ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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時系列でいうと3話の場面です


幕間2 室長様のお仕事

帝国宮廷魔導士団特務分室室長、イヴ=イグナイトの朝は早い。

日が昇る前に軍の寄宿舎に宛がわれた部屋で起床する。

 

 

 

イヴほどの位階を持つ者であれば、軍の寄宿舎で生活せず、帝都に家を構えてそこから通うこともできるのだが、特務分室という特殊性とそれを取り仕切る室長であることから、常に寄宿舎で過ごしていた。

さすがに百騎長、そして軍のなかでエリートと謳われる特務分室の室長を務めていることから一人部屋を宛がわれているため、軍生活の長いイヴは不便さを感じなかった。

いや、貴族主義で凝り固まっている実家よりものびのびと過ごせるため格段に良いとさえ感じている。

 

 

 

寝間着から運動用の服装に着替えると、鍛錬場へと行きそこで軽く体を動かす。

室長であるため普段は作戦立案や部下の管理などの事務仕事(デスクワーク)が多いのだが、それでも執行官ナンバー1、”魔術師”を拝命しており、重要任務では現場にも赴くため日頃から鍛錬は欠かせない。

軍用魔術や近距離格闘術の腕が鈍っていないか確認し終えると、火照った体を冷ますため部屋に備え付けられたシャワーを浴びる。

体をふき終えると正装に身を包み職場である”業魔の塔”特務分室の職務室(オフィス)へと足を運んだ。

 

 

 

イヴは途中に立ち寄った食堂でパンとコーヒーを手に持ち、自分の机に座る。

コーヒーを片手に各地に就いている執行官からの報告書を確認することから仕事が始まる。

それでも始業時間からだいぶ早く、本人は気づいていないが普段からとある同僚にむかって仕事中毒者(ワーカーホリック)と詰っている本人も十分仕事中毒(ワーカーホリック)だろう。

 

 

 

「今回はセラとアルベルトはいないけど、まあグレンがいるし大丈夫・・・よね?」

報告書を読むのも終盤にかかり、常にイヴの頭を悩ましている"戦車"の報告書(もちろんリィエルが書けるわけもなくグレンが書いた)を読んでいた。

その任務では特務分室はオブザーバーとしての役割なため作戦には関与しないのだが、それでも今までの素行から何かしでかすのではないかと不安を感じるイヴ。

だがすでに賽は投げられており、何も起きないことを祈りながら報告書を読み進める。

 

 

 

「セラから応援要請ね、今空いているのはクリストフだけだけど適任じゃあなさそうだし・・・。もう少しだけ耐えてもらってアルベルトは・・・っと。なるほど、ちゃんとやっているようね」

イヴはセラからの応援要請を処理すると、アルベルトの報告書を読みながら安堵する。

少し頭は固いが任務成功率は誰よりも高いアルベルトが送ってくる報告書は、最近のイヴの清涼剤になりつつあった。

 

 

 

「おはようございます、イヴさん。相変わらず早いですね」

報告書を読み終えると始業時間が来たようで特務分室にも人がやってくる。

イヴに挨拶をしたのは特務分室執行官ナンバー5、”法王”のクリストフ=フラウル。

アルベルトが潜入している魔術学院の生徒とほとんど年齢が変わらないにも関わらず、その若さで特務分室に入隊した結界系魔術のエキスパートである。

特務分室はその特殊性から常に少数精鋭で構成されているため、ただでさえ人が少ないのに昨年の元執行官ナンバー11、”正義”のジャティス=ロウファンが起こした事件により大きく人員が減少している。

その僅かな人員を駆使して活動しているため、普段から職務室(オフィス)にはイヴ以外ほとんどおらず、クリストフが来たのすら久しぶりであろう。

 

 

 

「ええ、おはよう。さっそくで悪いけどこの書類を処理してくれないかしら」

「わかりました」

クリストフは少々天然ではあるが、リィエルとは違い職務に大きな害を起こしたことはない。

書類の処理をクリストフに一任し、仕事を始める。

 

 

 

「さてと、じゃあ今日も頑張りますか」

そう淡々と呟き、何も起きないことを願って業務を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方にお聞きしたいことがあるのですよ、イヴ室長」

前言撤回。

始業してからすぐに国軍省、宮廷魔導士団にとって厄介な男が職務室を訪れた。

その男の名はレナード=フィーベル。

魔術の名門フィーベル家出身の魔導省高級官僚であると共に、フェジテ有数の大地主であることからアルザーノ魔術学院に敷地を提供していることで教導省に大きな伝手がある人物だ。

国の重要政策、魔術政策の根幹である魔術学院の主導権を国軍省と常に争う魔導省のエースと謳われるその男がわざわざ敵地である宮廷魔導士団の本部まで駆けつけてきたのだ。

一体何事かと身構えていたのだが・・・。

 

 

 

「今学院を騒がしているこの講師、貴方の指示で送ったそうですね。一体どういう理由で送ったのでしょうか?」

レナードが手渡した書類を見ると、魔術学院でのアルベルトの評価が書かれていた。

それも悪い意味で。

 

 

 

「一体これは何でしょうか、フィーベル卿?」

「とぼけるのもいい加減にしていただきたい、イヴ室長!先日娘からこの講師について問い合わせてきたから何事かと思い教導省へと掛け合わせたら、この人事は貴公がしたというではないか!一体どういうつもりだ」

「つまり卿はご息女の願いを受け職権を乱用して調査をしたと」

議論を差し替えようとするイヴ。

それには応じずこの問題を追及するレナード。

 

 

 

「確かに発端は娘からの連絡だが学院でのこの講師の評判は酷いものだ。このような者を送った理由を明らかにして別人に差し替えていただきたい!」

「それは魔導省の見解ですか?それとも卿個人の見解ですか?」

「ぐっ・・・」

痛いところを衝かれ、言い淀むレナード。

普段のレナードならば対立省庁の国軍省と臨む際には事前に入念な根回しをするのだが、今回は愛娘の期待に応えようと急いでいたため行っていなかったようだ。

それを察したのか呆れた口調で言うイヴ。

 

 

 

「卿には悪いですが私は卿のご息女の報告書より自分の部下の報告書を信じます。そして卿も感づかれていると思いですので忠告しましょう。この人事は”円卓会”で決定され国軍省に一任されたものです。あまり騒ぎにしないほうが、卿にとっても、魔導省にとってもご利益かと思いですが」

「くっ!精々部下の仕事をよく見ることだな」

「ご忠告ありがとうございます。出口はそちらですのでお気を付けてお帰りください」

 

 

 

レナードが去った後、置いてある報告書を一読するイヴ。

「もしもこれが事実ならかなり不味いわね・・・後で問い詰めないと」

「イヴさん。もうすぐ室長会議が始まるとのことですよ」

「わかったわ、クリストフ」

その報告書を置き、会議に行くイヴ。

今回の会議もいつものように他の室長から仕事を放り込まれて紛糾したため、終わる頃にはすでにこの件のことは忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”円卓会”から呼び出し?一体なんでまた?今重要な案件なんて抱えていないじゃない」

「さあ、僕もよくわかりません。ですが至急フェルドラド宮殿へ登城せよとのことです。女王陛下勅命の何か重要な任務を下されるのではないでしょうか?」

会議から戻るとすぐにクリストフからこのことを伝えられ戸惑うイヴ。

しかし重要な任務、それも円卓会で下される最重要任務が下されるのではないかと想像しイヴは浮足立って登城した。

これを機にさらに出世してイグナイトの武名を轟かせ、そしてイグナイト家に、父に認められようと意気揚々に円卓会へと赴いたのだが・・・。

 

 

 

叱責の嵐だった。

 

 

 

今回の魔術学院へと派遣した講師について魔導省トップのバートレイ卿や常に派閥争いから中立であるルチアーノ卿やエドワルド卿、挙句の果てには身内である国軍省トップであり父親のイグナイト卿からも否定的な意見が述べられた。

そしてとどめとしてこの国の元首、女王陛下からの一声。

派閥争いの激しい円卓会にしては珍しく満場一致でイヴの人事が否定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お帰りなさいイヴさん。どうでしたか?」

職務室へと戻ってきたイヴはクリストフの声にも反応せず机に座る。

するとその場で通信機を手に取り、アルベルトへと繋げた。

 

 

 

「こちらアルベルト。任務中にかけてくるとはらしくないな、イヴ」

「・・・元気そうで何よりだわ。どう、任務は?」

「問題ない、常時上手くいっている」

「『問題ない、上手くいっている』ねえ?」

「なにか疑問が、イヴ?」

「・・・今日、"円卓会"から呼び出しを受けたの」

「それが何の関係が?」

呑気なアルベルトの声に苛立ち始めるイヴ。

 

 

 

「『彼の偉大なアリシア三世が創立した栄えある魔術学院になんていう奴を送ったんだ!!!』これはエドワルド卿の弁。『やはり戦うことしか能のない軍人には若き賢者を教えるという大義を理解できないのでは?』これはバートレイ卿の弁。『なかなかオモシロい奴をあの魔窟に送り込むなんて、イヴちゃんやるね~』これはルチアーノ卿の弁。『・・・特務分室には真面な人材はいないのか?』これはイグナイト卿の弁ね、最後に『”(アルベルト)”の実力は理解しています。今まで何度も私たちは彼に助けられてきましたから。ですが・・・もう少し適任者はいなかったのですか?』これは陛下からの弁。全員がある一人に対しての評価です。では一体その人とは誰なのでしょう?・・・ねえアルベルト?」

「・・・」

暫し職務室(オフィス)は沈黙に包まれる。

その状況をはらはらと見守るクリストフ。

そして一気にイヴの怒りが溢れ出す。

 

 

 

「やってくれたわね、アルベルト!貴方がどんな意図であんな授業をしているのか私は知らないし理解したくもない。だけど特務分室には、今絶賛各機関から苦情の嵐の真っただ中よ!特に貴方の授業を受けた生徒から話を聞いた貴族連中がこぞってね!よりにもよってあの各政府機関の縄張り争いが酷いあの魔窟でよくもあんな軽率な行動を・・・。これで軍の面子は丸潰れよ!貴方の首一つで済む話じゃないわ!」

「だがイヴ、俺はー」

「アンタの屁理屈なんて聞きたくもないわ、アルベルト。この任務期間が終わり次第すぐに本部に帰還しなさい!後釜には国軍省・宮廷魔導士団に関わりのない人間が座るわ。これは決定事項よ。せめて少しでも軍の評判を上げるために残りの日数を貴族の子弟どものご機嫌でも伺っていなさい!本部に戻り次第たっぷりしごいてあげるから覚悟しなさい!」

一気にまくし立てたイヴは一方的に通信機を切る。

それを見てか、クリストフが恐れ戦きながら近づいた。

 

 

 

「あの・・・イヴさん。お疲れのところすいませんがグレン先輩から通信です」

「グレンから?」

クリストフの通信機を強く引っ手繰り、替わるイヴ。

 

 

 

「どうしたのグレン。まだ任務中じゃあなかったの?」

「それなんだけど終わっちまってな」

「もう?予想以上に早いわね。なら本部には帰参せず、直接セラの元へ行ってちょうだい。盤面が中々動かなくて打開力のある魔術師を応援に来てほしいと連絡があったわ。今回貴方たちは体を動かしていないでしょ。思う存分暴れて来なさい」

「言いにくいんだけど実はな・・・」

やけに申し訳なさそうな口調のグレン。

それを聞いた途端嫌な予感がしたので止めようとしたが一歩遅く。

 

 

 

「リィエルの奴を抑え込むことが出来んくてな。本来ならオブザーバーだから動かないはずなんだが、勝手に突っこんで終わらせちまった。現場の指揮官は大層お冠で後日室長に問い詰めるからもう帰れって・・・おい、イヴ?聞いているか?」

 

 

 

イヴはわなわなと震え通信機を放り出し、叫んだ。

「この問題児どもがー!!!」

 

 

 

今日も室長様は部下の尻拭いをするため帝都を奔走するのであった。

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