ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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19話 "星"の決断

「持て成しとやらは品切れか?」

燃え上がる森の中からアルベルトがゆっくりとエレノアに向かって歩いてくる。

その様はもはや学院の講師ではなく、外道魔術師を葬ることを使命とする死神のようだ。

服は土埃で汚れ体中が傷塗れのエレノアとは異なり、アルベルトは血の一滴も流れておらず掠り傷の一つも負っておらずエレノアと対峙した時とその様は一切変わりない。

 

 

 

「所詮、相手は狙撃屋。近距離戦に持ち込めたら勝てるとでも思ったか?舐められたものだ」

「お戯れを。ただアルベルト様が私の想像を超えて遥かにお強くて、激しくて・・・。私、もう身体が火照って、疼いて・・・。ふふ、私が私じゃなくなる、なんだか壊れそうですわ」

そうエレノアはまるで自分が不利な状況に陥っているとは思ってもいないかのように身体を悶えさせて妖しく嗤うのであった。

 

 

 

「(化け物め)」

アルベルトはエレノアを内心でこう評した。

エレノアの異常な思考はもちろんのこと、なんども致命傷を負わせても回復するその治癒力、そして並みの死霊術師をも凌駕する召喚数。

エレノアも天の智慧研究会に所属している外道魔術師なため、理に外れた魔術を行使できることはなにも不思議なことではないのだが、アルベルトは今まで始末してきた数ある外道魔術師らと比べると得体のしれないナニカを隠していると感じていた。

そう考えていると。

 

 

 

「さて、おもてなしの続きをしましょうか」

そう妖しめな笑みを浮かべさらに死人の下僕を召喚する。

アルベルトはエレノアに油断なく注意を払いながら密かに思考を続ける。

帝国政府の調査によりエレノアの階位が第二団(アデプタス)・”地位(オーダー)”クラスであることが判明している。

天の智慧研究会との抗争に明け暮れる帝国政府にとってエレノアが持っている情報は喉から手が出るほど欲しいものであろう。

事実アルベルトもエレノアに対して、出来れば捕獲することも考えて立ち振る舞っていたのだが、今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた直感がエレノアは危険だと警鐘を強く鳴らしている。

そして。

 

 

 

「(此処で、確実に、始末する)」

アルベルトは捕獲するという思考を放棄し、抹殺へと判断を変える。

左手の指を対峙するエレノアに向けて構えると、今までとは異なるその殺意を感じたのだろうかエレノアの妖しめな笑みにも僅かに緊張が走る。

 

 

 

アルベルトとエレノア、再度戦いの幕が上がろうとしたその時。

「-ッ!」

アルベルトはリィエルがルミアに手を掛ける映像を見た。

大剣に充てられ気を失ったルミアを担ぐリィエルは身体が固まったシスティーナを無視して闇夜に駆けていく。

 

 

 

 

「あの馬鹿がッ!!!」

「あら、アルベルト様。そんな怖いお顔をしてどうかしましたか?」

アルベルトが激高している様をエレノアは煽るようにわざとらしく問いかける。

鬼のような相貌でアルベルトはエレノアの問いに応えた。

 

 

 

「これも貴様らの仕業というわけか」

「いえいえ、此方を選んだのは彼女の選択ですわ。私たちは彼女にきっかけを与えただけです。それよりアルベルト様、早くあの女生徒の元に行かなくてよろしくて?初めて間近にあのような光景を見てさぞ不安に感じていらっしゃるでしょう。生徒の不安を払拭するのも教師の務めではなくて?」

「そのようなことで貴様をみすみす見逃すとでも思っているのか?」

エレノアを決して逃がさないという鋭い双眸のアルベルト。

だが、そんなことは気にならないとばかりにエレノアは踊るように話を続ける。

 

 

 

「いえいえそんなつもりは。ただ私はアルベルト様のことを心配したまでで。学院潜入当初のアルベルト様のご苦労を知っている身としてご忠告させていただいたまでですわ。また政争の具にされますよ」

長く帝国中枢に潜入していたエレノアはアルベルトが当初置かれていた状況を知っているため、このように揺さぶりをかけてくるが。

 

 

 

「政争の具にでもなんでもするがよい。今俺がすべきことは貴様をすぐに始末してティンジェルの後を追うだけだ」

しかし、エレノアの甘言には乗らないというアルベルト。

だが、エレノアは勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべながらさらに続ける。

 

 

 

「ふふ、アルベルト様ったら。頭に血が上りすぎて周りが良く見えていませんよ。私をすぐに始末出来ないことはアルベルト様もご存じなのでは?その間に元王女はどうなるか分かりませんよ」

そう言われ軽く舌打ちするアルベルト。

確かにエレノアには異様な何かをまだ隠しているのだろうとアルベルトは薄々感づいていた。

まだ全ての手を曝け出していないのはアルベルトも同じであり、そして何かエレノアが得体のしれないモノを隠しているとしても魔術戦の技量の差から負けることはないと判断しているが、拮抗し時間が消耗されることも明らかだと判断している。

 

 

 

そう考えているとエレノアはさらに話す。

「ここは一度お互い引きません?アルベルト様が元王女を追うにしてもここで私とやり合っていては時間がありません。一度引いて元王女を追いかける方が賢明かと存じますが?」

 

 

 

アルベルトはこの提案をゆっくりと吟味する。

エレノアの手のひらで踊ることは癪だが、確かにこの休戦協定にはアルベルトにも一利ある。

暫くするとこの提案を了承したとばかりにエレノアに向けていた指をゆっくりと下す。

「・・・二度目はない。さっさと失せろ」

「ええ、またお会いしましょう・・・。”爆”」

そう呟くとエレノアの周囲に爆炎が上がり視界が封じられる。

暫くして爆炎が収まり視界が開けた時はすでにエレノアの姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どう動くか・・・」

リィエルの裏切りという最悪の事態だが、アルベルトはその感情を押し殺し、次に指す手はどれが良いか冷静に冷徹に思考する。

 

 

 

ルミアを奪還するのはもちろん最優先事項。

だがエレノアの言う通り生徒達を無視しておくことも許されない。

なぜなら学院には政府中枢に口が利ける有力者の子息子女が数多くおり、アルベルトが受け持っている2組も例外ではないからだ。

事実、アルベルトが赴任した当初の自身のミスも生徒経由で政府中枢に伝えられて解任間近までいったのだ。

生徒の影響力を無視することは出来ない。

 

 

 

たとえルミアの奪還に成功したとしても、軍の魔導士が天の智慧研究会に寝返り生徒を攫ったという事実は消えない。

前回と同じように生徒経由で情報が政府中枢に伝えられると、反国軍省派に恰好の攻撃材料を与えることとなる。

政府内での軍の影響力を弱めたい反国軍省派にとっては千載一遇の好機である。

これを防ぐために生徒達に今起きていることを感づかれないためにも一度旅籠に戻り、事実を隠しながら生徒達に説明をする。

もちろん現場に居合わせたシスティーナの口止めも兼ねてである。

 

 

 

 

生徒よりも軍を優先する自分の考えに嫌気が指しながらも次の方針を固めたアルベルトは町に戻る前に今一度リィエルの裏切りについて思考する。

「(リィエルが裏切った・・・。これは間違いない。ティンジェルを奪還する際に立ち塞がるのなら・・・グレンには悪いがー)」

 

 

 

アルベルトはエレノアに向けていた視線とは異なる、何かを覚悟したような、鋭い双眸で何もない空を見つめ。

 

 

 

「(奴を殺す)」

もはやアルベルトにはリィエルをもう一度軍へ翻意させるということなど考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィエルにルミアが連れ去られてからある程度時間が経ったが、ビーチでは未だにシスティーナは崩れ落ちたままの姿で固まったままである。

どうやらリィエルがルミアを連れ去ったという現実が到底受け入れられていないらしい。

だが、いくら現実から目を逸らし続けていてもリィエルがルミアを連れ去ったという事実は変わらないことにようやく気付き始めたようである。

 

 

 

「ル・・・ルミアが・・・。うそ、そんな、あり得ない。で、でも、でも」

だが、現実を直視し始めると今度は自身への罪悪感、無力感が押し寄せてくる。

親友のルミアが連れ去られるのを黙って見ていたのだ。

どうして何も出来なかったのという自分への失望、そして、あんな化け物に対抗できるわけない、黙って見ていたのは仕方がない、と醜い自己弁護が悪魔の囁きとなって交互にシスティーナの身に押し寄せてくる。

 

 

 

「・・・ぁ。ぅわぁあああ!!!」

もう一度システィーナを現実が追い詰めようとした時。

 

 

 

轟、と後ろで突風が巻き起こりシスティーナは振り向くと。

「こんなところで何を嘆いている、フィーベル」

そこにはアルベルトが突っ立っていた。

 

 

 

「せ、先生。ル、ルミアが・・・ルミアが・・・」

「知っている。遠目の魔術で見ていたからな」

システィーナはルミアが連れ去られたことを伝えようとすると、アルベルトから淡々とした返答が返され、その答えにあっけにとられると共に、知っているのならなぜ助けに来てくれないのかという八つ当たりのような怒りが込み上げてくる。

 

 

 

「知っているのなら・・・見ているのなら・・・どうして助けに来てくれなかったんですか!!!」

「俺は俺のすべきことをしていた。そのため間に合わなかった。それだけのことだ」

「それだけって!!!」

「そういうフィーベルは何をしていた?」

さらに問い詰めようとする途中でアルベルトに冷や水を浴びせられる。

 

 

 

「な、何をって・・・」

「確かに学院の生徒に過ぎないフィーベルがリィエルに勝てるとは思わん。だが、学生とは言えども貴様も魔術師の端くれだ。盤面が詰みな状況でも思考を放棄せず、常に悩み、考え、突破する者が魔術師だ。俺が知っている三流の魔術師でも歩みを止めず前に進んでいる。それに比べて今の貴様はどうだ?ただ現実から目を逸らし思考を停止しているように見えるのだが・・・。フィーベル、貴様はティンジェルが目の前で連れ去られる時何をしていた?」

システィーナは口を噛みしめ黙っている。

アルベルトの言っていることはすべて事実であり言い返せないのだ。

自分のことばかりに目を向けて親友のことは一切考えていなかったことに気が付き、また自暴自棄に陥りかけようとしたが。

 

 

 

「まあそんなことはどうでもよい。今、そのような問答をする余裕はない。フィーベル、貴様には手伝ってもらおう」

「て、手伝うって・・・そんなー」

「ティンジェルを助けなくてもいいのか?」

有無を言わせないアルベルトに押し黙るシスティーナ。

思考が追い付かないシスティーナであるが、「ルミアを助けなくてもいいのか」という一言を聞き、ようやくいつもの聡明な思考が少しずつではあるが戻り始め、涙目ながらも力が籠った目でアルベルトを見つめる。

 

 

 

「な、何をすればいいんですか」

ようやくシスティーナが使い物になれると判断したアルベルトは時間が惜しいというばかりにシスティーナに任せることを口早に伝える。

 

 

 

「何、簡単なことだ。リィエルがティンジェルを連れ去った、この事実を他の生徒に気取られるな。もしも感づかれたとしても二人はトラブルに巻き込まれたと伝えろ。何があってもリィエルがティンジェルを拉致したという事実を知られるな。俺は今からティンジェルを助けに行きリィエルを()()()()。その間、他の生徒を見ていろ」

自分がすべきことを任されたシスティーナだが、アルベルトが放った文言の中にリィエルを処理するということに気が付き、困惑したようにアルベルトに聞く。

 

 

 

「あ、あの・・・。リィエルを処理するって一体・・・」

「俺がすることは一切気にするな。貴様はティンジェルが助かるために俺に言われたことのみをすればいい」

システィーナの質問には答えず言われたことをやれと言い残すとアルベルトはすぐにその場を立ち去る。

アルベルトが立ち去り浜辺に静寂が戻る。

今何が起こっているのか全体像が見えないシスティーナであったが、親友のルミアを助けるためアルベルトに頼まれたことをするために急いで旅籠に戻るのであった。

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