ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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3話 追い詰められたアルベルト

「貴方にそれが受けられますか?」

システィーナの左手に嵌められた手袋がアルベルトに向かって投げられる。

魔術師の決闘の申し込みだ。

一生徒が講師に決闘を申し込むという前代未聞の出来事、これには教室も静まり返った。

 

 

 

(どうしてこうなった・・・)

アルベルトが内心嘆き、決闘に至ったこの経緯を少し遡る。

 

 

 

アルベルトが来てからというものの、ありとあらゆる授業は適当に、いや適当という言葉では言い尽くせないほど酷い授業であった。

この場にいる生徒は魔術に対して真摯に取り組んでいるため、アルベルトの授業には大いに不満が募る一方である。

そのアルベルトはというと・・・。

 

 

 

(ふっ、完璧だ)

この通り、バーナードから借りた本の主人公になりきっていた。

これが演技で飯を食っていく人なら大成功なのだが、今のアルベルトは講師として学院に潜入している軍の内偵。

本来なら目立たず卒に講師として授業を全うすべきなのだが、そこはアルベルト。

なによりも愚直すぎるこの男は同僚にして古参兵のバーナードの意見を信じている、いや信じ切ってしまったため、何も疑わずバーナードが潜入の際に参考にしたというこのロクでなしの人物を舞台俳優(プロ)顔負けの技量で演じてしまった。

少しでも演技に違和感があれば、生徒も何かおかしいことに気づくはずなのだが、評論家から見ても完璧な演技。

それを素人の生徒に見抜くのを求めるのは酷であろう。

 

 

 

生徒とアルベルト、この両者の間には深い溝が生まれ、特にこの教室のリーダー格であり魔術に対して誰よりも情熱、探求心を持つ少女、システィーナとは相まみえる間柄となってしまった。

 

 

 

「いい加減にしてください!」

「ん?だからいい加減にしているだろ?」

とある授業、とうとうアルベルトは黒板に教科書を打ち付けるという講師としてありえない行動に出始めた時、システィーナの怒りは頂点に達した。

そして魔術の名門として誇り高きフィーベル家の一員として、魔術を穢すアルベルトをこれ以上のさばらせることなど許せず、自身の若さと未熟さが後押しし、決断する。

 

 

 

「貴方にそれが受けられますか?」

そして冒頭に戻る。

 

 

 

(不味いな・・・)

さすがのアルベルトもここまで行くとは思わず、額から汗が一滴落ちてきた。

 

 

 

(さて、どう乗り越える。決闘をこのまま受けると、万が一だが天の智慧研究会の奴らに勘繰られる可能性がある。ここは受けないのが最善(ベスト)。だが、一生徒が講師に決闘を申し込むことなど前代未聞。これだけでも話に事欠かない。さて、どうする・・・」

システィーナが手袋を放り投げアルベルトがそれを見ている僅かな時間の中、頭の中で最善の手段を考え抜く。

すると結論は出たようで、アルベルトは床に落ちた手袋へと手を向ける。

決闘を受けるのか!クラスの全員がアルベルトの一挙一動に注目すると・・・。

 

 

 

「受けるわけねーだろ。バーカ」

アルベルトは手袋をシスティーナに向けて投げつけた。

このあまりの出来事に呆気にとられたシスティーナを無視し。

 

 

 

「だいたいなんで講師の俺が生徒であるお前の決闘に付き合わなきゃいけないんだ。わかったらとっとと席に・・・。おっ、ちょうど時間が来たようだ。じゃ、今日はここまで」

立ちすくんでいるシスティーナの横を通り過ぎ、教室から立ち去ったアルベルト。

あとに残ったのは一世一代の決断をしたのに断られたシスティーナとそれを見守っていた生徒だけだった。

 

 

 

(可能性は低いかもしれないが、奴ら(天の智慧研究会)に手の内を見られかねん。今後も申し込まれたら断るとしよう。・・・だがなぜ今回の潜入は上手くいかない?)

学院内を歩きながら、これから市中の監視に赴くアルベルトは一人考える。

その疑念に答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も問題なし。やはり誤報ではないのか?」

あの事件から数日後、アルベルトは建物の上から護衛対象者であるルミアを遠目の魔術で監視していた。

学院に潜入してからというものの、ルミアの周りはこれまで大きな動きはなく、この任務に疑念を抱いていたその時。

 

 

 

「ん?イヴからか、珍しい」

アルベルトの胸元から甲高い鈴の音のような音が響き渡る。

イヴに手渡された宝石型通信魔道具の受信音である。

 

 

 

「こちらアルベルト。任務中にかけてくるとはらしくないな、イヴ」

「・・・元気そうで何よりだわ。どう、任務は?」

「問題ない、常時上手くいっている」

「『問題ない、上手くいっている』ねえ?」

アルベルトが報告するとイヴの声は冷ややかであった。

 

 

 

「なにか疑問が、イヴ?」

「・・・今日、"円卓会"から呼び出しを受けたの」

「それが何の関係が?」

帝国の最高決定機関である"円卓会"に呼び出されたことがどう繋がるのか疑問に思っているアルベルトに答えるため、イヴは話し続ける。

 

 

 

「『彼の偉大なアリシア三世が創立した栄えある魔術学院になんていう奴を送ったんだ!!!』これはエドワルド卿の弁。『やはり戦うことしか能のない軍人には若き賢者を教えるという大義を理解できないのでは?』これはバートレイ卿の弁。『なかなかオモシロい奴をあの魔窟に送り込むなんて、イヴちゃんやるね~』これはルチアーノ卿の弁。『・・・特務分室には真面な人材はいないのか?』これはイグナイト卿の弁ね、最後に・・・」

アルベルトの冷や汗が止まらないのを無視してイヴは続ける。

 

 

 

「『”(アルベルト)”の実力は理解しています。今まで何度も私たちは彼に助けられてきましたから。ですが・・・もう少し適任者はいなかったのですか?』これは陛下からの弁。全員がある一人に対しての評価です。では一体その人とは誰なのでしょう?・・・ねえアルベルト?」

「・・・」

アルベルトは無言を貫く。

僅かな時間、沈黙が場を支配していたが、それを破りイヴの金切り声が通信器から響き渡る。

 

 

「やってくれたわね、アルベルト!貴方がどんな意図であんな授業をしているのか私は知らないし理解したくもない。だけど特務分室には、今絶賛各機関から苦情の嵐の真っただ中よ!特に貴方の授業を受けた生徒から話を聞いた貴族連中がこぞってね!よりにもよってあの各政府機関の縄張り争いが酷いあの魔窟でよくもあんな軽率な行動を・・・。これで軍の面子は丸潰れよ!貴方の首一つで済む話じゃないわ!」

「だがイヴ、俺は・・・」

「アンタの屁理屈なんて聞きたくもないわ、アルベルト。この任務期間が終わり次第すぐに本部に帰還しなさい!後釜には国軍省・宮廷魔導士団に関わりのない人間が座るわ。これは決定事項よ。せめて少しでも軍の評判を上げるために残りの日数を貴族の子弟どものご機嫌でも伺っていなさい!本部に戻り次第たっぷりしごいてあげるから覚悟しなさい!」

そういい、一方的に通信を切るイヴ。

後に残されたのは茫然と立ちすくんでいるアルベルトだけだった。

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