――蛮族は、サーマルタウンを抜けてウィンドミルタウンへと続く道路を走っていた。仮面を付けたジムチャレンジャーにデュエルを挑んでくる者もいたが……。
「ふぁははははは!! 《インフェルニティ・アーチャー》でダイレクトアタック!」
「直接攻撃とか有りかよぉ!?」
『命中確認、狙撃完了』
【BF】の展開に対応している間にハンドレス、【インフェルニティ】のコンボを許してしまうかと思えば、その逆もまた起こり得る。
フィニッシャーとなった《インフェルニティ・アーチャー》は蛮族に肩越しに視線を向けると、静かに頷いた。大弓を携えたまま、無言でデッキの中へと戻っていく。
「D-LIVE」での個人チャンネルを元から持っていた蛮族は、多少なりデュエリストとして名を知られていた。というのも変態謎構築のデッキを扱っているからだが。しかし、それ以上に仮面を付けて、かつ、その強引なパワープレイと逆境からの本領発揮が人気を博している。そのキャラクター性の強さとエンターテイメント性の高さで知られていると言ってもいい。
そして放送枠。デュエル“のみ”という潔さ。しかもコメント返信をするのはもっぱら蛮族のデュエルモンスターズ。中でも《BF-疾風のゲイル》と《インフェルニティ・リベンジャー》の2体は代表格だ。
蛮族は先を急いでいた。我先にと既にウィンドミルタウンへ続く鉱山へと入っていく。
流石に鉱山の中では通信環境も悪い――とは行かず、その内部にも「D-LIVE」配信に使用される配線が敷かれていた。その整備に付け加えて、鉱山内部の掘削工事に岩石族モンスター達が活用されている。
足音を立てれば坑道に響く。足音に刺激されたデュエルモンスターが飛び出してこないとも限らない。体力の温存も兼ねて蛮族は歩き出した。すると、デッキの中から勝手に《インフェルニティ・リベンジャー》が飛び出してくる。勝手に出てくるなといつも言っているのだが聞かない。
『この鉱山、暗いナ?』
「灯りは点いているし、働いている人からすれば十分なくらいだろう」
『仮面、外さないのカ?』
「……極力顔は出したくない」
顔を隠しているのは、とある一身上の都合からだ。だがそれ自体がルールに抵触しているわけでもない。蛮族にとって、デュエルにおける盤外戦術というのは「小細工」の一言に尽きる。
相手の顔色を窺うなど知ったことではない。八百長など万死に値する。
自分の手札で全力を尽くす、その結果が勝利であろうと敗北であろうと関係ない。結果、どうなるかなど時の運だ。
蛮族の隣で、腰ほどまでしかないリベンジャーが歩いて付いてきている。それだけで自分は【インフェルニティ】使いであると公言しているようなものだが、幸いにもデュエリストの姿は見かけなかった。恐らく企業で使われているであろう岩石族モンスターが賢明に働いている。
デュエルモンスターズを用いた職業は珍しくもない。むしろ当然、常識といった体だ。なんならそちらのほうが興行収入が多い。
デュエリストがデュエルというルールとフィールドで競い、争うのはモンスターの性能。デッキの構築。戦術や戦略など様々な要因が絡んでくる。だが、そこから解放されたデュエルモンスターズの生活や生態はまた個性的なものだ。
例えば、【ダイナレスラー】による恐竜プロレス試合の放送。人間ではできない動きや、尻尾を利用した投げや、テールラリアットなど。【剛鬼】との異種プロレスも人気だ。
他にも【トリックスター】達の華やかなステージ。【幻奏】によるオーケストラ。【ゴーストリック】のお化け屋敷。様々なデュエルモンスター達が人間社会で能力と個性を活かして生活を共にしている。だが、中にはそれらを悪用する者達も少なからず存在した。
蛮族はそれを当然快く思っていないが、未成年かつ、世間的にはまだまだ子供だ。
気づけば、坑道の中で立ち止まっている。そんな自分の前には、不思議そうに全身を傾げて疑問符を浮かべている《インフェルニティ・リベンジャー》が立っていた。
『どうしタ?』
「なんでもない。カードの中に入ってくれ」
『やダ!』
ケケケ、と悪魔のように笑う《インフェルニティ・リベンジャー》に、蛮族は仮面の下で笑う。
屈んでから頭のハット帽子を目深に下げてやる。ヨタヨタと歩き出して前が見えず、そのまま壁に衝突して転んでいた。
その拍子に帽子がずれて、起き上がるなり自慢の二挺拳銃を持ち出すが――弾倉が空っぽなのが丸見えだ。
『やったなこノー!』
「ふはははは! 言うことを聞かないからだ!」
『ぐぬヌー……ン?』
ふと、《インフェルニティ・リベンジャー》が岩陰になにかを見つける。回転式拳銃をしまい、拾い上げたものを蛮族へと持ってきた。
『カード、落ちてたゾ』
「ふむ。俺のではないな」
『貰っていくカ?』
モンスターカードであれば、恐らく力尽きた野生のデュエルモンスターズだろう。
魔法・罠カードであれば、落とし物。或いは、埋まっていたもの。この鉱山はサーマルタウンからウィンドミルタウンへ続く鉱山として掘削工事が進められている。長期的な開発工程で組まれているのは、作業中に野生のデュエルモンスターが現れないとは限らないからだ。
蛮族が土で汚れたカードを受け取ると、緑色のカードデザインからすぐに魔法カードだと判断できる。
「もしかするとここの職員の落とし物かもしれないしな。まずそちらに届け出るか」
『わかっタ』
拾ったカードを見つめて《インフェルニティ・リベンジャー》がトコトコと蛮族の隣を歩いて付いてきていた。
『これ、岩石族のサポートのカードだナ』
「ほう?」
『アー。アー……アダマシア?ダ!』
蛮族が手元を覗き込めば、魔法カードには「
『蛮族、岩石族とか使わないナ。なんでダ?』
「趣味じゃない」
『闇属性とか、悪魔族ばっかりだシ。ドラゴン族も好きなんだナ』
「慣れてるからな」
『まぁその方が俺達は嬉しいけド』
カタカタと口を揺らしながら嬉しそうに笑う《インフェルニティ・リベンジャー》が、今度は小石につまづいて転んだ。その手元からカードがこぼれ落ちる。
『痛ヒ……』
「よそ見ばかりしているからだ」
蛮族はヒョイと持ち上げて、カードの土埃も手で払い落とした。
近づいてくる足音に蛮族がデュエルディスクにセットしたデッキに手を伸ばす。
『あれ? そこの人、どうしたんですか?』
「……」
『もしかして、ジムチャレンジャーの方ですか。安心してください、ボクはデュエリストじゃないので。ここの鉱夫として雇われているデュエルモンスターです』
そう言いながら、大きなバッグを背負った少年は腕章を見せた。その後ろには《岩石の巨兵》が付き添っている。巨大な猫車を押しているところを見ると、どうやらこの先で作業を予定していたらしい。
『ボクは
「む。そうなのか……」
『はい。なので、ウィンドミルタウンを目指しているのなら別な道です』
『なぁなぁ。このカード、お前のカ?』
《インフェルニティ・リベンジャー》が魔法カードを差し出すと、《
『ああ、そうです! よかったぁ、どこに落としてしまったのかとボクの主人が探していたんですよ』
「そうか。それはよかった」
『そこの岩陰に落ちてたゾ』
『ありがとうございます。御礼と言ってはなんですが、ウィンドミルタウンまで道案内してあげますよ。それと、道すがら耳寄り情報の方を……』
「それは助かる。期待してもいいのか?」
『では、巨兵さん。すいませんが、ボクはこちらの方を案内してきます。先に準備の方だけお願いしてもいいですか?』
《岩石の巨兵》は重く頷くと、猫車を押して先の通路へ向かっていく。
それとは別な方向へ《魔救の追求者》は蛮族を案内し始めた。
「それで。耳寄り情報、というのは?」
『ああ、そちらですか。そうですね、ワイルドエリアはご存知ですか?』
「あまり長居はしないが、当然知っているとも」
『そこにボクの仲間がいます。DPをお支払いいただければ、1日に1度だけ採掘した品を貰えますよ。ちょっとしたクジ引きのような気軽さでお試しいただければと』
「ほう。例えば?」
『そーですねー……例えば魔法カードや、罠カード。たまにモンスターカード等』
「……カード、採掘して出てくるのか?」
『不思議なことに』
ワイルドエリアで誰かの落とし物を拾うのはよくあることだが、カードを採掘するなど聞いたことがない。そもそも使えるのか、とも思うがショップならカードロンダリングくらいはしてくれるだろう。
他にも小話などで時間を潰していると、あっという間に光が差し込んでくる出口が見えてきた。足元にはレールが敷かれている。
『こちらです』
「……こんなところに道が出来ていたのか」
『最近出来た道なんです。とはいえ本来は搬入路なんですけれど。でもあなたは運が良かったですね』
「ん? なぜだ?」
『先程、出口でチャレンジャーを待ち構えている方をお見かけしたので』
先回り、ということか。運良く自分はそれを回避できたらしい。
《
『あ、そうそう。言い忘れていました。先程話したワイルドエリアの仲間ですが、通称「穴掘り兄弟」ということで知られてます。もし手元にボク達【アダマシア】が探している魔鉱石――「
「ふむ……となると、もしやこの鉱山で雇われているのも?」
『はい。ボク達【アダマシア】が求めている「奇石」が発見されたということなので。そちらの譲渡を条件に掘削工事のお手伝いを』
「なるほど。納得」
『沢山見つかるといいナ!』
『はい。そちらもジムチャレンジ頑張ってください。それではボクはここで』
蛮族は会釈して背を向ける。《インフェルニティ・リベンジャー》も手を振って別れを告げると、隣をテクテクと歩いて付いてきている。
「……おい、リベンジャー。そろそろ良いだろう。デッキに戻ってくれ」
『ウ~……』
「宿で休むまでの辛抱だ」
『わかっタ』
渋々、といった様子でデッキの中へと戻っていくと――今度は入れ替わるようにして《BF-疾風のゲイル》が出てきた。
『ばーんーぞーくー、早く宿で休んでテレビが観たいぞー!』
「…………」
自分の額に指を当てて、天を仰ぐ。
本日も快晴。気分爽快、走り出したくなるほど心地よい陽気と穏やかな風が町に吹いている。
ウィンドミルタウンの名にある通り、此処は風力発電による大きな風車が立ち並んでいた。
そんな蛮族の視界を遮るようにして《BF-疾風のゲイル》がジト目で睨んでくる。
『嘘つきにはやる気半減ビームだぞー?』
「小癪な。この俺のやる気はいつでもぶっとビングだ。半減したところでなんだ」
――なお、モンスター効果は人体に無害なので直ちに影響はないものとされていた。
蛮族が捕まえようとすると、鳥獣族らしく羽ばたいて手を避けて頭に居座る。むふーっ、とどこか得意げな鼻息が聞こえてきた。
そこまで言うなら仕方がない。おもむろに足を掴み、肩車をしたまま駆け出す。
『ほぎゃああああああぁぁぁぁっ!?!?』
「ふふふははははははは!!!! そこまで言うならジムまで猪突猛進!! 行くぞゲイルゥゥゥッ!!!」
『自分で飛ぶからオロシてくれぇぇぇえええぇぇぇえぇえぇっ!!』
【BF】曰く。もとい、鳥獣族曰く「自分の翼で飛べない状態は人間で言うジェットコースターに似ている」とのこと。つまり、恐怖体験である。強制スリルドライブ。
《BF-疾風のゲイル》の間延びした悲鳴が爽やかな陽気の下、ウィンドミルタウンへ続く道路に響き渡る。何事かと顔を向けたデュエリスト達は、仮面を付けた男が涙目のゲイルを肩車しながら全力疾走しているさまを見て「こわ、近寄らんとこ……」と見て見ぬ振りをしていた。