に見つかるよう適度な距離を保つという注文付きである。
そしてもう一つとして・・・。
「どうだ白猫。俺の言った通りだろ」
「確かにそうですけど、"グランツィア"の作戦を考えたのはアルト先生なんですからね!それと何ですか白猫って。私にはシスティーナていう名前がー」
「お前みたいな生意気な生徒は白猫でいいんだよ。作戦を立てたのはアイツかも知れねーけど、俺のサイン通りにアイツらが動いたから勝った。つまり俺スゲー」
周りから白い目で見られているグレンの手の中には小型の通信機があった。
(何身代わりの分際で目立っている)
追手を撒き隠れているアルベルトの手にはグレンに通じる通信機。
先程のグレンのサインによる指示はすべてアルベルトによるもの。
当たり前であろう、来てそうそうに盤面を見て適確な指示を出せるほど競技際は甘くない。
アルベルトは追われながらも逐一生徒の特長、競技の作戦を伝えグレンを側面からサポートしていた。
そうしていると・・・。
「ようやく追い詰めたぞ、この逆賊が!」
アルベルトはつかず離れず微妙な距離を置いて親衛隊を撒いていたが、いつの間にか囲まれた。
普段のアルベルトであればこんな失態などしないのだが、今回は競技際にも注意を払わなければならない。
やはり他のことにも気を払っているといかにアルベルトといえども視界が狭まるようだ。
衛士たちも散々引っ掻き回してくれたアルベルトを追い詰めたことに勝利を確信したのだろうか、声色が少し明るい。
アルベルトは包囲網を突破しようと陣形を組んでいる衛士に向かって突進する。
それに対し、親衛隊はそれぞれ呪文を唱え始める。
「”紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・吠え狂え”」
黒魔”ブレイズ・バースト”。
炎熱系の面制圧用魔術である”ブレイズ・バースト”をこんな狭い路地で放たれると逃れられる手段などない。
衛士たちは終わりを確信してアルベルトに向けて火球を投げ放つ。
その瞬間。
「ぐわぁぁあああー!」
衛士たちの視界を水蒸気の白い高熱の霧で遮られる。
視界が晴れるとアルベルトとルミア、そして路地裏の壁がごっそりと消えていた。
「何だ今のは?まさか錬金術か?そんな馬鹿な!あんな一瞬で壁を他の性質に変化させるなんて人間業じゃないぞ!!!」
跡に残された現場の状況を推測した衛士はその結果に驚愕する。
石壁を瞬時に水へと変える錬成速度の速さ、あの状況から逃れるための瞬時の判断力と決断力。
こんなことが出来る者がただの魔術講師なわけがない。
そう思いながらもまだまだ続くであろう追走劇に身を置く衛士たちはアルベルトを追いに動き始めた。
先程の路地から離れたフェジテ南地区のとある屋上にて。
アルベルトは
衛士たちは同じく南地区の商店街にてアルベルトと
「たとえ人混みのなかで分かりにくいといえども幻覚を追うとは。親衛隊の練度も落ちたものだな」
このようにアルベルトは親衛隊を評価しているがそれは酷というもの。
親衛隊はアルベルトのことを一介の魔術講師としか教えられておらず、まさかあの帝国宮廷魔導士団のエースだとは誰もが思ってもいないだろう。
そしてアルベルトが生み出した幻影はその道に精通している魔導士と言えども見間違えるほどのレベルだ。
それを護衛が専門の親衛隊に見間違えるなとはアルベルトの求める水準は高すぎる。
「まあいい、好都合だ。”雷槍よ・-”」
アルベルトは狙撃をするため魔術を唱え、次々と衛士を命中させていく。
「これで終わりだ、賊どもめ!」
アルベルトの狙撃で少なくない衛士が無力化されたが、狙撃射線から場所を特定した親衛隊。
各班がそれぞれ狙撃地点からの逃走ルートを潰しながら、賊がいるであろう狙撃地点に踏み込むと。
「な・・・」
そこには
そして次々と他の班が集まってくる。
「なぜだ!なぜいない!逃走ルートはすべて防いだ!狙撃射線から特定した場所もここで間違いない!なのにどうしていないんだ!!!」
隊長格の衛士がそう叫んでいると。
「狙撃手がそう易々と場所を特定させるわけないだろう」
先程と同じ場所から
ではどうやって衛士を間違わせたのかというと・・・。
「鏡?」
先程叫んでいた衛士がふと周りに目を向けるとその場一体の壁に鏡が設置されていた。
誰もいない場所に鏡が設置されていること、狙撃位置を特定されずに狙撃をすること。
ここまでヒントを与えられると、いくら実戦経験が少ない親衛隊といえども勘のいい者なら気づいたはずだ。
ただその現実を直視したくないだけ。
ただの魔術講師が、そんな馬鹿げたことを可能としたことに。
人混みのなか衛士だけを狙いすました超絶技巧のあの狙撃がどこか別の場所からこの場所に設置してある鏡の跳弾で自分たちを撃ち抜いたことに。
そんな一瞬の逡巡も遥か彼方から飛来してくる幾つもの雷閃によりかき消された。
「さてと、そろそろ頃合いか。親衛隊と遊ぶのも仕舞にしてグレンに任された任務に取り掛かるとしよう」
アルベルトは衛士のほとんどを無力化すると。
グレンの視覚から2組が優勝したのを見、表彰式に登壇する二人を確認した。
ここからはグレンの腕の見せ場であり、アルベルトの出番はもうない。
後をグレンに託し、自分はグレンに頼まれたとある人物を遠目の魔術で探し始めた。
魔術競技際、終了。
表彰式にて一騒動が起きたが、アリシアの手により落ち着いた頃、閑散とした通りを一人の女性が歩いていた。
「せっかく
足を止めると目の前にはアルベルトとリィエルが立っていた。
「最近、軍の動向がやけに天の智慧研究会に読まれていると思い探っていたのだが、まさか可能性の低い貴方が下手人とはな。女王陛下付き侍女長兼秘書官。いや、こう言った方がいいか?天の智慧研究会、エレノア=シャーロット」
アルベルトの追求に無言で、薄ら寒い笑みを浮かべるエレノア。
アルベルトはさらに続ける。
「アイツの代わりに任務をこなすのは癪だがまあいい。貴様には聞きたいことが山ほどある。大人しくついてきてもらおうか」
「あらあら。淑女にたいしての口説き文句としては落第点ですよ、アルベルト様。ここはお誘いを断らせていただきますね」
「逃がさない、斬る」
「殺すな、リィエル。捕らえろ」
リィエルが大剣を生み出し突進する。
アルベルトもすぐさま呪文を唱え始め、同時にエレノアも呪文を唱え始めー。
閑散とした通りに衝撃音が響き渡った。