ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー   作:つりーはうす

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幕間1 鬼ごっこ

「ん?どうしたアル坊、黙り込んで。ちょ、ちょい。なぜ指を向ける!」

「・・・覚悟はいいか、翁!」

アルベルトはそう言い、予唱呪文(ストック・スペル)の黒魔”ライトニング・ピアス”を放つ。

狙いはバーナードの眉間、明らかに殺す気で放ったアルベルトの攻性呪文(アサルト・スペル)を超人的な勘でなんとか躱し、距離を置くバーナード。

 

 

 

「ちょ、ちょい待て!アル坊!お主今殺す気で・・・」

「”雷剣よ(シーヴェン・マル)”ー”踊れ(タンズ)”」

バーナードに最後まで話すことを許さず、黒魔”ライトニング・ピアス”の七射同時起動ー”七星剣”を放つ。

バーナードへと放たれた7つの閃光は、いったんそれぞれ異なる軌道を描くが、一気にバーナードへと7つの雷が降り注ぐ。

周囲全方向から襲ってくるこの閃光に対して逃げ切れることはできないと悟ったバーナードは"トライ・レジスト"で耐え凌ごうとした。

 

 

 

全弾バーナードに着弾したが、なんとか対抗呪文(カウンター・スペル)が間に合ったようだ。

こんなのに付き合いきれないと思い、すぐさまバーナードはその場から距離を置き、逃げようとする。

だが逃がすまいと2射、3射と閃光が襲う。

バーナードはこのままだと逃げ切れず、ジリ貧になるのはこちらだと考えたのか、得意の話術で状況を打破しようとした。

 

 

 

「おい、アル坊!お遊びはここまでじゃ。いい加減にせんと上から処罰されるぞ。確かに儂が悪いのは認めるし、気に食わんのなら謝る。だがらここは怒りを抑えてくれんか!」

今アルベルトがしていることは軍紀違反であること、そしてバーナード自ら罪を認め謝罪すること。

この2点を突きつけることでアルベルトの頭が冷え、この場を鎮めようとしたのだが・・・。

 

 

 

バーナードの横顔を2発の閃光が通り過ぎる

 

 

 

アルベルトによる黒魔”ライトニング・ピアス”を二反響唱(ダブル・キャスト)で放ったものだ。

青ざめた顔でアルベルトを見るとまるで鬼の形相、先程のバーナードの心からの宣言は一切聞こえていないらしい。

おそらく当分はアルベルトは平常にはならないだろう。

そこまで追い込んでしまった自分に腹が立つが、本気でブチ切れているアルベルトを相手に生半可な手で対抗すると自分がやられるのは明らか。

ここは腹を括るしかないようだ。

 

 

 

「はあ、恨むなよ。アル坊」

そう呟くと、バーナードは全身に魔力を漲らせる。

バーナードの得意戦術、"魔闘術(ブラック・アーツ)"。

魔術と格闘術を組み合わせた近接格闘術だ。

全盛期を過ぎたバーナードは搦手をよく使用するが、正統派魔術を極めた者の1人であるアルベルトに対し、そのような小細工は力でねじ伏せられるため、有効とは考えにくく、正面から殴りかかった。

 

 

 

「行くぞ、アル坊!はぁあああー」

「”雷光の戦神よ・ー”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰よ、こんな時間に騒いでいる奴は」

時刻は夜も更ける頃合いだろう。

特務分室はその特徴からブラック企業真っ青の仕事量のため業務時間内に仕事を終わらせることはとても稀である。

今日もアルベルトから報告を受け説教をしたのだって業務時間外のことだ。

 

 

 

イヴはあれからさらに仕事をしていると、なにやら外から大きな音が頻繁に聞こえてくる。

職務室(オフィス)には業務上機密事項を扱うことが多いため、部屋は防音機能を施しているのだが、それを通り越して先ほどからやけに音が部屋に響く。

流石におかしいと感じたイヴは、気分転換がてらに扉を開けて外を見ると・・・。

 

 

 

そこは戦場であった

 

 

 

「アンタら一体何してるのよー!!!」

イヴがこう叫ぶのも無理はない。

通路があったであろう場所は開放的になり、通気性がとてもよくなっている。

かろうじて通路が保たれている場所はあるが、そこは大きなクレーターと化しており、とてもであるが通路としての機能は失われていた。

 

 

 

バーナードもここまでやるつもりはなかったのだが、彼は根っからの好戦的(バトル・ジャンキー)

久しぶりに出会った強敵に対し、すっかり我を忘れて戦っていた。

 

 

 

「二人とも今すぐやめなさい!上官命令よ!・・・ってきゃあああああー」

イヴが止めようとしたが、返事は攻性呪文(アサルト・スペル)で帰ってきた。

命令を聞かずあろうことか上官である自分に攻撃する。

そのことでずっと残業続きでストレスが溜まっていたイヴの糸がプツンとキレた。

 

 

 

「”いい加減に・しろや・この問題児共がぁぁぁああ”」

即興改変されたB級軍用魔術”インフェルノ・フレア”を二人に向けて放ち、イヴも参戦する。

B級軍用魔術を即興改変するという離れ業をやってのけたイヴ。

怒りで我を忘れると普段できないことが出来るようになるらしい。

 

 

 

戦いは新たな段階へと移行した。

イヴの思わぬ参戦に漸く頭が冷えた2人だが、今度はイヴの頭が怒りで沸騰し、辺りを省みらずに炎を巻き散らす。

 

 

 

「ちょ、ちょい、イヴちゃん!炎は洒落にならん!わしらはもう仲直りをしたからの。なあ、アル坊!」

「・・・ああ、そうだ。すまなかったなイヴ」

「”死ね!死ね!死ね!”」

アルベルトとバーナードの言うことに一切耳を傾けず、C級軍用魔術”ブレイズ・バースト”を三連唱(ラピッド・ファイア)で放つイヴ。

回避した二人の跡は炎の海と化し、職務室(オフィス)は跡形もなく燃え尽きた。

 

 

 

「アル坊、ここは共同戦線といこうかの。このままイヴちゃんが暴れまくるとちょーと不味いことになるわ・・・」

「了解した。援護する、翁」

二人は短い言葉を交わしてイヴに向き合う。

すると・・・。

 

 

 

イヴは全く呪文を()()()()()()()()、二人の周りに炎が巻き上がった

 

 

 

「・・・え。嘘じゃろ・・・」

「・・・」

二人はこの現象に言葉を無くして立ちすくむ。

イブと長い間一緒に戦ってきたこの二人だからこそ分かってしまったのだ。

イグナイト家の眷属秘呪(シークレット)”第七園”が発動してしまったことに。

 

 

 

"第七園"は予め指定した領域でないと発動できないのだが、一度発動するとその領域内では炎熱系呪文を、集中なし、溜めなし、詠唱なし、マナ・バイオリズムなしというノー・リスク、ハイ・リターンで発動出来るという規格外の魔術である。

しかし、この魔術を発動させるには、予め指定する領域に物凄い手間と工数をかけた事前準備をしなければならないため、イヴも日頃使うときは罠として運用しているのだが、今回はなんと二人と闘っている最中に領域を構築したのだ。

普段のイヴなら、いや歴代の紅焔公(ロード・スカーレット)であってもそんな高等技術は出来ようもないのだが、今回はなんと怒りに任せて出来てしまったようだ。

その偉業にまったく気づかず、ゆっくりと二人に近づくイヴ。

バーナードとアルベルトはもう引けないところまで来てしまったことを悟った。

 

 

 

「・・・なあ、アル坊。本当にすまんかった」

「今言うことではない。ここを生き延びてから言え」

二人はお互いに短い言葉を交わし、動き出す。

「生き残るぞ、アル坊!」

「承知した!」

イヴに立ち向かおうとしたその直後。

 

 

 

二人は踵を返し、物凄い速さでその場から逃げ出した

 

 

 

当たり前である。

この領域でイヴに正面から勝てる者などいなく、勝てるとしたらおそらく元"世界"くらいだろう。

なら二人がすべきこと、それはいかに早くこの領域から逃げ切れるかである。

もちろんイヴも逃すつもりはなく、ふたりの背中に爆炎が近づいてくる。

「死んで詫びろ、この凹凸コンビがー!!!」

 

 

 

その後この三人は一晩中領域から逃れる、逃がさないという鬼ごっこに明け暮れ、マナ欠乏症でなんとか収束するのだが、後に残ったのは瓦礫と化した職務室(オフィス)と始末書の数々であった。

 

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