綿ぼこりたち   作:凍り灯

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フレック・グレイズってなんかいいですよねっていう、ふわっとした感じで始まります。

※誤字報告ありがとうございます。適用させていただきました。







snow flake

 

 

 

 

 

身を屈め、手を伸ばし、岩を掴む。

 

取りこぼさないようにとスクラップの重機から取り外されたクローを増設された"手"が、慎重に岩を地上から数メートル上まで持ち上げた。

 

その場から足は動かさずに、上半身だけを回して指示された場所へと、ゆっくり降ろす。

持ち上げられて岩があった場所には、黄色い色をした重機がわらわらと集まり、残った小さな残骸をえっさほいさと片付けていた。

 

ようやく終えた繊細な操作を要求される仕事に、肺の中から大きく息を追い出しながら、後は作業の様子を上からぼーっと見下ろしている。

 

『お疲れ様です』

 

この狭い空間の三方を囲むモニターの一つに、女性の顔が映し出される。

丸眼鏡を掛けており、長い黒髪をポニーテールにした女性だ。

多分アラサーだと思うんだが真相は不明。

 

相変わらず綺麗な顔してるなぁと思いつつ、作業の進捗(しんちょく)を確認した。

 

「リーリカ、おやっさんはなんて?」

『もうやることはないらしいので、降りてきて良いそうです』

「あいよ」

 

まぁそうだろうなぁと独り言ち、パネルを操作してこの"巨体"を屈めさせる。

ロックを解除、レバーを引きコクピットを開いた。

ガゴンッと噛み合わせが悪そうな音が響いた後、左右のモニター諸共頭上のハッチがせり上がり、新鮮な空気が入り込んでくる。

そう痛い程に新鮮な空気だ。

彼女と同じ黒い色の髪の毛が吹き付ける風に当てられて巻き上がる。寒い。

 

後付けで取り付けた温度計をちらりと見てみれば。

『-20°』

 

凍える前に俺はさっさとコクピットから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストーブで暖められたプレハブ内で防寒着を着込み、何故か俺が作るはめになった(まかな)いのボルシチを口元に運びながら窓の外の愛機を見上げた。

 

目に入るのは粗末な氷結対策と防寒処理を施した、全長15m程の片膝をついた巨人。

 

特徴的なのはその頭部だ。

ウェポンベイの役割もあるためか箱状に大型化した頭部を持つこの機体は、ギャラルホルンのグレイズシリーズの派生である"フレック・グレイズ"と呼ばれるモビルスーツ。

グレイズの…所謂(いわゆる)廉価版(れんかばん)モデルなのだが、グレイズよりもさらに整備しやすいという点に関しては助かっている。

あとモビルスーツにしては少し小さい。

 

…しかし、作業用と銘打ってもいたが、重機のような土仕事に使われるとは開発者も思ってもいなかっただろうか。

俺は思っていなかった。

 

今回の仕事は山間部で起こった土砂崩れで転がってきた大岩の撤去だ。

ここは標高が高いとはいえ、そろそろ雪解けの時期でもあるので、その融雪が地面に浸透したせいで地盤がゆるんだらしい。

 

…こういう場所でなければエイハブ・ウェーブを発するモビルスーツの出番はなかっただろう。

 

その重機代わりとして活躍したフレック・グレイズは、さっき降り始めた雪で薄っすらと白く染まりつつある。

それと対称的に足元は泥で黒く汚れていた。

弾痕(だんこん)は、今はまだない。

うん?このビーツ、下処理が悪かったな、ちょいと硬い。

 

そんな覇気のない様子でプラスチックのスプーンでスープを吸い込む俺に近づく影が一人。

止まった所で俺は彼女に声をかけた。

 

「もうあがっていいって?」

「はい。諸々の話は済みましたので」

「んじゃぁ帰るかぁ。あぁそうだ、服でも買ってくか?」

「モビルスーツを牽引(けんいん)したままで、ですか?」

「そう、イエローナイフの近くも通るだろう?それならオーロラでも見て帰るか」

「…遠慮しておきます。駐車場に入りそうもないですから。それに、去年アルバータ州でモビルスーツ沙汰(ざた)で事件があったばかりですので」

「"エドモントン"での件か。確かに、あんな風に停電したらショッピングどころじゃないか」

 

俺のナンパじみた発言にリーリカは咳払いをしてから答える。

ちょっと無遠慮だったなと反省しつつ、露骨に逸らした話題に適当に返した。

俺はまだ諦めんぞ。

 

「さすがにそろそろ買った方がいいんじゃないか?洒落た服の一着もないだろう?」

「これで十分ですよ」

 

そう言ってコートから覗くくたびれたYシャツと(すみれ)色のズボンを指さす。

どれもお古だ。もちろん俺のではないが。

 

「…ま、いーんだがね」

 

やはり遠慮してるなぁ、と苦笑い。

もう彼女はただの居候(いそうろう)ではなくビジネスパートナーになったと言うのに。

 

とりあえず勝手に買っておけばいいかと結論付け、残りのスープを飲み干す。

 

そうして空になったスープの紙の器をゴミ箱に投げ捨て、モビルスーツをトレーラーに乗せるべく立ち上がった。

 

「帰るか」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレートスレーブ湖近隣、オーロラで有名なイエローナイフから見てその大きな湖を挟んだ反対側に位置するパインポイントの近くに俺たち住処がある。

 

───元々、俺が所属していた傭兵団の拠点ではあったのだが…俺一人残して壊滅してしまったものだからそのまま使わせてもらっている。そろそろ成仏したものかな、皆は。

その際に出たスクラップは活用させていただいている。

 

そのがら空きになったガレージで愛機の整備を行っていた。

 

「フィーシャ」

「来たか。頼む」

「分かりました」

 

たった今ガレージに姿を現したリーリカに、コクピットの内部から垂れ下がったケーブルに繋がっている端末を手渡す。

俺は()()()の方はさっぱりなので彼女に任せっきりだ。

そういう契約なんだ。

 

「…」

「…」

 

無言の作業はいつものこと。

彼女は元々無口な方なのだろうとは思っている。…ただまぁ俺は遠慮なく話しかけるのだが。最近は、よく話してくれるようになった方だ。

 

「復旧率はどれくらいだ?」

「7割です…やはり、"教育"を直にしないとこれ以上は難しいかと」

「動作パターンのデータがほとんど死んでたもんなぁ。実際に動いてシステムに覚えさせるしかないか。シミュレーターじゃもう限界なんだろう?」

「はい」

「都合よくモビルワーカーしかいない海賊狩りの依頼でもこないかねぇ」

「ヒーローショーの出演依頼なら来てますよ」

酔狂(すいきょう)すぎんだろ」

 

エイハブ・リアクターの影響から街中に持ち込めないって知らないのか?

 

「映像出演だそうです」

「余計にわからん」

 

ヒーローショーなんだよな?

映画の撮影じゃなくて。

 

「…改修箇所が多すぎてパッチワークのこいつが映像映えするとは思わないがねぇ…」

「そこは編集でどうにでもなるそうですよ」

「なんで俺んとこに来たんだそれ…」

「………さぁ?」

 

OSの調整が済んだリーリカが端末の画面を操作し、依頼の詳細を表示した。

彼女の肩越しに画面を覗き込む。

あ、いい匂い…ってうお、支払いは悪くないぞ。

 

「…なんか怪しくないか?」

「こうしましょう。相手がただの酔狂だと期待する」

「本気で言ってるか?」

「他に何にもないんですよ」

 

メールの履歴を確認する。

怪しげな広告メールや、明らかに怪しげでやばそうな依頼が数件と、怪しげなヒーローショーの依頼。

怪しいのしかねぇ。

だが確かにこれは依頼主もはっきりしてる。

 

「…」

「…」

「…や」

「や?」

「………やるかぁ…」

「もう連絡いれていましたので、明日にも出ることになると思います」

 

その言葉に対して至近距離でまじまじと彼女の顔を見やる。

 

リーリカはそのじっとりとした目のまま見返してくる。

 

主導権は既に握られていた。

財布の紐も握られている。

首輪の紐も危うい気がする。

 

マネージャー兼オペレータの"リーリカ"はこういう女なのだ。

 

しかし多分、彼女に握っている自覚はない。

………じゃぁ俺が勝手に握られてると思ってるだけか。Хуй(ディック(クソ))

 

「…OSの教育にもちょうどいいかもなぁ」

「思いっきり動いても良いみたいなので、ついでにやってしまいましょう。踊ったり」

「踊りはしないが、なんか都合良すぎないか?」

「そういう日もあります」

「文字通り誰かの手の平の上で踊らされる気がする」

「そんなこと言ってないで準備しますよ、時間もないんですから」

 

もっと前もって言ってくれれば良かったのでは?とは口に出さない。

あまりに不毛すぎた。

 

そうしてがら空きのガレージに少し慌ただしい二人分の足音が響く。

 

…システムがある程度復旧すれば戦闘もできるはずなので、それまでの辛抱かぁ…

そうすれば余裕もできるだろう。

代わりに命の保証はなくなる。戦場、そういうものだ。

 

この機体はOSとかシステム面が完全に終わってるスクラップだったからこそ安く仕入れられたので文句は言えないが、かつてのあの戦えるゲイレールが恋しい…

そのゲイレールの装甲は今やフレック・グレイズの一部である。南無三宝。

 

ようやく準備が一段落したので椅子代わりのコンテナに腰かければ、リーリカからタオルを渡されたので汗を一拭き…どうにも、こういうところには気が利きすぎる女だ。

 

後はトレーラーに乗せるだけとなったフレック・グレイズを、首にタオルを掛けながらなんとなく眺める。

…相変わらず安価なナノラミネートアーマーで補修したために白が多い多い。

 

前の現場で汚れた脚部の泥は綺麗さっぱり落とされていた。

 

弾痕は、今はまだない。

 

モビルスーツ一機だけの傭兵なんて湿気た商売だ。

リーリカのこともある。

足を洗った方がいいのは、俺だろうな。

この白を汚してしまう前に。

 

「何を考えているのですか?」

「一応武器とか持っていった方がいいのかなってさ。弾は抜いて」

「確かに…聞いてみますね」

 

ま、いいか。

なるようになるだろう。

 

頼んだわ、とリーリカの肩を軽く叩いて愛機に向かって歩く。

とにかく酔狂な依頼を終わらせてから考えよう、と俺は未来の自分に丸投げした。

頑張れ、未来の俺よ。

 

 

 

 

 









■エフィーム・アダモフ(Ефим・Ада́мов)
略称で"フィーシャ"と呼ばれている。
ロシア系らしい。
傭兵団でゲイレールパイロットを務めていたが、仲間が全滅し、乗機も大破した。
MSを探すも、中古のフレック・グレイズしか手に入らなかった。

■エヴァンジェリーナ(Евангелина)
略称で"リーリカ"と呼ばれている。
寡黙な性格だが最近はよく喋るようになった。
フィーシャとはマネージャー兼オペレータとして契約している。かなり有能。

■フレック・グレイズ改(寒冷地仕様)
中古品。グレイズより頭一つ小さいMSでマスコットとして人気が…違う?
OSとかコンピューター系が終わってたがフィーシャが気合でぎりぎり動けるようにした。
それでも戦闘面のシステムが絶望的だったために重機扱いでバイトをさせられていたのだが、リーリカのおかげで復旧の目処が立つ。
でもヒーローショーはどうかと思う。




Hloekk(フレック)の語源がわからない今日この頃。
10話以内の短めで、原作にはあまり介入しないです。
今は1期終了からだいたい1年後あたり。
あ、関係ある人は出ます。

それとしばらく続きは投降できないと思います。
プレオープンならぬプレ投降。
ところで私はガンダムあんまりわからないんですが(致命傷)


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