ロクでなし魔術講師、アルベルト=フレイザー 作:つりーはうす
「もういいだろ、システィーナ?駄々捏ねないで大人しく出場メンバーを成績上位者で固めるんだ」
「ギイブル・・・貴方って人はー」
「なんだ?まだ決めていないのか?」
放課後、アルザーノ帝国魔術学院。
アルベルトが担当しているクラス、2年次2組は来週開かれる魔術競技際の出場者を決めあぐねていた。
決めあぐねているというよりは生徒が出場に消極的だから決まらないといった方が適切だろう。
クラス全員で参加することを良しとするシスティーナの考えはクラスメイトに響かず、挙句の果てに成績優秀者で参加者を固めるのを良しとするギイブルと衝突一歩手前のところで運よく担任のアルベルトが教室に入ってきた。
「どうした、フィーベル。自分たちの手で決めたいというから俺は任せたのだが、なぜまだ決まっていない?他のクラスはすでに練習を始めているぞ」
「それが・・・」
「全員みんなで仲良く参加しようっていうから決まらないんですよ、アルト先生」
「どういうことだ、ウィズダン?」
システィーナが発しようとした矢先にギイブルが今までのことを説明する。
それを聞いたアルベルト。
「ふむ、確かにウィズダンの言うことも一理ある」
「そんな先生!」
「ほら、システィーナ。アルト先生もこう言っているんだ。さっさと成績上位者で固める・・・」
「だが、俺はフィーベルの意見に賛成だ」
アルベルトから思わぬ意見が出たことによりクラス全員が驚く。
「何を言うかと思えば、アルト先生。正気ですか!」
「俺は冗談は言わん。貴様らは自分たちが思っているほど能力は低くない。どうやら自身の能力を把握できていないらしいな。おい、ファーベル。競技祭の種目リストをよこせ。ティンジェルは黒板に俺が言う名前と競技名を書け」
「は、はい」
「わかりました、先生」
アルベルトに急に呼びかけられたシスティーナは少し戸惑いながらもリストを渡し、ルミアはチョークを構えた。
「ではまず決闘戦からだ、ー」
アルベルトの編成はクラス全員を出すという、今までの競技祭とは異なる手法だった。
一部の生徒からはこのような編成では駄目だという意見も出たが、アルベルトの選出した理由とシスティーナの熱意に、生徒一同は競技祭への全員参加に賛成した。
「一国の女王といえども一人の母親ということか」
出場者が決まり、ムードが高まる教室を一人静かに立ち去ったアルベルトは、密命に書かれていたとある一節を思い出す。
"少しだけでもいいのでエルミアナが活躍する場を設けてくれませんか?"
公的な行事に個人の感情を差し込むことがいかに悪手かは当の女王陛下が一番わかっているはずなのだが、やはり久しぶりに会える我が子の活躍を見たいのが親の性というものだろう。
アルベルトはルミアを出場させるために、周りに不自然に思われないようクラス全員で出場することを計画していた。
システィーナも同じような考えであるとわかったため、彼女に任せていたのだが、風向きが悪くなりつつあったので、自然な流れで議論に参加し、システィーナの意見を支持する。
そして、全員参加が合理的な判断であること、有効な手であることを生徒に伝えると、反対していた生徒も黙らざるをえず、さらに止めとしてシスティーナがクラスメイトを奮起させることにより、クラスの意見は競技際への全員出場にと固まった。
放課後、アルベルトは生徒たちが競技祭にむけて練習している様子を眺めていた。
最初は気後していた生徒たちも今や生き生きとした顔で練習に励んでいる。
普段の任務では決して見ることが出来ないその光景を、アルベルトにしては珍しい穏やかな目で眺めていた。
この様子だと自分が手を出すことはないな。
そう思い市内の警邏に行こうとしたその瞬間、激しい口調で言い争いをしている声が聞こえた。
振り返ると自分のクラスと他のクラスの生徒が何やら揉めている。
「おい、一体どうした」
「アルト先生!こいつら後から来たくせに勝手なことばっか言うんですよ」
「うるさい、お前ら場所とりすぎなんだよ!さっさとどけ」
「"お前たち・少しは・落ち着け"」
「「ギャア!!!」」
取っ組み合いを始めた二人を"ショック・ボルト"で静かにさせる。
さすがは軍人、荒ぐれごとの対応はピカイチである。
一通り話を聞き終えたアルベルト。
「ふむ、確かに俺たちのクラスは場所を取りすぎているようだな。わかった。此方も場所を少し空ける。それでどうだ?」
「は、はい。場所さえ空けてくれればそれで・・・」
「おい!さっさと場所を取れといっただろ!まだなのか」
丸く収まろうと思った瞬間、怒声とともに一人の講師がやってくる。
「兄は・・・確かハーレイ教授か。兄のクラスも今から競技祭の練習か?」
「き、貴様はアルト=フレイ!」
ハーレイはアルベルトを見るといつもの勢いがやや削がれるが、直ぐに持ち直す。
「当然だ。今年は女王陛下が優勝クラスに直々に勲章を賜るのだ。優勝以外は許さん!」
「そうか、兄のその悲願が願うことを祈ろう」
日頃からよく授与されているアルベルトは別段欲しいとは思わないのだが、それを口に出して言うこともないだろう。
「まあそういうことだ。わかったら場所を空けてもらおうか」
「了解した。あの木の辺りまで退けば十分か?」
「何を言っている?お前たちのクラスはここから出て行けと言っているんだ」
あまりの一方的な物言いにその場の空気が凍りつく。
アルベルトも流石に道理が通らないこの要求に抗議する。
「兄よ、それはいくらなんでも横暴とは思わんか?」
「横暴?いや、当然の権利だアルト=フレイ。貴様のクラスが本気で優勝を狙っているのなら場所を公平に分けるのも理解できよう。だがどうだ?出場者はクラス全員、成績下位者までも使うのだからな。こんな優勝を狙う気もないクラスと場所を共有するなど迷惑だと思わないか、アルト=フレイ?」
その言い草に生徒の表情はあからさまに暗くなる。
一部の生徒は申し訳なさそうに佇んでいた。
すると。
一枚の手袋がハーレイの足元に投げつけられる
決闘の申し込みである。
投げたのはもちろんアルベルトだった。
「アルト=フレイ!貴様何を考えている」
「何、兄の考えと俺の考えが一致しなかったのでな。そういう時の解決は昔から決闘と言われているだろう。さあ兄よ、自身の意見が正しいと思うなら手を取れ。正しくないのなら今すぐ俺の生徒に謝罪しろ」
「な、何を言い出すかと思えば。事実貴様は成績優秀者を遊ばしているではないか!競技祭において成績優秀者を使い回すのが定石だろ!」
「なるほど・・・つまり兄は俺のやり方が正しくないと?」
「あ、当たり前だ。そんな方法で優勝出来るわけがない!」
ハーレイはアルベルトの威圧感にも負けず言い切った。
確かに昨今の競技祭からわかるように、定石通りに成績優秀者で出場者を固めるハーレイの選択は正しいのだろう。
だが、ハーレイの相手はアルベルト。
定石が当たり前のように覆る現場で任務を遂行してきた男である。
「確かに兄の意見には一理ある。だがそれとこれとは話が別だ」
「ふん!なら結果で決めるのはどうだ?」
「なに?」
今度はアルベルトが黙る番である。
「貴様がそこまで自分の生徒に自信を持っているのだ。なら競技祭の順位でこの決闘の勝敗を決めようではないか。決闘のルールを決めるのは受理側だ。それが不服ならー」
「いいだろう」
即断するアルベルト
「キサマ、正気か!」
「正気だ。兄の要求に俺は応えた。次は兄の番だ」
「いいだろう!決闘に負けた方は自身の考えを改め謝罪する。そして・・・そうだな給料3ヶ月分を渡す。これでどうだ!」
「俺は構わん」
「ふん!この選択をせいぜい後悔しないことだな」
こう言い。立ち去ったハーレイ。
後に残ったのは自分の身を盾にしてかばってくれたアルベルトに対する尊敬の眼差しで見つめていた生徒たちだった。
「先生、俺たちのために・・・」
「こうなったら意地でも勝ってやろうぜ!」
クラスのアルベルトに対する忠誠心は天を突き破るかの如く高くなる。
その横からシスティーナとルミアが近づいてきた。
「先生、あの、ありがとうございました。まさかあそこまで庇ってくれるなんて」
「でも決闘までしなくても良かったんじゃないですか?」
「何、事実を述べたまでだ。実際お前たちは自己評価が低すぎる。それを正したかっただけだ。それと・・・」
アルベルトがさらに続ける
「俺の知人にはお前たちよりも魔術適正が低い奴がいてな。普通であれば三流魔術師と蔑まれ、そこで止まるはずなのだが、そいつは誰よりも努力をして今や宮廷魔導士団の一員となった。そいつを仮にも認めている俺があの男の発言を認めれば、そいつと俺の立場が否定されるのでな。奴の発言は看過できなかっただけだ。そしてその前例があるから俺はそいつより魔術適正が高いお前たちに勝ち目があることを信じただけだ。さて、お前たちは俺の信頼を裏切るなよ」
「「はい、先生」」
その後、練習はさらに熱が入り、アルベルトを勝たせようとクラスの生徒は一生懸命練習に取り組んだ。
そして瞬く間に一週間が過ぎ、魔術競技際当日を迎える。