ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

24 / 25
21話 絶対許さないマン、アルベルト

「”牢記されよ、我は大いなる主の意を代弁する者なり。汝は我が言の葉を借りし主の意を酌み、その御霊を主に委ねよ。さすれば汝、悠久の安らぎを得ん。死を恐るるなかれ。死は終焉に非ず、初頭の生誕を告げる産声となるもの。現世は円環にたゆたう一時の夢なりて、只、主の御名を三度唱えよ。さすれば汝、重き荷の頸木から解き放たれ、その生が積んだ罪は主の御名の下に赦され、濯がれんー。いざ、其の御霊は自由の翼を得て輪廻の旅路につき、永遠の安寧へと続く扉は其の心の前に等しくその門扉を開かんー。汝の魂に祝福をあらんことを。真に、かくあれかし(ファー・ラン)」

薄暗く不気味な広間には似つかわしくない荘厳な聖句が部屋中に響く。

儀式が終わったのだろう、広間に静寂が戻ると同時に、一筋の雷光がガラス円筒の中に捕らえられていた少女の胸を貫いた。

苦痛は感じなかったようで、その少女の顔は穏やかなままである。

 

 

 

一を捨て九を救うことを信条としているアルベルト。

仲間からは非情と思われる判断を今まで数多く下してきたが、それでも救える命は救ってきた。

そのアルベルトが救えないと判断したのだ。

それほどガラス円筒の中に捕らえられた少女の身体は凄惨だった。

ただ魔術の実験体として「生かされている」状態。

まるでヒトをヒトとして扱わない悪魔の如き所業である。

その少女以外にも実験で命を落としたと思われる痕跡が数多く残っている。

アルベルトの同僚が魔術を嫌う原因の一つであるソレが今アルベルトの目の前に広がっていた。

 

 

 

「・・・ふん、人に安らぎを与えることが牧師の役目とはいうが、死を与えることが唯一の安らぎとはな」

ぽつりと自嘲気味に呟くアルベルト。

同僚からは仕事中毒者、人間の心を忘れた者などという評価が与えられているが、それでも一人の人間である。

いくら任務で見慣れている光景とはいえ心中は平静とはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り心を落ち着かせ、アルベルトはルミアの救出へと動こうとした途端、広間の奥にある扉が静寂を破るかのような轟音とともに開かれた。

 

 

 

「貴様ぁ!!!貴重な実験材料になんてことをしてくれた!そのサンプルは唯一他のヤツらとは違い役に立ちそうな実験体であったのに!魔術的にどれほど貴重なのかそれすらもわからんか、この愚者が!!!」

怒声とともに広間にやってきたのはこの悲惨な光景を生み出した張本人であるバークス=ブラウモン。

バークスは怒り心頭とばかりに体を震わせ怒鳴り散らかしながら、広間に踏み入った。

その様子をアルベルトは無関心を装いながら話しかける。

 

 

 

「おい、外道。確実にクロだが一応聞いてやる。アレをやったのは貴様か?」

アルベルトは後ろに広がっている惨状を目で確認しながら問うた。

すると悪びれもなくむしろ誇らしげにバークスは答える。

「そうだ。アレは私の実験材料達だ。異能力などという異端で無価値な存在をこの私が有効活用してやっているのだ。むしろ礼を言われてほしいくらいだ」

「なるほど。そうだな礼を言う。」

「フハハハハハ!愚者にしては随分物分かりがいいな」

「だからもう口を閉じていいぞ」

 

 

 

は?とまるでアルベルトが何を言っているのか分からない様子であったバークスだが、段々と自身の体の力が抜けるのを感じとる。

不思議に思っていると、口から血が滴り落ちる。

バークスはようやく自分に起きている状況が認識できたようだ。

 

 

 

ー胸から刃が貫いていることにー

 

 

 

「き、貴様・・・いつの間に」

「『見えない猿』という逸話は知っているか?」

痛みで苦悩に満ちた表情を浮かべるバークスを後目にアルベルトは淡々と話す。

 

 

 

「ある旅芸人が子供たちに向かって『今からボールを投げあうので何回投げたか数えてね』と話した。子供たちは旅芸人一行がボールを投げ合っているのを必死に数えた。投げ終えると子供たちは皆何回投げていたかちゃんと数えていた。だが、そのうちの一人が投げ合っている途中に猿が通り抜けたと言った。他の子どもたちはその子を侮蔑した眼差しで見るが、旅芸人はその子に褒美の品を与えたそうだ。つまり何が言いたいかというとー」

アルベルトは刃を引き抜くと同時にバークスは地に伏せる。

 

 

 

「人間は意外と周りを見ていないということだ。貴様が広間の奥にある扉から入ってくることはすでに探知して分かっていた。貴様が見ていた俺はただの幻影だ。幻影で騙し相手を討ち取る。魔術戦において初歩中の初歩。軍の新人はおろか魔術学院の生徒でも習うような子供騙しだ。まあ戦場ではその場の状況によって引っ掛る場合もあるがな。そもそも貴様はただの研究者。戦場での経験がないのに軍人である俺に一人で立ち向かってくるとは。自分を過信しすぎたな」

 

 

 

 

アルベルトはバークスが息絶えたのを確認するとその場を足早に立ち去った。




働きながら小説書く人、半端ないって!!!
次話は未定ですが、なんとかサイネリア島までは書き終えたい所存です
まあ気長にお待ちください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。