綿ぼこりたち   作:凍り灯

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お待たせしました。
そしていつもより長くなってしまいましたので十分な時間を確保し、画面から1㎞くらい離れて見てください。

※1:一部、違和感ある表現を修正しました。
※2:誤字と一部内容を修正しました。







dead mans walking

 

夜はまだ明けず。

針葉樹林の中にぽっかりと開けた平地である広い試験場は多くが抉られ、小さなクレーターがいくつもできていた。運よく被害を免れたところは背の高い雑草が呑気に生えるばかり。

そしてその試験場にて機能を停止した二機のモビルスーツ。

 

一機は深緑色のゲイレール。目立った外傷は唯一、コクピットに開けられた穴一つのみであり、まるで滑って転んだ直後かのような滑稽さを見せつけながら背中から地面に倒れ込んでいる。当然それは俯瞰して見た時の話であり、この巨人に対して蟻んこ程度の大きさしかない俺たちから見上げれば別の話だ。どちらかというと、地面から起き上がろうとする力強さの方を感じてしまうのは感傷的過ぎるか。

対してゲイレールに背を向けるように片膝をついているのは俺の灰色のフレック・グレイズである"ヴェーチェル"。

 

…言うまでもなく満身創痍(まんしんそうい)だ。

 

右手首はへし折れ土に汚れ、両足も膝下はボロボロでついでに土に汚れ、左腕のシールドはスクラップと言っていい程べこべこに波打っている。背部の追加ブースターも左側が一部吹き飛んで黒焦げているし、他の装甲も弾痕が生々しく刻まれている。

何よりコクピットブロックがない。ちなみに俺たちの後ろで踏みつぶされた虫みたいに伸びているモビルワーカーが"それ"だ。

 

 

―――本当に…本当にギリギリだったな。

 

 

機内に備えてある応急キットから引っ張り出して巻いた頭の包帯を撫で、おもむろに解けたまま放置していた長い黒髪をくしゃっと握り込む。

 

震えていた腕は、もういつも通りだ。

 

しばらくの間、スモークグレネードによりまき散らされた白煙が風で流されていくのを眺め、視界が十分開けたことを確認した俺たちはゲイレールへと近づくために歩を進める。

()き散らされた煙―――白リンは、一見無害にも見えるが発煙直後は液状化し飛沫となって飛び散る。その際に人体に付着すれば油を被ったような不快感と同時に体温の高さで自然発火するために結構(たち)が悪い。

 

破裂した直後でなければそんなことないのだがら大丈夫、と思うかもしれないが今の今まで動きたくなかったのは他に理由がある。

なんせこの煙、ドブのような洒落にならない匂いがする。

 

バル(バルトーク)のやつがこいつ(スモークグレネード)をハウスダストと呼んでいたのもよくわかる。軍の関係者からも「なる程この匂い…だからfleckmans(棉ぼこり男たち)か」と納得されていた。納得しないでくれ。

 

リーリカも隣で鼻をつまみながら「確かに私も風上に置けない女になってしまいましたね…」なんてしみじみと言っているが納得しないでくれよ?そうじゃないからな?

 

多少ましになったとは言え、未だに消えない悪臭は疲れ切った身体の膝を折ろうとしてくるが、今はそんなことも言っていられない。

髪の毛を鬱陶しく垂れ下がらせたまま、俺は雑草を掻き分けて物言わぬ鉄のオブジェと化した巨人へと近づいた。

 

 

 

 

 

―――ガランは生きていた

 

右腕を失い、コクピットブロックはコンソールを背後から貫き穴が開いており、打ち込まれた鉄の杭に引っ掻き回されるようにコクピット内は無秩序に荒れ果てている。

その余波を受けたガランは当然腕を持ってかれるだけで済むはずもなく、細かい描写は避けるが"悲惨"の一言だ。

 

それでもまだ、生きていた。

今にも途絶えそうなか細い息を吐き出しながらも、ガランの浮かべる笑みは最初にあの時、バーで会った時と何一つ変わらない気がした。血に濡れて似ても似つかないはずなのに。

 

俺はゲイレールの、内側からの衝撃で吹き飛んだコクピットの前面装甲の"残りカス"に足を掛け、覗き込むようにガランを見下ろす。

 

会話はできるのか?

 

どちらにせよ、これで最後なんだ。

 

「殺そうと思えば格納庫に俺たちが入る時点で、いや、もっとその前から、ただ近づいて踏み潰せばそれで終わってた。"狙撃"なんてわざわざ回りくどい方法なんざする必要はなかったはずだ」

 

道端で会ったかのような気軽さで俺は問う。

意趣返しだ。余裕ばっかこいてるこいつに対しての。

 

「…()()の、成長を見てやるのも…役目の一つだろう?」

「―――そうか」

 

息苦しそうに呼吸をする中、まるでそうするのが当たり前だというように、やつは俺の問いに対して答えにならない答えを言う。未熟な後輩に教えてやるかのごとく、この状況になっても余裕の態度を崩さない。

…最も、この瀕死の状況を見ても俺がそう感じるのは、ガランに対しての印象が最初の出会いの時の印象に固定されてしまっていたからだろうな、なんて思う。

 

ガランの吐き出した言葉の意図を読み取ろうとし、ふと、やつの顔を見る。

死を悟ったからなのか、それとも虚勢なのか、変わらず挑発するような笑みを浮かべる血だらけの髭面を見て、ごく自然に、ガランと団長(ブランドン)が戦場でコーヒーの入った杯を交わし合う姿が思い浮かび消えた。

 

 

 

―――あぁ、そうか。

 

 

 

ガランと団長は、親友だったんだ。

 

 

 

その顔を見て、俺は何故かそう確信した。

 

「よくも…まぁ、あんな()()をした、もんだ…」

 

気持ちを切り替える。

演技か…俺は結局、ガランとの殺し合いでは団長の教えを引き出しきれなかった。

そうなれば必然的にガランに勝てる要素がなくなる。現に、そうだった。

ガランと団長が親しい中であった以上、互いの手の内は知れているはず。であれば団長に追いつくことのできない程度の技量では"詰み"に近い。

 

だから俺がより意識して引き出した"教え"は、モビルスーツの鼓動を聞くこと…つまり機械の調子の把握、その上で把握した情報を信じての臨機応変な判断。

 

団長はこう言っていた。

「人の心臓が脈打つように、モビルスーツにもリアクターの鼓動がある」

「人もモビルスーツもリズムという"しがらみ"からは抜け出せない」と。

 

戦闘の合間も常に機体状況を把握することで、消耗を抑えつつ合理的な無駄のない動きや判断をするための教えだが…そこに"俺流"のアレンジを入れさせてもらった。というか、辿()()()()()()()()からそうせざるを得なかったというか。

 

フレアバーテティングと同じだ。

手の内を知られているならば、そのアプローチ(表現方法)を変えればいい。俺らしいやり方へと。

 

そのためにヴェーチェルの状況を正しく理解することにより比重を置いた。

 

機械への理解。どこまでが可能で、どこまでが無理かのラインを正確に把握すること。俺が勝つ上でなくてはならないことはそれだったのだ。

後どれ程ブースターは使えるのか?イカれた右手首の限界は?損傷した左脚の関節の可動域はどれぐらいか?マチェットは経年劣化と合わせてどれくらいガタが来てる?とかな。

 

左脚の動作不良による隙、マチェットが折れたこと、ブースターの破裂等々、それらをこちらが意図したタイミングで引き起こすことによって、ただでさえ満身創痍の機体から滲みだす"限界"を()()、ガランでさえその優位性を決して疑わないようにと思考誘導をした―――と自信を持って言える()()でもなかったか…

 

これは何もかも、最後の"一撃"を行うための布石だ。ミサイルとサブマシンガンをさっさと撃ち切ったのも、ピッケルを再度掴ませることで余裕を持たせたのも。

 

それとガランがライフルを撃つときのあの構えも重要だった。なんせ両手が塞がる。確実に仕留めるために、俺たちへの"とどめ"はライフルで決めて欲しいと思っていた。

だからこそのモビルワーカー。

接近戦をするまでもなく、たった一発の銃弾で終わってしまう脆さを押し出すために分離した…という理由()ある。

モビルワーカーの脚が折れたのは偶然だが、最初から故障か何かの"振り"で少し離れた位置で止まるつもりでいた。

 

 

生きた心地は、全くしなかったが…

 

 

はっきり言ってアドリブだらけの綱渡りだ。

シールドをピッケルで弾かれた瞬間は死を予感したし、マチェットをへし折られた時も(あの奇襲が上手くいった時は決まると思っちまった)思考が一瞬停止しかけた。シールドアックスなんてもう二度と見たくないぜ。

あまりに、あまりに細い隙間を駆け抜けた………リーリカが腕の中にいなければ、途中で恐怖で目を瞑って諦めてしまったかもしれない程の。

 

他に方法があったんじゃないか?と今でも思う。

だが、スペックも技量も上で逃げる暇も与えてくれない状況では、無理やり隙を作って意識外から仕留める方法しか思いつかなかったんだから仕方ない。

 

獲物を仕留める瞬間が一番隙が大きいと言うやつだ。

特に、勝利を疑いようもない状況になったならば尚更のこと。

 

これは何もかも、"リーリカの手腕"と、何より"ガランの観察眼"を信じて走り切った。

ヴェーチェルの動作の中に、追い詰められる"表情"が出るように動かなければいけなかった。あからさま過ぎず、だけどガランのような手練れでなくては気づかないようなほんの小さな"表情"。

 

阿頼耶識がない以上、それはなかなか至難の業で………それを行う上でヒーローショーやらなんやらの経験が存分に活きてしまったのはぶちゃくそ複雑ではあるが、命を助けれられたことに変わりなかった。

あれだけ余裕がない中で成し遂げられたのは推進剤が尽きるまで撮り直しを要求してきた監督のおかげだろう。憎しみすら覚えているが、今なら…いや、やっぱり納得いかねぇ。

 

そんなことを、死にかけの男に事細かに言ってやる必要もないだろう。

 

「―――俺はこう見えてモビルスーツを使った"演出"は得意なんだ…(ろく)でもないバイト(フレッくん)のせいでな」

「く、くっくっ…こりゃぁまた一本取られたな―――ほんと、でかくなったもんだ」

 

ガランは重そうな瞼をこじ開けながら、俺の背後、片膝をついた灰色のフレック・グレイズ"ヴェーチェル"の背中へと目を向ける。

 

「―――いい機体だな」

「だろう?」

 

―――最後、ヴェーチェルが独りでに動いたのは単純。

時間差であらかじめプログラムさせていた動きをさせただけだ―――とは言うものの、完全にリーリカの手腕頼り。最初頼んだ「パイルで突く」という動作パターン以外に俺が戦闘中追加で頼んだのは「時間差で動く」というもの。

 

それが出来たのも、エイハブリアクター以外に予備電源、兼モビルワーカー用の水素エンジンが積んであるからこそ。分離した後も、リアクター自体はヴェーチェル本体に残っているから出来た芸当だ。

 

…だとしても、ハッキリ言って無茶ぶりだ。大元の"脳"がない状態で動かさなければならないのだからクリアしなくてはいけない条件は厳しそうだ。

人ではなく機械なのだから出来るの可能性があるとは言え、そもそもそんな使いかたは考慮されておらず、時間差の行動を行うというだけで複雑な要素が絡み合う可能性は大いにある。

 

そも基礎があったとは言え、いきなり「モビルスーツの挙動を一から組み立ててプログラムして下さい」なんてひどい話だ。しかも戦闘中ときた。

性能試験なしでモビルスーツを売り捌くようなものだ。実際に動かすまで何が起こるか分からない。開けたらさぁどうなるビックリ箱。俺はパワハラ上司もびっくりな所業を頼み込んだわけだ。むしろ無能上司か。

 

だが、リーリカは見事にやり遂げてくた。

とは言え、俺も少しは勉強した身、さすがに複雑な動きは無理なのはわかっていた。

 

だから必要だったのはガランのゲイレールとヴェーチェルを隣接させ、プログラムする動作を少なくすることでリーリカの仕事を減らすという事。そうすれば彼女が時間内に間に合う可能性も高くなるし、一発本番でエラーを起こす心配も少しは減る。

そしてなにより、この単純な動きで確実に仕留める上では「ヴェーチェルに背を向ける」という状況が必要だった。

 

"素人から見ても明らかに大きな隙"が欲しかったんだ。

モビルワーカーを使ったのはこっちの理由もあった。

 

その状況を作りたかったからこそ、俺たちは"囮"となった。自らの牙をガランの目の前で分かりやすく、且つ不自然なく抜き取り、何もできない(獲物)を演じた。

そして予想通りガランは抜け殻となったヴェーチェルに背を向けた。その投げ捨てられた牙が首筋に喰い込むとは思いもせずに。

 

…割と、本当にどうなるかわからなかった"賭け"は、最後の"とどめ"の方法についてだ。一番重要であり、ほぼ運任せであったのは否めない。

 

わざわざ瀕死の敵をアックス等で叩き潰す趣味があれば死んでいた。ヴェーチェルとゲイレールの距離が開いてしまえば、攻撃は十中八九(かわ)される。ライフルによるとどめを望んだのはそういう理由もある。"闘い"から"狩り"となった以上、足が止まると思ったからだ。

 

「たった一発の銃弾で終わる」という心理的な誘導に乗るかどうか。

その前段階として徹底的にズタボロになって「もうこれ以上無理!逃げる!」と思わせようとしていたが、それでもどうするかなんてわかりゃしない。

 

無駄弾を使わないためとかなんだかで近づいて来ることも危惧したが…結局ガランはライフルによる"とどめ"を選んだ。

賭けに勝ったのだ。

 

もしヴェーチェルにパイルがあるなんてことを知っていれば、もう少し"本体"にも警戒していたかもしれない。

 

しかし、最後までこちらの切り札は隠し通され、見た目上は丸腰になった段階で少なくともやつは負けることはないと確信してしまったはずだ。くどいようだがなんせ、武器一つない満身創痍の身を演出してやったのだから。

 

ブースターの暴発で倒れ込んだのもガランを近づけさせるためだったんだぜ?あれも結構危なかったけどさ。

もしかしたらリーリカに咄嗟に頼んだ"悲痛な声"が効いたかもしれないな。

 

…だがまぁ、結局、ガランがどういう心情だったかなんて、わかりようがないんだけどな。

 

 

「―――懐かしい、銃だ…そんな骨董品、まだ残ってたとはな。はは…やはり、あいつのガキってだけは…ある、な……………―――」

 

ガランは目を瞑り笑う。

俺の手に持つ、願掛けとしてコクピットに持ち込んでいたリボルバー。こいつの言う通り、厄災戦以前のかなり昔の銃だ。

団長が持っていた時からずっと手入れは欠かされていないから、今でも撃つことは出来る。

 

小さな花のレリーフが彫られた懐中時計。

ゲイレールを背に撮った集合写真と、その額縁。

古ぼけた電気スタンド、そのランプカバー。

そして団長の、ただのコレクションだったエンフィールド・リボルバー。

 

いつか皆が俺に贈ってくれたものだ。

 

「そうだ、団長の、そして俺にくれた銃だ。子供の頃に貰ったもんだ。使うことなんて、永遠にないと思っていた」

 

思えばこれも元ヒューマンデブリらしい思考から手に入れてしまったようなもの。

欲しいものを聞かれて、咄嗟にコレクションとして見せて貰った銃を要求するなんて。何故欲しがったかは覚えてない。戦いでしか役に立てないと、あの頃は思っていたからか。

 

リボルバーを構える。

脂汗を浮かべ、目を瞑って笑うその顔に向けて。

 

 

最後だガラン。

そう言おうとして、俺は動きを止める。

 

 

「………」

「   」

 

 

俺たちを殺しに来た理由は仕事か?それとも、仕事のために邪魔だったからか?俺に話した"目的"とやらは、どこまでが本当だ?リーリカのことは、どこまで知っている?

聞きたいことはたくさんあった。

 

 

「―――………ほんとムカつくひげおやじだ…」

 

 

俺はリボルバーを持つ手を下げる。

もう意味がないからだ。

 

 

 

ガランは死んでいた。

 

 

 

随分と満足そうな顔して、死にやがった。

 

 

俺はあの夜、ガランが俺に語った言葉と、団長との昔話を思い出す。

嘘と真実は入り混じっていたのだろう、だが今ならわかる。団長に対しての親しみの感情は本物だった。

それでも、やつは殺った。

 

何故?間違いなく、ガランは自分の意思で殺しただろう。

それ以上は、推測の域を出ない。

確かめる方法は、もうない。

 

「何でたった一人で来たんだよ…あの時は違っただろ。最後の仕事で手抜きしやがって」

 

"鉄華団の打倒"という目的で集った傭兵もいただろう。だが、恐らく俺に語った謳い文句で集めた傭兵もいたはずだ。俺とタイマンを張る必要なんざなかったはずだ。自分の力への自信?

いや、そもそもガランはまるで俺との戦いを楽しんでいるかのようだった。それは単に俺を逆撫でするために浮かべていた笑みだと思っていたが…本当にそれだけだったのだろうか?

 

それももうわかる機会はない。

 

(ガキ)の成長を見守るってさ―――」

――団長と、そんな約束でもしてたのか?俺は本当は()()()、生かされたのか?

 

 

 

『―――悪く思うなよ。仕事だ』

 

 

 

あれは明確に、俺に向けて言った言葉だったのか?

 

それがわかることは、きっともうないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィーシャ…」

 

私はコクピットから降り立ったフィーシャに歩み寄る。

フィーシャは私に気が付くと、結局撃つことのなかったリボルバーをポケットに雑に収め、代わりに取り出した髪留めで垂れ下がらせたままだった髪の毛を結んだ。

 

顔を上げた彼は、いつもと変わりないように見える。やる気の感じられない、それでいて油断のない目だ。

だけど…

 

 

 

―――不思議ね、いつもあんなに明るくて、お葬式のときも氷の花にはしゃいでいたのに…―――

 

―――無理もありません。彼らはまだ子供。無意識のうちに多くの葛藤を胸に押し込めている。そのひずみが時に表れるのでしょう――

 

 

 

ふと、いつかお嬢様と話した時の自分の言葉を思い出す。

 

フィーシャは大人だ。

私が記憶を思い出すに至ったきっかけのあの匂いは、確かに鉄華団の、イザリビで感じた汗臭さ―――あれは誰もが身を清めることを怠っていただけなのだけど―――は同じかもしれないけれど。

 

だけどフィーシャは彼らと違い、()()()()()()()()()()()()()()にいる。

ヒューマンデブリ時代の絶望を、団長や団員を失った挫折を。

それに引っ張られることなく、彼はやり切った。持てるものすべてを引き出して。

 

…そうだとわかっているのに、今のフィーシャを見て"何か"を失くした"子供たち"と重なった。

 

 

「―――リーリカ………」

 

 

だから駈け寄り、抱きしめた。

あの時の子供たちのように。

 

…いや、子供だとか、大人だとか、そんなことは関係ない。

 

誰もが子供の頃、今の自分と未来の自分が別物だと思っていた。

だけどそれは間違いで、全て一本の線でしかない。昔の自分は今の自分でしかあり得ない。

 

団員に囲まれていた彼と、一人になってしまった彼とが同じであるように。

記憶を失くした私と、取り戻した私が同じであるように。

それを知ってるからこそ、彼は当たり前のように"福音(エヴァンジェリーナ)"と私を呼ぶのだろうか。

 

 

―――小さな子供でなくても、慰めがあったっていいじゃないか。

 

 

 

 

 

…なんて言い訳して、何が私の本心なのやら。

私は自分の震えを誤魔化して、包み込むように、そして縋りつくようにしがみ付いた。

 

戦いの最中、生きた心地なんてしかなった。

彼がいなければ折れていたかもしれないのは、私だってそうなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に寝かされ、幾人かの作業員によってコクピット周りを修繕されているたフレック・グレイズを見る。

手足を全て取り払った状態を寝かせると言っていいかあれではあるが。

 

俺たちが今いる場所は2番格納庫(ガレージ)…そう、崩壊した格納庫とは別の、全く同じ造りの建物だ。

 

元々ゲイレールを五機も持っていたのがこのfleckmansの拠点だ。

必然的に、格納庫が一つでは間に合わなくなる。今までは手持無沙汰でもあったので頭の片隅でレンタルガレージでもやろうかと思ってた手前ではあるが、それは一旦見送ることになりそうだ。

如何せん、流れ弾やらなんやらで被害が出ている場所もある、当分は拠点の修繕作業にも追われることだろう。

 

が、今は突っ立って見てるだけだ。

"餅は餅屋"ということだ。今やって貰ってるのは、爆裂ボルトによって破断したコクピット部と機体フレームとを繋ぐボルトの修繕だ。かなり重要な場所なので、ノウハウは一通り叩き込まれてるとは言え念には念をと専門家を呼んでいる。正確には()()に呼ばれた。

さらにその前にモビルワーカーのへし折れた脚部も取り替えて貰ってる。

元々この機能は初期型のみだ。予備のパーツが手に入らないとう事態になったが、それも()()()()()()どうにかなっていた。

 

ともかく、その現状最も重要な部分が終わらない限りは俺もこいつの修繕に手を出せないわけだ…元通りになるまで付き纏われそうな兆候が既に見えているんだが。

 

「では拠点の修繕を手伝えば良いのでは?」

「いーんだよ、こき使ってやれば。それにこれは()()の範疇だ。手を出しても向こうのメンツが立たないだろ?」

「そういうものですか」

「そういうもんだ…それ程にでかい"貸し"になったってことさ―――だからその差し入れも程々にしとけよ?」

「皆さん!休憩にしませんか?焼き菓子とスポーツドリンクを持ってきました」

「聞いてくれよ」

 

リーリカの呼びかけに黄色い声で答える作業員(主観だが)を見て溜息をつきつつ、彼女の持ってきた焼き菓子…クッキーか?を覗き見る。

 

 

両手で万歳するフレッくんの形だった。

 

 

「………………なぁリーリカ」

「フィーシャもお一つどうぞ」

「あ、うまい―――じゃなくてな?」

「スポーツドリンクもどうぞ」

「お、ありが…待て、何だこのラベル…『飛び込め!フレッくん!』?コラボ商品??"踏み込め"じゃなくて?二期でもスタートしたのか??」

「よくわかりましたね」

「………まじか?」

「まじです」

 

今度はどこに飛び込むんだ?修羅場とかか?あぁきっとギャラルホルンと誰かの争いの最中に突っ込むんだろ?まじでやりそうだから怖い。

 

「つきましては、新しいオファーがあります」

「お前実はかなりノリノリだよな?」

「うふふ」

 

 

―――あの戦いから二週間経った。

 

 

あの後すぐ、戦闘が終わった後に連絡を入れていたアドウェナじいさんがヘリで急行してくれた。

 

野次馬根性(はだは)だしい常連のじいさん共も引き連れて来たけど。簡易的だが武装していたから、一応心配はされていたらしい。

死生観が達観してると思っていたが、さすがのじいさんも今回は心臓に悪いと小言を零しており、あの時はその小言が素直に嬉しかったものだ。

前回の俺は瓦礫の下にいたんだからな。

 

その後じいさんは軍と繋いでくれた。近くまでは来ていたようで、その到着は比較的早い。

俺はガランの口ぶりから何か妨害工作でもしてるのかと思ったがどうやらそれはブラフ。単純にエイハブウェーブ下に晒されたせいでレーダーが機能不全を起こし、位置を特定できなかったようだ。

 

俺たちが拠点にしている場所は"旧ウッドバッファロー国立公園跡地"ということもまた、発見が遅れていた理由の一つだ。

40000k㎡を超えるかつてはカナダ最大の自然保護区だったらしいが、人の済まない地域ということで戦場に多々選ばれてしまい、厄災戦の影響を大きく受けた土地の一つでもある。

300年経った今でも有毒ガスが残留し、砲撃によってできた苔を(まと)った小さなクレーターが無数に敷き詰められている。その中には元の地形すら大きく変えてしまっているものもある。

加えて当時は不発弾の回収などやってる暇がなかったのか、未だに多くが地面の中に隠れており、年月が経ってしまった故に余計に発見が難しくなってしまっている。

不発弾だけではない、銃弾に使われている鉛もまた大きく影響を与えた。

弾丸は風化し、土壌に染み込むことで土壌や水が汚染…さっき言った有毒ガスも合わせてアーブラウ政府によってレッド・ゾーンに区分…つまり「人が生活するには危険すぎる地域」とされている。

 

団長のようにコネクションを使い、あと金と時間をかけて居住地の有毒物質を除染と不発弾の除去のできる人間や、危険と知って尚住み居る無法者を除いて立ち入る人間なんていない。

蛇足が多くなったが、人が少ない上にこれだけの広さを誇ればガランがさっさと俺を始末するつもりであった以上、十分な時間が確保できることだろう。現にそうだったわけで。

 

これには俺も思わず(うな)った。

 

というのも、信号弾を打ち上げるだけで状況を打開できていた可能性があったからだ。

あの開けた試験場に誘い出したのも、モビルスーツの姿を遠目から樹木によって隠すためでもあったんだろう。つまり、俺は綺麗に誘導されていたわけだ。

だからこそ、逆に思考誘導を掛けられると思ってなかったというのも勝因の一つかもしれないが、それは置いておこう。

 

その後、俺たちは軍の立会いの下、事の顛末(てんまつ)を話した。

ガランは軍の一部では有名らしく、だが悪い噂があるわけでもなかったために俺の証言を(いぶか)しむ者もいてて、それは俺にも予想はできていた。

きっと多くが、"俺が仲間を殺された復讐目的で殺した"と思っているのだろうなと、どこか他人事のように考えていた…のだが、これはガラン自身が残した"置き土産"に否定されることになる。

 

「…わざと残したと思うか?」

「どうでしょう…自爆シークエンスにすぐ移行できるようになっていたらしいですが…"コンソールが破壊されたせいで出来なかった"と考える方が自然かと」

「そうだよな…」

「少し、肩入れし過ぎですよ…?殺されかけたと言うのに」

 

リーリカが呆れたように言う。その妙に優しい目で見るのは止めてくれ…

 

"置き土産"、それはガランのゲイレールから絞り出されたデータの中にあったギャラルホルンとの通信記録のことだ。

コンソールごとパイルで貫いたからおじゃんかと思いきや、全てではないにしろ一部のデータが残っていたらしい。

 

と言っても、大した記録は残っていたわけではない。

元々ガランが削除した残骸をサルベージしたものだし、そもそもほとんど壊れているから仕方が無いことだろう。だが、それでも間違いなくガランがギャラルホルンと繋がっていることだけは分かる程度には復旧できたらしい。詳しくは俺も知らない。

 

内容が知らされることもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか"アーヴラウ国防軍発足式典"の直前にやるとは豪胆だよ、ほんと」

「延期などせずに、それまでに解決してやろうと言う気概を感じましたね」

 

―――壁にかかったシックな時計の針は午後三時を指している。いつものアフタヌーンティーの時間。今俺たちは格納庫を離れ、ダイニングルームで紅茶を飲んでいる。

 

ここは被害のなかった部屋…ではない。運悪く流れ弾の直撃した部屋だ。

 

木製のテーブルを挟んで向かい合う俺たちが顔を横に向ければなんとまぁ綺麗な青空。ようやく適温になったこの時期のそよ風を崩れた壁の大穴から直に浴びつつ、そんなこと知らんと紅茶を(たしな)む。壁が壊れた程度で済んだだけ御の字だろう。

が、その影響でお気に入りのフォノグラフ(蓄音機)が壊れてしまったので、新しくモダンなデザインのオーディオプレイヤーを買わなければならなかったことは遺憾(いかん)である。

…そのスピーカーからノイズのない、どこかゆるやかな曲調のロックである『Stay up late』が流れているからか、この開放的なのも雰囲気としては悪くはないと思えてきたことが救いか。オセアニア連邦の島国のバンド、the band apartの曲だ。

 

あぁ、せっかくだから窓を大きめにしてもらうように頼んでみよう。どうせ全額向こう持ちだ。

 

壊れた骨董品のフォノグラフを横に、新品のオーディオプレイヤーが音を響かせるさまは、ここに新しい"風"を運んできたかのような、そんな空気が入れ替わる新鮮さをほのかに感じさせる…そう、壁の大穴から文字通り入り込んできてもいる。

 

再度、これ見よがしに見せつけられた青空へ顔を向ける。

雲一つない青が覗く大穴に向かって、真新しいスピーカーはこう言った。《風鈴はビートを止めない、ほらこんな風に》と。

次いで《Ooh-ooh-ooh-》というヴォカリーズがそよ風に合わせて流れて来る。

まぁ、こう言うのも悪くはない。

 

そんな風に音楽を聞き流しつつ、どこのスーパーでも売ってるバタータルトを一摘み。レーズンやナッツの入ったバタークリームが美味い。

リーリカは優雅に紅茶を飲みながら懲りずに送られてきたファンレターを開封している途中だ…以前より量が増えた気がするのは気のせいか。

 

俺たちが今飲んでる紅茶はタルトと同じくどこでも売っているメープルティーだ。観光客がよくお土産にもしている。メープルとセイロンがブレンドされた紅茶で、柑橘(かんきつ)系の香りが特に良い。勘違いされがちだが、この紅茶はあくまでフレーバーティー(香料や果皮などで香り付けしたもの)なので甘いわけではない。そこはお好みでシロップや砂糖を入れる必要がある。

 

 

 

さて、一週間前、ガランの集めた傭兵はお縄についた。

 

 

 

やつらはアーブラウとの国境付近のSAU領内に拠点を構えていたのだが、アーブラウはそれを逃さなかった。

加えてやつらは国境を(また)いだわけなのだから当然、SAUとの連携が不可欠なために二国間で協議されることになる。

どういった話し合いがあったかは知らない。最終的にSAU側が譲歩することでアーブラウ国防軍のフレック・グレイズが国境を踏み越えた。

 

 

『いざ踏み込め!フレッくん!!』

 

 

…この時、フレッくんのメインテーマが頭を過ぎったのはきっと俺だけじゃないはずだ。いや、リーリカと俺ぐらいだったかもしれないけど。

果たしてそのせいなのかどうかなんて知りたくもないが、SAUから割と邪険に扱われることもなかったらしい。きっとマスコット的な面を知ってる人間が多かったのだろう。いや、流石にそんなわけない。

ともかく、ピリつく国同士を繋ぐことになったのは、意図せず現れた共通の敵だったわけで…体よく供物にされた傭兵には多少同情もする。

 

あと、鉄華団の地球支部からもなんか一人捕まってたらしい。

 

そいつとの記録もガランのMSから運悪くサルベージされてしまったのだ。まぁ、南無三宝。ガランが執念で道連れにしたように思えるのは気のせいだろう。

 

俺があの日ガランと話した時の証言と照らし合わせて、軍が本気出した結果、意図的に戦争を起こそうとした容疑(仮)で徹底的にやつらは囲まれ、追い回され、独房にぶち込まれた。完全な不意打ちによる二国間の物量作戦である。アーブラウのモビルスーツが先駆けであり主体だが、後詰めと包囲はSAUが行っている。あそこまで密になったフレック・グレイズを見るのは中々に壮観で面白い体験とも言えた。

 

「あれは可愛かったですね」

「………」

 

リーリカが「飛び込め!フレッくん!」のステッカーの貼られたファンレターを広げながら言う。サムズアップをしたフレッくんが俺を見ている気がする。ファンレターとは言え紙媒体を使うのは珍しい。なのにこの量である。一体彼らを駆り立てる情熱はどこから来てるのだろうか?

 

「そのデフォルメされたやつは可愛いとして、あれはなぁ…」

 

当時の様子をリーリカも俺も知っているのは、ガランと一騎打ちをした経験を活かせるかもしれないということで俺たちも現場に立ち会ったのだ。全員はあり得ないにしろアイツほどの手練れがいれば危険だ。少しでもリスクを減らすために、そして何よりフレック・グレイズを熟知しているためにと呼ばれたわけだ…というのは表向きだろう。

実際は俺のことをその段階でも疑っていたがために、監視やらなんやら含んでいたのだろう。

とは言え俺たちとしては特にびくびくする理由もないので自然体で過ごさせてもらった。そう言うわけで働いたわけでもなく、後ろの前線の指揮所から眺めていたわけだ。

 

それと鉄華団の連中は内部の人間が一人しょっ引かれた事情があったからなのか、参加を見送られていた。なのでリーリカはまさかのニアミスとなる。

 

…実を言うと、この傭兵達にとって理不尽な不意打ちが出来たのは今言った鉄華団の…ラ…名前は忘れたが、そいつが先にお縄に付いたからでもある。

というか"決定打"をぶち込んだのはそいつだ。

 

尋問が割と容赦なかったのか、それともそいつが保身に走ったからかは知らないが、洗いざらい吐いた。さらには拠点の位置に心当たりがあったらしくそれがまた大当たり。その拠点の捜索にはリーリカがかつて"アリアドネ"を通して発見した通信履歴の"穴"の情報も一役買っている。国境付近の不自然な動きはガランたちの仕業だったのだ。驚きはしたが納得はした、タイミング的に。

 

そんなわけでその…何とかーチェとか言うやつのおかげで俺の証言は現実味を帯び、思いのほかスムーズに傭兵の逮捕を終えることができたのだ。

 

 

…だが、鉄華団の方はまだ少々騒がしいことになっていると聞いた。

 

 

裏切りの発覚後、木星圏を中心に活動する企業複合体である「テイワズ」も加わって大事になっているとか。現在進行形である。

どうやら、鉄華団で捕まった男はそのテイワズから派遣された監査役だったらしい。なのでその誰かさんの身柄うんぬんで一悶着あったらしい。(かば)うとかじゃなくて落とし前的なあれで。怖いな。

 

当然、一番激怒しているのは鉄華団である。どうやらこの話を聞いて居ても立っても居られず火星からはるばる殴り込み(?)に来ようとしたらしく、そっちの対応でも国防軍は大忙しだ。なんとか地球支部の人員が(たしな)めたと聞いたが…どうなっているのやら。

 

―――まぁ、鉄華団みたいな輩にとって、派遣された大人が爆破テロなんてことに加担しようとしていたわけだから当然と言えば当然。しかも、狙いの中に鉄華団の他の仲間も入っていたらしい。

他にもなんとアーブラウの代表である"蒔苗東護ノ介(まかないとうごのすけ)"も狙いに入ってたらしい。やべーこと考えやがるとは思ったが、確かにガランが関わっているならばそれぐらいはするだろうという納得も今ではある。

 

 

それもすべては水の泡。

アーヴラウ国防軍発足式典はつい昨日、何事もなく終わった。

 

 

こんな風に芋づる式に色々とあったせいで俺はアーブラウ国防軍に大きな貸しを作ってしまった。…どころか、鉄華団にもである。

加えてリーリカこと、"フミタンの生存"ということを考えると、またてんわやんわになりそうだ…

 

ただ、それに関してはリーリカに考えがあるらしく、鉄華団諸々のことは俺は完全に任せることにしている。

 

で、今回作った"貸し"が、ただ今進行中の拠点やフレック・グレイズの修繕に繋がる。

あれよあれよと軍に雇われた業者が流れ込み、ついでにいつかの軍が背景にいたアイドルグループもやってきたりした。なんで来た。

 

ちなみに彼女らは俺が予想していた広告官ではなく、一応括りとしては"カレッジリクルーター"だったらしい。何でアイドルやってるんだ??

カレッジリクルーターは広報官と違い現役の部隊から派遣され、仕事についての質問や相談に答えるための人間たちだ…だから肩幅が………これ以上は止めておこう。

どうせアイドル官なんて内部に作れないからって、適当な肩書きを当ててるだけだろう。考えても仕方がない。

 

「…こうまで大事になったことを考えると、ガランを討てなかった時を考えると流石にゾッとするな」

「フィーシャ考えていた通り、鉄華団を利用して多くの犠牲が出る所だったわけですからね…現役の傭兵としては戦争が起きた場合はどうなのです?」

「戦争が起きれば確かに金にはなったかもしれんがな。そんな手の平で踊らされて神経すり減らしてまでやるほど飢えちゃいないし、それくらいの常識はあるつもりだ」

 

…思えば、たった一人の傭兵の死によってここまで大事になっていることが異常だ。

ギャラルホルンの誰かさんは、よっぽどガランのことを信頼していたのかもしれない。そう思うと生き残るどころか勝てたのは奇跡だし、ガランが俺ごときに足元をすくわれたのも妙な話だ。

 

 

―――…ガキの、成長を見てやるのも…役目の一つだろう?―――

 

―――ほんと、でかくなったもんだ―――

 

―――…あいつのガキってだけは…ある、な…―――

 

 

やめよう…どうにも感傷的になっちまう。

 

…しかし肝心のギャラルホルンの目的がまだわかってない状況だ。

どうやら話を聞いてる感じだと、ガランが俺に語った「マクギリス・ファリドを使ったギャラルホルンの権威回復」というのは嘘っぽい。そのマクギリスがラスタル・エリオンと対立気味みたいだ、と関係者からこっそり聞いたからだ。

そうなると俺には判断しようがない。なんせ角笛(ギャラルホルン)の内情なんて知らん。

 

その角笛も、アーブラウの追及に知らぬ存ぜぬらしいからどうなるやら…

国防軍としても、配備したばかりのフレック・グレイズのこともあるだろう。一筋縄ではいかないか。

 

…だがそれを抜きにすれば容赦する必要もないはずだ。かつてのアンリ・フリュウのこともある。代表である蒔苗氏が狙われたこともあり―――これ自体はキャラルホルンなのか独断かどうかの判断はできないのだが―――深い亀裂が出来たことだろうし。

 

そうなると俺の仕事も増えるだろうか。フレッくんじゃない。いや、そっちも増えるだろうが、ギャラルホルン関係だ。ドンパチするまでは現状ないだろうが、護衛関連の仕事は増えそうだ。

 

「…つっても、まぁしばらくはヴェーチェルに付きっ切りだからなぁ」

 

まだまだ完全に直るには時間がかかるだろう。その間は俺もリーリカもじいさんのバーでたまにバイトしに行っている…頻繁にはやってない。遠いんだよ、ここから何時間かかると思う?陸路で20時間だ。

 

 

…ヴェーチェルやバイトの件はいいとして、やはり俺が今一番気になっているのだリーリカのことだ。

 

 

「リーリカ、いいのか?鉄華団は」

「当然、このままではいられません。今回の事で鉄華団がまたこの"うねり"に巻き込まれることはよくわかりましたから…ですが、私は恩を仇で返す程、薄情者ではありません」

「それはよーく知ってるさ…それでも、本当はすぐにでも行きたいんだろ?"お嬢様"の元に」

「えぇ………」

 

リーリカは顔を伏せ、ティーカップの赤茶色の水面を意味もなく眺め始めた。

その憂を帯びた表情と、崩れた壁から覗く青空の組み合わせは非常に絵になっている。ずっと見ていたいと思う程に。

 

「…しかし"アドモス商会"に"フミタン・アドモス小学校"とはな…戦場からようやく戻れたと思ったら殉職(じゅんしょく)扱いされてて二階級特進していたことを知った人間の気持ちはわかりそうか?」

「何も知らずにひょっこり帰ってきたら、死んだと思われたのか自分の名前がついた記念館や銅像が置かれたのを見てしまった人間の気持ちはわかりましたね…」

「いやそのまんまだろ」

「なんとしても名前を変えさせなくてはなりませんっ」

「あぁ…まぁ確かに自分の名が入った学校は勘弁か」

 

 

リーリカは…"フミタン"のことを話してくれた。

 

 

どういう生い立ちで、何をしてきて、何を感じていたのか。

ノブリスゴルドンのこと、鉄華団のこと、"お嬢様"のこと。

 

ドルトでお嬢様―――クーデリア・バーンスタインを庇い、撃たれたことも。

 

彼女はあの時、奇跡的に生き延びた…だが、鉄華団の船に乗せられる余裕は全くなかった。かなり危険な状態だったのだ。速やかにその場を離れなければならなかった鉄華団はドルトの病院に彼女を置いていくしかなった。

そして、互いの再会を約束し―――――――――彼女は(さら)われた。

 

 

 

『早くっ病院へ…!まだ間に合う!間に合うはずっ!急いで!』

『お嬢…様…私のことは、どうか、置いて…いってくだ、さい』

『そんな…置いてなんていけない…!』

『もう、私の…せい、で…あなたを、苦しめたくは、ないのです』

『馬鹿言わないで!………!!あ、ミカヅキっ!手伝って下さい!』

『…!その怪我…わかった、病院はどっち?』

 

 

『私は、大丈夫、ですから…ふふ…本当に、仕方の、ない人…待ってます………さぁ、行ってください…必ず、また―――』

 

 

『必ず、迎えに来るから………待っていて、フミタン』

 

 

 

 

 

『こっちだ、見つけたぞ』

『まさか、あれで生きているとはな…だが、生きてるなら丁度いい。こいつを使えばもしもの時の鉄華団への有効な手札の一つになるだろう』

『対象を確保した。これより帰投する…死に損ないめ、せいぜい死ぬまで役に立つんだな』

 

これが意識を失う前の記憶。

そして次目覚めた時は既に記憶を失くしており、煙の充満した墜落船の中。

 

 

 

「何を迷ってんだ?」

「フィーシャ…」

 

きっと記憶を失う前の彼女にとって、1年と半年程度のここでの生活は甘すぎたんだろう。

 

使われ利用され、葛藤し、感情を圧し殺し…そうしたものとはあまりに無縁な生活。

記憶を取り戻した今、それは余計に強く感じてしまっているのかもしれない。

 

だが躊躇(ちゅうちょ)してるのは何もそんな独り()がりな事だけじゃないことぐらい俺でもわかる。

彼女がどういう選択を取るかはわからない。けれど背中を押す事ぐらいしか俺には出来ないのだと思う。

 

 

棉ぼこりを舞い上げるのが、今の俺の役目だと、そう思うんだ。

 

 

「…どんな顔して会えばいいかわからないか?」

「それは…それもあります。私はここで、支えるべき人を忘れ、フィーシャに依存してのうのうと生きていた」

「…それが問題じゃないみたいだな」

「えぇ。そう思う気持ちはあれど、私たちは既に一蓮托生。互いに互いが必要だったんです」

「そうだな…」

「だから私が悩んでるのは―――――――――どうサプライズするかでして」

「そうだなーーーすまん、もう一回いってくれ」

「はい。どうサプライズするかでして」

「………そっかぁ…サプライズかぁ………」

 

そっかぁ、サプライズかぁ。

 

ガッツリ独り善がりな事情だった。

 

さっきまでの俺の気遣いも真剣な空気も流れ去った。

俺は思わず目頭を押さえたがーーーだが、そんな中でも喜びも感じていた。

記憶を取り戻しても、やはり彼女(フミタン)彼女(リーリカ)だったんだ。

 

ここで謳歌(おうか)した"自由"は、確かに彼女の中に息づいている。

 

それが無性に、嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そう言えば凄まじい蛇足だが、フレッくんの二期の新キャラで"フレッちゃん"なるものが生まれやがった。

俺のキーホルダーにいつの間にかぶら下げられてたから知ってしまったのだ。リーリカ?

そのフレッちゃんとかいうのは眼鏡をかけた敬語キャラらしい………リーリカ??

 

…ついでにフレッくんとグレイフレッくんとの三角関係らしい。やっぱり修羅場じゃねぇか!

ギャラルホルンを出したの方がまだ教育にいいよ…ていうかフレッくんとグレイフレッくんってどっちも俺とヴェーチェルがモデルだろ?自分と奪い合うの?

 

…あぁやめよう、不毛だ………なぁリーリカ、そんなに笑うなって。

 

 

 

 

 







いつか10話くらいで終わると言ったな?
ソ、ソウダ、タイサ、タ、タスケ
多分気づいていると思うがあれは嘘になった。
ウワァァァァァァァァァァァァァァァ

戦闘開始から今回の前半部分までを元々一話予定だったので伸び伸びなのです。
予定では後2話。個人的に一番気に入ってる作品なので少しだけ伸ばすかどうか…それは未来の自分に丸投げします。頼んだ私。
感想待ってるぜ!(ヤケクソ)

そして下記の補足も長くなりましたので注意。


■フィーシャ(エフィーム・アダモフ)
ガランに対して複雑な感情がある。
後にfleckmansの団員の眠る墓石に名前を刻んでやった。あの世で団長に詫びてこいと笑いながら。
最期のシーンはミカヅキとクランクのやり取りとは対照的に描いています。

■リーリカ(フミタン・アドモス)
鉄華団と会うタイミングを計っている。どんなサプライズにしましょうか。
フィーシャのせいでおちゃめ度が増したと本人談。俺のせいなの??
実際は負の記憶を背負わないまま過ごした影響。

■ガラン
ブランドンから聞いていたので、一方的にフィーシャのことを知っていた。
が、実は昔、一度だけ会ったことがある。
フィーシャがガランの顔を見て団長との関係を確信した本当の理由は、その時の記憶が彼に微かに残ってたから。

フィーシャが忘れ形見ということを知って尚、ラスタルのためにと殺しにいった。
だけど二人の友(ブランドンとラスタル)を並べた時、何が大事なのか葛藤した。
妥協点として、抗うための隙を与えた結果、足元をすくわれる。
独り善がりだとしても、それでも満足して逝けた。

■飛び込め!フレッくん!
人気だったのでアニメの第二期がスタートしてしまった上にコラボ商品まで出てしまった。
何故か制作会社からプロットを渡されて確認してみたところ、新キャラを加えた三角関係の修羅場が形成されていて目が遠くなった。
なおグレイフレッくんは「追い詰められた廉価(れんか)版は最新型より凶暴だ!」と名言?を残して巨大な二足歩行モビルアーマーに踏みつぶされて散る予定らしい。なんだこの複雑な気分は。

■フレッちゃん
新キャラ。リーリカを意識してるとしか思えない。眼鏡って…縦向きでかけんの?
この時フィーシャは、灰色に塗装したことやグレイズ用ブースターをつけたことがすぐに制作陣に伝わったのはリーリカの仕業と確信した。彼女は秒で白状した。

■グレイフレッくん
サイボーグ忍者だった。

■ラディーチェ
鉄華団とテイワズが怖くて徹底的にアーブラウに媚びを売った。
今では独房が世界一安全だと思ってる。

■テイワズ
落とし前付けましょうね~

■鉄華団
落とし前付けましょうね~

■アーブラウ国防軍
結果的に危機的状況を全回避した。でもこの騒動で多くがヤクザ恐怖症になってしまって最終的に鉄華団地球支部は滅んだ。
タカキ「は!?」
嘘。軍事顧問からは外されたが存続はしている。

■ウッドバッファロー国立公園
44,807 k㎡もある国立公園で世界遺産。
今作ではその話は遥か昔で、厄災戦の影響で人が容易に住めなくなったまま放置されているという設定。フィーシャらはそこの北部を拠点にしてます。
大きさを分かりやすく言うと東京の約20倍、或いは北海道の約半分もの大きさです。でかい。

■画面から1㎞くらい離れて見てください
元ネタはカウボーイビバップの次回予告。

■音楽と映画
the band apartは日本のロックバンドです。
『Stay up late』の意味は"夜更かし"。2011年の曲なので最近の曲で全部英語の曲。
真夜中の戦闘、そのエピローグ的なBGMとして。

ちなみに"ヴォカリーズ"とは「ラララ」や「ルルル」などの歌唱法。あらかじめ書かれた歌詞をなぞる場合ではなく、アドリブの場合は"スキャット"と言うらしいです。合ってます?

タイトルの"dead mans walking"は映画『Dead Man Walking』から。それに"s"を付けたもの。
そのさらに元ネタは死刑囚が死刑台に向かう際、看守が呼ぶ言葉です。
「ショーシャンクの空に」と同じ監督。



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