ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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第三章
13話 子守を任されたアルベルト


魔術競技祭から数日後。

アルベルトは帝都にて先日の事件の詳しい事情聴取をされていた。

事情聴取も終わったところを見透かしてかイヴから通信機に連絡が入る。

フェジテへと戻ろうとした足を特務分室の職務室(オフィス)へと変更した。

 

 

 

「久しぶりねアルベルト。長居させるつもりはないからまずはこれを見なさい」

職務室(オフィス)に入り、イヴの仕事机(デスク)に行くと書類を手渡される。

封筒を開けると、その中に入っていたのは帝国軍の人事異動に関する文書であった。

 

 

 

「これは。イヴ?」

「今回新たに元王女の近辺を護衛する宮廷魔導士の異動命令書よ。先日の件を受けて上は元王女に護衛について真剣に捉えているわ。今後はアルベルトは周辺警護を、今回派遣される魔導士が元王女の身近警護をするよう分担されるから貴方もそのつもりで」

「了解した」

魔術競技際の一件が政府上層部も事態が深刻化していることを受け止めたのだろう。

だがルミアは元王女とはいえいまや市井の身。

そんな彼女の周りを物々しくしていると周りから注目される。

ルミアの素性を誰よりも隠したい政府上層部がそのような策を講じるわけがなく、少数精鋭の帝国宮廷魔導士団に白羽の矢が立ったというわけだ。

そして隠密かつ特殊性のある今回の任務は専門性、秘匿性の高い事件を処理することを生業とする特務分室の領域である。

 

 

 

(来る奴はティンジェルに一度顔を見知ったグレンかそれとも同性のセラか。いや近辺の護衛ということを考えると同世代のクリストフが有力か。まあ誰であれ構わん・・・)

アルベルトは派遣される魔術師がどの執行官であるか想像しながら異動書を読み進めていると、とある執行官の名が記載されていた。

 

 

 

リィエル=レイフォード

 

 

 

今回の任務ではあまりに場違いなため、予想から除外していた人名が異動書に書かれていたことを想像していなかったのか、その名前を見ると暫し固まる。

だが一分一秒も無駄にしないアルベルトがそのような状態が長く続くわけもなく、僅かな希望にかけてもう一度異動書を見るのだが。

 

 

 

リィエル=レイフォード

 

 

 

やはり見間違えではないようで同じ名前が記載されていた。

「おい、イヴ。一体どういうつもりだ?」

アルベルトが苛立った声で質問すると、イヴは素っ気なく答える。

 

 

 

「どういうつもりも何もそのままよ。”戦車”を元王女の護衛に就かせる、そう書いているでしょ」

「そういうことではない。なぜ護衛任務にアイツを就かせたのを認めたのだ。上もリィエルについてはよく知っているはずだ。考えなしに突っ込んで数多くの作戦を台無しにしてきた奴だぞ!」

「でも成功している、そうでしょ?常に人員不足に悩まされているウチがこれ以上優秀な駒を一つの任務に長期間送れるわけないでしょ。ただでさえ貴方という化け物がいるのに。これ以上送る必要性はないわ」

「なら俺一人でやる。アイツは正直言って荷物だ。ティンジェルの正体がバレかねんぞ」

「そのための貴方でしょ。上手く手綱を引きなさいな」

この話はこれでお終いというようなイヴの口調。

そして引き出しから一枚の封筒を仕事机に出す。

 

 

 

「元王女の護衛は”戦車”に一任する。貴方には他のことをしてもらうわよ」

「何だ?」

するとイヴはもう一枚の封筒をアルベルトに手渡す。

その中身はというと。

 

 

 

「帝国白金魔導研究所所長、バークス=ブラウモンの身元調査?一体どういう風の吹き回しだ。身元調査は保安局情報調査室か軍の情報部、いや研究所の所長クラスなら情報機関ではなく人事局がすべき案件ではないのか」

「それが天の智慧研究会と絡んでいるとしたら?」

アルベルトは思わぬ人物が彼の研究会と絡んでいるという疑惑を聞き、鷹のような双眸を細める。

 

 

 

「・・・確率は?」

「限りなくシロよ。先日の一件で政府中枢にも奴らが入り込んでいることが判明してから様々な情報機関が血眼で研究会の痕跡を探したの。その最中にバークスの周りにも疑惑が浮かんだわ。そこで貴方よ。近々学院では『遠征学修』が始まるわ。もちろん白金魔導研究所も含まれている。貴方のクラスを白金魔導研究所に送り込むから滞在している間、内偵調査をしなさい。天の智慧研究会との関係性はほぼシロだけど不正を行っているのは明らか。その証拠を引っ張ってきなさい」

「天の智慧研究会が絡んでいるから調査をするのではないのか」

呆れた口調で咎めるがイヴは気にしなかった。

 

 

 

 

「あら、ちゃんと調査はするわよ。そのためのリィエルでしょ」

「そこでなぜリィエルが・・・まさか!」

「そう、奴らが動くのであればリィエルに接触してくる。そのためのリィエルよ。上が何も考えなしに彼女を送るわけないじゃない。それは彼女を拾った貴方が一番知っていると思うけど?」

アルベルトが暫し沈黙しているがそんなことは気にせず話し続ける。

 

 

 

「まああの連中がバークスなんていう小者を欲しがるわけないと思うけど不正をしていることはほぼクロよ。これをネタに研究所の監督責任がある魔導省の官僚連中が慌てふためくのが楽しみだわ」

ほくそ笑むイヴであったが、アルベルトが忠告する。

 

 

 

「なら尚更リィエルはダメだ。奴の行動は予測不能。任務に支障が出かねん。せめてグレンかクリストフ、セラに変えてくれ」

「無理に決まっているでしょ、彼女がこの任務の()()なのに。それにもう学院にも話を伝えているのよ。今更変更出来るわけないじゃない。それとも・・・」

イヴは手を組み、腹の底を探るかのような目付きでアルベルトに向き合った。

 

 

 

「そんなにリィエルではいけない理由があるのかしら?護衛に向かない以外の()()()。私が知らない()()があるのなら再考する余地はあるかもしれないわよ?」

「・・・いや、何もない。ただ護衛とリィエルの相性がかけ離れすぎているからな。任務が失敗する懸念を伝えただけだ」

「あら、失敗なんてするわけないじゃない。なんたって()()()()()()()()()なのだから」

まるでそんなことを思ってもいないかのような笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、連中が釣れるかどうかは置いといて一体何を隠しているのかしら、アルベルトは」

アルベルトが部屋から去った後、イヴは一人で考え込んでいた。

リィエルを護衛に送り込んだ理由、それは彼の組織に囚われていた過去がある。

もし研究会が動くのであればリィエルに接触してくることは明らか。

軍上層部はこれを狙ってリィエルを送り込んだのだが、まさかあれほどアルベルトが反対するとはイヴも思ってもいなかった。

 

 

 

そしてその先程のアルベルトの態度、一見すると任務に支障をきたす同僚が派遣されることの抗議と受け止めることが出来る。

しかしそこはイヴ。

貴族社会で数多くの修羅場を繰り広げてきた経験から、アルベルトがなにか隠しているのではないかと感づいていた。

そしてそれはグレンとアルベルトが拾ってきたリィエルに関することは間違いないだろう。

リィエルについては研究会に囚われていたこと以外拾われる前の情報が一切なく、イヴ独自の情報網を使ってもお手上げであった。

その情報がつかめる機会が来たのではないかと思い、イヴは密かに動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルベルトは職務室を出たその足で、”業魔の塔”内部にある兵舎の一室、リィエルの部屋を訪れた。

今回の任務について打ち合わせをするためだ。

イヴから直接聞いているはずだが、あの脳筋娘が理解しているはずがないことを今までの付き合いで分かっているアルベルトは、もう一度説明することで少しでも足を引っ張ってくれないようにと思っていた。

 

 

 

「リィエル、俺だ。いるか?」

「・・・ん」

中からリィエル声が聞こえ、扉の取っ手を引こうとすると、中から白髪の少女が扉を開けた。

 

 

 

「あれ、アルベルト君。リィエルちゃんの部屋に来るなんて珍しいね。どうしたの?」

特務分室のメンバーの中でも数少ない女性執行官で、イヴやリィエルとは異なり社交的で親しみやすいその女性の名はセラ=シルヴァース。

ナンバー3”女帝”を拝命しているアルベルトの同僚である。

 

 

 

「何、次の任務でコイツと組むことになってな。どうせ任務のことを何も聞いていないはずだから伝えに来ただけだ」

「こら!アルベルト君。そんなふうに決めつけたらダメでしょ。ねえリィエルちゃん、次の任務のことは分かる?」

「ん。敵を全て倒す」

「護衛任務だ」

やはりイヴから聞いたことをすべて理解していなかったようで、アルベルトは無言で何かを訴えるようにセラを見つめていた。

リィエルが任務のことなど理解しているはずがないことを。

 

 

 

「・・・まあまあ。リィエルちゃんだって任務となったらちゃんとするわよ」

「グレンとセラが見張っていても単騎突撃した奴がか?」

「・・・」

場に沈黙が漂う。

そして当の本人は自分のことだとは気づかずに二人を眺めるのであった。

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