ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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16話 教えて、アルベルト先生!

『遠征学修』三日目。

本日は研究所見学の日である。

前日はビーチで思う存分遊び、英気を養った生徒たち(男子生徒は夜間無断外出の罰則として一日中旅籠で自主学習)だが、山奥にある研究所を目指して歩き始めてから時間が経つにつれ段々と生徒の気力はなくなりつつあった。

歩き始めてから数時間経ち、やっとの思いで研究所へとたどり着いたが、軍生活の長いアルベルトとリィエルを除くと生徒全員くたびれていた。

生徒達は座り込んだり流れる水に足をつけたりして各自暫しの間だが休息を取っていた。

 

 

 

「ようこそ、アルザーノ魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労様です」

アルベルトの前にローブに身を包み、親しみやすい雰囲気を醸し出した一人の初老の男が現れた。

『遠征学修』までに散々軍の書類でその似顔絵図を目に通していたその男の名は。

 

 

 

「私はバークス=ブラウモン。この白金魔導研究所の所長を務めさせていただいている者です」

バークス=ブラウモン。

軍の情報機関が天の智慧研究会との繋がりを疑っている男である。

アルベルトはこの二日間僅かな時間ではあったが、バークスの周辺を再度洗った。

しかし疑わしい箇所は未だ明らかになっていない。

それどころかほぼクロと言われた不正についても、まるで存在しなかったかのように綺麗に消えている。

今やバークスを疑惑だけで捕まえることなどできない状況となっている。

 

 

 

現在進行形てパークスの身元調査をしているアルベルトだが、そんなことは一切顔に出さず、挨拶に応える。

「アルザーノ魔術学院、二年次二組担当講師アルト=フレイです」

「ほう、貴方があのアルト先生ですか」

「私の名をご存じなのですか」

「ええ、なんでも旧態依然とした学院に新たな風を吹き込んだ新進気鋭の講師殿だとか。それよりも・・・」

バークスはアルベルトに近づき、小声で呟く。

 

 

 

「魔術競技際にて天の智慧研究会の暗躍を阻止したとか。それは誠ですかな」

「まことしやかな噂話です。私は何も関係はありませんが」

バークスの話を一蹴にして否定するアルベルト。

だがバークスは深く追求してこなかった。

 

 

 

「そうですか・・・。なんせ我々はこんな離島に籠って研究している身ですから娯楽に飢えている者が結構いまして。なので噂話といえども敏感なのですよ。この話が真実でしたら是非職員に土産話として聞かせてあげたかったものです」

「期待に沿えず申し訳ありません」

「いえいえ、講師殿が謝ることじゃないんですよ。それでは行きましょうか。私がご案内致しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バークスに案内された研究所の中は壮観であった。

白金術の研究に必要な新鮮な生命マナを供給するためか、清らかな水が流れる水路が辺り一面張り巡らされ、生命力溢れる新緑が所狭しに群生している。

それらも相まってか研究所内は神秘的な空間を醸し出しており、『水の神殿』という触れ込みは強ち間違いではない。

バークスは誇らしげに研究所内を生徒たちを引き連れて歩き、様々な研究室を説明していた。

 

 

 

とある研究室にて最新の研究を眺めていたシスティーナは隣にいるルミアに声を掛ける。

「・・・本当に凄いわ。将来魔導考古学を専攻するつもりだけど、これを見ていると心が揺らいじゃうわね。ルミアはどう?」

「私は研究者じゃなくて魔導官僚志望だから。それに・・・」

「それに?」

ルミアはシスティーナだけに聞こえるよう小さな声で話す。

 

 

 

「人がこんな風に命を好き勝手に弄るのって本当にいいのかなって思っちゃって」

それを聞いたシスティーナは思わず息を呑む。

確かにここで研究していることは生命に関わることばかり。

そこには神秘的で綺麗な物ばかりではなく、人の手で作られた悍ましい魔造生命体(ホムンクルス)もあった。

ルミアのように生命を弄ぶという神を冒涜するような行為は本来なら忌避すべきなのだろうが、知的探求が魔術師としての宿命である以上、研究を止めることはないだろう。

 

 

 

ここまで数々の研究を見学し、高揚している心を戒めるようにシスティーナはゆっくりと呟く。

「そうね、魔術師である以上知を求めるのは仕方がないことだと思う。でもやりすぎないようにね。一歩でも道を外すと外道魔術師の仲間入りだわ」

「・・・うん、呑まれないように気をつけないとね」

 

 

 

話し終えると少し間が重くなったことを感じたのかシスティーナは雰囲気を変えるように冗談めかして話す。

「でもやっぱり『あの研究』はここでもやってなさそうね」

「あの研究って何?」

「死者の蘇生・復活に関する研究よ。かつて帝国が大々的に立ち上げた一大魔術プロジェクトがあってね、確かその名前はー」

「・・・『Project:Revive Life』」

突然、背後から声を掛けられ驚いた表情で二人が後ろを振り向くとそこには好々爺然としたバークスが立っていた。

 

 

 

「いやいや驚かして申し訳ない。まさか学生さんの口からその言葉を聞けるとは思ってもいませんでして。よく勉強していらっしゃる」

「いえいえ、そんな・・・たまたまです!それに失礼なことをいちゃってすみません!」

恐縮して謝っているシスティーナを後目に、ルミアはふと浮かんだ疑問を口にする。

 

 

 

「あの、バークスさん。その『Project:Revive Life』とは一体どんなものなのでしょうか?死んだ人間の蘇生・復活は理論的に不可能だって授業で習ったのですが・・・」

ルミアの疑問をバークスはにっこりと笑って応える。

 

 

 

「生物の構成要素は肉体たる『マテリアル体』、精神たる『アストラル体』、霊魂たる『エーテル体』の三要素なのですが、死を迎えた生物はその三要素が分離しそれぞれがそれぞれの円環に還ります。『マテリアル体』は自然の円環へ、『アストラル体』は意識の海へ、『エーテル体』は摂理の輪へと。ゆえにー生物の死後、『アストラル体』が意識の海に溶け消え、『エーテル体』が次の命へと転生する以上、死者の蘇生は不可能ーこれがマーヴェルのコスモゾーン理論からの派生論、死の絶対不可逆性です。今のところ、これを覆せる魔術はございません。それゆえに、この死者蘇生計画たる『Project:Revive Life』・・・通称ー」

「『Project:Revive Life』とは、生物の三要素を別のものに置き換えて死者を復活させようという試みだ」

突然、アルベルトがバークスの言葉尻を奪うかのように割って入ってきた。

システィーナが何か言いたげそうに口を開こうとするが、間髪を入れずさらに説明を続ける。

 

 

「復活させたい人間の遺伝情報から採取した『ジーン・コード』を基に代替肉体を錬成し、精神情報を『アストラル・コード』に変換して代替精神とし、他者の霊魂に初期化処理を施した『アルター・エーテル』を代替霊魂とする。そして、最後にこの代替肉体、代替精神、代替霊魂の三要素を一つに合成し、本人を復活させる・・・。要するにコピー人間を作るということがこの『Project:Revive Life』という術式だ」

そう真剣な眼差しで『Project:Revive Life』の説明をするアルベルト。

話を折られたにも関わらず好々爺然とした表情は変わらないバークスはアルベルトの説明を引き継いで話す。

 

 

 

「さすがは学院の講師殿。理路整然として分かりやすい説明ですな。講師殿の説明に補足させていただくと、確かにこの方法で蘇生された人間は厳密な意味で本人とは言えません。所詮はコピーですからな。ですが失ってしまったはずの人間が全く変わりない姿形、人格記憶を持って戻ってくる・・・。そのような有用性からこの研究が始まりました。死んだ英傑がまったく同じ能力、同じ姿形を持つ者として復活できますからな」

この話を聞いたルミアとシスティーナは想像してしまったのだろうか、表情が曇る。

その不安を感じたのだろう、バークスは明るい声で二人の不安を払しょくさせる。

 

 

 

「あなた方の不安もよく分かります。ですがご安心を。このプロジェクトは失敗に終わりました。ここからは講師殿が説明なさりますかな?」

バークスからバトンを渡され説明するアルベルト。

 

 

 

「このプロジェクトが失敗した理由は二つある。一つは魔術言語の機能限界、一つは代替霊魂の問題点だ」

「魔術言語の機能限界と代替霊魂の問題点・・・ですか?」

「そうだ、ティンジェル。前者は簡単だ。魔術言語『ルーン』のスペック不足。『Project:Revive Life』とは、死者の蘇生という神の御業を行使する術式だが、人が作った言語である『ルーン』にはその術式を行使する能力が備わっていなかった。次に後者だが、これが致命的だ。代替霊魂、『アルター・エーテル』だが、これを作成するには複数の他人から霊魂を抽出して加工・製錬するしか手段がない」

「え!それって・・・」

「そうだ、フィーベル。一人復活させるのに無関係の誰かが複数死ぬこととなる」

「講師殿の仰る通り、これ以外にも様々な問題が露呈したため、このプロジェクトは封印されることとなったのですよ」

バークスはにこやかに笑いながらアルベルトの説明を締めくくろうとした時、ルミアが質問を投げかける。

 

 

 

「あの、これは単なる興味本位なんですが、もし『Project:Revive Life』を成功させるとしたら何が必要になるんでしょうか」

「ふむ、そうですな・・・。不可能と言われる『Project:Revive Life』を成功させるにはこの術式に特化した固有魔術(オリジナル)か『ルーン』に変わる魔術言語が必要でしょうな」

固有魔術(オリジナル)か魔術言語・・・ですか?」

「ええ、そうです。固有魔術(オリジナル)とはその人由来の魂の在り方である魔術特性(パーソナリティ)を応用した魔術です。時にして固有魔術(オリジナル)は理論上不可能とされる術式を成すことがあります。もし『Project:Revive Life』に特化した魔術特性(パーソナリティ)を持つ者がいるのならきっと成功させることができるでしょう。次に魔術言語ですな。ルーン語以上に『原初の音』に近づいた魔術言語を使用すること。例に挙げるとして竜言語や天使言語ですな。これらを使用すれば達成の可能性は充分にあるでしょう」

「でも固有魔術(オリジナル)にしてもそれに特化した魔術特性(パーソナリティ)を持つ人が現れるなんて天文学的確率だし、魔術言語にしても竜言語や天使言語は人間が扱えるものじゃないし・・・」

「左様。ですから『Project:Revive Life』は失敗の烙印を押されたのですよ。さぁ、お話はこれくらいにして次の部屋へまいりましょう」

 

 

 

その後も研究所内を見学した生徒たちは有意義なひと時を過ごし、研究所を後にするのであった。

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