ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー 作:つりーはうす
時は少し戻り、遠征学修が迫って生徒達が浮き足だっている頃、とある場所でも浮いている者がいた。
「室長様、どうか私を“星“の補佐として彼の任務に同行させて頂きたい所存であります」
帝都オルランド郊外にある帝国宮廷魔導士団本部の中にある、特務分室に充てがられたとある一室。
この部屋の主人である特務分室室長、イヴ=イグナイトは今日も帝都中を東奔西走して疲れ切った体で部屋に戻るといなや、いきなりグレンが入ってくると急に目の前で三文芝居の幕が上がった。
いちいち癪に触る口調と鬱陶しい動きで演者風に喋り続けたグレンに向けて軍用魔術を放たなかった自分を誉めつつ、ようやく三文芝居が終わったようなのでイヴは眉間に皺を寄せながら目の前の愚者に対して呆れた口調で話し始めた。
「・・・一体どういう風の吹き回しかしら、グレン?貴方はあれほど“戦車“と組みたくないと言っていたと思うのだけれど・・・。アルベルトに同行するということはリィエルと行動するということよ。それは貴方が一番嫌なことだと思うのだけれど」
「いいえ、室長様。その件は以前の未熟な私の考えであります。私は彼女のことを何も考えずに突撃するしか能のない猪娘としか認識できておりませんでした。しかし、彼女は魔窟と言われるあのアルザーノ魔術学院への潜入任務をこなせております。この事実が示している通り彼女は何も考えずに行動してきたのではなかったのです。私は先入観に囚われすぎて任務同行を拒否していただけであります。このような判断を下した己の浅はかさに恥ずかしささえ感じております」
「・・・なら次の任務でリィエルと組ませてあげるわ。だからさっさと退室しなさい。私は貴方の猿芝居に付き合ってあげる暇はないの」
そう無碍に会話を終わらしたイヴに対してグレンはなおも諦めきれない様子だ。
「室長様!次では遅すぎるのです!私は・・・」
「いや、お主。ただサイネリア島で遊びたいだけじゃろ」
永遠に続きそうである茶番劇にいい加減嫌気が差し始めて爆発寸前のイヴを見てか、それとも自身が退屈に感じたのかはわからないが途中から部屋に入ってきた“隠者“が話の間に入ってきた。
「な、な、何をいえば隠者殿!そのような浅はかな心づもりで室長様に提言したのではない!俺っ!・・・いえ、私は!!!」
「ほれみろ、なれない言葉を使うせいか早速ボロが出とるではないか。せめてアル坊の演技を身につけるためとかそんな理由をでっちあげればよかろうのに・・・嫌、やめといた方が無難じゃな」
何かを思い出したのか、急に虚な目で空虚を見つめて口を閉ざしたバーナードを横目にグレンは長々と演じた役を彼方に捨て去り、体裁を気にせずイヴの足元にしがみついた。
「た、頼む、イヴ!もう今月の生活費が足りねーんだ。遊びながら金も貰えるなんてこんな美味しいチャンス、俺には逃すことができねー!だからっ・・・ぐぇ」
「イヴ、頼まれた資料持ってきたよ〜・・・って何これ、どういう状況?」
諦めきれずにイヴの足元に這いつきばり嘆願を続けるグレンの頭部を、踏みつけてゴミを見るような目で見下すイヴ。
特殊な性癖のある諸兄ならご褒美です!という光景が、たまたま間が悪く部屋に入ってしまった“女帝“の目の前に広がっていた。
「・・・イヴ、どうやったらこんな状況になるの?お姉さん、わかんない」
この停滞した現状を打破できるかもしれない・・・
そんな淡い希望を感じ取ったグレンは自らの頭部を踏みつけているイヴの足を押しのけて素早い所作でセラの後ろに陣取りイヴを睨みつける。
そしてグレンは方針を転換してセラを味方に取り込もうとするが・・・
「なあセラ。イヴのやろーがリィエルとアルベルトの任務に俺を同行させてくれることを許可してくれないんだ。白犬もアルベルトだけじゃリィエルの面倒を見れているか心配だろ?イヴの奴に言ってやってくれよ」
「言うも何もグレン君、この後私と任務だよ?忘れてたの?」
「・・・へ?」
「・・・」
「・・・」
先程まで喧しい部屋の時が止まった。
しかしそれも束の間。
「〜ん?その感じだと任務について分かってないようだね。説明するから私の部屋に行こっか?さあ行こ、グレン君」
「ちょ、ちょっと待て。まだ俺はこのチャンスを逃すわけには・・・あー!!!」
そういうとセラはグレンの手を握り勢いよく部屋を出た。
バーナードもいつの間にか部屋から出たようで部屋はもう一度静けさを取り戻す。
ようやく落ち着いて仕事ができる・・・イヴは止まっていた手を動かし始めた。
栄達のため・・・夢のため・・・正義のため・・・忠義のため・・・欲を満たすため・・・復讐のため・・・
それぞれの思惑が交錯する特務分室は再び動き出した。
生存報告です。
言い訳と今後のことは活動報告に書く予定なので見たい人は見てください